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八章「ワラビでございまーす」
34. アツオさん
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「ただいまぁー」
あらアツオさんだわ。
――どたどたどたどたっ
「お帰りなさーい。アツオさ~ん。ぬれなかった?」
「おいおい何も走ってこなくてもいいんだよお。それと雨はとっくにやんでるよ」
休日にも出勤だなんて寂しかったのよあたし。だからつい走っちゃうの。
それでももどかしいくらいなの。羽があったら、ららららぁーって飛んで出迎えたいくらいなの。
「ああんアツオさん。0秒でも早くあなたの顔が見たかったのよ。そしてあたしの瞳を見て欲しかったの」
「あははは。ありがとワラビ」
「ところであなた、その袋は?」
「ああこれかい。ナラオちゃんにね、似合いそうなワンピース見つけてね」
あらあらアツオさんたら。またナラオのご機嫌取りね。
ここ最近は娘のナラオに多いのよ。あたしには少ないのにってあーいけないいけない笑顔笑顔。てへ。
「ねえどんなの? 見せて見せて」
「おいおい慌てなくてもワンピースは逃げないよ」
「あらあなた。最近のワンピースは羽があるのよ。天使のようにね。ららぁ、ら・ら・ら・ららららぁーってすぐに飛んで行っちゃうのよぉ」
「そんな訳ないだろう(う~ん今日はご機嫌だな。どうしたんだろう?)」
あたしたちの愛の部屋に行って、さっそくワンピースを見せてもらったわ。ええええ見たのよ。ピンクだし。フリルもついててとってもかわいいわあ。
「ねえねえアツオさん。これだったらあたしでも似合わないかしら?」
「えっ……あ、どうだろう。サイズが合わないんじゃないかな(さすがに無理だろう。色も。そして何よりフリルと葉っぱ模様がね)」
「そうね。胸まわりだけがねえ。残念だわ」
今度同じのであたしに合うサイズを探してみようかしら。母娘でペアルックなんてのもいいわよねぇ。
「それでナラオちゃんはいないのかい?」
「落花傘先生のところよ。松男君・竹子ちゃんと一緒に小説の取材を受けてるの。でもたぶんもうすぐ帰ってくるわ」
「へえそうなのかぁ」
ナラオは学校でアニメ研究部に入ったのよ。
松男君・竹子ちゃんと一緒に活動してるの。日曜にやってるあのアニメはどうして長続きしてるのかについて研究してるらしいわ。
そんなのわかりきってるのにね。おもしろいからよ。おもしろいことがすべてよ。でもやっぱり決め手は視聴率なのかしら?
「ただいま~」
「あらキノコだわ。ちゃんとひき肉買ってきてくれたかしら」
「ひき肉って、ああ夕飯の材料ね。今夜はなんだい?」
「チャーハン」
「えっ……あそう(昼に食べちゃったよ。でも黙っておこう)」
あらアツオさんお昼チャーハンだったのかしら? 今あたし見たわ。一瞬の表情の変化。結婚して十五年ですもの見逃さないわ。ええええ見逃すものですか。
「あなた。もしかしてお昼チャーハンだった?」
「い、いいや違うよ(嘘じゃない。ぼくが昼に食べたのは焼きめしだ。だからこれは嘘じゃないんだ)」
だとするとそうだわ。さっきの表情の変化は油ものを気にしたんだわ。きっとそうよ。ええええそうよそうよ、そのはずよ。
「よかった。でもあなたお昼天ぷら定食だったんでしょ。ごめんなさいね油ものが続いてしまって」
「いやいや大丈夫だよ。天ぷら定食は天ぷら定食でも『ぶっとびあっさり天ぷら定食』だったんだあ。何しろ油を一滴たりとも使わない天ぷらだったんだから」
「あらそんな天ぷらあるのかしら」
「あ、あるんだよそれが……ふ、不思議だねえ。あは、はははは」
きっと嘘ね。でもそれは愛の嘘。あたしを傷付けないように――アツオさんってばなんて優しいのかしら。
「そうだったのね。あたしも『ぶっちぎりあっさり天ぷら定食』を一度食べに行ってみようかしら」
「あ、いやいや。今日までなんだ。限定だったんだ(あと『ぶっちぎり』じゃなくて『ぶっとび』だしってあーそんなのどうだっていい。まずいぞまずいぞ。もう少しましな嘘を考えるべきだった)」
まずいわまずいわ。アツオさん慌ててる。せっかくあたしのために嘘ついてくれたのに、あたしってばよけいなこと言っちゃったわあ。
「ねえさっきから二人でなに心理戦てゆうか、バカップル漫才やってんの。そんなことよりもワラビお姉ちゃん夕飯の支度でしょ。すぐ始めるわよ。それとアツオお兄さんも着替えて落ちついたら?」
あっ、キノコにあたしの心理の一部始終を読まれてんだわ。
「うっ(キノコちゃんに一部始終ぼくの心理を読まれていたみたいだ)」
このあと、あたしはキノコと一緒にチャーハンを作ろうとしたんだけど、油が切れててあたしが走って買いに行ったの。てへぺろ。
あらアツオさんだわ。
――どたどたどたどたっ
「お帰りなさーい。アツオさ~ん。ぬれなかった?」
「おいおい何も走ってこなくてもいいんだよお。それと雨はとっくにやんでるよ」
休日にも出勤だなんて寂しかったのよあたし。だからつい走っちゃうの。
それでももどかしいくらいなの。羽があったら、ららららぁーって飛んで出迎えたいくらいなの。
「ああんアツオさん。0秒でも早くあなたの顔が見たかったのよ。そしてあたしの瞳を見て欲しかったの」
「あははは。ありがとワラビ」
「ところであなた、その袋は?」
「ああこれかい。ナラオちゃんにね、似合いそうなワンピース見つけてね」
あらあらアツオさんたら。またナラオのご機嫌取りね。
ここ最近は娘のナラオに多いのよ。あたしには少ないのにってあーいけないいけない笑顔笑顔。てへ。
「ねえどんなの? 見せて見せて」
「おいおい慌てなくてもワンピースは逃げないよ」
「あらあなた。最近のワンピースは羽があるのよ。天使のようにね。ららぁ、ら・ら・ら・ららららぁーってすぐに飛んで行っちゃうのよぉ」
「そんな訳ないだろう(う~ん今日はご機嫌だな。どうしたんだろう?)」
あたしたちの愛の部屋に行って、さっそくワンピースを見せてもらったわ。ええええ見たのよ。ピンクだし。フリルもついててとってもかわいいわあ。
「ねえねえアツオさん。これだったらあたしでも似合わないかしら?」
「えっ……あ、どうだろう。サイズが合わないんじゃないかな(さすがに無理だろう。色も。そして何よりフリルと葉っぱ模様がね)」
「そうね。胸まわりだけがねえ。残念だわ」
今度同じのであたしに合うサイズを探してみようかしら。母娘でペアルックなんてのもいいわよねぇ。
「それでナラオちゃんはいないのかい?」
「落花傘先生のところよ。松男君・竹子ちゃんと一緒に小説の取材を受けてるの。でもたぶんもうすぐ帰ってくるわ」
「へえそうなのかぁ」
ナラオは学校でアニメ研究部に入ったのよ。
松男君・竹子ちゃんと一緒に活動してるの。日曜にやってるあのアニメはどうして長続きしてるのかについて研究してるらしいわ。
そんなのわかりきってるのにね。おもしろいからよ。おもしろいことがすべてよ。でもやっぱり決め手は視聴率なのかしら?
「ただいま~」
「あらキノコだわ。ちゃんとひき肉買ってきてくれたかしら」
「ひき肉って、ああ夕飯の材料ね。今夜はなんだい?」
「チャーハン」
「えっ……あそう(昼に食べちゃったよ。でも黙っておこう)」
あらアツオさんお昼チャーハンだったのかしら? 今あたし見たわ。一瞬の表情の変化。結婚して十五年ですもの見逃さないわ。ええええ見逃すものですか。
「あなた。もしかしてお昼チャーハンだった?」
「い、いいや違うよ(嘘じゃない。ぼくが昼に食べたのは焼きめしだ。だからこれは嘘じゃないんだ)」
だとするとそうだわ。さっきの表情の変化は油ものを気にしたんだわ。きっとそうよ。ええええそうよそうよ、そのはずよ。
「よかった。でもあなたお昼天ぷら定食だったんでしょ。ごめんなさいね油ものが続いてしまって」
「いやいや大丈夫だよ。天ぷら定食は天ぷら定食でも『ぶっとびあっさり天ぷら定食』だったんだあ。何しろ油を一滴たりとも使わない天ぷらだったんだから」
「あらそんな天ぷらあるのかしら」
「あ、あるんだよそれが……ふ、不思議だねえ。あは、はははは」
きっと嘘ね。でもそれは愛の嘘。あたしを傷付けないように――アツオさんってばなんて優しいのかしら。
「そうだったのね。あたしも『ぶっちぎりあっさり天ぷら定食』を一度食べに行ってみようかしら」
「あ、いやいや。今日までなんだ。限定だったんだ(あと『ぶっちぎり』じゃなくて『ぶっとび』だしってあーそんなのどうだっていい。まずいぞまずいぞ。もう少しましな嘘を考えるべきだった)」
まずいわまずいわ。アツオさん慌ててる。せっかくあたしのために嘘ついてくれたのに、あたしってばよけいなこと言っちゃったわあ。
「ねえさっきから二人でなに心理戦てゆうか、バカップル漫才やってんの。そんなことよりもワラビお姉ちゃん夕飯の支度でしょ。すぐ始めるわよ。それとアツオお兄さんも着替えて落ちついたら?」
あっ、キノコにあたしの心理の一部始終を読まれてんだわ。
「うっ(キノコちゃんに一部始終ぼくの心理を読まれていたみたいだ)」
このあと、あたしはキノコと一緒にチャーハンを作ろうとしたんだけど、油が切れててあたしが走って買いに行ったの。てへぺろ。
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