平凡な私が選ばれるはずがない

ハルイロ

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キュルルルルルー。

心地良い馬車の振動に眠気を誘われていると、珍しい鳥の鳴き声が聞こえた。私はカーテンの裾を少しだけ上げ、窓の外に目を向ける。

照りつける太陽が、サージェント王国よりも近い。強い日差しが、ジリジリと私の青白い肌を焼いていた。


今夜は、主人の肌をいつもより念入りに手入れしないと!
住む地域によっては、ここまで環境って違うものなのね。これは、本だけじゃ分からないわ...。


私は移動する馬車の中で、これまでの三ヶ月を思い出した。






「サウザリンド王国へ行くことになった。お前も連れて行くから準備しておくように。」
お茶を用意していた私へ、主人が唐突にそう告げた。

もちろん私に拒否権はない。とは言え、敬愛する主人からの命。それを私が拒否するなんてありえないのだけど。



私達が住まうこの大陸では、三年に一度、各国の代表者、異能者が集まり魔物対策の国際会議を行っていた。
開催国は持ち回りで、今年は南の獣人の国、サウザリンド王国で開催される。我が国からは、馬で一ヶ月はかかる遠い国。
転移魔法陣を乗り継げば、短縮されるとは言え、それでも片道1週間はかかる道のりだ。

聞いたところによると、今回の会議では、それぞれの国の騎士団と連携して、魔物討伐の訓練をするのだとか。そのため、例年に比べて開催期間が長引く予定なのだそうだ。


忙しい主人は、そんなに長い期間、国を空けていられない。だから、今回も代理人を立てて、主人は参加を見送ると思っていた。


けれど、それを主人は覆した。
その決定が下された時は、城中が大慌てだった。我が国の王の他国訪問となれば、格を損なうようなことは出来ないからだ。

王国から出たことのない私は必死で、サウザリンド王国について学ばなければいけなかった。





「王都まであと少し...。」

昨日越えた国境から、風景は様変わりし、色鮮やかな植物が私達の目を楽しませてくれていた。
つまり、私達はもうすぐ目的地に到着する。


本当に、本当に、ここまで長かった。

準備期間の三か月は、休みどころか寝る間も惜しんで働いた。働かなきゃ間に合わなかった。


やっと、ここからが本番。
主人が異国でも快適に過ごせるよう頑張らないと!


私は窓の外に見える、王都の城壁に目を向ける。
手を当てた私の胸は、どこかワクワクと期待に高鳴っていた。









王都に到着すると、私達はすぐにサウザリンドの騎士団に迎えられた。騎士の先導で王都を進む私達を、獣人達が和かに歓迎してくれていた。
その温かな光景に、私の緊張も緩む。
沿道で手を振る子供達に笑顔で応える主人の姿には、使用人一同の頬も綻んでいた。



「ようこそ、サウザリンドへ。久しぶりですな、アデライード王。」

王宮でも、私達は温かい歓迎を受けた。
今は王宮の一室で、主人と主催者達が挨拶を交わしている。
中央にいる黒髪に黒目、そして褐色の肌の男性が、サウザリンドの国王、ガイル陛下だろうか。

ガイル陛下は、女性の中では高身長の主人よりも更に大きく逞しい。
私の横に並ぶ侍女達が、野性味溢れる美しい陛下に目を奪われていた。

けれど、私の目を引いたのは、我が国には珍しい髪色でも、肌色でも、ましてや美しい顔でもない。私の視線を捕らえたのは、獣人の特徴である、その獣耳と尻尾だった。

ガイル陛下の頭の上では、髪と同じ色の猫耳が、小刻みに動いている。
陛下だけではなく、隅に控える使用人達にも様々な動物の耳や角、尻尾が付いていた。



凄く可愛い!

ああ、表情筋の動かない顔で良かった。
危うくこんな重要な場所で、ニヤけるところだった。

私は主人の後ろで、獣人についての資料を思い出した。






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