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プロローグ「尻拭き神様」

01. 原稿八枚

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 便所にて手が汚れるのだとすれば、それは尻を拭く瞬間であろう。
 と云って平生、吾輩は何も手で直に汚れを拭っておると云うではない。無論吾輩とて便所紙を使うておった。
 又、手元が狂った、破けて指が突き抜けた、分量を節約し過ぎて滲んでしまった、云々を云うでもない。
 それでも手が汚れると云うは他でもなく、大腸菌なる者の所業による物であると云う事だ。その大腸菌なる者は恐らく顕微鏡写真であろう、その姿が実に醜悪極まりない。姿形もさる事ながら、更に恐ろしいはその病原性に於いてをや。只の腹痛などでは済ませて貰えぬと聞く。

 そこで御出座しになったは尻拭き神様。
 誠に有り難い事に、何とも心地好う洗い流して下さる。
 手を汚さずとも済む許りか、あっはぁ~、もう天にも昇る如き幸いを、この吾輩に与えて下さる……。

 ――ねえ、お爺ちゃん、お爺ちゃんてばっ! 早く代わってよぉ、もおぅ!

 おお又、孫娘に叱られてしまった。まあそれも一興。ふぉふぉふぉ。
 実は、この孫娘の事が可愛くて可愛くて、それはもう尻の穴に入れても痛くない位なのだからな。ふぉふぉふぉ。

 あー、うおっほん。
 さてこの度、知り合いのやっておる出版社から新たに週刊誌が出る事となり、吾輩にもそこへ連載する小説の執筆依頼があった。
 小説家である吾輩は二つ返事でそれを引き受けたと云う次第である。

 何を書くかは既に決しておる。
 当初は孫娘を女主人公にした青春小説を考えておったのだが、初主演の舞台が成人男子向けの破廉恥な週刊誌とあっては、孫娘が余りに不憫と思うた。何でも題材にする主な人物の写真まで掲載するらしいからだ。
 そんじょそこらの娘子と違って、一等可愛い孫娘の写真を凹版印刷で載せれば、それはもう売り上げに多大な貢献をする事は必然であろう。
 だが吾輩としては、それはそれで又、複雑な心境なのである。

 そこでだ。考え抜いた末、登場人物を隣人家族とする事に決めた。
 多人駁論たじんばくろんと題して、様々な年齢・性別・立場の人達の目から見た現代社会の不条理を描く事にしたのだ。数々の社会問題を、他の者には真似できぬ程見事に斬ってやろうて。
 まあそんな堅苦しい話は抜きにするとして、要するに大衆娯楽小説だ。誰でも気楽に読めるであろう。ふぉふぉふぉ。

 実は、吾輩の隣人家族にも、孫娘と同じ十四歳の女子がおる。
 その子も又、十人並みの娘子よりもずっと可愛いし、幼い頃から孫娘と懇意にしてくれておる。その子の目から見た孫娘をも、いずれ描く予定にしておる故、楽しみにしておると好い。
 であるからと云って読者諸兄よ。暮れぐれも尻の反対側を伸ばす事のない様に。孫娘の写真は出さぬから。ふぉふぉふぉ。

 その代わりと云っては何だが、商社の事務員をしておる二十五歳の女性を登場させる心積もりにしておる。無論本人も同意した。
 その子は中中のボインちゃんなのだ。むふぉふぉ。
 ボインちゃん、好きであろう読者諸兄よ。
 ふむ。性欲旺盛な読者諸兄への奉仕精神と云う事だ。まあそう云う吾輩も又、書く事で性的欲求を満たしておるのだがな。

 おっと一つ忘れておった。
 実は孫はもう一人おる。それは男子だが同じく十四歳で、孫娘と先程紹介した隣家の女子と三人で好く遊んでおる様だ。その話なども出てくるであろうて多分なあ。
 では乞う御期待。
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