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【第二幕】公爵家令嬢たちの婚約事情
名コンビ・ピクルス大佐とザラメ軍曹
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キュウカンバ伯爵家から王宮までは、直線距離にして二十五キロメートルほどの隔たりがある。
従って時速八百キロを出すピックルでなら、到着まで約二分だ。
総司令本部の第一飛行場は王宮に最も近い場所にある。だが、そこから走る時間さえも惜しいため、ピクルスとザラメは小型パラシュートを背負って、王宮の真上で飛び降りた。
パラシュートの傘の部分が小さいので空気抵抗が少なく、落下速度が大きい。そのため一人と一匹はあっという間に王宮の入り口へと降り立った。
「さあ、急いで桃の間ですわよ」
「シュアー!!」
走ってはいけない王宮の中央廊下を駆けて桃の間に着いたピクルスとザラメは、その部屋の中へ飛び込んだ。メロウリとの通話を終えてから、まだ四分も経っていない。この迅速さは、恐らく誰にも真似できないであろう。
部屋に残っているのは、メロウリとラデイシュの二人。ここに先ほどまでいたオムレッタルは、一度自分に用意されている客室へ戻ることにしたのだ。
「あ、ピクルス。それよ!」
メロウリはテーブルの上に置いてある手紙を指差した。
「さあザラメ軍曹、これを嗅ぎなさい♪」
「ラジャー!」
ピクルスは手紙を手に取り、すぐさまザラメの鼻へ近づけた。
――クンクン・クウウゥン
「ザラメ軍曹、この中にいない者の匂いがありますか?」
「ここにいる以外では、四人の人間の匂いがします!」
ザラメは、嗅ぎ分けコンクールの全国大会に出場して、警察犬で最も優秀なシェパード三号を始めとする数多くの強豪犬たちに勝ち、見事優勝した実績を持っているのだ。
「どのような人間なのですか?」
「一人は十代男性で、ピックルの後部座席にも同じ匂いがありました」
それは間違いなくオムレッタルの匂いだ。
「後は、十代女性が二人と二十代女性が一人です」
「よろしい。ザラメ軍曹はそのまま待機なさい」
「ラジャー!」
部屋から弾丸のように飛び出したピクルスは、すぐに、オムレッタルの客室で召使いをしているマヨネエラ、そして栗の間からショコレット、その二人を連れて戻ってきた。
「ザラメ軍曹、このお二人がそうですね?」
「では、少々失礼致します」
――クンクン・クンクン!
ザラメは遠慮がちに、マヨネエラとショコレットを嗅いだ。
「ピクルス大佐の仰る通りです!!」
「ご苦労、ザラメ軍曹」
そういってからピクルスは、ショコレットを指差す。
「偽のお手紙をお書きになった真犯人は、あなたですわね?」
「ええっ!? な、ななな、なにを根拠に!!」
「匂いですわ、あなたの」
「で、ですが、匂いなら、べべ、べ、別の女子の匂いも、していなくて?」
このショコレットの言葉を聞いたピクルスは微笑んだ。
「どうしてあなたが、別の女子の匂いもすることをお知りなのかしら?」
「あっ!!」
こうして偽手紙事件は、発覚からわずか十分で、名コンビのピクルスとザラメによって解決されたのである。
同じ頃、王の一番大居室では、ヴェッポン国王とデモングラ国第一王子ジャコメシヤが小卓を挟んでチェスの勝負をしていた。
白のキングは盤上左下の隅にあり、一マス上でポーンが守っている。
だが、その上方から睨みを利かせる黒のルークを、ジャコメシヤが右手の指で摘んで一直線に前進させる。
――カチン!
白のポーンを弾いた黒い戦車は、キングのすぐ目の前に停止した。
「チェックメイト!」
「むむっ……」
王は黒のルークを取ることができない。
そこから一マス上の二マス右には黒い馬面がある。それによって白のキングは右隣へ逃れる訳にもいかない。これは正真正銘のチェックメイトだ。
「……ふうむ。ならば、これでどうだあー!」
――ガッツンΩ!!
なんと白のキングが黒のルークを弾き飛ばした後、一歩後退。つまり結果的には位置を変えずに黒い戦車を盤外へと退けたのである。
どちらかというと温厚なジャコメシヤなのではあるが、さすがに声を荒げずにはいられない。
「ヴェッポン国王、それは卑怯ですよ!」
だが王は、怯む様子など全く見せない。
「向かってくる敵には迎撃あるのみ。そして、このヴェッポン国王の辞書に卑怯というワードは載っておらぬわ」
「チェスに今のような動かし方はありません。明らかにルール違反です!」
「黙れ若造! この一番大居室においては、白のキングが絶対的かつ唯一のルールなのだ。わっはははは!!」
「くっ……」
ジャコメシヤはそれ以上なにも返せなかった。所詮はアウェイでの不利な戦いに過ぎないのである。
この時、召使いのオイルーパーが姿を見せる。
「国王陛下、お伝えすることが、ございますけれど……」
「構わぬ。さあ話せ」
テーブルを挟んで座っている二人は、オイルーパーの口元を注視する。
「先ほど、サラッド‐メロウリ様のお見合い、マルフィーユ‐ショコレット様のお見合い、ともに終焉致しました。どちらも破局にございます」
「なんだと!?」
「えっ、そんなぁ!」
Ω Ω Ω
デモングラ国の第二・第三王子、サラッド公爵家の父娘、マルフィーユ公爵家の父娘、召使いのマヨネエラ、そしてピクルスとザラメ、合わせて八人と一匹が一番大居室に呼び出された。
チェスの駒が散らかったままの小卓とは別の、より大きな丸テーブルの周りに総勢十人が囲んで腰かける。ザラメだけはテーブルの下でお座りの姿勢だ。
「これら二通の手紙をショコレットが書いたというのは、事実であるか?」
ヴェッポン国王が低い声で問いかけた。
ショコレットは落ち着いた口調で応える。
「はい、事実にございます」
「ふうむ……」
国王は短く唸り、腕を組んだまま目を閉じた。
従って時速八百キロを出すピックルでなら、到着まで約二分だ。
総司令本部の第一飛行場は王宮に最も近い場所にある。だが、そこから走る時間さえも惜しいため、ピクルスとザラメは小型パラシュートを背負って、王宮の真上で飛び降りた。
パラシュートの傘の部分が小さいので空気抵抗が少なく、落下速度が大きい。そのため一人と一匹はあっという間に王宮の入り口へと降り立った。
「さあ、急いで桃の間ですわよ」
「シュアー!!」
走ってはいけない王宮の中央廊下を駆けて桃の間に着いたピクルスとザラメは、その部屋の中へ飛び込んだ。メロウリとの通話を終えてから、まだ四分も経っていない。この迅速さは、恐らく誰にも真似できないであろう。
部屋に残っているのは、メロウリとラデイシュの二人。ここに先ほどまでいたオムレッタルは、一度自分に用意されている客室へ戻ることにしたのだ。
「あ、ピクルス。それよ!」
メロウリはテーブルの上に置いてある手紙を指差した。
「さあザラメ軍曹、これを嗅ぎなさい♪」
「ラジャー!」
ピクルスは手紙を手に取り、すぐさまザラメの鼻へ近づけた。
――クンクン・クウウゥン
「ザラメ軍曹、この中にいない者の匂いがありますか?」
「ここにいる以外では、四人の人間の匂いがします!」
ザラメは、嗅ぎ分けコンクールの全国大会に出場して、警察犬で最も優秀なシェパード三号を始めとする数多くの強豪犬たちに勝ち、見事優勝した実績を持っているのだ。
「どのような人間なのですか?」
「一人は十代男性で、ピックルの後部座席にも同じ匂いがありました」
それは間違いなくオムレッタルの匂いだ。
「後は、十代女性が二人と二十代女性が一人です」
「よろしい。ザラメ軍曹はそのまま待機なさい」
「ラジャー!」
部屋から弾丸のように飛び出したピクルスは、すぐに、オムレッタルの客室で召使いをしているマヨネエラ、そして栗の間からショコレット、その二人を連れて戻ってきた。
「ザラメ軍曹、このお二人がそうですね?」
「では、少々失礼致します」
――クンクン・クンクン!
ザラメは遠慮がちに、マヨネエラとショコレットを嗅いだ。
「ピクルス大佐の仰る通りです!!」
「ご苦労、ザラメ軍曹」
そういってからピクルスは、ショコレットを指差す。
「偽のお手紙をお書きになった真犯人は、あなたですわね?」
「ええっ!? な、ななな、なにを根拠に!!」
「匂いですわ、あなたの」
「で、ですが、匂いなら、べべ、べ、別の女子の匂いも、していなくて?」
このショコレットの言葉を聞いたピクルスは微笑んだ。
「どうしてあなたが、別の女子の匂いもすることをお知りなのかしら?」
「あっ!!」
こうして偽手紙事件は、発覚からわずか十分で、名コンビのピクルスとザラメによって解決されたのである。
同じ頃、王の一番大居室では、ヴェッポン国王とデモングラ国第一王子ジャコメシヤが小卓を挟んでチェスの勝負をしていた。
白のキングは盤上左下の隅にあり、一マス上でポーンが守っている。
だが、その上方から睨みを利かせる黒のルークを、ジャコメシヤが右手の指で摘んで一直線に前進させる。
――カチン!
白のポーンを弾いた黒い戦車は、キングのすぐ目の前に停止した。
「チェックメイト!」
「むむっ……」
王は黒のルークを取ることができない。
そこから一マス上の二マス右には黒い馬面がある。それによって白のキングは右隣へ逃れる訳にもいかない。これは正真正銘のチェックメイトだ。
「……ふうむ。ならば、これでどうだあー!」
――ガッツンΩ!!
なんと白のキングが黒のルークを弾き飛ばした後、一歩後退。つまり結果的には位置を変えずに黒い戦車を盤外へと退けたのである。
どちらかというと温厚なジャコメシヤなのではあるが、さすがに声を荒げずにはいられない。
「ヴェッポン国王、それは卑怯ですよ!」
だが王は、怯む様子など全く見せない。
「向かってくる敵には迎撃あるのみ。そして、このヴェッポン国王の辞書に卑怯というワードは載っておらぬわ」
「チェスに今のような動かし方はありません。明らかにルール違反です!」
「黙れ若造! この一番大居室においては、白のキングが絶対的かつ唯一のルールなのだ。わっはははは!!」
「くっ……」
ジャコメシヤはそれ以上なにも返せなかった。所詮はアウェイでの不利な戦いに過ぎないのである。
この時、召使いのオイルーパーが姿を見せる。
「国王陛下、お伝えすることが、ございますけれど……」
「構わぬ。さあ話せ」
テーブルを挟んで座っている二人は、オイルーパーの口元を注視する。
「先ほど、サラッド‐メロウリ様のお見合い、マルフィーユ‐ショコレット様のお見合い、ともに終焉致しました。どちらも破局にございます」
「なんだと!?」
「えっ、そんなぁ!」
Ω Ω Ω
デモングラ国の第二・第三王子、サラッド公爵家の父娘、マルフィーユ公爵家の父娘、召使いのマヨネエラ、そしてピクルスとザラメ、合わせて八人と一匹が一番大居室に呼び出された。
チェスの駒が散らかったままの小卓とは別の、より大きな丸テーブルの周りに総勢十人が囲んで腰かける。ザラメだけはテーブルの下でお座りの姿勢だ。
「これら二通の手紙をショコレットが書いたというのは、事実であるか?」
ヴェッポン国王が低い声で問いかけた。
ショコレットは落ち着いた口調で応える。
「はい、事実にございます」
「ふうむ……」
国王は短く唸り、腕を組んだまま目を閉じた。
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