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荒れ果てた庭ね…。
改めて立ち入った別邸の庭は、雑草が蔓延り、今にも倒れそうな老木まで放置されていた。きっと、私用の庭だから、手入れされていないのだろう。
私は、やるせなさを大きな溜息と一緒に吐き出した。
その時、「ニャー」と、か細い鳴き声が聞こえた。誰かに助けを求めるような弱々しい声に、私の胸が締め付けられる。それが、今の惨めな自分と重なってしまったのだ。私は、汚れることも厭わず、鬱蒼とした草を掻き分けて、声の主を探した。
すると、背丈の長い雑草が折り重なった場所に、薄汚れた白猫が丸まって寝ていた。
その大きなお腹を見て、私は固まる。
「貴女、お腹に赤ちゃんがいるの!?」
私は、慌てて侍女達を呼んだ。
それから母猫は、半日程かけて三匹の子猫を生み落とした。黒、白、茶トラと、見事に不揃いの毛色で誕生した子猫兄妹は、母猫の乳を一心不乱に飲んでいる。
「かっ、可愛い!」
子猫がこんなに可愛いなんて初めて知った。そして、母親がどれだけ強い存在かということも。
無事に生まれてよかったと、肩を撫で下ろした私は、もう一度、母猫に視線を戻す。母猫は、生まれたばかりの我が子を愛おしそうに何度も舐めていた。
その姿を見ながら、私は、先程交わした執事との遣り取りを思い出していた。考えただけでも、腑が煮え繰り返る程の怒りと共に。
陣痛に苦しむ母猫を別邸に連れ帰った時、私は、すぐさま本邸にいる執事を呼び出して、医師を連れてくるよう頼んだ。けれど、帰ってきた答えは否。侯爵家の専属医は、侯爵家の者しか診ないからと。執事は、はっきりと私が医師を使うことを拒否したのだ。大方、私が仮病を使ってリセナイア様の気を引こうとしているとでも思ったのだろう。
頑なな執事の説得を諦めた私は、仕方なく、本邸のベテラン侍女を貸すよう命じた。けれど、いつまで経っても彼女達が、私の下に来ることはなかった。
つまり、この時、私は完全にシグネル侯爵家から見捨てられたのだ。
だから、私は決意した。
薄汚れた寝床、手入れの行き届いていない庭、美味しくもない最低限の食事、主従関係を理解出来ない使用人、そんなシグネル家の不誠実さに見切りをつけて、みんなが安心して暮らせる場所を作ろうと。
私は居住まいを改めて、部屋に集まっている専属の侍女達に向き直った。
「この子達のためにも、もっと環境の良い場所へ移ろうと思うの。みんな、付いて来てくれる?」
リセナイア様との契約は、シグネル侯爵家に害を及ぼさなければいいのだから、私がここを出てもかまわないはず。
幸いなことに、私には、学生時代にとった数々の特許により、今も尚、増え続ける莫大な財産がある。買おうと思えば、城ぐらい余裕で買えるのだ。
「「もちろんです、お嬢様!」」
「ありがとう。では、早速、私達の新たな城を探すわよ!」
侍女達の賛同を得た私は、登ってきた朝日に、渾身の決意を叫んだ。
それから、割とすぐに、私達の新たな住処は見つかった。帝都の貴族街に建つ邸が、タイミング良く売り出されたのだ。没落した伯爵家の持ち物だったその邸は、パーティー好きの元持ち主の趣味で、大きなホールと広い庭があった。
私は、ここを金に物を言わせ、五ヶ月という異例の速さで、猫達が住みやすい邸へと変えた。
そして、結婚してから半年、私は意気揚々と、シグネル侯爵領を後にした。もちろん、誰にも見送られることはなかったけど。
その間、帝都と領地を行ったり来たりしているというリセナイア様とは、一度も会っていない。最後に手紙だけは、執事に託したけど、結局、その返事が来ることはなかった。
改めて立ち入った別邸の庭は、雑草が蔓延り、今にも倒れそうな老木まで放置されていた。きっと、私用の庭だから、手入れされていないのだろう。
私は、やるせなさを大きな溜息と一緒に吐き出した。
その時、「ニャー」と、か細い鳴き声が聞こえた。誰かに助けを求めるような弱々しい声に、私の胸が締め付けられる。それが、今の惨めな自分と重なってしまったのだ。私は、汚れることも厭わず、鬱蒼とした草を掻き分けて、声の主を探した。
すると、背丈の長い雑草が折り重なった場所に、薄汚れた白猫が丸まって寝ていた。
その大きなお腹を見て、私は固まる。
「貴女、お腹に赤ちゃんがいるの!?」
私は、慌てて侍女達を呼んだ。
それから母猫は、半日程かけて三匹の子猫を生み落とした。黒、白、茶トラと、見事に不揃いの毛色で誕生した子猫兄妹は、母猫の乳を一心不乱に飲んでいる。
「かっ、可愛い!」
子猫がこんなに可愛いなんて初めて知った。そして、母親がどれだけ強い存在かということも。
無事に生まれてよかったと、肩を撫で下ろした私は、もう一度、母猫に視線を戻す。母猫は、生まれたばかりの我が子を愛おしそうに何度も舐めていた。
その姿を見ながら、私は、先程交わした執事との遣り取りを思い出していた。考えただけでも、腑が煮え繰り返る程の怒りと共に。
陣痛に苦しむ母猫を別邸に連れ帰った時、私は、すぐさま本邸にいる執事を呼び出して、医師を連れてくるよう頼んだ。けれど、帰ってきた答えは否。侯爵家の専属医は、侯爵家の者しか診ないからと。執事は、はっきりと私が医師を使うことを拒否したのだ。大方、私が仮病を使ってリセナイア様の気を引こうとしているとでも思ったのだろう。
頑なな執事の説得を諦めた私は、仕方なく、本邸のベテラン侍女を貸すよう命じた。けれど、いつまで経っても彼女達が、私の下に来ることはなかった。
つまり、この時、私は完全にシグネル侯爵家から見捨てられたのだ。
だから、私は決意した。
薄汚れた寝床、手入れの行き届いていない庭、美味しくもない最低限の食事、主従関係を理解出来ない使用人、そんなシグネル家の不誠実さに見切りをつけて、みんなが安心して暮らせる場所を作ろうと。
私は居住まいを改めて、部屋に集まっている専属の侍女達に向き直った。
「この子達のためにも、もっと環境の良い場所へ移ろうと思うの。みんな、付いて来てくれる?」
リセナイア様との契約は、シグネル侯爵家に害を及ぼさなければいいのだから、私がここを出てもかまわないはず。
幸いなことに、私には、学生時代にとった数々の特許により、今も尚、増え続ける莫大な財産がある。買おうと思えば、城ぐらい余裕で買えるのだ。
「「もちろんです、お嬢様!」」
「ありがとう。では、早速、私達の新たな城を探すわよ!」
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それから、割とすぐに、私達の新たな住処は見つかった。帝都の貴族街に建つ邸が、タイミング良く売り出されたのだ。没落した伯爵家の持ち物だったその邸は、パーティー好きの元持ち主の趣味で、大きなホールと広い庭があった。
私は、ここを金に物を言わせ、五ヶ月という異例の速さで、猫達が住みやすい邸へと変えた。
そして、結婚してから半年、私は意気揚々と、シグネル侯爵領を後にした。もちろん、誰にも見送られることはなかったけど。
その間、帝都と領地を行ったり来たりしているというリセナイア様とは、一度も会っていない。最後に手紙だけは、執事に託したけど、結局、その返事が来ることはなかった。
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