27 / 163
1-21
少し湿った風が吹き抜ける暗い森に、今、刺すような緊張感が漂っていた。
いつもは煩いぐらいに聞こえていた鳥の声も消え、不気味なほど辺りは静まり返っている。
日の出前に起こされた私は、護衛のニルセン様とメルデン様の側で、生い茂る木々の先を見つめていた。
ドン!ドーン!ドン、ドン!
大きな破壊音がしたかと思うと、私の胴体の何倍もある太い木々が、土煙を上げて倒れていく。
その粉塵の中には、奇怪な赤い光が無数に揺らめいていた。
「バレリー殿、何があってもここから動かないで下さい。」
メルデン様が、私達の周りに強力な結界を張って、臨戦態勢を取った。
グオーーー!
耳を劈くような獣の雄叫びが、空気の中を伝播していく。その咆哮によって吹き飛ばされた粉塵の中から、猪に似た巨躯の魔物が、地響きを轟かせて、悠然とその姿を現した。
しかも数は、1体ではない。
これが、魔物の群...。
こんなに沢山の魔物は、初めて見た。
魔物は、口からダラダラと黒い唾液を垂らし、大地に生えた植物を腐らせていく。姿だけは、大きな猪そのものなのに、やはり魔物は、この世界の生き物ではなかった。
気持ち悪い。
その存在が、震えるほど不快だった。
あの魔物の赤い目が、私から命を少しずつ奪っていくようで。
その時、突然、一番端にいた魔物が、近くの騎士目掛けて走り出した。それに釣られて、他の魔物も、一斉に騎士達に襲いかかった。
その中に、アレン様とサージェント王国の騎士達の姿を見つけて、私の鳩尾が引き攣る。
アレン様、どうかご無事で...。
私は、胸元の魔石を握りしめて、みんなの無事を神に祈った。それしか出来ない自分を、歯痒く思いながら。
私にも戦う力があったら...。
それなら私も、誰かを守ることが出来たのに。
怒号と激しくぶつかり合う金属音が、森の中に響き渡る中、微かに吹く風が、鉄錆の匂いを運んできた。その鼻につく匂いが、私の緊張を更に煽る。
「大丈夫ですよ。バレリー様、我々は負けませんから。」
両手を握りしめていた私へ、ニルセン様がいつも通りの優しい声色で話しかけてきた。
「その通りです、バレリー殿。この程度で負ける騎士は、ここにはおりません。ほら、来ましたよ。」
メルデン様が、俯く私に森の先を指し示した。
太陽が昇る場所、高い崖の上に人がいる。
姿を現した太陽の光で、私の目では、その人物の顔は見えない。
でも、光と共に現れたその方が、私達の希望であることは分かった。
「ヴェイル、殿下...、どうか。」
いつもは煩いぐらいに聞こえていた鳥の声も消え、不気味なほど辺りは静まり返っている。
日の出前に起こされた私は、護衛のニルセン様とメルデン様の側で、生い茂る木々の先を見つめていた。
ドン!ドーン!ドン、ドン!
大きな破壊音がしたかと思うと、私の胴体の何倍もある太い木々が、土煙を上げて倒れていく。
その粉塵の中には、奇怪な赤い光が無数に揺らめいていた。
「バレリー殿、何があってもここから動かないで下さい。」
メルデン様が、私達の周りに強力な結界を張って、臨戦態勢を取った。
グオーーー!
耳を劈くような獣の雄叫びが、空気の中を伝播していく。その咆哮によって吹き飛ばされた粉塵の中から、猪に似た巨躯の魔物が、地響きを轟かせて、悠然とその姿を現した。
しかも数は、1体ではない。
これが、魔物の群...。
こんなに沢山の魔物は、初めて見た。
魔物は、口からダラダラと黒い唾液を垂らし、大地に生えた植物を腐らせていく。姿だけは、大きな猪そのものなのに、やはり魔物は、この世界の生き物ではなかった。
気持ち悪い。
その存在が、震えるほど不快だった。
あの魔物の赤い目が、私から命を少しずつ奪っていくようで。
その時、突然、一番端にいた魔物が、近くの騎士目掛けて走り出した。それに釣られて、他の魔物も、一斉に騎士達に襲いかかった。
その中に、アレン様とサージェント王国の騎士達の姿を見つけて、私の鳩尾が引き攣る。
アレン様、どうかご無事で...。
私は、胸元の魔石を握りしめて、みんなの無事を神に祈った。それしか出来ない自分を、歯痒く思いながら。
私にも戦う力があったら...。
それなら私も、誰かを守ることが出来たのに。
怒号と激しくぶつかり合う金属音が、森の中に響き渡る中、微かに吹く風が、鉄錆の匂いを運んできた。その鼻につく匂いが、私の緊張を更に煽る。
「大丈夫ですよ。バレリー様、我々は負けませんから。」
両手を握りしめていた私へ、ニルセン様がいつも通りの優しい声色で話しかけてきた。
「その通りです、バレリー殿。この程度で負ける騎士は、ここにはおりません。ほら、来ましたよ。」
メルデン様が、俯く私に森の先を指し示した。
太陽が昇る場所、高い崖の上に人がいる。
姿を現した太陽の光で、私の目では、その人物の顔は見えない。
でも、光と共に現れたその方が、私達の希望であることは分かった。
「ヴェイル、殿下...、どうか。」
あなたにおすすめの小説
幸せな番が微笑みながら願うこと
矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。
まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。
だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。
竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。
※設定はゆるいです。
愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
政略結婚の相手に見向きもされません
矢野りと
恋愛
人族の王女と獣人国の国王の政略結婚。
政略結婚と割り切って嫁いできた王女と番と結婚する夢を捨てられない国王はもちろん上手くいくはずもない。
国王は番に巡り合ったら結婚出来るように、王女との婚姻の前に後宮を復活させてしまう。
だが悲しみに暮れる弱い王女はどこにもいなかった! 人族の王女は今日も逞しく獣人国で生きていきます!
どうかこの偽りがいつまでも続きますように…
矢野りと
恋愛
ある日突然『魅了』の罪で捕らえられてしまった。でも誤解はすぐに解けるはずと思っていた、だって私は魅了なんて使っていないのだから…。
それなのに真実は闇に葬り去られ、残ったのは周囲からの冷たい眼差しだけ。
もう誰も私を信じてはくれない。
昨日までは『絶対に君を信じている』と言っていた婚約者さえも憎悪を向けてくる。
まるで人が変わったかのように…。
*設定はゆるいです。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
私、異世界で獣人になりました!
星宮歌
恋愛
昔から、人とは違うことを自覚していた。
人としておかしいと思えるほどの身体能力。
視力も聴力も嗅覚も、人間とは思えないほどのもの。
早く、早くといつだって体を動かしたくて仕方のない日々。
ただ、だからこそ、私は異端として、家族からも、他の人達からも嫌われていた。
『化け物』という言葉だけが、私を指す呼び名。本当の名前なんて、一度だって呼ばれた記憶はない。
妹が居て、弟が居て……しかし、彼らと私が、まともに話したことは一度もない。
父親や母親という存在は、衣食住さえ与えておけば、後は何もしないで無視すれば良いとでも思ったのか、昔、罵られた記憶以外で話した記憶はない。
どこに行っても、異端を見る目、目、目。孤独で、安らぎなどどこにもないその世界で、私は、ある日、原因不明の病に陥った。
『動きたい、走りたい』
それなのに、皆、安静にするようにとしか言わない。それが、私を拘束する口実でもあったから。
『外に、出たい……』
病院という名の牢獄。どんなにもがいても、そこから抜け出すことは許されない。
私が苦しんでいても、誰も手を差し伸べてはくれない。
『助、けて……』
救いを求めながら、病に侵された体は衰弱して、そのまま……………。
「ほぎゃあ、おぎゃあっ」
目が覚めると、私は、赤子になっていた。しかも……。
「まぁ、可愛らしい豹の獣人ですわねぇ」
聞いたことのないはずの言葉で告げられた内容。
どうやら私は、異世界に転生したらしかった。
以前、片翼シリーズとして書いていたその設定を、ある程度取り入れながら、ちょっと違う世界を書いております。
言うなれば、『新片翼シリーズ』です。
それでは、どうぞ!
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜
こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました!
※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)
狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。
突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。
だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。
そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。
共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?
自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。