恋人はパワーショベルの達人

紅灯空呼

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プロローグ

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 それはおよそ24時間前のこと。すべてのきっかけはトンコから始まった。

『久しぶりだね正子。寒いけど元気してた?』
「うん、あけおめ! トンコもアタシも今年こそ、ホントいいことありますように~」
『そうだったらいいよね』

 まあトンコの幸運はともかくとして、アタシにとっては今年こそホントいいことあるかも。なぁ~んて、優先的に思うことにしておく。

「ぷぷ、今さらそれかよ。もう2月だし、鬼が笑うし、はははのはぁ~」

 なんか、横からバカっぽい笑い声が割り込んできてる。ムカつくわ!

「トンコごめん、しばらくこのままでお待ちください。1発蹴り入れるから」
『えっ、蹴り?』
「うんまあ、こっちのこと」

 そういってから保留音をスタート。タララララァ~ン♪ とか、まあ実際にはこんなチンプなメロディーなんて使ってないけどね。
 で、次はこいつのお仕置きタイムをスタート。

「アンタうっさいよ!! それに、今アンタのいった『鬼が笑う』という表現の使い方なんだけど、それすこぶる失礼なのよ! なんでかわかる? さあさあ、4秒で答えなさい!」
「へ……?」

 今日は2月3日、そう節分よね。それで話題に鬼を持ち出してくるのは、ありきたりではあるけれど、定番だからまあよしとしよう、許す。でも、アンタは意味をちゃんとわかってない。
 どうなるかわからないような、ずう~っと先のことをいった場合、例えば「来年のことをいうと鬼が笑う」など、これはよく使われてるよね? でも今の状況には該当しない。
 あともう1つ、実現性のないことをいった場合にも使うのよ。アタシがさっき「今年はいいことありますように」という意味のお願いを込めていった言葉に対して「鬼が笑う」ということは、つまり「ありえない、そんなのムリムリ」といってることになるんだよ。だからすこぶる失礼なんだわ。超ムカついたんだわ!
 ということで、4秒経過。

「ぶっぶぶぶぅ~、はぁいタイムアップ。そんでもってアンタ不合格! 今年もまた落ちちゃった~、残念無念のレモネード! ああすっぱい」
「くっ、落ちちゃったとか、いうなよ……」
「いうわよ、千回でも万回でもいうわよ、いってやるわよ! ていうか、それよりもアンタ見てわかんない? 解説必要? 今のアタシ、スマホ片手に優雅に通話中なの、スピーキンナウ! この意味わかるだろうかカッコ反語、いやわかるまい。英語も国語も点数たりてなぁ~い。きゃはははぁ~」
「くっ……、いや、通話中なのは、見ないでもわかってたし」
「ああそうなのね。だったら静かにしててよ! はた迷惑でしょうがぁ~」
「おいおい、それこっちのセリフだ。つうより今すぐこっから出てけ、バカ女!」

 はぁ? このアタクシに向かって出てけですって? しかもバカ女だと?
 ああまったくワガママで無礼千万な男だこと。せっかく旧友のトンコが半年ぶりに連絡してきてくれてエンジョイナウ! な気分だったのに空気読まないで、あろうことか女子会話にノコノコと割り込んでくるんだから。まったくスケベエだわねえ。

「ねえアンタ、それ逆ギレとかいうやつ? え、アンタなに様のつもり?」
「こ、ここではオレは、一国一城の殿様のつもりだぁ、文句あっか!」

 ええ、文句あるわよクソ偉そうなのよ。一丁前にもこのアタクシに刃向うようになってくれちゃって! アンタ出世したつもりか、え?
 ああでも、こういう場合にこそ大人の対応が必要。決して蹴りなんて入れたりしないから。日本国憲法前文的にも家庭内恒久平和的にも暴力絶対反対だし、それよりもなによりもアタシの足にズキンと響いちゃうから。痛いのヤダもんね~。
 だからアタシはこう返すことにする。

「どぉーどぉーどぉー、まあまあ落ち着きなさいってば」
「オレは馬かカッコ反語、いや違う」
「あはは、アンタのくせして反語わかってんのね。でもアタシのマネしないでくれるかしら?」
「黙れ! つうより早く出てけ!!」
「あな恐ろしや。仰せらるれば、出で奉りますことよ。おっほほほぉ~」
「はぁ?」

 これはわかんないかなあ、「あらあら怖いわ。お吠えになるから、ここから出てって差しあげますわよ。きゃはははぁ~」という意味よ。バカ殿様。

 てことで、こないだの大学入学共通テストでボーダーライン届いてないのに「第1志望は譲らない!」とかなんとかいって、がむしゃらに国立2次へと向かい完全敗北まっしぐらの19歳受験生にしてアタシの愚弟、でたぶん童貞、このマサオちゃんの神聖なるお勉強部屋から、気を利かせて100歩譲って、しかもあえて低姿勢で出てってあげることにした。これぞ神対応もしくは仏対応、ホント弥勒菩薩みたいに優しい姉様だわ、アタシって。
 で、廊下へ出て力いっぱいにドア、バァァーン! とね。へっへへへ~。

「おいこらっ、静かに閉めろ!」
「あっあぁ~、誰かがなんだかいってるみたい、けれどアタクシ聞こえませ~ん♪ もうこれおしまい、おバカのお相手してらんなぁ~い、あっあぁ~、かっぽれかっぽれ♪」

 さあくるわよ、間違いなく100%、絶対に。
 すると、ダァァーン! と、ほらやっぱりきたねドアの内側、ど真ん中を直撃。なかなかコントロールいいぞ。投げやがったのは、さっき開いてあった古文の問題集だ。
 しっかし、英・国ともに苦手な典型的理系野郎のくせして、なんでまた2次まで古文・漢文あるとこ受けるのかねえ、いやはや欲張りだわ~。
 アンタみたいに本を大切に扱わないバカ者は天罰で今年もダメだね。あははは。
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