この学園モノの乙女ゲームは国語が学べる!?

紅灯空呼

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第四章 異世界の秘密を打ち明けるときだ!

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 花実は、白夜から数粒の錠剤を貰ってポリポリと食べた。

「……うん、美味しいでっす。豆まきの豆みたいな味ですぅ。これって、鬼さんにぶつけたら逃げるかなぁ?」
「あ、あのね。花実ちゃん。実はさっき話した異世界では、『節分』はあるけど、豆まきの行事はないんだよ。向こうでは、鬼と人間が一緒に暮らしてるからね」
「あっそっか。そうですよね。鬼さんにぶつけたらダメでした。ごめんなさい」

 ペコリと頭を下げる花実。

「あ、あの別に謝らなくてもいいから」
(酢雀先輩はやっぱり優しいなあ……)

 花実の胸に正体不明の暖かみが生じた。豆まきの豆ほどの、小さな恋である。

「それでね、ここからが話の本題になるんだけど」
「話の本題?」

 俗人の顔を見つめ首を傾げる花実。
 白夜が口を開く。

「今までのは、前置きだったのだな」
「うん。また驚かせてしまうことになるけど、実は、僧子は黄鬼と白鬼の間に生まれた子なんだ」
「えっ!! そうだったのか!」
「えぇぇ~、僧子さん鬼さんなのぉ!?」
「うん鬼」
(僧子さん、ツノがどうとか言われてたのは、そういうことなんだ。あっ、ああ~っ、しまった! 鬼さんに豆をぶつけるとか言っちゃったよぉ。どうしよう、僧子さん気にしてるかなぁ?)

 花実は、先ほどの発言が失言だったことにも気づいたが、改めて謝るのも変だと思い、黙っていることにした。
 引き続き俗人が僧子の秘密を淡々と話す。

「混血の僧子は、まだ名前もつけて貰っていなかったんだけど、生まれてから数日後には捨てられた。その記憶は今も残っている。捨てられてすぐの僧子を、若い女性が拾って育て始めたんだけど、鬼たちに知られると殺される心配があって、異世界から見た異世界、つまりこちらの世界にやってきて、僕の両親に託した。両親が選ばれたのはただの偶然だったけど、色々な小さい動物たちを大事にしているのを知り、きっと鬼の子でも大切に育ててくれるだろうと思って託されたらしい。それは僕が十一歳のときのことで、今でもはっきりと覚えているんだ。その鬼の子は僧子と名づけられて、僕の妹として家族全員から可愛がって貰い、すくすくと育った。今の僧子は鬼年齢では七歳だけど、人間なら十五歳くらいに相当していて、この先は人間と同様に成長する。それでね、悩みの種が一つだけあってね」
「悩みの種?」
「どういうことだ」
「僧子が十歳、つまり僕らの年齢なら十八歳くらいだけど、その年の秋には異世界の大学に入らないといけないことになっているんだ……」

 俗人は詳しく説明した。それによると、黄鬼族は学究肌の血統であるため、十歳になると大学に入ることを義務づけられている。それは天の命令、つまり天命である。混血でも黄鬼の血を引く以上、それから免れることはできない。黄鬼は普通みんな勉強好きなので、大学には楽々と合格できる。
 だが、過去に大学受験に失敗した者が一人だけいた。数百年前に黄鬼と白鬼の混血が生まれたことがあって、しかも未熟児だった。その子はすぐに捨てられたのだけれど、たまたま年老いた人間の夫婦が見つけて連れて帰り、自分たちの子供として大切に育てた。その女の子の黄鬼はすくすくと育ち、菜の花色の髪が輝く、それは美しい鬼娘に成長した。その美貌は当時の帝ですら夢中になるほどだった。
 ところが彼女はとても甘やかされて育ち、ろくに勉強をしなかったので、大学受験は見事なまでの大失敗で全科目が0点だった。そのため天命によって天に召されることとなった。当時の帝がその鬼娘を地上にいさせて欲しいと天にお願いしたのだけれど、聞き入れて貰えなかった。
 それでも諦め切れず、美しい鬼娘を渡してなるものかと、帝は家来たちを従えて闘った。天に逆らったのだ。しかし人間たちの力ではどうにもならず、その鬼娘はとうとう天に召されてしまい二度とは地上に戻ることはなかった。

「僧子なら今の調子で勉強すれば、大学受験はまず大丈夫と思う。だけどそのときがくれば異世界に帰らないといけなくなるんだよ」
「そうだな。そうなってしまうな」
「えっ、僧子さん、高校卒業までしかいられないの?」
「そうなの」

 僧子は寂しそうに頷いた。

「だが異世界に戻って、僧子の身に危険はないのか?」
「異世界では、大学に入った者を傷つけたりすると死罪となり、さらにお家も取り潰しになるんだ」
「つまり僧子が大学生になれば、誰も手が出せないという訳だな」
「そうなんだよ。それでね、こっちの世界の常之世とこのよ大学にだけでも、異世界の鬼が入れるようにしようという計画が、以前からあってね」
「あの常之世大学にか?」

 常之世大学は私立の最難関校だ。常之世大学入学共通テストという一次試験と、学部別の二次試験とがあり、その両方でほとんど満点に近い点数を取らないと合格できないレベルなのだ。

「うん。そこに文字学部という新学部を設立する予定があって、定員は四十人くらいなんだけど、そのうち五人ほどを鬼限定の推薦枠にするということなんだよ」
「とすると、もしかして僧子は」
「うん。僧子がそこに入れたら、少なくとも大学四年間はこっちの世界にいられる筈なんだ。その先もうまく常之世大学の職員にでもなれたら、ずっといられるかもしれないんだよ」
「なるほどな」
「そしたら僧子さん、帰らなくていいんだぁ」

 花実は喜ぶけれど、僧子は浮かない表情のままだ。

「ところがね、その計画が中止になってしまったんだよ。この前その連絡があったんだ。僧子が学校を休んだ前の日にね」
「そうだったのか」
「あっ」
(そうかぁ、この前僧子さんの元気がなかったのは、その知らせを聞いてショックを受けたからなのかぁ)

 実際にショックを受けていたのは、僧子ではなく僧人だった。花実の記憶がすっかり書き変えられているのだ。

「でも、他の大学じゃあダメなんですか?」

 それは当然の疑問である。こちらの世界にも、棟大とうだい享大きょうだいといった優れた大学があるのだから。

「異世界の教育関係の人たちが認めない限りはどうしようもないんだ」
「つまり僧子は、異世界にある大学か、それに準ずるところでないと入らせて貰えないのだな」
「うん、そうなんだ。今のところ、こっちの世界ではその条件を満たすレベルにあるのは常之世大学だけなんだ」
「そうなんですかぁ」
「うん。あでもね、まだ望みはあるんだよ」
「望み? 何だそれは」
「えっ、何々?」
「異世界へ行って、天にお願いすることだよ。常之世大学に文字学部を新設する計画についてもう一度考えて欲しいと。実はね、異世界では歌合わせというのが盛んに行われていて、それに参加していい結果を出せば点数が貰えるんだ。その点数を使ってお願いができるんだよ」

 俗人は、異世界へ行って歌合わせで戦おうと思っているのだ。

「へぇ~、歌合わせですかぁ」
「そうか、現代歌人・俗人の出番ということなのだな。それは面白そうだ」
「特にね、年に一度の一番大きな歌合わせだと、凄いお願いができるくらいの特別な点数が最優秀者に与えられるんだよ。その大会が開かれる日は、こっちの世界のカレンダーだと、ちょうどゴールデンウィーク期間中にあたる」

 ちなみに異世界には黄金週間などはなく、その日は単なる休日だ。

「それで僕は、僧子と一緒に三日間滞在するんだ。向こうの世界のことも、もっと勉強しないといけないしね。その滞在最終日に開催される歌合わせ――紅白歌合わせに出て、僕は戦う!」
「あっでもでも、酢雀先輩」
「花実ちゃん、どうしたの?」
「あのう、ケンシンちゃんとキツノちゃんは、いいんですか?」

 俗人の家で飼っている仔猫とウサギのことである。

「うん。両親に頼んであるよ。ペットショップの方も、近所の大学生が手伝ってくれるそうなんだ。その人は獣医を目指してるんだって」
「それなら安心でっす」
「異世界で僧子の身に危険はないのか?」

 鬼は混血を嫌うため、僧子は殺されるかもしれないのだ。

「滞在中は向こうの世界で帝の次に身分が高い中宮なかみや定子さだこ様という女性のお邸でお世話になるんだよ。それに歌合わせは、天が開催する天聖てんせいな行事だから、その間は誰も手が出せないからね」
「そうか、それなら安心だな。よし、私も応援に行くぞ」
「私も、行きまぁ~っす」
「二人とも、行ってくれるの?」
「もちろん」
「は~い、でっす」
「ありがとう。僧子よかったな」
「うん。ありがとうございます。天里部長、花実さん」

 四人は互いに手を取り合った。若者たちの熱い友情だ。

「でも、その異世界にはどうやって行くのだ」
「テレポーテーションだよ。僧子の能力を使って」
「テレポーテーション!?」
「えっええー!」
「うん。移動中は重力を受けないから何人でも、どんな荷物でも移動できる」
「そ、それは……凄いな」
「僧子さん、すっごぉおい!」
「そんなことないです」

 慎ましく謙遜する僧子だった……。
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