27 / 121
【第三幕】ソシュアル国へ旅行に行くピクルス
波乱の空軍定例本部会議
しおりを挟む
ソシュアル国空軍本部の建物は、第三飛行場からジープを走らせて約三分の距離を隔てた場所にある。
この辺り一帯はソシュアル国最大のカマユデウドン平野の南部に位置しており、雄大な景色が遠くまで広がっている。
「良い天気ですこと♪」
助手席に乗っているピクルスが空を仰いで呟いた。
運転中のポークビルスキーがすぐさま横合いから言葉を返す。
「はい、この地域は晴れの日が多いのですよ」
ジープは南へ向かって走っている。
前方に見える地平線の上空約三十度の高さにまで昇りつつある日輪が、燦々と輝きを放っている。大陸中部標準時刻だと、そろそろ午前七時だ。
後部座席にいるチョリソールとザラメは、先ほどから無言である。
ピクルスとポークビルスキーが楽しげに会話をしているからといって、なにも機嫌を損ねている訳ではない。
既にチョリソールは自ら簡単な自己紹介を済ませており、ザラメについてはピクルスによって災害救助犬だと説明がなされた。
「スッパイーゼ大将は、もう知っていらして?」
「クーデターのことですね。新聞で真っ先にご覧になったことと思います」
実際には四コマ漫画「カラアゲちゃん」が一番だったことを、ポークビルスキーはもちろん知らない。
「合同演習計画のための軍事会議は?」
「午前九時からです」
「その前に会えますわね♪」
「はい。それは可能だと思います」
スッパイーゼの出方によっては、ピクルスたちの今後の行動が、それこそ百八十度も変化し得るのである。
Ω Ω Ω
大陸の南西に位置するフランセ国は、北にゲルマーヌ国、北東にヴェッポン国、それぞれと国境線を共有している。
東にはウムラジアン大砂漠、西には海が、どちらも大きく広がっていて、気候的には比較的人の住みやすい土地である。
フランセ国では国中のどこでも大陸南部標準時刻を採用していて、現在時刻は午前九時。中部標準時刻との時差はちょうど二時間あり、従って、ソシュアル国空軍本部ではピクルスがスッパイーゼと面会している頃だ。
フランセ国空軍第一病院の特別病室で、つい先ほど一人の老人が息を引き取り、テレビのニュース速報の字幕に「ランチャトス‐ハムボイラー死去!」と大きな文字で映し出された時でもある。
半時間もしないうちに、街中で号外が配られることになるだろう。
昨夜遅くにクーデターを起こした陸軍少将ナマライス‐ティポットが、側近の部下から差し出された号外用の元原稿を手にして思わず叫ぶ。
「おいおい、ちょっと待ったらんかいなあ、爺さんよぉ!」
ランチャトスの孫で第一王子でもあるシャンペンハウアーの身の安全と引き替えに、ナマライスの大将復位と総大将への推挙の言葉を、ランチャトス自身の口から引き出そうとする策略が、全て水の泡である。
ランチャトス派とは歩み寄る形で、今後のフランセ国を動かして行くという思惑だったのだ。さらには、今パスティーノ牢獄に押し込んでいるシャンペンハウアーに対しても、しばらくの後に、第一王子としての威厳を回復させて、近い将来自分の娘を彼の妃にしようとまで考えていた。
「くっそぉー、もうちょい粘ったらんかいなあ!!」
ナマライスの食えない計画は、どれもこれも白紙に戻ってしまった。
だが最悪のケースとして、彼はこの事態も想定していた。こうなったからには自分に反対する者をどんどん処刑して行くつもりなのだ。その覚悟を決めている。
このままでは独裁者ナマライスの手による恐怖政治が始まってしまう。
自由・平等・博愛を謳うフランセ国は、果たしてどうなるのであろうか。
Ω Ω Ω
ソシュアル国空軍本部の大会議室では、長方形状の大テーブルの四辺に、空軍の高級官たちが既に着席している。
議長席の近くにある小テーブルには、特別客席として三席が用意されていて、フランセ国空軍のスッパイーゼ、ヴェッポン国から見学にきたピクルスとチョリソールが座っている。
ピクルスの足元近くにはザラメの姿もある。建前上は、会議終了後にザラメを優秀な災害救助犬として紹介することになっている。
壁に沿った形で、十人の尉官が通称「コンバットマグナム」と呼ばれる回転式拳銃Σ&Ω‐Μ19を手に立っている。彼らは、大勢の高級官や外国からの大切な客人を護衛するという名目で、万が一のために配置されているのだ。
――ボオン・ボン・ボン・ボン・ボォン
――ボォン・ボォン・ボォン・ボォ~ン♪
前方の壁に設置されている振り子時計の針が、午前九時を知らせた。
議長を務める空軍大将チョコパフェスキー‐カニパンドリアが、自分の長く伸びた白い顎鬚を、骨ばった左手でゴシゴシと撫でながら、おもむろに口を開く。
「うおっほん、それでは定例本部会議を、始めることに――」
と、この時だ。
「う、動くなぁ!!!」
議長席のすぐ近くに立っていたポークビルスキーが、どういう訳かマグナムの銃口をチョコパフェスキーの首筋に突きつけている。
「動きますわ!」
――パパァーンχパンパアン!!
クラッカーを鳴らして、言葉通りにピクルスは動いた。
そしてなんと、ポークビルスキーの傍まで走り寄り、彼の手からΣ&Ω‐Μ19を奪い取った。
その一瞬の早業を目の当たりにして、ここにいる全員がぽかりと口を開けたまま見惚れることになった。
この辺り一帯はソシュアル国最大のカマユデウドン平野の南部に位置しており、雄大な景色が遠くまで広がっている。
「良い天気ですこと♪」
助手席に乗っているピクルスが空を仰いで呟いた。
運転中のポークビルスキーがすぐさま横合いから言葉を返す。
「はい、この地域は晴れの日が多いのですよ」
ジープは南へ向かって走っている。
前方に見える地平線の上空約三十度の高さにまで昇りつつある日輪が、燦々と輝きを放っている。大陸中部標準時刻だと、そろそろ午前七時だ。
後部座席にいるチョリソールとザラメは、先ほどから無言である。
ピクルスとポークビルスキーが楽しげに会話をしているからといって、なにも機嫌を損ねている訳ではない。
既にチョリソールは自ら簡単な自己紹介を済ませており、ザラメについてはピクルスによって災害救助犬だと説明がなされた。
「スッパイーゼ大将は、もう知っていらして?」
「クーデターのことですね。新聞で真っ先にご覧になったことと思います」
実際には四コマ漫画「カラアゲちゃん」が一番だったことを、ポークビルスキーはもちろん知らない。
「合同演習計画のための軍事会議は?」
「午前九時からです」
「その前に会えますわね♪」
「はい。それは可能だと思います」
スッパイーゼの出方によっては、ピクルスたちの今後の行動が、それこそ百八十度も変化し得るのである。
Ω Ω Ω
大陸の南西に位置するフランセ国は、北にゲルマーヌ国、北東にヴェッポン国、それぞれと国境線を共有している。
東にはウムラジアン大砂漠、西には海が、どちらも大きく広がっていて、気候的には比較的人の住みやすい土地である。
フランセ国では国中のどこでも大陸南部標準時刻を採用していて、現在時刻は午前九時。中部標準時刻との時差はちょうど二時間あり、従って、ソシュアル国空軍本部ではピクルスがスッパイーゼと面会している頃だ。
フランセ国空軍第一病院の特別病室で、つい先ほど一人の老人が息を引き取り、テレビのニュース速報の字幕に「ランチャトス‐ハムボイラー死去!」と大きな文字で映し出された時でもある。
半時間もしないうちに、街中で号外が配られることになるだろう。
昨夜遅くにクーデターを起こした陸軍少将ナマライス‐ティポットが、側近の部下から差し出された号外用の元原稿を手にして思わず叫ぶ。
「おいおい、ちょっと待ったらんかいなあ、爺さんよぉ!」
ランチャトスの孫で第一王子でもあるシャンペンハウアーの身の安全と引き替えに、ナマライスの大将復位と総大将への推挙の言葉を、ランチャトス自身の口から引き出そうとする策略が、全て水の泡である。
ランチャトス派とは歩み寄る形で、今後のフランセ国を動かして行くという思惑だったのだ。さらには、今パスティーノ牢獄に押し込んでいるシャンペンハウアーに対しても、しばらくの後に、第一王子としての威厳を回復させて、近い将来自分の娘を彼の妃にしようとまで考えていた。
「くっそぉー、もうちょい粘ったらんかいなあ!!」
ナマライスの食えない計画は、どれもこれも白紙に戻ってしまった。
だが最悪のケースとして、彼はこの事態も想定していた。こうなったからには自分に反対する者をどんどん処刑して行くつもりなのだ。その覚悟を決めている。
このままでは独裁者ナマライスの手による恐怖政治が始まってしまう。
自由・平等・博愛を謳うフランセ国は、果たしてどうなるのであろうか。
Ω Ω Ω
ソシュアル国空軍本部の大会議室では、長方形状の大テーブルの四辺に、空軍の高級官たちが既に着席している。
議長席の近くにある小テーブルには、特別客席として三席が用意されていて、フランセ国空軍のスッパイーゼ、ヴェッポン国から見学にきたピクルスとチョリソールが座っている。
ピクルスの足元近くにはザラメの姿もある。建前上は、会議終了後にザラメを優秀な災害救助犬として紹介することになっている。
壁に沿った形で、十人の尉官が通称「コンバットマグナム」と呼ばれる回転式拳銃Σ&Ω‐Μ19を手に立っている。彼らは、大勢の高級官や外国からの大切な客人を護衛するという名目で、万が一のために配置されているのだ。
――ボオン・ボン・ボン・ボン・ボォン
――ボォン・ボォン・ボォン・ボォ~ン♪
前方の壁に設置されている振り子時計の針が、午前九時を知らせた。
議長を務める空軍大将チョコパフェスキー‐カニパンドリアが、自分の長く伸びた白い顎鬚を、骨ばった左手でゴシゴシと撫でながら、おもむろに口を開く。
「うおっほん、それでは定例本部会議を、始めることに――」
と、この時だ。
「う、動くなぁ!!!」
議長席のすぐ近くに立っていたポークビルスキーが、どういう訳かマグナムの銃口をチョコパフェスキーの首筋に突きつけている。
「動きますわ!」
――パパァーンχパンパアン!!
クラッカーを鳴らして、言葉通りにピクルスは動いた。
そしてなんと、ポークビルスキーの傍まで走り寄り、彼の手からΣ&Ω‐Μ19を奪い取った。
その一瞬の早業を目の当たりにして、ここにいる全員がぽかりと口を開けたまま見惚れることになった。
0
あなたにおすすめの小説
娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る
ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。
異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。
一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。
娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。
そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。
異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。
娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。
そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。
3人と1匹の冒険が、今始まる。
※小説家になろうでも投稿しています
※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!
よろしくお願いします!
竜皇女と呼ばれた娘
Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた
ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる
その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ
国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……
異世界で大往生した私、現代日本に帰還して中学生からやり直す。~最強の補助魔法で、冴えないおっさんと最強美女を操って大金持ちになります~
タカノ
ファンタジー
異世界へ転移し、聖女として崇められ、愛する家族に囲まれて88歳で大往生した……はずだった。 目が覚めると、そこは現代日本。 孤児の中学2年生、小金沢ヒナ(14)に戻っていた。
時間は1秒も進んでおらず、待っていたのは明日のご飯にも困る極貧生活。 けれど、ヒナの中身は酸いも甘いも噛み分けたおばあちゃん(88歳)のまま!
「もう一度、あの豊かで安らかな老後(スローライフ)を手に入れてみせる!」
ヒナは決意する。異世界で極めた国宝級の【補助魔法】と【回復魔法】をフル活用して、現代社会で大金を稼ぐことを。 ただし、魔法は自分自身には使えないし、中学生が目立つと色々面倒くさい。 そこでヒナがビジネスパートナー(手駒)に選んだのは――
公園で絶望していた「リストラされた冴えないおっさん」と、 借金取りに追われる「ワケあり最強美女」!?
おっさんを裏から魔法で強化して『カリスマ社長』に仕立て上げ、 美女をフルバフで『人間兵器』に変えてトラブルを物理的に粉砕。 表向きはニコニコ笑う美少女中学生、裏では彼らを操るフィクサー。
「さあ善さん、リオちゃん。稼ぎますよ。すべては私の平穏な老後のために!」
精神年齢おばあちゃんの少女が、金と魔法と年の功で無双する、痛快マネー・コメディ開幕!
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました
東野あさひ
ファンタジー
無能の烙印、婚約破棄、そして辺境追放――。でもそれ、全部“勘違い”でした。
王国随一の名門貴族令嬢ノクティア・エルヴァーンは、魔力がないと断定され、婚約を破棄されて辺境へと追放された。
だが、誰も知らなかった――彼女が「古代魔術」の適性を持つ唯一の魔導士であることを。
行き着いた先は魔物の脅威に晒されるグランツ砦。
冷徹な司令官カイラスとの出会いをきっかけに、彼女の眠っていた力が次第に目を覚まし始める。
無能令嬢と嘲笑された少女が、辺境で覚醒し、最強へと駆け上がる――!
王都の者たちよ、見ていなさい。今度は私が、あなたたちを見下ろす番です。
これは、“追放令嬢”が辺境から世界を変える、痛快ざまぁ×覚醒ファンタジー。
慈愛と復讐の間
レクフル
ファンタジー
とある国に二人の赤子が生まれた。
一人は慈愛の女神の生まれ変わりとされ、一人は復讐の女神の生まれ変わりとされた。
慈愛の女神の生まれ変わりがこの世に生を得た時、必ず復讐の女神の生まれ変わりは生を得る。この二人は対となっているが、決して相容れるものではない。
これは古より語り継がれている伝承であり、慈愛の女神の加護を得た者は絶大なる力を手にするのだと言う。
だが慈愛の女神の生まれ変わりとして生を亨けた娘が、別の赤子と取り換えられてしまった。
大切に育てられる筈の慈愛の女神の生まれ変わりの娘は、母親から虐げられながらも懸命に生きようとしていた。
そんな中、森で出会った迷い人の王子と娘は、互いにそれと知らずに想い合い、数奇な運命を歩んで行くこととなる。
そして、変わりに育てられた赤子は大切に育てられていたが、その暴虐ぶりは日をまして酷くなっていく。
慈愛に満ちた娘と復讐に駆られた娘に翻弄されながら、王子はあの日出会った想い人を探し続ける。
想い合う二人の運命は絡み合うことができるのか。その存在に気づくことができるのか……
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる