38 / 56
2-20
しおりを挟む
「えっ?えっ?えっ?えーーーーーーー!?どうしてここにいるの!?」
研究所の中にある、がらんとした私専用の部屋に、ネル、ミル、アルの猫三姉弟がいた。
猫達は、初めて来た場所に興味津々のようで、驚いている私そっち退けで、至る所の匂いを嗅ぎ回っている。
「な、何があったの!?どうしてこの子達がここにいるの!?」
私は、部屋の中にいた侍女に詰め寄った。
「お、落ち着いて下さい、セリナ様!実は私…、セリナ様の私物を取りに、シグネル侯爵家の本邸に行ってきたのですよ。その時に、直接、猫の皆様に聞いたのです。セリナ様と一緒に暮らしてくれませんかって。そうしたら、ネル様達が、ついて来てくれたのです!さすがはセリナ様!猫様達に愛されていますね」
「本当に…?私と一緒にいたら、ララとキャルに会えなくなってしまうかもしれないのに?それでも、私と来てくれるの?」
思わず、私の口から弱々しい言葉がこぼれ出る。
そんな私に、猫達は、可愛い鳴き声で応えてくれた。
「ありがとう、みんな。これからもずっと一緒にいて…」
限界だった涙が、この時、決壊したようにポロポロと流れ落ちて、足元の床を濡らした。
するとその時、聞き覚えのない甲高い鳴き声が静かな部屋に響いた。
それを聞いた瞬間、アルがベッドへ一直線に駆けていく。そして、シーツの隙間を縫ってベッドの下に潜り込んだ。
「ア、アル?どうしたの?」
素早く涙を拭った私は、不思議な行動を取ったアルを追ってベッドの下を覗き込む。
そこには、二組の怪しく光る猫の目があった。
「あら?アル、その子は?」
アルに促されて、一匹の汚れた猫がベッドの下から這い出てきた。その猫は、珍しいマダラ模様をしていて、非常に大きかった。痩せ細っているとはいえ、小柄なミルの3倍はありそうだ。
こんな大きな猫は、初めて見た。
経営している動物病院でも見たことがない。
「すみません、セリナ様。馬車でこちらに向かっている最中に、窓の外を眺めていたアル様がこの子を見つけて、そのまま連れてきてしまったのです」
人慣れしているのか、はたまた、最近まで何処かで飼われていたのか、大きな猫は、私が近付いても逃げることなく、じっとこちらを見ていた。
私はその透き通った青の瞳に惹かれ、思わず手を伸ばした。
すると、猫は咄嗟に、大きな体を丸めてお腹を庇うような仕草をした。僅かに体を震えさせながら。
その時、私はある事に気付いた。
「この子、妊娠しているわ!」
「え!?それは大変です!商会に連絡して、今すぐ獣医師を呼び寄せます」
侍女が迅速、且、静かに部屋を出ていくと、その様子を見ていたアルが、大きな猫を守るかのように寄り添った。
アルは、この子の危機を感じ取ってここまで連れてきてくれたのだろうか。
もしそうなら、私は絶対にこの子を助けなくちゃいけない。
私はその決意を込めて、アルの頭を一撫でした。そして、一度部屋を出た後、侍女達を呼び出し、みんなの前で宣言した。
「私、逃げるのは、やめたわ!今は、アルが繋いだ命を助けたいの。どうかみんな、協力して」
私の突然の宣言に、集まった侍女達は、少し困惑していた。けれど、すぐに、私の想いに応えてくれた。
「もちろんです!まずは、猫様達が安心して過ごせる環境を整えてあげなければいけませんね。時間がありませんから、今あるもので、準備を進めます」
「ありがとう、お願いね。それと、ごめんなさい。みんなは、私を心配して、ここから離れる提案をしてくれたのに…」
「謝らないで下さい、セリナ様!私達は、セリナ様が元気であれば、それだけでいいんです!今のセリナ様、イキイキしていてとっても素敵です」
そう言われて、はたと気付く。
鎮痛薬の研究成果を盗まれたことで、自分が思っている以上に活力を失っていたことに。
だって今は、やる気に満ちているから。
「そうね…。ありがとう、みんな。私、頑張るわ!」
私は、久しぶりに心から笑えた気がした。
研究所の中にある、がらんとした私専用の部屋に、ネル、ミル、アルの猫三姉弟がいた。
猫達は、初めて来た場所に興味津々のようで、驚いている私そっち退けで、至る所の匂いを嗅ぎ回っている。
「な、何があったの!?どうしてこの子達がここにいるの!?」
私は、部屋の中にいた侍女に詰め寄った。
「お、落ち着いて下さい、セリナ様!実は私…、セリナ様の私物を取りに、シグネル侯爵家の本邸に行ってきたのですよ。その時に、直接、猫の皆様に聞いたのです。セリナ様と一緒に暮らしてくれませんかって。そうしたら、ネル様達が、ついて来てくれたのです!さすがはセリナ様!猫様達に愛されていますね」
「本当に…?私と一緒にいたら、ララとキャルに会えなくなってしまうかもしれないのに?それでも、私と来てくれるの?」
思わず、私の口から弱々しい言葉がこぼれ出る。
そんな私に、猫達は、可愛い鳴き声で応えてくれた。
「ありがとう、みんな。これからもずっと一緒にいて…」
限界だった涙が、この時、決壊したようにポロポロと流れ落ちて、足元の床を濡らした。
するとその時、聞き覚えのない甲高い鳴き声が静かな部屋に響いた。
それを聞いた瞬間、アルがベッドへ一直線に駆けていく。そして、シーツの隙間を縫ってベッドの下に潜り込んだ。
「ア、アル?どうしたの?」
素早く涙を拭った私は、不思議な行動を取ったアルを追ってベッドの下を覗き込む。
そこには、二組の怪しく光る猫の目があった。
「あら?アル、その子は?」
アルに促されて、一匹の汚れた猫がベッドの下から這い出てきた。その猫は、珍しいマダラ模様をしていて、非常に大きかった。痩せ細っているとはいえ、小柄なミルの3倍はありそうだ。
こんな大きな猫は、初めて見た。
経営している動物病院でも見たことがない。
「すみません、セリナ様。馬車でこちらに向かっている最中に、窓の外を眺めていたアル様がこの子を見つけて、そのまま連れてきてしまったのです」
人慣れしているのか、はたまた、最近まで何処かで飼われていたのか、大きな猫は、私が近付いても逃げることなく、じっとこちらを見ていた。
私はその透き通った青の瞳に惹かれ、思わず手を伸ばした。
すると、猫は咄嗟に、大きな体を丸めてお腹を庇うような仕草をした。僅かに体を震えさせながら。
その時、私はある事に気付いた。
「この子、妊娠しているわ!」
「え!?それは大変です!商会に連絡して、今すぐ獣医師を呼び寄せます」
侍女が迅速、且、静かに部屋を出ていくと、その様子を見ていたアルが、大きな猫を守るかのように寄り添った。
アルは、この子の危機を感じ取ってここまで連れてきてくれたのだろうか。
もしそうなら、私は絶対にこの子を助けなくちゃいけない。
私はその決意を込めて、アルの頭を一撫でした。そして、一度部屋を出た後、侍女達を呼び出し、みんなの前で宣言した。
「私、逃げるのは、やめたわ!今は、アルが繋いだ命を助けたいの。どうかみんな、協力して」
私の突然の宣言に、集まった侍女達は、少し困惑していた。けれど、すぐに、私の想いに応えてくれた。
「もちろんです!まずは、猫様達が安心して過ごせる環境を整えてあげなければいけませんね。時間がありませんから、今あるもので、準備を進めます」
「ありがとう、お願いね。それと、ごめんなさい。みんなは、私を心配して、ここから離れる提案をしてくれたのに…」
「謝らないで下さい、セリナ様!私達は、セリナ様が元気であれば、それだけでいいんです!今のセリナ様、イキイキしていてとっても素敵です」
そう言われて、はたと気付く。
鎮痛薬の研究成果を盗まれたことで、自分が思っている以上に活力を失っていたことに。
だって今は、やる気に満ちているから。
「そうね…。ありがとう、みんな。私、頑張るわ!」
私は、久しぶりに心から笑えた気がした。
144
あなたにおすすめの小説
婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~
ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」
義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。
父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。
けれど――
公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。
王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。
さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。
そして下されたのは――家ごとの褫奪。
一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。
欲しがったのは肩書。
継いだのは責任。
正統は叫びません。
ただ、残るだけ。
これは、婚約を奪われた公爵令嬢が
“本当に継がれるべきもの”を証明する物語。
婚約辞退いたします。だってこの国、沈みますもの
鍛高譚
恋愛
「婚約はお断りいたします――この国は近い将来、崩壊しますので」
そう言い放ったのは、社交界でも目立たない子爵令嬢、マリン・アクアリウム。
ある日、とある舞踏会に突如現れた王太子ガイア殿下。
誰もが驚く中、なんと彼はマリンに婚約を申し出る。
周囲は騒然。「子爵令嬢が王太子妃!?」「断る理由などないはず!」
――だが、彼女は断った。「この国は、もうすぐ滅びます」――と。
そんな不吉な言葉を口にしたことで、彼女は“狂言癖のある嘘つき令嬢”と噂され、
家族にさえ見放され、ついには国外追放の身に。
だが、彼女の予言は本物だった――
数年後、王国に未曾有の大災厄が迫る。
国土が崩れ、海に沈む都市。人々が絶望する中、思い出されるのは、
あの舞踏会でただひとり“滅び”を告げた少女の名。
「彼女なら、この国を救えるかもしれない……」
皮肉にも“追放令嬢”マリンは、再び王都に呼び戻され、
滅びゆく国で最後の希望として担ぎ上げられる。
信じてもらえなかった過去。
それでも人々の命を守ろうと奔走するマリン。
そして、王子ガイアが差し伸べた、あの日と変わらぬ手。
――たとえ国が滅んでも、あなたとともに歩んでいきたい。
勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました
鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」
そう言ったのは、王太子アレス。
そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
外交も財政も軍備も――
すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。
けれど功績はすべて王太子のもの。
感謝も敬意も、ただの一度もない。
そして迎えた舞踏会の夜。
「便利だったが、飾りには向かん」
公開婚約破棄。
それならば、とレイナは微笑む。
「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
---
初恋を諦めたあなたが、幸せでありますように
ぽんちゃん
恋愛
『あなたのヒーローをお返しします。末永くお幸せに』
運命の日。
ルキナは婚約者候補のロミオに、早く帰ってきてほしいとお願いしていた。
(私がどんなに足掻いても、この先の未来はわかってる。でも……)
今頃、ロミオは思い出の小屋で、初恋の人と偶然の再会を果たしているだろう。
ロミオが夕刻までに帰ってくれば、サプライズでルキナとの婚約発表をする。
もし帰ってこなければ、ある程度のお金と文を渡し、お別れするつもりだ。
そしてルキナは、両親が決めた相手と婚姻することになる。
ただ、ルキナとロミオは、友人以上、恋人未満のような関係。
ルキナは、ロミオの言葉を信じて帰りを待っていた。
でも、帰ってきたのは護衛のみ。
その後に知らされたのは、ロミオは初恋の相手であるブリトニーと、一夜を共にしたという報告だった――。
《登場人物》
☆ルキナ(16) 公爵令嬢。
☆ジークレイン(24) ルキナの兄。
☆ロミオ(18) 男爵子息、公爵家で保護中。
★ブリトニー(18) パン屋の娘。
病弱令嬢ですが愛されなくとも生き抜きます〜そう思ってたのに甘い日々?〜
白川
恋愛
病弱に生まれてきたことで数多くのことを諦めてきたアイリスは、無慈悲と噂される騎士イザークの元に政略結婚で嫁ぐこととなる。
たとえ私のことを愛してくださらなくても、この世に生まれたのだから生き抜くのよ────。
そう意気込んで嫁いだが、果たして本当のイザークは…?
傷ついた不器用な二人がすれ違いながらも恋をして、溺愛されるまでのお話。
投資の天才”を名乗る臣民たちよ。 その全財産、確かに受け取った。 我が民のために活かそう』 〜虚飾を砕く女王の経済鉄槌〜
しおしお
恋愛
バブルに沸くアルビオン王国。
「エルドラド株」を持たぬ者は時代遅れ――
そう嘲笑いながら、実体のない海外権益へ全財産を注ぎ込む貴族たち。
自らを“投資の天才”と称し、増税に苦しむ民を見下す日々。
若き女王リリアーナは、その狂騒を静かに見つめていた。
やがて始まる王室監査。
暴かれる虚偽契約。
崩れ落ちる担保。
連鎖する破綻。
昨日まで「時代の勝者」を気取っていた特権階級は、一夜にして無一文へ。
泣きつく彼らに、女王はただ微笑む。
――“皆様の尊いご投資、確かに受け取りましたわ”
没収された富は国庫へ。
再配分された資源は民へ。
虚飾を砕き、制度を再設計し、王国を立て直す。
これは復讐譚ではない。
清算と再建の物語。
泡沫の王国に、女王の鉄槌が下される。
婚約破棄された公爵令嬢ですが、どうやら周りの人たちは私の味方のようです。
ましゅぺちーの
恋愛
公爵令嬢のリリーシャは王太子から婚約破棄された。
隣には男爵令嬢を侍らせている。
側近の実兄と宰相子息と騎士団長子息も王太子と男爵令嬢の味方のようだ。
落ち込むリリーシャ。
だが実はリリーシャは本人が知らないだけでその5人以外からは慕われていたのだ。
リリーシャの知らないところで王太子たちはざまぁされていく―
ざまぁがメインの話です。
『婚約破棄ありがとうございます。自由を求めて隣国へ行ったら、有能すぎて溺愛されました』
鷹 綾
恋愛
内容紹介
王太子に「可愛げがない」という理不尽な理由で婚約破棄された公爵令嬢エヴァントラ。
涙を流して見せた彼女だったが──
内心では「これで自由よ!」と小さくガッツポーズ。
実は王国の政務の大半を支えていたのは彼女だった。
エヴァントラが去った途端、王宮は大混乱に陥り、元婚約者とその恋人は国中から総スカンに。
そんな彼女を拾ったのは、隣国の宰相補佐アイオン。
彼はエヴァントラの安全と立場を守るため、
**「恋愛感情を持たない白い結婚」**を提案する。
「干渉しない? 恋愛不要? 最高ですわ」
利害一致の契約婚が始まった……はずが、
有能すぎるエヴァントラは隣国で一気に評価され、
気づけば彼女を庇い、支え、惹かれていく男がひとり。
――白い結婚、どこへ?
「君が笑ってくれるなら、それでいい」
不器用な宰相補佐の溺愛が、静かに始まっていた。
一方、王国では元婚約者が転落し、真実が暴かれていく――。
婚約破棄ざまぁから始まる、
天才令嬢の自由と恋と大逆転のラブストーリー!
---
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる