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【第十二幕】青春恋愛シミュレーションゲーム
続くピクルスの話&しつこい悪の令嬢軍人
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小テーブルを囲む少女三人からやや離れたところに、カペリイニは一人用ソファーの上に独立する形で座っている。ずっと熱心に話を聞いていた彼もまた、貴なる茶を嗜む空気の無動に十秒くらいを過ごした。
そうしてピクルスの話は滑らかに繋がって再開した。海岸で合流したジッゲンバーグが海亀だった件、彼から退屈な説法を聞かされたこと、喫茶店でのうどん談義、それらが時間をかけて語られた。
この時キュルリィという卦体な音を伴ってドアーが開く。
知的な笑みを携えた女性が入ってくる。この研究所で専属医師を務めている西風だ。
「あら、四人揃ってティータイムね」
「おかえんなさあーい!」
緋紅瑠素が目を輝かせて迎えた。
西風の手に、駅前のパン店「タルタルロース」の紙袋が揺れているのだ。
「完熟西瓜パン買ってきたのよ」
「やったぁー、あたし大好きなの!」
緋紅瑠素の邪気のない叫び声は、他の者たちの顔に微笑みを誘う。
「あっそうそう、タルタルロースの近くに建つあれ、コンビニでも、ドラッグ・ストアーでもなかったの。だから私も藍李酢ちゃんも外れよ」
「えっ、それじゃあ?」
「洋菓子店ですって。緋紅瑠素ちゃんのご希望通りにね」
「わあーい!」
再び歓喜の叫びを発する緋紅瑠素。やはりスイーツ大好き少女だ。
「ふふふ。よかったですわね、お姉様」
「うんうん♪」
頭を上下させながらも心は一転、完熟西瓜パン一点に集中しているらしく、手渡された包みをさっそく開けている。
「お代わりを、用意しませんとねえ」
そういって立ち上がろうとする藍李酢を、西風が手の平で制止する。
「お茶は、私がいれてくるわ。この香りはモンキーバナナパンチよね。同じでいい?」
「はあーい!」
「済みません、西風さん。それではお言葉に甘えますわ」
誰にも異論は毛頭なかった。立っている者なら医者でも使え、という合理的対応だといえよう。
西風が部屋を出て、それを皮切りにピクルスが話を再開する。
「狐うどんを終えてから海岸に戻りましたところ、どうしたことでしょう、ブルーカルパッチョの左翼が折れていましたの。すぐ近くに、歳の頃はジッゲンと同じくらいに見える老男性が、とても気まずそうな硬い表情をしていて、わたくしに向かい頭を深く下げました。その姿勢のまま『大変済みませんことに、私の時空間移動艇が少々落下位置をずらしてしまいまして、このような損傷をもたらしてしまった次第の運び、悪意は毛頭ございません。全くの不慮の事故でして、しかし、なんと謝罪を致しましょうや、いやはや……』といい、一度上げかけた頭をまた低くします。彼のいう通りに毛頭はなく、そこに反省の色が、にじみ輝くようでしたわ、ええ本当に」
「あははは」
「ふふふふ」
カペリイニと藍李酢が、穏やかな笑い声を発した。
「へ?」
首を傾げる緋紅瑠素に、誰も解説はしない。
「それでわたくしは『ブルーカルパッチョが破壊されたことより、あなたのお身体には、どこも損傷ありませんでしたの?』と問います。老男性は、身体を気遣って貰えたことを喜びましたわ。そのような遣り取りを交わしまして、最後になり、飛行機を修理して、四十八時間限定の時空間移動の付帯機能をつけるとまでお申し出になります。でも、それには約束が一つ必要とのことで、老男性は『過去ではなにをしようとも子細一向に構わないのですが、未来においては決して涙を流さないこと。守れますかな?』と仰いました。わたくしは『シュアー!』と応えましたところ、老男性があり得ないくらいの大声で『はは結構結託。では、りぺあーっ!』叫びました。するとどうでしょう、ブルーカルパッチョは元通りになりましたの。これにはビクリ仰天の域に達しましてよ、わたくしの心の臓。おほほほ」
この時、カペリイニと藍李酢が笑ったが、緋紅瑠素は違う。
「あの人、誰だろ? 女の人だ!」
緋紅瑠素が窓の外を指差しながら、双眼鏡で観察し始めた。
向かい側に見える研究室の壁から約十メートル離れた芝生に、軍服姿の人が立っているのだ。
「あ、あれは!」
「えっ、カペリイニ君の知り合い? まさか恋人とか!」
鋭い剣先のような表情をした緋紅瑠素からの詰問と睨み。
クール・サイレンスな少年でありながら、さすがのカペリイニも、わずかながら慌てた様子を見せた。
「あ……あいや、恋人どころか、今のボクにとっては敵人、フライシラコ‐ピザエス少佐だよ。彼女はボクの祖国アルデンテ王国の屈強な悪の令嬢軍人で、並外れて卑怯な術の持ち主でもあるんだ。王国内ではキレ過ぎる少佐なんて呼ばれている有名人だよ」
「へっ……ホント?」
「もちろんだよ! アルデンテ男児の名誉に賭けて誓おう。でもそれより、半世紀前にこの大陸で大戦争が勃発したことは、三人とも知っているね?」
アインデイアン暦千九百七十年の七月十四日、トンジル国内にパプリカ連邦共和国が攻め入ってきた。それを契機に、トンジル国とアルデンテ王国とガラナ帝国が連合して、パプリカに宣戦布告した。そこから始まったのがアインデイアン大戦である。
「シュアー!」
「私も、知っていますわ」
軍人のピクルスは戦争についての知識だけは豊富に持ち合わせているし、勉強全般が好きな藍李酢ももちろん知っていた。
「あたし、知らないよ」
理科系以外の科目に興味を持てない緋紅瑠素には初耳だった。
ここは、自然な流れでスルーされるのが至極妥当である。
「ボクは戦争に反対し、軍から抜け出したんだ。なのに、まさか少佐が、ボクを追って、こんな時代にまでくるとは……全くしつこい悪の令嬢軍人だ!」
カペリイニが悩ましそうな表情をして、目を伏せた。
数秒の沈黙の後、爆音響が轟き、烈風が窓のガラスを叩いてきた。
「ぎゃっああ、なによっ!?」
叫んで猛然と立ち上がる緋紅瑠素。爆心は研究室だ。握る力が無意識に強められたため、圧迫に弱い完熟西瓜パンから、赤い汁があわや滴り落ちそうになる。
しかし、そこを指摘するほどの余裕は、誰の目にもなかった。
「まさか少佐が発破を!?」とカペリイニ。
「先制攻撃を、仕かけたのやも」とピクルス。
「まあ、どうしましょう」と藍李酢。
カペリイニたちも腰を上げ、窓辺へ向かう。
そうしてピクルスの話は滑らかに繋がって再開した。海岸で合流したジッゲンバーグが海亀だった件、彼から退屈な説法を聞かされたこと、喫茶店でのうどん談義、それらが時間をかけて語られた。
この時キュルリィという卦体な音を伴ってドアーが開く。
知的な笑みを携えた女性が入ってくる。この研究所で専属医師を務めている西風だ。
「あら、四人揃ってティータイムね」
「おかえんなさあーい!」
緋紅瑠素が目を輝かせて迎えた。
西風の手に、駅前のパン店「タルタルロース」の紙袋が揺れているのだ。
「完熟西瓜パン買ってきたのよ」
「やったぁー、あたし大好きなの!」
緋紅瑠素の邪気のない叫び声は、他の者たちの顔に微笑みを誘う。
「あっそうそう、タルタルロースの近くに建つあれ、コンビニでも、ドラッグ・ストアーでもなかったの。だから私も藍李酢ちゃんも外れよ」
「えっ、それじゃあ?」
「洋菓子店ですって。緋紅瑠素ちゃんのご希望通りにね」
「わあーい!」
再び歓喜の叫びを発する緋紅瑠素。やはりスイーツ大好き少女だ。
「ふふふ。よかったですわね、お姉様」
「うんうん♪」
頭を上下させながらも心は一転、完熟西瓜パン一点に集中しているらしく、手渡された包みをさっそく開けている。
「お代わりを、用意しませんとねえ」
そういって立ち上がろうとする藍李酢を、西風が手の平で制止する。
「お茶は、私がいれてくるわ。この香りはモンキーバナナパンチよね。同じでいい?」
「はあーい!」
「済みません、西風さん。それではお言葉に甘えますわ」
誰にも異論は毛頭なかった。立っている者なら医者でも使え、という合理的対応だといえよう。
西風が部屋を出て、それを皮切りにピクルスが話を再開する。
「狐うどんを終えてから海岸に戻りましたところ、どうしたことでしょう、ブルーカルパッチョの左翼が折れていましたの。すぐ近くに、歳の頃はジッゲンと同じくらいに見える老男性が、とても気まずそうな硬い表情をしていて、わたくしに向かい頭を深く下げました。その姿勢のまま『大変済みませんことに、私の時空間移動艇が少々落下位置をずらしてしまいまして、このような損傷をもたらしてしまった次第の運び、悪意は毛頭ございません。全くの不慮の事故でして、しかし、なんと謝罪を致しましょうや、いやはや……』といい、一度上げかけた頭をまた低くします。彼のいう通りに毛頭はなく、そこに反省の色が、にじみ輝くようでしたわ、ええ本当に」
「あははは」
「ふふふふ」
カペリイニと藍李酢が、穏やかな笑い声を発した。
「へ?」
首を傾げる緋紅瑠素に、誰も解説はしない。
「それでわたくしは『ブルーカルパッチョが破壊されたことより、あなたのお身体には、どこも損傷ありませんでしたの?』と問います。老男性は、身体を気遣って貰えたことを喜びましたわ。そのような遣り取りを交わしまして、最後になり、飛行機を修理して、四十八時間限定の時空間移動の付帯機能をつけるとまでお申し出になります。でも、それには約束が一つ必要とのことで、老男性は『過去ではなにをしようとも子細一向に構わないのですが、未来においては決して涙を流さないこと。守れますかな?』と仰いました。わたくしは『シュアー!』と応えましたところ、老男性があり得ないくらいの大声で『はは結構結託。では、りぺあーっ!』叫びました。するとどうでしょう、ブルーカルパッチョは元通りになりましたの。これにはビクリ仰天の域に達しましてよ、わたくしの心の臓。おほほほ」
この時、カペリイニと藍李酢が笑ったが、緋紅瑠素は違う。
「あの人、誰だろ? 女の人だ!」
緋紅瑠素が窓の外を指差しながら、双眼鏡で観察し始めた。
向かい側に見える研究室の壁から約十メートル離れた芝生に、軍服姿の人が立っているのだ。
「あ、あれは!」
「えっ、カペリイニ君の知り合い? まさか恋人とか!」
鋭い剣先のような表情をした緋紅瑠素からの詰問と睨み。
クール・サイレンスな少年でありながら、さすがのカペリイニも、わずかながら慌てた様子を見せた。
「あ……あいや、恋人どころか、今のボクにとっては敵人、フライシラコ‐ピザエス少佐だよ。彼女はボクの祖国アルデンテ王国の屈強な悪の令嬢軍人で、並外れて卑怯な術の持ち主でもあるんだ。王国内ではキレ過ぎる少佐なんて呼ばれている有名人だよ」
「へっ……ホント?」
「もちろんだよ! アルデンテ男児の名誉に賭けて誓おう。でもそれより、半世紀前にこの大陸で大戦争が勃発したことは、三人とも知っているね?」
アインデイアン暦千九百七十年の七月十四日、トンジル国内にパプリカ連邦共和国が攻め入ってきた。それを契機に、トンジル国とアルデンテ王国とガラナ帝国が連合して、パプリカに宣戦布告した。そこから始まったのがアインデイアン大戦である。
「シュアー!」
「私も、知っていますわ」
軍人のピクルスは戦争についての知識だけは豊富に持ち合わせているし、勉強全般が好きな藍李酢ももちろん知っていた。
「あたし、知らないよ」
理科系以外の科目に興味を持てない緋紅瑠素には初耳だった。
ここは、自然な流れでスルーされるのが至極妥当である。
「ボクは戦争に反対し、軍から抜け出したんだ。なのに、まさか少佐が、ボクを追って、こんな時代にまでくるとは……全くしつこい悪の令嬢軍人だ!」
カペリイニが悩ましそうな表情をして、目を伏せた。
数秒の沈黙の後、爆音響が轟き、烈風が窓のガラスを叩いてきた。
「ぎゃっああ、なによっ!?」
叫んで猛然と立ち上がる緋紅瑠素。爆心は研究室だ。握る力が無意識に強められたため、圧迫に弱い完熟西瓜パンから、赤い汁があわや滴り落ちそうになる。
しかし、そこを指摘するほどの余裕は、誰の目にもなかった。
「まさか少佐が発破を!?」とカペリイニ。
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