さとうと編集。

cancan

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006 butayaro ramen

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 この前の話。
 
 製作しているラノベをよりよくするための話し合いをする――
 ということだったのだがそんなことはさっぱり忘れて私達は別の話をしていた。
 
 「出版社の力はそんなものなんですか!!!!!」
 
 私は決して広いとはいえない編集部で叫んでいた。

 「といわれましてもうちの社としては……」
 
 その問いかけに対して、中年新米編集者グラップラー青木は困り果てていた顔していた。
 実際のところこの男は目の前に突きつけられた問題に対して、本当に困るような愁傷な性格をしていないのでこれは演技だということが私には分っていた。

 「新しい、構想中の作品に必要なんですよ!!!!!」

 より一層語気を強める。

 「いやー……駄目ですね」
 
 考えるフリだけする青木。

 「……」
 
 私は不審の眼差しで青木を見つめる。

 「だいたい、そもそも声優さんに知り合いなんていませんし」
 
 そう話す青木は困り顔だ。
 
 だが彼の眼に真剣さはない。
 きっとこのやり取りは事務作業のようなものと考えているのだろう。

 「私は知っています! ここから出ている雑誌によく声優さんへのインタビュー記事が載ってます!!!」

 「いや、あれは事務所とか通してますし」

 顔の前で右手を振る。
 駄目という意味だ。

 「では企画してくださいよ!!!! いちおう編集者なんでしょ?」

 「いちおう……」

 私の言葉にこの男は不満げであった。

 「この無能!!!!!!」

 「無能……いや……さとう先生がおっしゃる企画ですが実現不可能だと思います。例えば――絶対万が一にもないと思いますが、あなたが芥川賞と直木賞、そしてノーベル文学賞と平和賞を四タイトル同時受賞すれば可能かもしれません」

 「そんなにハードル高いの!?」
 
 実質無理じゃん。
 そんな人類史上誰も成し遂げたことがないような未知の領域なのか――
 あと、ノーベル賞は二つ同時に獲れるのかが疑問だった。

 だが私は食い下がった。
 何とかこの夢を叶えなければならない。

 「超絶かわいい声優さんと秋葉原にあるラーメンを食べに行くだけじゃないですか!!!! それの何が悪いっていうんだ!!!」

 「仕事の企画で行くのは全然構わないのですが……いや絶対その企画通らないですけど……てかその話ってただ声優に会いたいだけしょ。そして、さとう先生みたいなキモ豚ヲタクを超絶かわいい声優に会わせるわけにいかないですよ……」

 「なんだと――っ!!!!」

 青木に掴みかかろうとする天月さとう。
 胸ぐらを掴む寸前、右手をかざして静止する青木。
 
 「どこのラーメン屋ですか?」

 「どこ? まあ……一応候補は考えていますけどねー」

 「どこですか?」

 「ほらこの前人気アニメとコラボしていたがっつり系のラーメン屋あるじゃないですか?」

 「ああー、黄色いホロにちょっと過激な店名の」

 「そうそう」
 
 私は両手を揉みしだいていた。
 
 「スライムの描かれた看板のコンビニの隣り」
 
 「うん」
 
 「あー」
 
 何か納得したようだった。
 少し思案した後に青木は再び口を開く。
 
 「あの捉えようによっては酷い単語に聞こえるような名前のラーメン屋」

 「そうです」

 「そこに一緒に食べに行って超絶かわいい声優に酷い単語を連呼させたい訳だ」

 「ええ、それはもう」

 「ダメです。この豚野郎」

 さらっと天月さとうをディする編集。

 「お前にいわれたいんじゃねーよ!!」


 「声優は無理です」

 「チクショー!!!」
 
 私は倒れこみ両手で床を叩いた。
 
 「……」

 「何でだよぅ……何でなんだよう…………」
 
 死ぬほど悔しいのに涙は出なかった。
 悲しみが深すぎるのかもしれない。

 「てか……あなたはその超絶かわいい声優さんに『豚野郎』といわせる気ですか?」

 「そうだよ!!! むしろいわせようとしているんだよ! こっちは!!!」

 「うわぁ……」
 
 青木は残念な人を見る目になっていた。

 「私はただ萌え声で『豚野郎』といわれたいだけなんだ」
 
 「いや名言風にいわれても無理なんで」

 彼は残念な生き物を見る目と同じ目をしていた。

 「……」
 
 私は燃え尽きた。
 まるで白い灰のように――

 「はい」
 
 青木が私に何か渡す。

 「ボイスレコーダー……なにこれ?」
 
 打ち合わせで時間がない時、たまにつかってるシルバーのやつ。
 手の小さい私でもがっちり握ることができた。

 「自分で録音して、自分で聞くといい」
 
 「私が萌声だっていうのか――っ!!!!」

 大声でそのことを否定する。
 ただ自分で聞いている声と、周りが聞いているその人の声は異なって聞こえる。

 そのことを考えると、もしかしたら萌声なのかもしれないとも考えた。
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