平凡な私が選ばれるはずがない

ハルイロ

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「あらあら、拗ねちゃったわね。男心は複雑みたい。まあ、いいわ。ステラ、これからは殿下にくっ付いているのよ。それと、殿下は、人の姿に戻らないように。異能者の気配は独特だから、獣の姿の方がバレにくいのよ。」
明後日の方を向いているヴェイル様に向かって、姫様が念押しする。
私も、申し訳なく思いながら、ヴェイル様を見つめた。


「ごめんなさい、ヴェイル様。」

「謝るな。少し、その…、窮屈なだけだ。」
ピッタリと隣に寄り添うヴェイル様が、私の頬をペロリと舐める。

「それに、こうやって堂々とステラに触れられるのは役得だ。」

「な、な、なに、を…。ヒャッ!」

立てた尻尾を優雅に振り出したヴェイル様が、今度は覆い被さるように私の耳を舐めた。
人間とは違うザラザラした舌から与えられる刺激に、耐えられなくなった私の口からは変な声が漏れる。
真っ赤になった私に満足したのか、ヴェイル様は私の膝に頭を乗せて喉を鳴らしていた。


は、恥ずかしい…。
でも、なぜか嬉しい。
いつもは仕事をしない私の表情筋が、さっきから大忙しだった。

ニヤける顔を隠すために、両手で自分の顔を覆うと、指の隙間から、嬉しそうに笑う姫様と目が合った。





姫様は、それからまた、忙しくなってしまったようで、私は神殿で姫様を見かける機会をすっかり失っていた。けれど、神官を通して、定期的に近況の報告を入れてくれている。
それによると、まだ魔物の王の復活は確認出来ていないそうだ。
そう報告される度に、私の中に不安と安堵が入り混じる。
けれど、いつも寄り添ってくれるヴェイル様のお陰で、私は複雑な感情に押し潰されないでいられた。




「ステラ、茶の時間だ。」
神官を連れたヴェイル様が、私の客室へ入ってきた。
その野生的で美しい姿に、私の目が引き寄せられる。

お茶を準備し終えた神官が出ていくと、ヴェイル様が私の隣に寝そべった。
尻尾が私の足をスリスリと擦って擽ったい。


「ヴェイル様、不便はありませんか?」

「ああ、特に問題ない。」

私のせいで不便をかけて申し訳ないと思いつつも、可愛らしい姿に、私は毎日癒されていた。


「ヴェイル様、何か食べますか?」

「うーん、…ハム。」

「はい!」

私は、私の膝に頭を乗せているヴェイル様の口に、厚切りのハムを入れた。
モゴモゴと片側だけ動く口が可愛い。

私は、何度もヴェイル様の口に食べ物を運んだ。


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