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19.ごはん。
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今日はちゃんとまっすぐ帰宅してね、と香奈に念を押されて、将は寄り道もしないでおとなしく家へ帰った。
「いったいなんなんだよ。言われたとおりにさっさと帰ってきたけど?」
不機嫌な面持ちを隠さずに将が尋ねる。
香奈は女王様然とした態度で、ふふんっ、と笑った。
「いつまで経っても将くんが覚醒出来ないのは、お母様が人間っぽく育てちゃったからじゃないかと思うの。だから、あたしがびしばし、スパルタで覚醒させてあげるっ」
「……っな?」
ぽかんと口を開けて固まる将に、るんるん気分な香奈は楽しげに言った。
「出来るだけ目立たなくて動きやすい服を着てきてね。暗くなったら行くわよ」
なんだかとってもイヤな予感しかない将だった。
そして、夜。
黒いワンピースのスカート部分はもっこりとまぁるく膨らんでいる。
肩の辺りもふんわりまぁるい感じがする。
袖や襟、裾には、真っ黒くて生地と同化しているかのようなふりふりレースがあしらわれている。
そして頭にはちょこんとやはりレースたっぷりの帽子。
いわゆるゴシックロリータというヤツだろう。
可愛い、とても可愛いのだが……。
「……香奈ちゃ……いや、香奈さん……? それ、動きやすい……?」
このあとを考えると、ついつい丁寧な物言いになる将だが、香奈はにこやかに楽しげに、くるりと回ってスカートをふわふわ揺らした。
「あらぁ? 誰に向かって言ってるのかしらねぇ? まぁいいわ、それにしても、将くんこそ、なんかダサくない?」
じろじろと見回す香奈の視線に、気恥ずかしくなってくるが、黒いTシャツにブラックジーンズという、ただ地味なだけのような恰好なのだから仕方あるまい。
ぱたぱたと手で香奈の視線を掻き混ぜるように振り回し、それでっ?と話を逸らす。
「どこに行くんだよ。晩ご飯……は、みんなは関係ないのかも知れないけど、俺、おなか空いてるんだけど?」
「あら、ちょうどいいじゃない。ごはんに行くんだから」
「はぁ?」
目を眇めて香奈を見つめる。
香奈は、鈍臭い子、みたいな目で将を見下すような視線を送る。
「とにかく、行くわよ」
ぐ、と腕を引かれて、連れて行かれた先は、あの、香奈に血を吸われた六区公園の裏手だった。
途中、待てよ、とか、誰かに見られたら、とかいろいろ声をかけたのだが、ホントに人間じゃないんだな、と思わせる握力腕力脚力で、ぐいぐい引き摺られていった。
不愉快極まりない表情で香奈を見るが、気付いてももらえない。
まだ八時にもならない時間だが、普段から人通りが少ないところ。
たまに通りかかるのは、近道だからと早足で駆け抜けていく女性か、なにも気にしないで通勤通学に利用している男性。
「やっぱり、イヤな予感しかしないんだけど……?」
不愉快さに不安を滲ませて、将は寒くもないのに両手で自分の身体を抱く。
「も、帰らない?」
「なによ、しっかりしな……」
言いかけて、しっ、と人差し指を立てて口元へ運んで、囁く。
「ほら、ごはんよ」
香奈が軽く顎を上げて指し示した方に目を向けると、運悪く、若い大学生と思われる女性がこちらへ向かって歩いてくるのが見えた。
重そうな大きめのトートバッグを肩に掛けて、視線は手元のスマートフォンしか見ていない。
あの……と小声で呼びかける声に振り返った香奈の瞳は、紅く煌めいて見えた。
「いったいなんなんだよ。言われたとおりにさっさと帰ってきたけど?」
不機嫌な面持ちを隠さずに将が尋ねる。
香奈は女王様然とした態度で、ふふんっ、と笑った。
「いつまで経っても将くんが覚醒出来ないのは、お母様が人間っぽく育てちゃったからじゃないかと思うの。だから、あたしがびしばし、スパルタで覚醒させてあげるっ」
「……っな?」
ぽかんと口を開けて固まる将に、るんるん気分な香奈は楽しげに言った。
「出来るだけ目立たなくて動きやすい服を着てきてね。暗くなったら行くわよ」
なんだかとってもイヤな予感しかない将だった。
そして、夜。
黒いワンピースのスカート部分はもっこりとまぁるく膨らんでいる。
肩の辺りもふんわりまぁるい感じがする。
袖や襟、裾には、真っ黒くて生地と同化しているかのようなふりふりレースがあしらわれている。
そして頭にはちょこんとやはりレースたっぷりの帽子。
いわゆるゴシックロリータというヤツだろう。
可愛い、とても可愛いのだが……。
「……香奈ちゃ……いや、香奈さん……? それ、動きやすい……?」
このあとを考えると、ついつい丁寧な物言いになる将だが、香奈はにこやかに楽しげに、くるりと回ってスカートをふわふわ揺らした。
「あらぁ? 誰に向かって言ってるのかしらねぇ? まぁいいわ、それにしても、将くんこそ、なんかダサくない?」
じろじろと見回す香奈の視線に、気恥ずかしくなってくるが、黒いTシャツにブラックジーンズという、ただ地味なだけのような恰好なのだから仕方あるまい。
ぱたぱたと手で香奈の視線を掻き混ぜるように振り回し、それでっ?と話を逸らす。
「どこに行くんだよ。晩ご飯……は、みんなは関係ないのかも知れないけど、俺、おなか空いてるんだけど?」
「あら、ちょうどいいじゃない。ごはんに行くんだから」
「はぁ?」
目を眇めて香奈を見つめる。
香奈は、鈍臭い子、みたいな目で将を見下すような視線を送る。
「とにかく、行くわよ」
ぐ、と腕を引かれて、連れて行かれた先は、あの、香奈に血を吸われた六区公園の裏手だった。
途中、待てよ、とか、誰かに見られたら、とかいろいろ声をかけたのだが、ホントに人間じゃないんだな、と思わせる握力腕力脚力で、ぐいぐい引き摺られていった。
不愉快極まりない表情で香奈を見るが、気付いてももらえない。
まだ八時にもならない時間だが、普段から人通りが少ないところ。
たまに通りかかるのは、近道だからと早足で駆け抜けていく女性か、なにも気にしないで通勤通学に利用している男性。
「やっぱり、イヤな予感しかしないんだけど……?」
不愉快さに不安を滲ませて、将は寒くもないのに両手で自分の身体を抱く。
「も、帰らない?」
「なによ、しっかりしな……」
言いかけて、しっ、と人差し指を立てて口元へ運んで、囁く。
「ほら、ごはんよ」
香奈が軽く顎を上げて指し示した方に目を向けると、運悪く、若い大学生と思われる女性がこちらへ向かって歩いてくるのが見えた。
重そうな大きめのトートバッグを肩に掛けて、視線は手元のスマートフォンしか見ていない。
あの……と小声で呼びかける声に振り返った香奈の瞳は、紅く煌めいて見えた。
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