キュウカンバ伯爵家のピクルス大佐ですわよ!

紅灯空呼

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【第三幕】ソシュアル国へ旅行に行くピクルス

波乱の空軍定例本部会議

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 ソシュアル国空軍本部の建物は、第三飛行場からジープを走らせて約三分の距離を隔てた場所にある。
 この辺り一帯はソシュアル国最大のカマユデウドン平野の南部に位置しており、雄大な景色が遠くまで広がっている。

「良い天気ですこと♪」

 助手席に乗っているピクルスが空を仰いで呟いた。
 運転中のポークビルスキーがすぐさま横合いから言葉を返す。

「はい、この地域は晴れの日が多いのですよ」

 ジープは南へ向かって走っている。
 前方に見える地平線の上空約三十度の高さにまで昇りつつある日輪が、燦々と輝きを放っている。大陸中部標準時刻だと、そろそろ午前七時だ。

 後部座席にいるチョリソールとザラメは、先ほどから無言である。
 ピクルスとポークビルスキーが楽しげに会話をしているからといって、なにも機嫌を損ねている訳ではない。
 既にチョリソールは自ら簡単な自己紹介を済ませており、ザラメについてはピクルスによって災害救助犬だと説明がなされた。

「スッパイーゼ大将は、もう知っていらして?」
「クーデターのことですね。新聞で真っ先にご覧になったことと思います」

 実際には四コマ漫画「カラアゲちゃん」が一番だったことを、ポークビルスキーはもちろん知らない。

「合同演習計画のための軍事会議は?」
「午前九時からです」
「その前に会えますわね♪」
「はい。それは可能だと思います」

 スッパイーゼの出方によっては、ピクルスたちの今後の行動が、それこそ百八十度も変化し得るのである。

 Ω Ω Ω

 大陸の南西に位置するフランセ国は、北にゲルマーヌ国、北東にヴェッポン国、それぞれと国境線を共有している。
 東にはウムラジアン大砂漠、西には海が、どちらも大きく広がっていて、気候的には比較的人の住みやすい土地である。
 フランセ国では国中のどこでも大陸南部標準時刻を採用していて、現在時刻は午前九時。中部標準時刻との時差はちょうど二時間あり、従って、ソシュアル国空軍本部ではピクルスがスッパイーゼと面会している頃だ。
 フランセ国空軍第一病院の特別病室で、つい先ほど一人の老人が息を引き取り、テレビのニュース速報の字幕に「ランチャトス‐ハムボイラー死去!」と大きな文字で映し出された時でもある。
 半時間もしないうちに、街中で号外が配られることになるだろう。

 昨夜遅くにクーデターを起こした陸軍少将ナマライス‐ティポットが、側近の部下から差し出された号外用の元原稿を手にして思わず叫ぶ。

「おいおい、ちょっと待ったらんかいなあ、爺さんよぉ!」

 ランチャトスの孫で第一王子でもあるシャンペンハウアーの身の安全と引き替えに、ナマライスの大将復位と総大将への推挙の言葉を、ランチャトス自身の口から引き出そうとする策略が、全て水の泡である。
 ランチャトス派とは歩み寄る形で、今後のフランセ国を動かして行くという思惑だったのだ。さらには、今パスティーノ牢獄に押し込んでいるシャンペンハウアーに対しても、しばらくの後に、第一王子としての威厳を回復させて、近い将来自分の娘を彼の妃にしようとまで考えていた。

「くっそぉー、もうちょい粘ったらんかいなあ!!」

 ナマライスの食えない計画は、どれもこれも白紙に戻ってしまった。
 だが最悪のケースとして、彼はこの事態も想定していた。こうなったからには自分に反対する者をどんどん処刑して行くつもりなのだ。その覚悟を決めている。
 このままでは独裁者ナマライスの手による恐怖政治が始まってしまう。
 自由・平等・博愛を謳うフランセ国は、果たしてどうなるのであろうか。

 Ω Ω Ω

 ソシュアル国空軍本部の大会議室では、長方形状の大テーブルの四辺に、空軍の高級官たちが既に着席している。
 議長席の近くにある小テーブルには、特別客席として三席が用意されていて、フランセ国空軍のスッパイーゼ、ヴェッポン国から見学にきたピクルスとチョリソールが座っている。
 ピクルスの足元近くにはザラメの姿もある。建前上は、会議終了後にザラメを優秀な災害救助犬として紹介することになっている。
 壁に沿った形で、十人の尉官が通称「コンバットマグナム」と呼ばれる回転式拳銃Σ&Ω‐Μ19シグマオメガミュウイチクを手に立っている。彼らは、大勢の高級官や外国からの大切な客人を護衛するという名目で、万が一のために配置されているのだ。

 ――ボオン・ボン・ボン・ボン・ボォン
 ――ボォン・ボォン・ボォン・ボォ~ン♪

 前方の壁に設置されている振り子時計の針が、午前九時を知らせた。
 議長を務める空軍大将チョコパフェスキー‐カニパンドリアが、自分の長く伸びた白い顎鬚を、骨ばった左手でゴシゴシと撫でながら、おもむろに口を開く。

「うおっほん、それでは定例本部会議を、始めることに――」

 と、この時だ。

「う、動くなぁ!!!」

 議長席のすぐ近くに立っていたポークビルスキーが、どういう訳かマグナムの銃口をチョコパフェスキーの首筋に突きつけている。

「動きますわ!」

 ――パパァーンχパンパアン!!

 クラッカーを鳴らして、言葉通りにピクルスは動いた。
 そしてなんと、ポークビルスキーの傍まで走り寄り、彼の手からΣ&Ω‐Μ19を奪い取った。
 その一瞬の早業を目の当たりにして、ここにいる全員がぽかりと口を開けたまま見惚れることになった。
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