この学園モノの乙女ゲームは国語が学べる!?

紅灯空呼

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第一章 ドキドキのクラブ活動見学

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 私立・増鏡ますかがみ高等学校に入学した今日、高校生になったのだという少女の歓喜が、とうとう頂点に達した。
 入学式後の初ホームルームは、自己紹介をして、明日からの諸注意を聞くだけのものだった。クラス担任は若い男性教師だ。しかも超ハンサムで、ペタンコの胸は終始ドキドキだった。
 そんな小柄な少女は、今まさに不安と期待を胸に抱きながら、一人で廊下を歩いている。目的はクラブ活動見学。クラブ名の書かれたネームプレートを順番に見ながら歩く。この辺りには文化系の部室が並んでいるみたいだ。
 だが、午前中に購入した教科書や辞書の入った手提げ袋が重い。さらには背中に背負っている鞄が、よりいっそう重い。
 明日まで教科書類や体操服・シューズなどが販売されることになっていて、早速必要なものを買い揃えたのだ。二日間に分けてもよかったのに、まとめて全部を購入した。それで鞄と、予備に持ってきた手提げ袋まで一杯になってしまった。
 それでもう帰ってよかったのだが、この少女は残って一人でクラブ活動見学をすることにした。新入生のためのクラブ活動見学期間は、今日から来週末までだ。ほとんどの新入生は午前中で帰った。大抵の人は、明日以降にゆっくりと見学する積りなのだろう。
 少し前に昼食を済ませた。初めての食堂体験となった。中学校は公立だったこともあり食堂なんてなかったし、しかも入学式の日からやっていたから、とても驚いた。メニューが豊富で値段も安く、今日食べた定食Aはアタリだなと思った。

「次は定食Bを食べてみよう」

 食いしん坊な少女にとって、食堂は高校生活の楽しみの一つになった。

「ボーイズラブ部とか、あったらいいんだけどなぁ」

 ウキウキ気分で思わず独り言だ。

「あはは、そんなクラブないって」
「えっ! 誰なの!?」

 少女は驚きの余り飛び上がって、五秒間くらい空中に浮いていた。一人で歩いている筈だったのに、隣に男子が並んで歩いていたのだ。

「何言ってるの、__ふにゃにゃちゃん」
「は?」
「僕だよ、小学校が一緒だった酢雀すざく俗人ぞくと。覚えてない?」
「へ?」

 小学生の頃の記憶には全く含まれていない。それより、「__ふにゃにゃちゃん」ってどういうことだろうか?

「えっとごめん、僕ど忘れしちゃったよ。君の名前、何て言ったっけ?」
「牡椋花実、ですけど……」
「ああ、そうだったそうだった」

 【ヒロイン名〈牡椋花実〉が設定されました】

「は?」
「そうそう、花実ちゃんだったね。でも、どうして忘れてたんだろ」

 このとき花実の脳ミソが電子レンジでチンされたかのように跳ねた。

(私、確かに死んだ筈。ということは、ていうか、これゲームよ!)

「どうしたの?」

 そう言って、微笑みながら花実の顔を覗き込んでくる――この人は見覚えのある可愛い系男子――間違いなく攻略対象キャラクター人気No.1の酢雀俗人君だ。

「そうよ、ここって乙女ゲーム〈国語でビンビン物語〉なのよ!」
「ん??」
「そうですよね?」
「あはは、何言ってるの? ここは増鏡高等学校の廊下だよ。花実ちゃん、変わったんだね、以前は冗談なんて全然言わないマジメな女の子だったのに」
「……」

 花実は黙ってうつむいた。反省するとき、自然にそうする癖があるのだ。

(そうか、私このゲームにヒロインとして転生したんだ!)

 ゲーム内のキャラクターは、普通ゲーム内にいることなんて知らないし、キャラクターがそんな不自然は発言をしてはいけない。花実は、不用意な発言を慎もうと思った。

「僕は四組になったんだよ。花実ちゃんは一組でしょ?」
「……えっ、あ、はい」
「あはは、どうして知ってるの? みたいな顔してるね。掲示板に貼ってあったクラス分けの案内で、花実ちゃんの名前見つけたんだよ」
「あ、そうだったのですか」

 掲示板なんて花実は見ていない。最初から一組だと知っていたのだ。だがそんなこと、口には出さない。
 二人はまた歩き出した。

「あ、ここの部活動、どうだろうねえ?」

 俗人が部室の扉に掛けられているネームプレートを指差した。

「文学部?」
「どうする入ってみる?」

 【入ってみる】
 【入らない】
 【俗人に決めて貰う】

 花実は、迷わず【入ってみる】を選択して、目の前の扉をそっと開く。少しずつ緊張が増してくるのを感じる。

「こんにちはぁ。あのう、すみません」

 部屋の中央に長机といくつかの椅子があって、その一つに座って本を読んでいる女子生徒が、顔を上げてこちらを見た。目と目が合って、花実はドキリとする。

「お前、新入生か?」
「はい。あ、あの、今日入学したばかりの新入生です」
「そうだろう。この学校には昨日入学した新入生も明日入学する新入生もいないからなあ。まあそれより、入学おめでとう!」

 優しい表情でニッコリと笑ってくれた。荒っぽい口調に反して、上品な微笑みをする人だ。

「あ、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「おや、もう一人いるのか?」
「はい」
「入ってよいぞ」
「はい」

 花実は中に入り長机に近づこうとする。俗人も扉を閉めてからついてくる。

「荷物はその机の上に置くがよい」

 女子生徒の視線が、花実から見て左側へと変わった。そちらには細長いロッカーが四つ並んでいて、その隣に机が二つある。
 手提げ袋と背負っていた鞄を机の上に置いて、花実はやっと身軽になった。
 それから二人は、そそくさと長机に近づく。

「私は部長の天里てんり白夜はくや、今年二年だ。よろしく」
「あ、すいません。私は一年一組の牡椋花実です」
「僕も同じく一年で、クラスは四組の酢雀俗人です。よろしくお願いします」
「二人とも、そこに漢字で書いてくれ」

 壁に設置されているホワイトボードを白夜が指差す。細くて長いとても綺麗な人差し指だ。
 見ると、青色の力強い字で書かれた「男根という文字が出てくる文学作品を読み漁る」という縦書きの文が目に飛び込んできた。他には何も書かれていない。
 どういうことだろうと思いながら、花実は備えつけてある黒のフェルトペンを使って、氏名を漢字でやや遠慮がちに書いた。

「そう書くのか。そうか。お前のことを、花実と呼んでもよいか?」
「あ、はい。いいです」

 続いて、俗人も書き終えた。

「俗人か、お前も呼び捨てでよいか?」
「はい。どうぞ……」
「しかし可愛い顔だな。私の好みだ。すぐに婚約しようではないか」
「えっ?」

 俗人の目が点になった。高校生になったばかりの今日、いきなり先輩の女子からプロポーズされれば、普通の男子なら大抵そうなるだろう。

 【祝福する】
 【反対する】
 【話を逸らす】

(いきなりかあ。ここはさり気なく阻止しないとね)

 花実は、話を逸らすための質問を考えた。

「……あ、あのう、そのぅ文学部って、小説とか読むのですか? あ、もしかしてボーイズラブ作品なんかも」

 ホワイトボードの対面の壁側にある書棚をチラチラと見ながら、そう尋ねた。

「あはは。花実ちゃん、ちょっと間違ったようだね」
「そうだな。花実、もう一度外のネームプレートを見てみるがよい」
「えっ、違うんですか?」

 花実は驚きながらも、すぐに小走りで部屋の外へ出た。

「!?」

 改めてよく見ると、ネームプレートには〈文学部〉ではなく〈文字部〉と書かれている。歩きながら横目で見ていて勘違いしてしまったのだ。
 確認できたので、すぐに部室内へ戻る。

「あのう、わっ私、勘違いしてましゅ、ててて……すみません」

 花実はかなり慌てふためいている。

「あはは、花実ちゃん。そんなに慌てなくても大丈夫だよ」
「そうだ。まずは落ち着くがよい。それで、花実はBL小説をよく読むのか?」

 一度深呼吸をした。

「……えっと、そのう、ちょっと、あいえ、かなり」
「そうか、それはよいことだ。女子は男子の性、というより男根そのものには、興味を持って然るべきだからな」
「は、はあ……」
「へえぇ、花実ちゃん、BLが好きなんだ。ちょっと意外だね?」
「そうかなあ……」

 そう言って花実は、また書棚を見る。
 よく読んでいるレーベルのBL小説も何冊か並んでいる。

「あ、それで文字部っていうのは、その、あの……」

 どう質問してよいのか分からず、言葉に詰まってしまった。

「文字部というのは、文字通り文字を研究する部だ。小説に書かれている文字も研究対象だから、もちろん必要ならBL小説なども読む」
「小説に書かれている文字?」
「そうだ。そこでだ。今年度のテーマが、あれだっ!」

 白夜が、またホワイトボードを指差した。先ほどよりも力強くビシッと。

「男根という文字が出てくる文学作品を読み漁る、ですか?」
「そうだ。頑張れば、国語でビンビン点数が取れるようになるぞ。今日がそのテーマで活動する初日なのだ。お前たちも今から参加してみないか?」

 【参加する】
 【見学だけなので断る】
 【俗人に決めて貰う】

「はい、参加します!」

 花実は、わりと本が好きな方だが、でも国語の成績はそれほどよくない。そのためか、国語でビンビン点数を取れる、という言葉に魅かれてしまったのだ。
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