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2転「追懐・落花傘先生」
57. 出会い
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ばん・おは・こんちはー。どうもぉ谷沢山葵です。むっちゃ寒いっすねぇ。まあ二月ですしねえ。でも俺、一体何枚着てんだ。
一枚、二枚、三枚、おい今何時だ?
え二十六時だって? だからもう寝ろって?
あいや、もうちょっとだけな。えーと、それから二十七、二十八、二十九……げげげえっ、四十三枚も着てたよぉ。道理で腹出っ張ってるはずだぁ。ではらら~。
えっへん、冗談は置いといてと。
先月、落花傘先生がお亡くなりになって、俺まだ信じられないんだけど、もうあのユニークな先生とすったもんだする日々は二度と帰らないんだなあって、つくづく寂しいです。
俺って、親父とはずっとうまく行ってなかったから、親父代わりって訳じゃないけど、先生みたいな親父だったら、結構楽しい家族だったんじゃないかって思ったりしてたよ。
そんな落花傘先生と俺との出会いは、俺が就職した年の夏、七月二十四日だった。この日に全国のほとんどでアナログ放送が終了したんだっけか。それでもしばらくはケーブルテレビ局が変換サービスやってくれて、アナログテレビがまだまだ使えたけどな。
『初めまして、棘川書店の谷沢山葵です』
『ふむ。吾輩は落花傘飛高だ。学生時代は、鳶鷹と云う筆名で書いておった。知っておるか?』
『いいえ申し訳ありません。存じません』
『であろうな。ふぉふぉふぉ』
『勉強不足でした。今後精進します』
『好い好い。処でお前は、ボインちゃんか、それともおっぱいぺちゃん娘か。正直に云え』
『は?』
『どちらが好みだ。やはりボインちゃんなのか?』
『あーはい、まあ、どちらかと言いいますと、ボインちゃんかと……』
『ふむ。吾輩は絶対おっぱいぺちゃん娘だ。これだけ覚えておけ』
『は、はあ……』
今でもはっきり思いだせるよ。初対面のあの会話。奇抜だったもんなあ。
で、俺のひい爺さんの話になったんだよな。
『何故出版社に勤めておる?』
『え、あ、その俺、学生の頃は結構文学が好きでしたので……まあ曾祖父が小説家だったこともありまして』
『はて、曾祖父が小説家と。タニサワ……よもや谷沢準一級先生の曾孫ではあるまいな。あいやいやそんな事は……』
『実は俺、その谷沢準一級の曾孫なんです』
『何だと、お前何故今までそれを隠しておった!』
『いえいえ隠すなんてそんなぁ』
『隠したではないか。棘川書店などどうでも好いのだ。小説家・谷沢準一級の曾孫の谷沢山葵だと名乗るべきであろう』
『えっ、あ、そう……なのですか?』
『そうに決まっておるではないか。谷沢先生はそれ程立派な小説家だ。吾輩が最も尊敬する変態作家先生様なのだ』
『はあ……』
わははは。あれは傑作だったなあ。俺のひい爺さんのことを変態作家先生様だもんな。まあ確かに『魔巫女の足裏ぺろん』とか言う変態っぽい作品もあったりするけどね。
『それでお前どんな話をした? 書簡など残ってはおらぬのか? え、あったらすぐ持ってこい』
『あいえ、俺が生まれるずっと以前に亡くなってますので。書簡とかもとっくに整理されてしまってるでしょうし』
『おおそうであった。もう随分になるなあ。そろそろ著作権消滅だな……だが残念であった。車に引き殺されなさってなあ。吾輩がまだ小学生の頃だ』
『はい。ひき逃げだったそうですね』
『ふむ。そうだ。それで実はなあ、吾輩は谷沢先生の後輩なのだ。その事故から十年後の同じ日に、吾輩は谷沢先生の真似をして大学を中退した』
『はあ、そうですかあ』
落花傘先生が大学を中退されたと言う話は上司からあらかじめ教わっていた。でも退学の理由は、授業料が払えなかったからだそうだ。もちろん俺はそんなこと口には出さなかったけどね。
一枚、二枚、三枚、おい今何時だ?
え二十六時だって? だからもう寝ろって?
あいや、もうちょっとだけな。えーと、それから二十七、二十八、二十九……げげげえっ、四十三枚も着てたよぉ。道理で腹出っ張ってるはずだぁ。ではらら~。
えっへん、冗談は置いといてと。
先月、落花傘先生がお亡くなりになって、俺まだ信じられないんだけど、もうあのユニークな先生とすったもんだする日々は二度と帰らないんだなあって、つくづく寂しいです。
俺って、親父とはずっとうまく行ってなかったから、親父代わりって訳じゃないけど、先生みたいな親父だったら、結構楽しい家族だったんじゃないかって思ったりしてたよ。
そんな落花傘先生と俺との出会いは、俺が就職した年の夏、七月二十四日だった。この日に全国のほとんどでアナログ放送が終了したんだっけか。それでもしばらくはケーブルテレビ局が変換サービスやってくれて、アナログテレビがまだまだ使えたけどな。
『初めまして、棘川書店の谷沢山葵です』
『ふむ。吾輩は落花傘飛高だ。学生時代は、鳶鷹と云う筆名で書いておった。知っておるか?』
『いいえ申し訳ありません。存じません』
『であろうな。ふぉふぉふぉ』
『勉強不足でした。今後精進します』
『好い好い。処でお前は、ボインちゃんか、それともおっぱいぺちゃん娘か。正直に云え』
『は?』
『どちらが好みだ。やはりボインちゃんなのか?』
『あーはい、まあ、どちらかと言いいますと、ボインちゃんかと……』
『ふむ。吾輩は絶対おっぱいぺちゃん娘だ。これだけ覚えておけ』
『は、はあ……』
今でもはっきり思いだせるよ。初対面のあの会話。奇抜だったもんなあ。
で、俺のひい爺さんの話になったんだよな。
『何故出版社に勤めておる?』
『え、あ、その俺、学生の頃は結構文学が好きでしたので……まあ曾祖父が小説家だったこともありまして』
『はて、曾祖父が小説家と。タニサワ……よもや谷沢準一級先生の曾孫ではあるまいな。あいやいやそんな事は……』
『実は俺、その谷沢準一級の曾孫なんです』
『何だと、お前何故今までそれを隠しておった!』
『いえいえ隠すなんてそんなぁ』
『隠したではないか。棘川書店などどうでも好いのだ。小説家・谷沢準一級の曾孫の谷沢山葵だと名乗るべきであろう』
『えっ、あ、そう……なのですか?』
『そうに決まっておるではないか。谷沢先生はそれ程立派な小説家だ。吾輩が最も尊敬する変態作家先生様なのだ』
『はあ……』
わははは。あれは傑作だったなあ。俺のひい爺さんのことを変態作家先生様だもんな。まあ確かに『魔巫女の足裏ぺろん』とか言う変態っぽい作品もあったりするけどね。
『それでお前どんな話をした? 書簡など残ってはおらぬのか? え、あったらすぐ持ってこい』
『あいえ、俺が生まれるずっと以前に亡くなってますので。書簡とかもとっくに整理されてしまってるでしょうし』
『おおそうであった。もう随分になるなあ。そろそろ著作権消滅だな……だが残念であった。車に引き殺されなさってなあ。吾輩がまだ小学生の頃だ』
『はい。ひき逃げだったそうですね』
『ふむ。そうだ。それで実はなあ、吾輩は谷沢先生の後輩なのだ。その事故から十年後の同じ日に、吾輩は谷沢先生の真似をして大学を中退した』
『はあ、そうですかあ』
落花傘先生が大学を中退されたと言う話は上司からあらかじめ教わっていた。でも退学の理由は、授業料が払えなかったからだそうだ。もちろん俺はそんなこと口には出さなかったけどね。
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