この学園モノの乙女ゲームは国語が学べる!?

紅灯空呼

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第一章 ドキドキのクラブ活動見学

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「終了だ。答え合わせをしよう」

 ふはっ、と花実は我に返った。
 手に持っていたストップウォッチを長机の上に置いた白夜が、やや呆然としたような顔の花実を見つめながら口を開く。

「正解は次のページにあるぞ」
「はっ、はい」

 隣の俗人が赤ペンを手に持ち黙って問題集のページをめくったので、花実も同じようにする。

 正解
 [1]1~5のどれか一つ
 [2]2
 [3]5
 [4]1
 [5]

「あれ? 白夜先輩、[5]が空白ですよ。脱字かな?」
「わっ、ホントだあ!」
「それが正解だ」

 白夜は涼しげな表情で平然と答えた。

「はい?」
「えっ?」

 俗人と花実は、まずは絶句するしかなかった。

「……ええっと、確か問4は、二つ選ぶ筈だったと思うけど」

 俗人が前のページをめくった。花実もそれに続く。

「問4をよく読め。『次の1~6のうちから二つ選べ。』の箇所だ」

 それを聞いた二人は、すぐさま言われた箇所に目を落とす。本当に落としてしまいそうなくらいの勢いだ。いや、もう既に一つばかり落としてしまったかも。二つしかないのに……。

「あっ!」
「え、え、何ですか? 酢雀君、何か分かったんですか?」
「うん。『二つ』の文字だけ活字書体が違ってるんだ」
「その通り。他は明朝体なのに、その二文字だけは教科書体だ」
「わっ、ホントだ。ちょっと違ってる。凄いなぁ、酢雀君」
「よく気づいたな、俗人!」
「あ、いやあ、僕別に……」

 教科書体は教科書用っぽい名前の活字書体だが、全ての教科書が教科書体だとは限らない。普通、小学校の教科書は教科書体で、中学校からは明朝体だ。

「それだけではないぞ」

 言いながら、白夜が消しゴムを取り出す。
 そして丸くなっている部分を指で押すことで、反対側のカドになっている部分をカバーからはみ出させた。

「さあ、これのカドで『二つ』の文字をこすってみろ」

 花実が消しゴムを受け取り、言われた通りにする。

「あ、消えた」
「本当だ、消えてる!」
「その部分だけ消しゴムでも消せるインクが使われているのだ」
「そうか、消せたのか!」
「へえ~、消せるインクなんだあ!」
「そう、消去法だ。棟大とうだい享大きょうだいレベルを狙う受験生なら、是非身につけるべき解法だぞ。だが並の受験生だと少し難しいかもしれないな。まして一年生にこれを求めるのは酷だろう」
「私、全然分からなかったな~」

 花実は感心している。

「しかしだ。文字部の部員にとっては別の話だぞ。どの大学を狙うかなどといった些細なことにこだわらず、今見せたテクニックくらいは、蜜蜂が8の字ダンスを踊るのと同程度に、日常的に平然と使いこなせるようになって貰いたい」
「はい、頑張ります」
「あ、はい。私も」

 試しに俗人も自分の消しゴムを使って消してみた。

 次の1~6のうちから  選べ。

「こうすると二つ選ばなくてもいいことになるね。[5]はマークしないのが正解なんだ。これは見抜けなかったよ」
「さらにだ。解答用紙にもヒントがあったぞ。注意事項の1を見てみろ。これは問いの文に訂正の必要があることを、暗にほのめかしているのだ」

 1.訂正は消しゴムで綺麗に消してカスを残してはなりません

「なるほどね」
「ふ~ん、そっか」

 謎も解けて、俗人と花実は無事に答え合わせを終えた。俗人は[5]をマークしてしまい不正解だったが、他は全部正解したから40点だ。

「花実は10点か。最初だから点数は気にしなくてもよいぞ。これからビンビン点数を取ることができるようになるのだからな」
「は~い」
「では、せっかくだから問4の解説から見てみよう」

 そう言って白夜が説明を始める。

「1が正解の理由だが、畳語が多く使われているというのは正しい。シクシクとジクジクも畳語だ。それはよいとしても、その使い方はどうだろうか? まず、腹がワクワクという表現には違和感があるな。腸がヒクヒク、舌がシクシク、頬がジクジクなどは、人によっては少し変に思うかもしれない。胸がワクワク、腸がキリキリ、舌がピリピリ、頬がジンジンといった表現なら、ほとんど違和感はないだろう。もちろん人それぞれの感じ方にもよるが、著者はあえてイライラするような表現を使って、そうすることで読者の気を引いてやろうと狙っているのだ。それから、『まじウザウザだ』についてだが、ウザウザというのは、細かいものがたくさんあって鬱陶しい感じのする様子のことだ。短い文章の中に違和感のありそうな畳語が四箇所もあると、そんな感じになるのも無理はない。次に2が不正解の理由だが、問題の文章にある腹・腸・舌・頬くらいでは官能的な雰囲気とまでは言えない。ふにゃららの先がヒクヒクや、へにゃららの襞がジクジクといった表現であれば官能的かもしれない。また、エッチな『こころ』が丸出しについてだが、確かに問1に書かれている『先生の奥さん』から『こころ』を連想するかもしれない。しかし、それは問題の文章には書かれていないので、丸出しではない。しかも『こころ』はエッチでもない」
「先輩、ふにゃららの先とか、へにゃららの襞とかって、どんなのですか?」
「そうだな。成人向けの小説などに書かれていたりするぞ。花実も大人になったら読んでみるとよい。きっと腹がワクワクすることだろう」
「は~い。大人になったら読みまあ~す」

 成人向けの小説って官能小説のことだろうが、成人になっていない白夜が、そんなのを読んでいるのか?

「花実ちゃん。花実ちゃんは、『こころ』を読んだことある?」
「いいえ、それも知らないです。それって有名なんですかあ?」
「あ、うん」

 もちろんだ。『こころ』は、高校現代文のいわゆる定番作品なのである。それから『舞姫』なんかもそうだ。

「そうだな、現代文で習うことになるかもしれないぞ。だが、特に知らなくても問題ないと思う」
「はあい」
「それでは次は、3が不正解の理由についてだ。これは二人とも間違って選択したのだったな?」
「はい、そうです」
「私も3を選んでしまいましたですぅ」

 白夜が説明を続ける。

「3が不正解の理由だが、まず問題の文章が平餡時代の話かどうかは分からない。仮にそうだとしても、あえて、『まじ』『CM』といった語を使用したのかもしれないからな。それに著者が作家として未熟かどうかは、問題の文章とは無関係だぞ。だからこれは正解ではない。そして4が不正解の理由だが、『オッサンを見下している』という部分が言い過ぎなのだ。しかも、著者がオッサンかどうかは問題の文章とは一切関係がない。だからこれも正解にはならない。著者は、もしかして美人の若いお姉さんかもしれないぞ。そして5と6が不正解の理由だが、先生・奥さん・親友K・お嬢さんなどは、問題の文章には書かれていない。もしかすると後で出てくるのかもしれないが、問題の文章からは読み取れないので、正解にはできない。問4の解説は、これで終わりだが、二人が間違えた選択肢の3について、文字部として、さらに掘り下げようではないか」
「はい、そうですね。掘り下げましょう」
「は~い、掘り下げです」
「おっ、もう二時過ぎだな。少し休憩するか?」
「そうですね」
「は~い」

 三人は中庭に出ることにした。各自で飲み物を買う。

 【赤唐辛子&マムシ飲料】
 【黒チンコーヒー】
 【男根エキスウォーター】
 【黒糖餡子のお汁粉】

 飲みながら、しばし花を愛でるのだ。ここでの花はもちろん桜。薄い桃色がときどき風に揺れて、それをぼんやりと眺める。
 白夜が飲んでいる〈赤唐辛子&マムシ飲料〉というのは、辛くて口がヒリヒリしてきそうだ。俗人は〈黒チンコーヒー〉という変なネーミングの缶珈琲だ。
 極めつけは、花実が選んだ〈男根エキスウォーター〉という、味・香りともに、そそられるミネラルウォーターである。だが、それを選択したことで、この乙女ゲームは狂い始める……。
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