木曜日のスイッチ

seitennosei

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「先生の部屋」その後。

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細谷咲を目の前に俺は悩んでいた。
生涯を通して彼女程大切に思った人はいなかった。
そしてこれ程までに愛しく思う者と想いを通じ合わせた事もない。
見ているだけで、そして少しでも触れた事が出来ただけでも十分で。
だから思うままに触れるなんて考えた事すらない夢のまた夢だった。
そしていざ好きにして良い状況になったらどうするべきなのかが分からない。
堪えきれない衝動のまま貪ってしまう。
ただ相反してこの感動すべき時をなるべく長くじっくりと味わいたい欲求もあり。
その狭間でふらふらと決められないまま、結局はただただ彼女の反応が可愛くて意地悪に責め立てていた。
キスだけで甘い声を漏らし瞳を濡らしている。
身体の表皮だけでなく口内までもが敏感で。
少し撫でるだけでも力が抜け落ちてしまっている。
そのくせ、負けず嫌いで必死にやり返そうと抵抗を試みては、結局俺の責めに翻弄されて従順になるのを繰り返していた。
無意識なのだろうが、絶妙の匙加減でこちらの嗜虐心を煽り立ててくるから困る。
「真琴さんも…。」
弱々しい声。
露わになった胸を片手で隠しつつ、もう片手で俺のシャツの裾を引っ張る仕草で。
唇を尖らせ不満げな上目遣いが見上げてくる。
「私だけ裸なの…ずるい。」
俺は細谷咲に覆い被さると深く口を付けた。
そして剥ぐ勢いで自分のシャツとボトムをを脱ぐときつく彼女を抱きしめる。
すぐに俺の背中にも細谷咲の手が回されて。
貪る様に口内を侵した。
約束の木曜日。
何度彼女に触れながらその唇の感触を想像した事か。
実際に重ねた唇は想像よりも少し硬くて。
緊張と戸惑いが伝わってきて逆に煽られた。
震える舌と吐息。
いつもこれ以上はダメだと自制していた時は、物怖じせずに触れ合おうとしてくる態度にこちらが戸惑っていた。
行為に慣れている感じがして腹も立った。
それが今彼女の全身は強ばり、俺の責めに恐怖している。
それでも与えた快感を懸命になぞって。
少しでも俺にいい様にされないよう懸命にもがいている。
なんて愛らしいんだ。
初々しい反応も、未知の領域を不安視しつつも快感に流されてしまう姿も。
全てが愛おしくて堪らない。
もう自制する事は不可能で、この先きっと酷くしてしまう。
何よりも大切に想っているのに、大切に出来そうもなくて俺もこの先へ進むのが酷く怖いと思った。
「真琴さん…。」
細谷咲が囁く。
「山崎先生はどんなキスをするんだろって…ずっと考えてました。」
胸が苦しかった。
彼女もそんな事を考えたりしていたのか。
この2週間、何度も言葉で確かめ合ったけれど、実際に同じ想いでいたと答え合わせが出来る度に堪らなくなる。
「どんな想像してた?」
そう問うと手を伸ばし俺の唇に触れてきた。
そしてゆっくりと指で形をなぞると切なそうに声を振り絞る。
「イメージ通りの優しいキスとか…、でも意外と我慢できないみたいにガツガツしてるのかもとか。」
「ふっ…。」
ほんの数分前の余裕のなかった自分を思い起こし鼻で笑ってしまった。
その間も彼女は指でなぞり続け、愛おしそうに俺の唇と目を交互に見てくる。
「でもどんなキスだとしてもきっと凄く気持ち良いんだろうなって…。私の身体に気持ち良いを教えてくれた山崎先生だから。私のどうする事も出来なかった擽ったいを気持ち良いに変えてくれた山崎先生だから、きっと凄いキスなんだろうなって…。」
「はは、そんなにハードル高かったのか…。ガッカリした?」
ふっと笑うとフルフルと横に首を振っている。
次の瞬間俺はギョッとした。
微笑んだままの彼女の頬をツーっと一筋の涙が伝い落ちていく。
「咲?」
美術準備室での光景が蘇った。
俺はまた細谷咲を泣かせてしまった。
わけも分からないまま焦りが募る。
「どうし…」
「こんな幸せで気持ち良いの知ったら、もう私真琴さん以外の人とキス出来ない…。だから捨てないで…。」
「え?」
捨てる?
俺が?
捨てられる方ではなくて?
仰向けの瞳からハラハラと頬やこめかみに向かい幾筋もの涙が道を作っていた。
「この先、私が真琴さんの絵を見ても理解出来ない日が来たとしても…嫌いにならないで…。」
「咲。」
「もし真琴さんの絵を理解する人がこの先私以外に現れたとしても…私の事捨てないで…。」
絞り出すような弱々しい声。
俺は今まで以上の力を込めて彼女を抱きしめる。
あまり体重を掛けたら重いだろうなと分かっていても上から強く強く抱きしめた。
こうやって逃げられないくらい俺の胸の中に閉じ込めたら、ほんの少しでも伝わるのではないかと思えて…。
「一目惚れだったんだ。」
「え…?」
「大人のくせに…恥ずかしいから言わなかったけど…。一目惚れなんだ。」
少し待っても答えが返って来ない。
突然のカミングアウトに引いているのかもしれない。
それでも言わなければ。
少しでも彼女の気持ちを楽にしなくては。
「咲が絵を通して俺を理解してくれた事は確かに衝撃だったし、その時にくれた言葉も本当に嬉しかった。それだけでも咲は俺にとって特別だけど…俺が咲を女性として好きだって思ったのは咲の顔を見た瞬間なんだ。俺の絵を見ながら知らない人と喧嘩していた時。その時の横顔がこの世で一番綺麗だと思った。自発的に人を絵に描きたいって初めて思った。」
「…ホント…に?」
「うん。」
少し上体を起こし細谷咲の顔を見る。
赤く濡れた瞳で俺を見ながら恥ずかしそうに頬を染めていた。
本当に可愛いな。
「すぐ思った事を言っちゃう素直なところも、誰に対しても真っ直ぐなところも、凄く可愛いのに自信がないところも。知っていく度に好きになった。」
「…真琴さん…。」
「もしも咲が俺の絵を理解できなくなる日が来ても、咲よりも俺を理解できる人が現れたとしても何も変わらない。ずっと咲が好きだよ。」
ふいっと視線を逸らされてしまう。
照れている顔を見るに嫌悪感からではなさそうではあるけれど。
逸らした方に顔を出し覗き込んでみる。
「咲?」
「真琴さんおかしいよ…。」
「何が?」
「森本先生みたいな美人振って私が可愛いとかおかしい。」
急に出てきた森本先生の名。
もしかしたら細谷咲も俺が立花亜樹に持った複雑な感情を森本先生に抱えていたりしたのだろうか。
それだけ俺を想ってくれていたのかと思うとまた愛おしさが募っていく。
「咲のそういう自信がなくて卑屈になっちゃうところも好き。」
「…いじわる。」
「ははは、ごめんね。でも俺も自信ないから気持ちは分かるよ。俺もいつも立花君に引け目を感じてた。」
「真琴さんが?」
「うん。俺だって咲に選んでもらえた意味が分からないって未だに思ってるよ。何かの間違いかもって、その内嫌われちゃうかもって思って怖いよ。」
顔を近付け額どうしをくっ付ける。
ピクっと肩を強ばらせて細谷咲は目を閉じた。
それに誘われるように軽く触れるだけのキスをする。
「咲。」
「ん?」
「俺がどれだけ咲の事好きか分かる事して良い?」
「…うん。」
「はは、ありがと。」
またキスをした。
今度は2度、3度と少し唇を挟む感じに啄んで。
応えるように細谷咲の口が微かに開いて。
誘われるように深くしていく。
「ふっ…ぁ。」
吐息を漏らし身悶えしている顔。
一時も見逃したくない。
ぼやける程近くから目を見開いて彼女を見つめていると、泣かせてしまった事により一時的に萎んでいた欲求がまた膨らみ始めた。
その切ない声がもっと聞きたくなり、今度は首筋に口を付ける。
「やぁっ。」
可愛い嬌声。
はむはむと唇で擽りながら鎖骨を通り胸の方へ降りていく。
「…あ、だめ。」
両手で隠されてしまう胸。
その手首を掴むと彼女はフルフルと首を横に振って抵抗を見せた。
「咲。俺にも咲がどれだけ俺の事好きなのか教えてくれるよね?」
大人気ないと自分でも思う。
こんな言い方されたら絶対彼女は断れない。
卑怯だと分かっている。
だけどどうしても欲しい。
強い思いを込めじっと見据えていると細谷咲は観念したのか頷き腕の力を緩めた。
掴んだままでいた細い手首を開いていくと。
目の前に綺麗な胸が顕になる。
仰向けなのに張りがありツンと上を向いている乳房。
大きくはないがしっかりと存在感はあって。
ピンクがかったベージュ色の先端が緊張からか既に立上ているのも堪らない気持ちにさせてくる。
これが細谷咲の胸。
何度も後ろから触れていた胸。
初めましてじゃないけれど正面からしっかりと向かい合うのは初めてで。
もう我慢の限界だった。
自分で舐め濡らした唇でその頂きを優しく挟む。
「はっんん…。」
仰け反る背中に腕を回しグッと抱き寄せ何度も食んだ。
もう一方の手は空いている方の先端に添えクリクリと転がす。
本当はもっとゆっくり周りからじわじわと責めたかったのに。
いざ可愛い胸を目の前にしたら口に含みたい衝動には逆らえなかった。
俺は木曜日の度にこれを指で転がしながらずっと吸い付きたいって思っていたんだ。
ビクビクと身体を跳ねる反応に煽られる。
「ん、まっ、ぁ、あ…、まって…。」
俺の肩を押さえながらの弱い制止。
顔を上げると縋るような瞳と目が合った。
先程まで味わっていた唇が赤く腫れていて。
そこから弱く囁くように訴えてくる。
「…これおかしくなる…。」
「はは…ちょっと急ぎすぎちゃったね。ごめん。」
そう言って微笑むと彼女はホッとした顔を見せた。
だけど俺はなるべく優しい笑顔を貼り付けたまま。
「でも途中で止まるの無理になるって言ったよね?」
「え?…まことさ…」
「咲、頑張ろうね。」
戸惑う彼女を置き去りに俺はまた胸に吸い付いた。
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