4 / 56
1-4
しおりを挟む
暖かな日差しが入る邸のニ階、猫専用の中庭を見下ろす執務室で、私が新聞を読んでいると、キャルこと、森で出会った母猫が、喉を鳴らして膝の上に飛び乗ってきた。私は、その貴重な機会を堪能すべく、キャルの美しい毛並みに手を這わせた。
あんなに薄汚れていた白猫のキャルは、今や、誰もが認める美猫だ。世界一の美人さんと言っても過言ではない。
そんなキャルは、長い尻尾を振って、みんなに愛想を振り撒いている。でも、気安く触ると強烈な猫パンチが飛んでくるから注意が必要だ。ちなみにキャルは愛称で、キャルリーンが本名。この邸にいる者は、敬意を込めて、キャルリーン夫人と呼んでいる。
キャルの子供達は、長男黒猫のネルゼリア、長女白猫のミルネリア、末っ子茶トラのアルトリアと名付けた。愛称は、ネル、ミル、アルだ。みんな新しい邸で、仲良く自由に暮らしている。自由過ぎて、呼んでも中々来てくれないから、邸の中を探すのが大変だったりするけど。
「今日もキャルの毛並みは素敵ね!やーん、フワフワ!はあ、幸せだわ…」
「フフ、お嬢様、お顔がニヤけてますよ」
「だって、みんな可愛いんだもの」
膝にはキャル、足元には子猫達。小さな牙で、足首を齧られているけれど、私からしたら、それもご褒美だ。
私は、キャルの毛並みを撫でながら、せっせとお茶の準備を始めた侍女達に、話しかけた。
「私ね、この子達のために、事業を始めようと思うの。ほら、この国って、動物の医療が遅れているでしょう?だから、隣国から教師を招いて、獣医師の学校を作ろうかなって。でも、そうすると、動物病院も建てなくちゃいけないわね。動物専用のご飯やブラシ、薬も開発したいし…。せっかくだから、動物好きが集まれるサロンも開きたいわ!」
「それは、いいですね!」
「なら善は急げね!早速、色々と始めましょう!」
そうと決めたら、私の行動は早い。
私は、自分の持てる頭脳を駆使して、まだ世には存在してない動物専用の製品を作り始めた。そして、それを、新たに設立した商会で販売することにしたのだ。その商会の名前は、キャネマル商会。我が家の可愛い猫達の名前を借りて命名した。
帝都の商業区のメイン通りに店舗を構えたキャネマル商会は、取り扱う商品の物珍しさから、すぐに話題になった。けれど、悪評のある私のせいで、初めの頃の売上げは、あまり良くなかった。私はそれを打開するため、試供品を至る所に配ることにした。自分が作った商品に絶対の自信があった私は、知ってもらえさえすれば、上手くいくと確信していたからだ。結果、面白い程、商品の口コミが広がっていくことになる。
そのタイミングで、私は新商品を餌に、動物愛好家専用サロンを開いた。すると、こちらも思惑通り、新しい物好きの貴婦人達が集った。
そうして始まった動物愛好家サロンは、今や、猫好き、犬好き、兎好き、爬虫類好きが競って集まる人気サロンになっている。
それからは、簡単だった。夫人達が、どんどん商品を広めていってくれたのだ。
私は、新たに得た資金と人脈を使って、商品開発にのめり込んでいった。
そんな中、やっと完成した動物用風邪薬が、思いの外万能であることが判明する。なんと、家畜や軍馬などに流行る病も立ち所に治してしまったのだ。
それに押される形で、獣医師にも脚光が当たり、商会が運営する国内唯一の獣医師学校へ入学希望者が激増することになる。
そこで私は、以前から考えていた奨学金制度を導入することにした。お金がなくても、優秀であれば、誰でも入学出来るようにしたのだ。卒業後三年、指定の動物病院に勤務するという条件で。
そうこうしている内に、五年という月日は、あっという間に過ぎていく。資金、人脈、人材を囲い込んだキャネマル商会は、いつしか大商会と言われるほどの規模に成長していた。
あんなに薄汚れていた白猫のキャルは、今や、誰もが認める美猫だ。世界一の美人さんと言っても過言ではない。
そんなキャルは、長い尻尾を振って、みんなに愛想を振り撒いている。でも、気安く触ると強烈な猫パンチが飛んでくるから注意が必要だ。ちなみにキャルは愛称で、キャルリーンが本名。この邸にいる者は、敬意を込めて、キャルリーン夫人と呼んでいる。
キャルの子供達は、長男黒猫のネルゼリア、長女白猫のミルネリア、末っ子茶トラのアルトリアと名付けた。愛称は、ネル、ミル、アルだ。みんな新しい邸で、仲良く自由に暮らしている。自由過ぎて、呼んでも中々来てくれないから、邸の中を探すのが大変だったりするけど。
「今日もキャルの毛並みは素敵ね!やーん、フワフワ!はあ、幸せだわ…」
「フフ、お嬢様、お顔がニヤけてますよ」
「だって、みんな可愛いんだもの」
膝にはキャル、足元には子猫達。小さな牙で、足首を齧られているけれど、私からしたら、それもご褒美だ。
私は、キャルの毛並みを撫でながら、せっせとお茶の準備を始めた侍女達に、話しかけた。
「私ね、この子達のために、事業を始めようと思うの。ほら、この国って、動物の医療が遅れているでしょう?だから、隣国から教師を招いて、獣医師の学校を作ろうかなって。でも、そうすると、動物病院も建てなくちゃいけないわね。動物専用のご飯やブラシ、薬も開発したいし…。せっかくだから、動物好きが集まれるサロンも開きたいわ!」
「それは、いいですね!」
「なら善は急げね!早速、色々と始めましょう!」
そうと決めたら、私の行動は早い。
私は、自分の持てる頭脳を駆使して、まだ世には存在してない動物専用の製品を作り始めた。そして、それを、新たに設立した商会で販売することにしたのだ。その商会の名前は、キャネマル商会。我が家の可愛い猫達の名前を借りて命名した。
帝都の商業区のメイン通りに店舗を構えたキャネマル商会は、取り扱う商品の物珍しさから、すぐに話題になった。けれど、悪評のある私のせいで、初めの頃の売上げは、あまり良くなかった。私はそれを打開するため、試供品を至る所に配ることにした。自分が作った商品に絶対の自信があった私は、知ってもらえさえすれば、上手くいくと確信していたからだ。結果、面白い程、商品の口コミが広がっていくことになる。
そのタイミングで、私は新商品を餌に、動物愛好家専用サロンを開いた。すると、こちらも思惑通り、新しい物好きの貴婦人達が集った。
そうして始まった動物愛好家サロンは、今や、猫好き、犬好き、兎好き、爬虫類好きが競って集まる人気サロンになっている。
それからは、簡単だった。夫人達が、どんどん商品を広めていってくれたのだ。
私は、新たに得た資金と人脈を使って、商品開発にのめり込んでいった。
そんな中、やっと完成した動物用風邪薬が、思いの外万能であることが判明する。なんと、家畜や軍馬などに流行る病も立ち所に治してしまったのだ。
それに押される形で、獣医師にも脚光が当たり、商会が運営する国内唯一の獣医師学校へ入学希望者が激増することになる。
そこで私は、以前から考えていた奨学金制度を導入することにした。お金がなくても、優秀であれば、誰でも入学出来るようにしたのだ。卒業後三年、指定の動物病院に勤務するという条件で。
そうこうしている内に、五年という月日は、あっという間に過ぎていく。資金、人脈、人材を囲い込んだキャネマル商会は、いつしか大商会と言われるほどの規模に成長していた。
148
あなたにおすすめの小説
白い結婚で結構ですわ。殿下より、私の自由のほうが大事ですので
鍛高譚
恋愛
「第二王子との婚約? でも殿下には平民の恋人がいるらしいんですけど?
――なら、私たち“白い結婚”で結構ですわ。お好きになさってくださいな、殿下」
自由気ままに読書とお茶を楽しむのがモットーの侯爵令嬢・ルージュ。
ある日、突然“第二王子リオネルとの政略結婚”を押しつけられてしまう。
ところが当の殿下は平民の恋人に夢中で、
「形式上の夫婦だから干渉しないでほしい」などと言い出す始末。
むしろ好都合とばかりに、ルージュは優雅な“独身気分”を満喫するはずが……
いつしか、リナという愛人と妙に仲良くなり、
彼女を巡る宮廷スキャンダルに巻き込まれ、
しまいには婚約が白紙になってしまって――!?
けれどこれは、ルージュが本当の幸せを掴む始まりにすぎなかった。
自分を心から大切にしてくれる“新しい旦那様”候補が現れて、
さあ、思い切り自由に愛されましょう!
……そして、かの王子様の結末は“ざまぁ”なのか“自業自得”なのか?
自由気ままな侯爵令嬢が切り開く、
“白い結婚破談”からの痛快ざまぁ&本当の恋愛譚、はじまります。
冷徹侯爵の契約妻ですが、ざまぁの準備はできています
鍛高譚
恋愛
政略結婚――それは逃れられぬ宿命。
伯爵令嬢ルシアーナは、冷徹と名高いクロウフォード侯爵ヴィクトルのもとへ“白い結婚”として嫁ぐことになる。
愛のない契約、形式だけの夫婦生活。
それで十分だと、彼女は思っていた。
しかし、侯爵家には裏社会〈黒狼〉との因縁という深い闇が潜んでいた。
襲撃、脅迫、謀略――次々と迫る危機の中で、
ルシアーナは自分がただの“飾り”で終わることを拒む。
「この結婚をわたしの“負け”で終わらせませんわ」
財務の才と冷静な洞察を武器に、彼女は黒狼との攻防に踏み込み、
やがて侯爵をも驚かせる一手を放つ。
契約から始まった関係は、いつしか互いの未来を揺るがすものへ――。
白い結婚の裏で繰り広げられる、
“ざまぁ”と逆転のラブストーリー、いま開幕。
『婚約破棄されたので王太子女となります。殿下より上位です』
鷹 綾
恋愛
「君は王太子妃に相応しくない」
その一言で、私は婚約を破棄されました。
理由は“真実の愛”。選ばれたのは、可憐な令嬢。
……ええ、どうぞご自由に。
私は泣きません。縋りません。
なぜなら——王家は、私を手放せないから。
婚約は解消。
けれど家格、支持、実務能力、そして民の信頼。
失ったのは殿下の隣の席だけ。
代わりに私は、王太子女として王政補佐の任を命じられます。
最初は誰もが疑いました。
若い、女だ、感情的だ、と。
ならば証明しましょう。
怒らず、怯えず、排除せず。
反対も忠誠も受け止めながら、国を揺らさずに保つことを。
派手な革命は起こしません。
大逆転も叫びません。
ただ、静かに積み上げます。
そして気づけば——
“殿下の元婚約者”ではなく、
“揺れない王”と呼ばれるようになるのです。
これは、婚約破棄から始まる静かな逆転譚。
王冠の重みを受け入れた一人の女性が、
国を、そして自分の立場を塗り替えていく物語です。
触れれば石。魔女にされた公爵令嬢は、王国の価値を塗り替える
ふわふわ
恋愛
「触れれば石になりますわ。それでもお触れになりますか?」
公爵令嬢レフィリアは、ある日突然“触れたものを石に変える力”を持ったとして、王太子から魔女の烙印を押され、婚約を破棄される。
名誉も立場も奪われ、追放。
けれど彼女は気づく。
この力は呪いではない。
――ただの“法則”だと。
素手で触れれば石になる。
だが、境界を守れば問題は起きない。
さらに彼女は知る。
石は、選べる。
強く念じれば、望んだ種類の石へと変わることを。
宝石にも。
やがて王国は凶作に見舞われ、国庫は逼迫。
一方、辺境に追いやられたはずのレフィリアは、その力を制御し、価値を生み出していた。
「触れ方を誤れば、石になりますわ」
かつて彼女を断罪した王家は揺らぎ、
触れてはならない境界を越えた者から、静かに砕けていく。
これは――
魔女と呼ばれた令嬢が、王国の“価値”そのものを書き換えていく物語。
境界を知る者だけが、未来に触れられる。
悪役令嬢は処刑されないように家出しました。
克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。
サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。
【完結】何度でもやり直しましょう。愛しい人と共に送れる人生を。
かずえ
恋愛
入学式の日に前回の人生を思い出す。短いけれど、幸せな一生だった。もう一度この気持ちを味わえるなんて、素晴らしいと大喜び。けれど、また同じことを繰り返している訳ではないようで……?
【完結】追放の花嫁は溺愛に不慣れです!
白雨 音
恋愛
「彼女が住む処、必ず亡びが訪れるでしょう!」
結婚式当日、神のお告げにより、王太子アンドレと公爵令嬢ヴァレリーの結婚は
取り止めとなった。王太子妃どころか、一転、追放の身となったヴァレリー。
追放先として送られたのは、地図でも見落とす程の小国、ヴァンボエム王国。
そこでは何故か歓迎を受けて…??
異世界恋愛、短編、全14話☆《完結しました》
天才すぎて追放された薬師令嬢は、番のお薬を作っちゃったようです――運命、上書きしちゃいましょ!
灯息めてら
恋愛
令嬢ミーニェの趣味は魔法薬調合。しかし、その才能に嫉妬した妹に魔法薬が危険だと摘発され、国外追放されてしまう。行き場を失ったミーニェは隣国騎士団長シュレツと出会う。妹の運命の番になることを拒否したいと言う彼に、ミーニェは告げる。――『番』上書きのお薬ですか? 作れますよ?
天才薬師ミーニェは、騎士団長シュレツと番になる薬を用意し、妹との運命を上書きする。シュレツは彼女の才能に惚れ込み、薬師かつ番として、彼女を連れ帰るのだが――待っていたのは波乱万丈、破天荒な日々!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる