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一章「便所文庫創刊」

06. ボクの将来

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『ボクの将来』
  六年Z組 谷沢胡麻弥

 ボクは将来は政治家になろうと思います。政治家になったら政治資金をたくさん集めて「SMクラブ」や「すっぽんぽん焼き肉」や「パンチラ料亭」とかいう場所に行ってみたいです。どんな所だろう。きっと人の役に立つ働きがいがある所だと思います。学校に持って行く作文にこんなことを書いていたら、父は言いました。「政治家はやめておけ。ゴマヤには向いていない。政治家はこんなに正直には語らない。ふしょうじがバレて追求されてもシラを切り通すくらいでないとダメなんだぞ。そして最後の最後になってにげ出すか自殺するかだ。それはそれはきびしい世界なんだから」と。
 ボクは政治家になるのは大変なのだなあとつくづく思いました。だからボクはサラリーマンになって、こつこつとおこづかいをためてSMクラブとかに行くようにしようと思います。
 そしてお金がそれなりにたまったら、会社をやめて新しい会社を作りたいです。父がそうしたからです。父はときどきよっぱらって帰ってくることもあるけれど、とてもえらい人だと思います。ボクはそんな父を尊敬しています。きっと父のようなりっぱな社長になってみせます。今はアパートに住んでいますが、ボクが社長になってたくさんかせいで、新築の一戸立てを買います。そうして父と母をずっと大切にしながら、いっしょに楽しく暮らして行こうと思っています。つまりボクの将来は親孝行のためにあるのだと言っても、過言ではありません。それこそがボクの将来なのですから。
       (終わり)


「あははは。いいねえ。そうかゴマヤ君も社長を目指すのか。新築のってあれ、漢字間違ってないかい?」
「ああ一戸のことですね。ちゃんと直させましたよ」
「そうかい……ああそうそう、それでその新築一戸建てなんてのも十分期待できるんじゃないかい?」
「でしょでしょ。それで俺のこと尊敬してくれてるんすよ。ほらここここ、見てくださいよここを。泣けるでしょここ」

 ここここって言って、ワサビ君がまるで鶏のように繰り返しながら頻りに指で突っ突いてくる。ぼくも今読んだから知ってるんだけどね。
 まあよっぽど嬉しいのだろう。ほんとに涙まで流しちゃってるよ。

「ああそうだね。いいねえワサビ君は。それに引き替え、ぼくなんて最近娘があんまり口利いてくれなくてね。なんだか寂しいよ」
「ひっく……あー済みません。ナラオちゃんのことですね。まあ女の子だと、みんなそんなものじゃあないんすか?」

 今の子供は結構難しいんだよね。特に中学生の時期は何かとね。

「でもねえワサビ君。ワラビの妹のキノコちゃんって子が中学生の頃は、そうでもなかったんだよ。もう十年くらい前のことだけど」
「そうすかぁ。それじゃあその子の親父さんが、しっかりされてたんでしょうね」
「えーおいおい君ぃ、それじゃあぼくが父親としてまるで腑甲斐ないみたいじゃないかぁ~」
「あっ、あいえいえ。そんな意味じゃなくて。ほら十年も昔のことなら、世代が違うんすよ世代が。わははは」

 う~ん世代ねえ。まあそうかもね。

「はーい。手羽先おまちどうさまです、三人前でしたね? 今度はまちがってないですよね?」
「うん完璧だね。でも間違って五人前でもよかったんだけど。わははは」
「てへへへ。じゃあ次はまちがえて、もっといっぱい持ってきまーす。それでご注文のほうはもうよろしいでしょうか?」
「そうだね。お刺身もらおうか、鮪の。食べるでしょ先輩も」
「うっ、うんまあ」

 そりゃあもちろん食べたいんだけどね。

「そんじゃ二人前。わさび大盛りで」
「はーい。ありがとございまーす」
「あっあの、この分は間違わなくていいですから」
「はーい。それではぴったし二人前ご用意いたしますぅ。てへへへ」
「わははは。さすが先輩。しっかりしてますねえ」
「そうかい。あは、はははは」

 はぁ~~。これじゃぼく今月もまたすぐにだよ。

       ◇ ◇ ◇

 この前ワサビ君がぼくに「先輩も何か書いてみませんか」と言ってくれたんだ。もし傑作が書けたら、雑誌に載るかもしれないんだって。
 ぼくは小説を読むのは好きだけど、自分で書くのは無理だと思う。だから小論文と言うか随筆のようなものを書くことに決めたんだ。
 これでもぼくが卒論で書いた『鮪の市場卸価格変動と居酒屋チェーン店舗数変動との関連性についての考察』は、担当教官に「おもしろいねえ」と誉めてもらったんだから。
 そうして二日かけて書き上げたんだ。出来映えはともかく、今のぼくには、やり遂げた感があるんだよ。それで、さっそくワサビ君に読んでもらうことにした。
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