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2話 バーバラ家のお嬢様
しおりを挟むデレクに連れられ、バーバラ邸へお邪魔した。
色とりどりの花が咲き乱れ、甘い香りを放つ庭園に目を奪われているとバーバラ伯爵が出迎えてくれた。
「これはこれは。
ヘレフォード伯爵と…」
デレクに会釈をした後私を見るバーバラ伯爵。
「私…」
自己紹介をしようとすると、デレクがそれを止める。
「こちらはサラ・ターナー伯爵令嬢です。
手紙にも書きましたが、僕の婚約者です。」
デレクの言葉の後、ペコリとお辞儀をする。
「ああ、こちらがターナー伯爵のお嬢様でしたか。」
「父とお知り合いで?」
意外な反応だった。
父の仕事について行くことはよくあるが、バーバラ伯爵とはお会いしたことがなかった。
「ええ。以前、少しだけワインのことでお世話になりました。
最近はめっきりお会いしていないのですが、こんなに綺麗なお嬢様がいらっしゃったとは。」
バーバラ伯爵との意外な接点に思わず話が盛り上がった。
ふと気づくと、デレクが側にいない。
あたりを見回すと、私と同い年くらいの年齢の女性と話しているのが目に入った。
「デレク、こちらの方は?」
デレクがびっくりして私に振り向く。
「ああ、バーバラ伯爵のお嬢様だよ。
ご挨拶してたんだ。」
デレクがそう言うと、彼女はペコリとお辞儀をする。
「初めまして。エレナ・バーバラと申します。
ターナー様のことはデレク様からお聞きしました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。」
エレナと名乗る彼女はまさに、可憐と言う言葉が似合う人だった。
腰まであるブロンドの長い髪、鈴のような声。
恥ずかしそうに自己紹介するエレナはまさに淑女だった。
「こ、こちらこそ。」
私までなんだか緊張してドキドキした。
「これは、ヘレフォード伯爵殿!」
後ろからデレクを呼ぶ声がした。
「あっ、すみません。僕はこれで…
サラ、ちょっと外すね。」
そう言ってデレクは行ってしまった。
デレクが離れる瞬間、エレナと何やら視線が交わされた気がする。
なんだろ…デレク…?
少し胸がざわつく。
今日お会いしたばかりのお嬢様にこんなの失礼だわ。
慌てて、自分の中に芽生えた悪い感情を抑え込む。
「えっと、エレナさん、何かご趣味は…」
会話を弾ませようと話しかけた。
「サラ様、ターナー家の薔薇と呼ばれているのご存じです?」
さっきまでのエレナの可愛らしい声から急に低い声に変わった。
「え? あ、ああ、なんか社交界ではそのように呼ばれているとか…。
恥ずかしくてあまりその名前好きではないんですが…」
なんだろ、なんか嫌な感じだ。
エレナが私の頭から爪先までをジロジロと舐めるように見つめてくる。
「艶めく綺麗な黒髪、透き通るような白い肌、真っ赤な薔薇のように愛らしい唇、本当に素敵ですわあ。
きっとデレク様もたいそう溺愛されているのかしら。」
舐め回すような視線が気持ち悪い。
「でも…、淑女たるものお淑やかでいなくては…ねえ?
デレク様は私のように謙虚な女性が好きとおっしゃっていましたわ。」
「えっ、それって…」
「あら、これは言ってはいけないと言われていましたの。」
口に手を当てておほほと笑う。
呆然としていると、エレナが私の横を通った。
「もちろん、秘密にしてくださるわよね?」
さっきまで、恥ずかしそうにしていたエレナとは別人のように低い声でそう言うと、私の足を踏んでいった。
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