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【第六幕】ピクルスの出稼ぎ留学@ヤポン神国
冷酷令嬢キュウカンバ‐ピクルス
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ヨツバが震える拳を振り上げるのと同時に奇声が上がる。
「たあぁとるがあぁぁーっ!」
ジッゲンバーグの雄叫びが教室内に響き渡った。
――ドタッ!
即座にヨツバは床へ倒れ込んだ。完全に気絶している。
「彼には数分間寝ていて貰いましょう。ピクルスお嬢様、さあ続きを」
「ありがとうジッゲン。それにしてもあなたの気功妖術、相変わらずですわ♪」
「いえ、それほどでもございません」
ジッゲンバーグの機敏な動きが功を奏して教室内に静寂が戻った。ピクルスは自己紹介を続け、そして無事に終えることができた。
次はザラメの番だ。
「カルメイラ‐ザラメです。お見知り置きを」
至ってシンプルな自己紹介だった。
あまり知られていないことだが、ヴェッポン国自衛軍では優秀であれば犬でも官に就ける。雪山での遭難者救出が得意なザラメは、軍曹という下士官の資格を保有しているのだ。
そしてニクコが自分の番を迎えた時、ポンズヒコが急に苦しみ出した。
「ううっ!」
一瞬にして教室内に緊張が漲った。
「ポンズヒコ様!」
一つ後ろのササミが席を立ち、ポンズヒコに近づく。
胸を押さえて苦悶の表情を浮かべているヤポン神の背中に、ササミが手を差し延べようとする。
だが、十センチほど手前の空にササミの手は留まってしまう。なにか正体不明の力によって遮られているのだ。
「妖術で結界を張りました」
ササミの左隣の席に座っている老人が静かにいった。
この男性は、世界的規模の家電製品製造会社を経営するサラッド公爵家で、執事をしているシュバイツ‐レゾッドだ。
振り向いたササミが高く鋭い声で、レゾッドに問う。
「結界ですって!?」
「はい」
「どうして? どうして、そのようなご無体なことをなさるのです!」
教室内の視線は、ササミとレゾッドに集まった。
普段は愛らしく穏やかな顔つきのササミが鬼の形相となって、その怒りの全てをレゾッドにぶつけているのだ。
「虫を封じ込めるためなのです」
「虫を?」
レゾッドが右斜め前を指差したので、教室内の視線がポンズヒコに戻る。
今上神の身体の周囲に、羽虫が十匹ほども舞っているではないか。
「きゃあ!」
ササミの鬼の様な顔が赤色から青色に変わった。だからといって、ササミが青鬼の化身になった訳ではない。
咄嗟にニクコが、右隣に腰かけている少年の顔をきつく睨んだ。
だがセンベイは首を大きく横に振った。そして、それだけでは不足だと思ったのか、口を開いて言葉で補い始めた。
「あれらの虫たちは式神じゃあないよ。生きている本物の羽虫だね。しかも、魔的な邪気まで感じられる。でも一体、誰が……」
落ち着いた口調で話すセンベイは、教壇上で棒立ち状態になっているピザエルの口元が少し歪んでいることを見逃がしてはいない。極めて冷静な少年なのだ。
この時、既にポンズヒコの席へピクルスが駆け寄っていた。オチタスピが左の手に握られている。
――シュッシィーンλλ
廊下で赤鉛筆を削った先ほどよりもさらに洗練された刀の軌跡。
レゾッドの強力な結界をも越えて、オチタスピはたった一閃にして、十匹の羽虫を全て床に落としたのだ。実に鮮やか。
ポンズヒコの苦しみは治まり、それと同時にオチタスピもピクルスの背中の鞘に納まった。
「あああぁ、ムゴいなあ。一寸の虫にも五分の魂やでぇ。せやのに皆殺しにしてもおて。神域なる教室でピクルスはん、平気な顔して殺生なことしゃはったなあ」
ピクルスを責め立てるピザエルの言葉に、マルフィーユ公爵家の令嬢ショコレットが、ここぞとばかりに冷たい追い風を送りつける。
「冷酷令嬢ピクルス、きっとあなたは地獄の奥底へと落とされますわねえ」
「ピクルス嬢、見損ないましたよ。この前あなたと協力し合って、フランセ国のスッパイーゼ‐ウメイメシ空軍大将を救った時は、本当に信じられる人間だと思ったのに。ああ、これで自分の名誉まで汚れてしまいましたよ、全く」
つい先日ソシュアル国で出会い、良き戦友となったはずの空軍大尉ポークビルスキー‐ブタノピロシキまでもが、強くピクルスを責めた。
ササミもピクルスを非難する。
「こんな恐ろしい人と一緒の教室は嫌です。ピクルスさんを追放して下さい」
黙って遣り取りを傍観していたニクコは熟考を続ける。
(あのピクルスというヴェッポン国人、やっぱり只者ではなさそうね。味方につけて、うまく利用できるかも。よおし!)
ニクコが口を開こうとした時、先にポンズヒコが話し始めた。
「虫たちの儚い命の灯火を消してまで、余は、余の命一つを惜しむつもりは毛頭ないのじゃ。ピクルスとやら、さあ覚悟して聞かれよ」
「はい」
「そちに極刑をいい渡すのじゃ。フッそ!」
「はい」
ピクルスがヤポン神国までやってきた目的の一つは、今上神ポンズヒコに群がる虫どもを蹴散らすことである。その務めを立派に果たしたのであるから、ピクルスは、処刑されるのなら本望と達観して、一切逆らわないことに決めている。だから背中のオチタスピをもう一度引き抜いて、その柄をポンズヒコに差し出した。
ヤポン神が黙って受け取り、ピクルスの頭上に振り上げる。
「ピクルスっ!!」
「ピクルスぅー!」
「ピクルスお嬢様!」
「ピクルス大佐!!」
サラッド公爵家の双子兄妹マロウリとメロウリ、そしてジッゲンバーグとザラメが揃って声を張り上げた。それはヤポン神に助命を嘆願する悲痛の叫びだった。
だが、ポンズヒコは聞く耳を持っていない。ピクルスは、かつて経験したことのない絶体絶命的な危機を今迎えているのである。
「たあぁとるがあぁぁーっ!」
ジッゲンバーグの雄叫びが教室内に響き渡った。
――ドタッ!
即座にヨツバは床へ倒れ込んだ。完全に気絶している。
「彼には数分間寝ていて貰いましょう。ピクルスお嬢様、さあ続きを」
「ありがとうジッゲン。それにしてもあなたの気功妖術、相変わらずですわ♪」
「いえ、それほどでもございません」
ジッゲンバーグの機敏な動きが功を奏して教室内に静寂が戻った。ピクルスは自己紹介を続け、そして無事に終えることができた。
次はザラメの番だ。
「カルメイラ‐ザラメです。お見知り置きを」
至ってシンプルな自己紹介だった。
あまり知られていないことだが、ヴェッポン国自衛軍では優秀であれば犬でも官に就ける。雪山での遭難者救出が得意なザラメは、軍曹という下士官の資格を保有しているのだ。
そしてニクコが自分の番を迎えた時、ポンズヒコが急に苦しみ出した。
「ううっ!」
一瞬にして教室内に緊張が漲った。
「ポンズヒコ様!」
一つ後ろのササミが席を立ち、ポンズヒコに近づく。
胸を押さえて苦悶の表情を浮かべているヤポン神の背中に、ササミが手を差し延べようとする。
だが、十センチほど手前の空にササミの手は留まってしまう。なにか正体不明の力によって遮られているのだ。
「妖術で結界を張りました」
ササミの左隣の席に座っている老人が静かにいった。
この男性は、世界的規模の家電製品製造会社を経営するサラッド公爵家で、執事をしているシュバイツ‐レゾッドだ。
振り向いたササミが高く鋭い声で、レゾッドに問う。
「結界ですって!?」
「はい」
「どうして? どうして、そのようなご無体なことをなさるのです!」
教室内の視線は、ササミとレゾッドに集まった。
普段は愛らしく穏やかな顔つきのササミが鬼の形相となって、その怒りの全てをレゾッドにぶつけているのだ。
「虫を封じ込めるためなのです」
「虫を?」
レゾッドが右斜め前を指差したので、教室内の視線がポンズヒコに戻る。
今上神の身体の周囲に、羽虫が十匹ほども舞っているではないか。
「きゃあ!」
ササミの鬼の様な顔が赤色から青色に変わった。だからといって、ササミが青鬼の化身になった訳ではない。
咄嗟にニクコが、右隣に腰かけている少年の顔をきつく睨んだ。
だがセンベイは首を大きく横に振った。そして、それだけでは不足だと思ったのか、口を開いて言葉で補い始めた。
「あれらの虫たちは式神じゃあないよ。生きている本物の羽虫だね。しかも、魔的な邪気まで感じられる。でも一体、誰が……」
落ち着いた口調で話すセンベイは、教壇上で棒立ち状態になっているピザエルの口元が少し歪んでいることを見逃がしてはいない。極めて冷静な少年なのだ。
この時、既にポンズヒコの席へピクルスが駆け寄っていた。オチタスピが左の手に握られている。
――シュッシィーンλλ
廊下で赤鉛筆を削った先ほどよりもさらに洗練された刀の軌跡。
レゾッドの強力な結界をも越えて、オチタスピはたった一閃にして、十匹の羽虫を全て床に落としたのだ。実に鮮やか。
ポンズヒコの苦しみは治まり、それと同時にオチタスピもピクルスの背中の鞘に納まった。
「あああぁ、ムゴいなあ。一寸の虫にも五分の魂やでぇ。せやのに皆殺しにしてもおて。神域なる教室でピクルスはん、平気な顔して殺生なことしゃはったなあ」
ピクルスを責め立てるピザエルの言葉に、マルフィーユ公爵家の令嬢ショコレットが、ここぞとばかりに冷たい追い風を送りつける。
「冷酷令嬢ピクルス、きっとあなたは地獄の奥底へと落とされますわねえ」
「ピクルス嬢、見損ないましたよ。この前あなたと協力し合って、フランセ国のスッパイーゼ‐ウメイメシ空軍大将を救った時は、本当に信じられる人間だと思ったのに。ああ、これで自分の名誉まで汚れてしまいましたよ、全く」
つい先日ソシュアル国で出会い、良き戦友となったはずの空軍大尉ポークビルスキー‐ブタノピロシキまでもが、強くピクルスを責めた。
ササミもピクルスを非難する。
「こんな恐ろしい人と一緒の教室は嫌です。ピクルスさんを追放して下さい」
黙って遣り取りを傍観していたニクコは熟考を続ける。
(あのピクルスというヴェッポン国人、やっぱり只者ではなさそうね。味方につけて、うまく利用できるかも。よおし!)
ニクコが口を開こうとした時、先にポンズヒコが話し始めた。
「虫たちの儚い命の灯火を消してまで、余は、余の命一つを惜しむつもりは毛頭ないのじゃ。ピクルスとやら、さあ覚悟して聞かれよ」
「はい」
「そちに極刑をいい渡すのじゃ。フッそ!」
「はい」
ピクルスがヤポン神国までやってきた目的の一つは、今上神ポンズヒコに群がる虫どもを蹴散らすことである。その務めを立派に果たしたのであるから、ピクルスは、処刑されるのなら本望と達観して、一切逆らわないことに決めている。だから背中のオチタスピをもう一度引き抜いて、その柄をポンズヒコに差し出した。
ヤポン神が黙って受け取り、ピクルスの頭上に振り上げる。
「ピクルスっ!!」
「ピクルスぅー!」
「ピクルスお嬢様!」
「ピクルス大佐!!」
サラッド公爵家の双子兄妹マロウリとメロウリ、そしてジッゲンバーグとザラメが揃って声を張り上げた。それはヤポン神に助命を嘆願する悲痛の叫びだった。
だが、ポンズヒコは聞く耳を持っていない。ピクルスは、かつて経験したことのない絶体絶命的な危機を今迎えているのである。
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