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【第十三幕】四級女官は王宮を守れるか?
フライシラコ‐ピザエスも動き始めた!?
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ヒラリと落ちる着地予想点に、横跳びで先回りしたグモアクシスは、それを手に受けると瞬時に舞い戻り、すかさずピクルスにプレゼントする。
「さあどうぞや、お嬢さんや」
「プリンセスアップルのお花ね。なんとも甘酸くって芳しい香り」
「無垢な妖精の如き可憐な白の花こそ、同じく可憐なそなた、黒艶やかな髪には、定めて映えようや」
「まあ、可憐だなんて、先生もおじょうずですわ。おほほほ♪」
花を髪に飾り、リフレッシュを果たしたピクルスは、漸く稽古を再開する気分になった。グモアクシスもその場に残り、黙って監督しようと考えた。自著の愛読者にはアフターサービスを充実させる精神なのだ。
その師匠の手本を目の前で拝見して、型は格段に良くなっているが、それでも今日始めたばかりの手刀では、まだ旋風が起きない。
百回ほどスイングした頃、フカヒレマートの鐘が二つ鳴った。
「ランチタイムですわ♪」
「拙僧は午後から同人誌即売会に出かけるや、この先の稽古は監督できない故、代わりによき情報を与えようや」
「よき情報とは?」
「うむや。初心者にして刀を持たずしては、到底奥義へ届かぬや。そこでまずは、実刀を持って挑むとよかろうや。武器弾薬庫には、今となっては誰も使い手のない名刀オチタスピがあろうや。それで稽古するとよかろうや」
「ラジャー! でも先生は、どうして親切ですの?」
「拙僧の父と母が困った折、そなたに救って貰った返礼であろうや」
「ヤポン神国の?」
「左様たりや。おうおう、もうタイム・アップであろうや!」
グモアクシスは急いで横跳びして泉の中へ潜った。
師匠を見送り、ピクルスもこの場を去る。もちろん食堂へ向かうのだ。
本日の日替わりランチは鯛焼き定食だった。
鯛焼きは、クリーム煮海老・塩焼き鯵・蒲焼き鰻の中から一つを選べるので、ピクルスは迷わず蒲焼きにした。スープは人参入りのコンソメ味だ。
周囲のテーブルが多く空いている窓際に、ちょうどパンコとショコレットが二人で陣取り、なにやらヒソヒソと話しながら鯛焼きをかぶるのを見て、そこへトレーを運んだ。
「ご機嫌よう、パンコお姉様、ショコレット準一級様」
「あら、王宮一の貧相女さん? ご機嫌よう」
パンコは、たった今ピクルスに気づいたといわんばかりの応答をして、ナプキンで口元を拭った。
ショコレットは、匙ですくった人参を口に含んで噛んでいる。クルクル髪が、窓から吹いてくる風に揺らされている。
「合い席は、よろしくて?」
「お好きになされば」
そっけなく応えるパンコの顔は、どちらでも構わなさそうな色だ。
「……ご機嫌よう、王宮一の貧相女さん。私たちにご用かしら?」
ショコレットもパンコと同じような表情だが、それでいて、ピクルスが運んできたトレーに載っている鯛焼きをチラリと覗いた。
「これといって、ご用向きもありませんわ」
「そう。それであなた、蒲焼きがお好きですの?」
「シュアー」
「海老が一番ですのに。ほほほ」
ショコレットも熱烈なクリーム煮海老派だ。「蒲焼きは?」と尋ねられるや、間に髪を容れず「番外ですわ」と返す刀。さらには、多くの者たちがやがて蒲焼きに飽きて海老に改宗してきた、という王宮女官たちの鯛焼き流通史を語った。
その講釈の次に、海老の鯛焼きを平らげたパンコが話題を変えてくる。
「あなたはウムラジアン大陸からお越しになったのですから、ゲルマーヌ国のフライシラコ‐ピザエル十九世のプティ・スールを、ご存知ですわよね?」
「ピザエスさんのことかしら?」
「そうですわ。先ほどからショコレット準一級とも、そのお話ばかりをしておりましたところでしてよ。あのピザエスも動き始めました折、あなたどうなさるの?」
ピクルスには、具体的な作戦がまだ用意できていない。
「ピザエスさんは、どちらに?」
「知らなかったのだわ、あなたともあろう軍人さんでも」
「ですわ」
「それで、そのピザエスがねえ、パプリカ連邦共和国へ留学して知り合った海兵隊の大将をたぶらかして、まるで骨抜きのチキンのようにしましたの。その重罪のため、逃亡の余儀あるやなしや。どうやら今はポプコン山に潜んでいますの」
ポプコン山の名が出てきて、ピクルスは驚いた。森を抜けた先にある、アルカリ土類金属元素の含水ケイ酸塩鉱物などが良く産出することで有名な山だ。
今まさに世間を騒がせているフライシラコ家の令嬢がアルデンテ王国に潜り込んでいるという報道は、真実だったのだ。
「そうしますと、配下の者は?」
「ここだけのお話、ペンネ伯爵がまずお怪しいことですよ」
この時窓から、「クルックゥ~」と鳴きながら鳥が乱入してきた。
「まあ、青色の小鳩ですわ!」
「そうね、背中にいるのは、緑妖精ね」
「スピニッチ族が、なにかご用かしら?」
ピクルスは先日届いた二通の手紙の内容を思い出した。
一通目には、スピニッチ族を愛するように指示されていて、二通目にはスピニッチ族は相手にしないのが最善などと書かれていた。果たして、どちらに従うべきか?
「さあどうぞや、お嬢さんや」
「プリンセスアップルのお花ね。なんとも甘酸くって芳しい香り」
「無垢な妖精の如き可憐な白の花こそ、同じく可憐なそなた、黒艶やかな髪には、定めて映えようや」
「まあ、可憐だなんて、先生もおじょうずですわ。おほほほ♪」
花を髪に飾り、リフレッシュを果たしたピクルスは、漸く稽古を再開する気分になった。グモアクシスもその場に残り、黙って監督しようと考えた。自著の愛読者にはアフターサービスを充実させる精神なのだ。
その師匠の手本を目の前で拝見して、型は格段に良くなっているが、それでも今日始めたばかりの手刀では、まだ旋風が起きない。
百回ほどスイングした頃、フカヒレマートの鐘が二つ鳴った。
「ランチタイムですわ♪」
「拙僧は午後から同人誌即売会に出かけるや、この先の稽古は監督できない故、代わりによき情報を与えようや」
「よき情報とは?」
「うむや。初心者にして刀を持たずしては、到底奥義へ届かぬや。そこでまずは、実刀を持って挑むとよかろうや。武器弾薬庫には、今となっては誰も使い手のない名刀オチタスピがあろうや。それで稽古するとよかろうや」
「ラジャー! でも先生は、どうして親切ですの?」
「拙僧の父と母が困った折、そなたに救って貰った返礼であろうや」
「ヤポン神国の?」
「左様たりや。おうおう、もうタイム・アップであろうや!」
グモアクシスは急いで横跳びして泉の中へ潜った。
師匠を見送り、ピクルスもこの場を去る。もちろん食堂へ向かうのだ。
本日の日替わりランチは鯛焼き定食だった。
鯛焼きは、クリーム煮海老・塩焼き鯵・蒲焼き鰻の中から一つを選べるので、ピクルスは迷わず蒲焼きにした。スープは人参入りのコンソメ味だ。
周囲のテーブルが多く空いている窓際に、ちょうどパンコとショコレットが二人で陣取り、なにやらヒソヒソと話しながら鯛焼きをかぶるのを見て、そこへトレーを運んだ。
「ご機嫌よう、パンコお姉様、ショコレット準一級様」
「あら、王宮一の貧相女さん? ご機嫌よう」
パンコは、たった今ピクルスに気づいたといわんばかりの応答をして、ナプキンで口元を拭った。
ショコレットは、匙ですくった人参を口に含んで噛んでいる。クルクル髪が、窓から吹いてくる風に揺らされている。
「合い席は、よろしくて?」
「お好きになされば」
そっけなく応えるパンコの顔は、どちらでも構わなさそうな色だ。
「……ご機嫌よう、王宮一の貧相女さん。私たちにご用かしら?」
ショコレットもパンコと同じような表情だが、それでいて、ピクルスが運んできたトレーに載っている鯛焼きをチラリと覗いた。
「これといって、ご用向きもありませんわ」
「そう。それであなた、蒲焼きがお好きですの?」
「シュアー」
「海老が一番ですのに。ほほほ」
ショコレットも熱烈なクリーム煮海老派だ。「蒲焼きは?」と尋ねられるや、間に髪を容れず「番外ですわ」と返す刀。さらには、多くの者たちがやがて蒲焼きに飽きて海老に改宗してきた、という王宮女官たちの鯛焼き流通史を語った。
その講釈の次に、海老の鯛焼きを平らげたパンコが話題を変えてくる。
「あなたはウムラジアン大陸からお越しになったのですから、ゲルマーヌ国のフライシラコ‐ピザエル十九世のプティ・スールを、ご存知ですわよね?」
「ピザエスさんのことかしら?」
「そうですわ。先ほどからショコレット準一級とも、そのお話ばかりをしておりましたところでしてよ。あのピザエスも動き始めました折、あなたどうなさるの?」
ピクルスには、具体的な作戦がまだ用意できていない。
「ピザエスさんは、どちらに?」
「知らなかったのだわ、あなたともあろう軍人さんでも」
「ですわ」
「それで、そのピザエスがねえ、パプリカ連邦共和国へ留学して知り合った海兵隊の大将をたぶらかして、まるで骨抜きのチキンのようにしましたの。その重罪のため、逃亡の余儀あるやなしや。どうやら今はポプコン山に潜んでいますの」
ポプコン山の名が出てきて、ピクルスは驚いた。森を抜けた先にある、アルカリ土類金属元素の含水ケイ酸塩鉱物などが良く産出することで有名な山だ。
今まさに世間を騒がせているフライシラコ家の令嬢がアルデンテ王国に潜り込んでいるという報道は、真実だったのだ。
「そうしますと、配下の者は?」
「ここだけのお話、ペンネ伯爵がまずお怪しいことですよ」
この時窓から、「クルックゥ~」と鳴きながら鳥が乱入してきた。
「まあ、青色の小鳩ですわ!」
「そうね、背中にいるのは、緑妖精ね」
「スピニッチ族が、なにかご用かしら?」
ピクルスは先日届いた二通の手紙の内容を思い出した。
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