この学園モノの乙女ゲームは国語が学べる!?

紅灯空呼

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第二章 男根のエキスウォーターいとビンビンだ♪

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 白夜は、五分も経たないうちに全問解答し終わった。

 解答欄
 問1 男根は正義だ、希望だ、勇気だ。
 問2 「男根の偏差値は高いに限る」は、よく当を得ている。
 問3 年配の男性であり、よい人だ。

 少しして俗人もできた。白夜の解答と似たような内容だ。
 そしてこのとき、なぜか花実が突然泣き出した。

「う、ううぅ、うぅぅぅ」
「あっ、花実ちゃん。どうしたの花実ちゃん!」
「花実どうした。腹でも痛いのか? え、どうした?」
「この問題、花実ちゃんには難し過ぎたのかなあ」

 花実の解答欄の問1と問2は空白のままで、問3だけが途中まで書いてある。

 解答欄
 問1
 問2
 問3 発言したオッサンはとてもよい人だと思います。なのに、

「ひぃ、うぅ、うううぅ~」

 問題集の上に大粒の涙がポタリと落ちて、そしてすぐまたポタリ。

「ほら花実。ハンカチだ」

 白夜が花実に近づいてハンカチを手渡してやった。それは綺麗に折り畳まれた白い絹布で、フローラルの香りが漂った。

「ううぅぅ、うっく」

 布にジワジワと染み渡る涙。軽かった布は少しずつ重みを増してゆく。
 白夜が花実の背中を優しくさすってやっていて、それを俗人が心配そうに見守っている。

「ひっ、ひっ」

 少し落ち着いてきたようだ。

「ご、ごめんなさ……ううぅ、私、私、うっく」
「うんうん。花実ちゃん、いいんだよ」
「そうだ。ゆっくりと話せばよい。待ってやるから」

 少しして、ようやく花実が泣き止んだ。

「もう大丈夫か? 花実」
「はい、ずみばせん。ぐすっ」
「いいんだよ、花実ちゃん」

 俗人からも優しく言って貰い、花実はコクリと頷いた。

「花実はもしかしてオッサンの末路、あいや体の具合が気になったのか?」
「はい、そうです。発言したオッサンはどうなって、しまったのでしゅか」
「う~ん。この文章からそこまでは読み取れないのだが……」
「そうですねえ……あっ、そうだ、出版社に問い合わせてみましょう!」
「それもそうだな。何か分かるかもしれないぞ」
(見ず知らずのオッサンの不幸を悲しんで涙を流す。こんなにも優しい子ならもしかして、いやきっと)

 そう思いながら俗人は携帯電話から、問題集に記載されている番号にかけた。

『ありがとうございます。雨林院うりんいん出版・編集部でございます』
「もしもし。あの、僕は、私立・増鏡高等学校の生徒で、一年四組の酢雀俗人と申す者ですが……」
『はい。本日はお電話どうもありがとうございます』
「あの、突然で恐れ入ります。貴社の出版物『共通テスト対策シリーズ、決定版! 国語でビンビン点数を取る本』について質問があるのですが、よろしいでしょうか?」

        ・

「あ、そうですか。分かりました。どうもありがとうございました」
『今後ともよろしくお願いいたします。それでは失礼いたします』
「はい。失礼いたします」

 通話を終えた俗人が花実たちに微笑みかける。花実たちも笑顔で返す。
 通話内容は全部聞こえていたのだ。オッサンは入院が必要になったものの、退院後はどうにか社会復帰できたとのこと。

「よかったな、花実」
「は~い」

 花実に笑顔が戻った。

「あ、それで、この文章のオッサンが言ってる部分は、古文なんですか?」

 これが普通の子の発言なら、ここは「何でやね~ん!」と返してやるところかもしれないが、花実の場合はマジ発言なのだ。

「花実ちゃん、これは間晒かんさい方面で使われる話し言葉で、方言のようなものだよ」
「花実は、大逆おおさか享都きょうとへは出かけたことがないのか?」
「はい、一度もないで~す」
「じゃあ花実ちゃん、テレビでこんな話し方をしている人を見たことは?」
「それもないで~す」
「アニメのキャラでも見たことはないか?」
「はいぃ、ないんですぅ」

 たまたま標準語しか使われていない番組だけを見てきたのか、あるいは、ほとんどテレビを見ないのかも。
 そんな訳で、俗人と白夜による『花実のための間晒弁ミニ講座』が行われることになった。その締めくくりは、もちろん「ぼけ・突っ込みの仕組み」だ。

「へぇ~。何でやねんの用法って、たくさんあるんだぁ」
「花実ちゃん、あまり無理しなくていいと思うよ。僕だって完璧にはマスターしてないしね」
「は~い」
「そうだぞ。ここに住んでいる限り、それくらいできなくとも日常生活で何ら困りはしない。だが、もし大逆やったら、三分で窒息死するでぇ」
「何でや、ねん?」

 花実が、ためらいながらも、首を傾げて返した。

「あはは、花実ちゃん。うまく突っ込めたね」
「えへへ」

 花実の突っ込み初体験だった。突っ込まれる方は、もちろん未経験だ。

「このページを見てみろ」

 白夜が自分の問題集のページを指差して、花実たちに見せた。

「自由課題ですね」
「そうだ。各自で読んでみようじゃないか」
「は~い」


 自由課題 次のA~Cは、ある和歌の初句である。これらについて、後の問い(問1~4)に答えよ。〔配点は各自で自由に決めてよい〕

 A 夜をこめて
 B 契りきな
 C 夏の夜は

 問1 ある人が言ってたぞ。一首はオレ、もう一首はオレの孫、残り一首はオレの孫の娘の作だ。どうよ、オレんちってマジ凄くね? とな。このある人とは、ずばり誰だ!
 問2 そのある人の言ってる「オレの孫の娘」は何と呼ばれている人か。また、なぜそう呼ぶのかを説明して欲しい。
 問3 Aの和歌では、「函谷関ではどうだか知らないわ。でも逢坂の関では、そんなの許さないわよ!」というような意味が込められている。
 さて、この和歌の内容とも関係のある函谷関で有名な故事成語を答えよ。四字熟語だ。なお、「函谷関」や「逢坂の関」は、いわゆる「関所」のある所だ。普通は許しがないと通れないらしい。
 問4 これら三首全てを収めている超有名な歌集は何だ。

        ・

「さあ、もう活動終了の時間だな」
「そうですね」
「は~い、今日もありがとうございました!」

 三人はそれぞれ帰り支度を始める。

「あれ、酢雀君。今日も教科書買ったんですか?」
「これは弟の分なんだよ」
「酢雀君、弟さんがいるんですか?」
「そうだよ」
(そうかあ、酢雀君はお兄さんだったんだ。だから優しいんだあ)

 花実はそう思った。花実にとっては、お兄さん=優しい兄なのだ。

「でもね、弟は今日こなかったし、昨日の入学式にも出ていないんだ」
「それで俗人が購入してやったのだな」
「はい。辞書以外のものだけは」

 教科書を扱う書店は限られているし、学校から注文して貰うと日数を要するので、資料集や便覧などと一緒に購入しておいたのだ。

「弟さん、具合悪いのですか?」

 花実の表情がまた曇ってしまった。

「ううん、大丈夫だよ。花実ちゃん、心配させてごめん」
「いいえ。じゃあ、あの、その……」

 花実は悪いことを聞いてしまったかなと思った。

「うん。訳があってね。ちょっとね」
「俗人、無理に話さなくてもよいぞ。人それぞれ、いろんな事情があるものだ」
(でもこのままだと、ズルズルと日が過ぎるだけだ。花実ちゃんならきっと、そう確信したんだし)

 自分に言い聞かせた俗人が、おもむろに口を開く。

「……あのね、弟は学校にくるのを不安に思っていてね。それで花実ちゃん。確か花実ちゃんは、一組って言ってたよね」
「はい、そうです」
「弟はね、二組なんだ」
「あ、それじゃあ隣の教室ですね!」

 花実の表情がパッと晴れた。

「うん。あ、それでね、もし花実ちゃんがよければ、迷惑でなかったらでいいんだけど、弟の友だちにね、その、なってやって貰いたいんだ」
「は、はい、もちろんです。友だちになりたいでぇす!」
「本当に!」
「はい。絶対友だちになります。私でよければっ!」

 花実のこの言葉には力がこもっている。

(やっぱり花実ちゃんはいい子だ。思い切って話してよかった)

 俗人の目からは、涙が流れ出ている。

「あ、ありがとう。ありがと……花実ちゃん」

 俗人は袖で顔を拭って、何とか笑顔を作ろうとした。

「おいおい、俗人まで泣くことはないだろ。今日はどうしたのだ?」

 そう言う白夜の目も濡れている。

「ああ、どうしてだか、私まで涙が出てしまったではないか」
「はっ!」

 花実は、先ほど借りた白夜のハンカチを、うっかり自分のポケットに入れてしまっていることに、ようやく気がついた。
 だから反対のポケットに入っている自分のハンカチを出して、白夜に手渡した。

「ああ、すまない。洗ってから返す」
「え、いえいえ。あっすみません。私も、ちゃんと洗って返しますから」

 白夜の涙を見て、花実もまた泣いてしまった。
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