キュウカンバ伯爵家のピクルス大佐ですわよ!

紅灯空呼

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【第一幕】デモングラ国が攻めてきた!?

セントバーナード犬ザラメ軍曹

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 永きに渡る戦乱の世を漸くにして終焉させ平和な世を迎えた現代のウムラジアン大陸においても、ヴェッポン国自衛軍は変わらず健在のままである。
 国王を元帥に戴き、大将から二等兵まで五百万人以上もの官・兵たちで構成されている。大陸七国のうちでは、人口が最も少ない二千二百万人であるのに対して軍の規模は最大だ。
 また爵位を持つ各家から一人ずつ高級官を出すというしきたりも、昔からずっと続いている。それに従って公爵家からは中将か少将、侯爵家は准将、伯爵家は大佐というように就任する階級が定まるのだ。
 キュウカンバ家の当主にして伯爵のピスタッチオは武器商一筋のため、その栄誉を一人娘のピクルスに譲った。すなわち先代当主が他界した時点から、ピクルスは伯爵家の令嬢であると同時にヴェッポン国自衛軍の大佐なのである。

 朝食を済ませたピクルスが、ジッゲンバーグとの会話を終えて庭に出てきた。
 大きなセントバーナード犬が吠えている。

 ――バウゥ・バウバウ!

 ピクルスは歩きながら犬言語通訳ヘッドギアの(人用)を装着した。
 元気良く傍まで駆け寄ってきた大型犬の頭にも(犬用)の通訳ヘッドギアが被せられ、これで対話が可能となる。

「おはようございます、ピクルス大佐!」
「おはようザラメ軍曹。さあ出かけますわよ」

 ヴェッポン国自衛軍では優秀であれば犬でも官に就ける。雪山での遭難者救出が得意なザラメは、軍曹という下士官の資格を保有しているのだ。

「自分は朝食を済ませていません」
「おやまあ、そうなのか?」
「シュアー! 今朝は自分の餌が出てきません」
「またクッペ婆やが、すっかり忘れているのだわ」
「自分は今とても空腹であります!」
「我慢なさい。メロウリのお家でなにか貰いましょう。さあピックルへ!」
「ラジャー!!」

 ザラメは涎を飲み込んで、ヘリポートへと一直線に駆けて行った。
 その後に続いてピクルスも走る。

 Ω Ω Ω

 ヘリポートで待機中のピクルス専用デパッチ・ピックルがプロペラの回転音を周囲に撒き散らしている。

 ――パタパタパタパタλ・パタパタパタパタλ
 ――パタパタパタパタΛ・パタパタパタパタΛ

 これでも回転速度はまだまだ小さい。
 日輪の日差しを浴びて輝く機体の近くには、ジッゲンバーグが立っている。
 操縦席に搭乗していたチョリソールが一度降りて、一番後ろの扉を開く。
 ちょうど駆けてきたザラメが、広く改造されている後部座席に飛び乗り、チョリソールの手によってシートベルトが固定され扉が閉められる。
 次に中央の扉が開かれた。このタイミングで現れたピクルスが豪華な中部座席に乗り込む。

「お気をつけて、行ってらっしゃいませ。ピクルスお嬢様」
「留守をしっかり頼みますよ。ジッゲン」
「はい。承知にございます」

 一礼した後、ジッゲンバーグが外から丁重に扉を閉める。

「さあ出しなさい、チョリソール大尉」
「ラジャー!!」

 操縦席へと戻ったチョリソールの威勢の良い返事とともに、プロペラの回転数が急上昇を始めた。

 ――ブルンブルンΛブルン・ブルンブルン
 ――ブルルルルΛブルン・ブルルブルーッン!

 チョリソールによって毎日欠かさず整備されている絶好調のピックル。こうして今朝もキュウカンバ伯爵家の敷地から上空へと舞い上がるのだ。
 これから向かう目的地は、約十キロメートル先にあるサラッド公爵家。時速八百キロを出すデパッチなのだから、ものの一分もかからずに到着するはず。

 Ω Ω Ω

 ピックルが飛び立って十秒ほどが経過した時だ。

「前方から向かってくる飛行物体を確認しました」
「解析は?」
「出ました。デモングラ国の戦闘機、ボムキャベッツに相違ありません!」
「迎撃せよ」
「ラジャー!!」

 命令を受けたチョリソールがすぐさまミサイルの発射スイッチを押す。

 ――ズッギューッツ!

 全長二メートルの対戦闘機爆撃弾レッドファイアが轟音とともに放たれた。

「落ちたか?」

 この状況にあっても、ピクルスの表情からは冷静さが全く失われていない。
 一方、チョリソールの顔色がにわかに曇った。

「いえ、外れたようで……」
「馬鹿者!! 次はわたくしが撃ちますわ♪」

 ピクルスが嬉々として立ち上がり、座席横に備えつけてある小型バズーカを担いで天井窓を開く。
 そこから上半身を出して、双眼鏡でボムキャベッツを見定める。
 バズーカの銃口が一点に向けられて、ピタリと止まった。

 ――ズッドーッδ!

 四秒経過。

 ――ヅオッガァーン!!!!

「さすがにございます。自分は今激しく感動しています!」

 後部座席にいるザラメが尻尾を振って叫んでいる。
 一方、操縦席でぽかりと大口を開けたままのチョリソールは、ボムキャベッツの落下する様子を見つめながら、思わず操縦桿から手を離して拍手する。

「ピクルスお嬢様、お見事でございます!」
「ノンノンノン、チョリソール大尉」
「し、失礼しました、ピクルス大佐!」
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