休憩室の真ん中

seitennosei

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綺麗に片付けた俺の部屋。
消臭剤とルームフレグランスを駆使し、ほんのりいい香り。
壁際に置かれた、シーツを変えたばかりの綺麗なベッド。
その上で壁にもたれて座り、俺に背中を預ける美玲を後ろから抱きしめる。
「源くんの部屋、オシャレだし、綺麗で落ち着く。」
そうか。
俺は落ち着かない。
本当は部屋なんて不潔で無ければ散らかってて良いし、人工的なフレグランスの匂いがすると他人の部屋みたいで落ち着かない。
美玲が来る日はいつも俺の部屋じゃない空気だ。
小柄な美玲の頭越しに他人の部屋の感覚で自室を眺める。
顎を載せている美玲の頭から、美容院みたいな高級そうなトリートメントの香りがする。
一花だったら、どこにでもある石鹸の匂いがするんだろうな。
そんで身体もでかいから肩の辺りに顎を乗せる形になって、「一花。」って呼んだら「何?」って振り向いて、俺の頬に一花の唇が当たって。
恥ずかしそうに顔を前に戻す一花に、もう一度名前を呼んで強引にこっちを向けてキスをして…。
「ふふ。源くんのエッチ。」
ハッと我に返る。
「何で抱っこしてるだけなのに、おしりに当たってるの?」
最低だ。
彼女と居ながら、全然違う女を想って勃起するとか…。
「ねぇ。今日、良いよ?」
何も知らない美玲は見当違いに許可を出してきた。
お前じゃない。なんて言えるはずもなく。
そしてやり場のない性欲も持て余した状態だし。
俺は罪悪感で胸を苦しくさせながら、美玲の身体を触りはじめた。
ワンピースの背中のチャックを下ろし、ブラのホックを外すと、その隙間から両手を入れ、後ろから胸を揉む。
張りのあるCカップの胸が丁度良く手に収まる。
一花だったら揉むって言うより撫でる感じになりそうだな。
ちょっと油断すると直ぐに一花のことを考えている。
頭の中に居座る一花を振り切るように、美玲の首筋に唇を這わせる。
「ふっ…、源くん、跡はつけちゃダメだよ?」
「わかってるよ。ミスコン前だし、美玲の足引っ張る様なことしないから。」
本当はミスコンとか美玲の立場とか、今はどうでも良かった。
もう美玲に跡を残して所有権を主張したいと思う程の執着がない。
指で胸の先端を掠める。
「ん…。気持ちいい…。」
美玲が可愛い声で呟く。
これが普通なんだろうな。

まだ俺が一花を好きだって自覚する前、付き合い始めの海に突っ込んだことがある。
「一花の元彼が言ってた身体の良さってなにかわかったか?」って。
その時海は色気を放ちオスの顔をして一花との情事を思い浮かべていた。
同じ男なのにドキリとした。
海は「元彼がどうかは知らないし、俺は一花さんしか知らないから、これが元彼の言うそれなのかはわからないけど。」と前置きをした後、「一花さんって、少し撫でるだけで身体を捩って吐息を洩らすし、感じると泣きそうな顔で懇願してくるから、めちゃくちゃにしたくなるんだ。」と言った。
俺はチャラく見せてはいるが、付き合っている彼女としかやったことがない。
セフレとかヤリ捨てとか、お互いの総意が合わないまま遊ぶのはリスクがデカすぎる。
それに勉強もバイトも手を抜きたくない。
特定の彼女以外に遊ぶ暇もない。
その彼女だって常にいる訳じゃないから、俺の経験人数は美玲で3人目だ。
3人しか知らないからかもしれないが、めちゃくちゃにしたいと思う様な女とやった経験が無い。
俺も一花だったらめちゃくちゃにしたいって思うのだろうか。
「源くん?エッチの時は優しくなくて良いから…。」
ボーッと胸を弄っている俺に焦れたのか、美玲が声を掛けてきた。
「ねぇ、源くん?」
美玲が振り返り、大きく丸い目を潤ませ見上げてくる。
「めちゃくちゃにして…。」
もう止めてくれ。
悪いのは俺だけど、これ以上混乱させないでくれ。
めちゃくちゃにしたいと思えない女から、めちゃくちゃにしてくれと頼まれ、めちゃくちゃにしてみたい女のことをこっそりと考えながら、めちゃくちゃにしたいと思えない女を、めちゃくちゃにする。
もう意味がわからないな。
乱れた服をそのままに美玲を乱暴に押し倒す。
「きゃっ。」
短い悲鳴を上げながらも、期待に満ちた目で見てくる。
適当にボクサーパンツとボトムを下ろして、美玲を見下ろす。
半分萎えていたモノを、一花の泣き顔を思い出しながら軽く扱く。
枕元に手を伸ばしゴムを取ろうとした時、美玲がその手を制止する。
「今日、大丈夫だから。」
大丈夫なわけあるかよ。
これ以上萎えること言わないでくれよ。
最低な自分を棚に上げ、美玲に苛立つ。
「うるせぇよ。」
言ってからしまったと思ったが、予想に反し美玲は俺の暴言に恍惚としている。
コイツの性癖もどうなってんだよ。
俺は素早くゴムを装着し、ワンピースをそのままにショーツだけ脱がせて挿入した。
「はぁ、そんな…急にぃ…。」
うるせぇな。
お前がめちゃくちゃにしろっていったんだろ。
入れる直前まで半分萎えていたが、入れてしまえば刺激で固くなってきた。
「あ、あ、…気持ちいい。」
小さな身体を揺らして顔を上気させている。
可愛いって思うのに、心が動かない。
それでも快感には勝てないけど。
「源くん。今日、あ…、凄いよ。」
美玲がまた恍惚とした表情をする。
細い腰を掴んで闇雲に打つ。
一花も腰はこの位細いかな。
だけど俺の動きに合わせて、長く伸びた脚が揺れて、細長い腕で泣き顔を隠したりするんだろうな。
腕を掴んで無理やり顔を見ると、濡れた目で懇願してきて。
普段とは違うか細い声で俺を呼ぶんだ。
「源くん。」
美玲の声で現実に引き戻される。
無視をして腰だけ振る。
「ねぇ、源くん。」
何だよ。
「お願い、首絞めて。」
美玲が叫ぶように言った。
「このまま、入れたまま…首絞めて。」
は?
「そ、そんな事できないだろ…。」
ドン引きしながら動かなくなった俺にお構いなく、美玲は腰を擦り付け出した。
「お願い。めちゃくちゃにしてって言ったじゃん。」
萎えかけていたモノが、美玲の腰つきに反応する。
さっきから大きくなったり、萎んだりと忙しい。
「源くんみたいに普段優しい人に、無理やりされたいの。押さえ付けて首絞められたいの。」
怖い。
やっぱり美玲のことはめちゃくちゃにできない。
そこまでの情熱がない。
どうやってこの場を収めようか悩んでいると、美玲が俺の手をとり、しゃぶり出した。
手の甲から舌を這わせ、一本一本の指を吸い上げ、指の股まで舐り尽くす。
終始俺の顔を物欲しそうに見ながら煽るようにゆっくりとしゃぶる。
その間、腰も動かし続けられ、気持ちとは裏腹にモノは完全に硬度を取り戻した。
早く出して終わらせたい。
尚も吸い付いている手を剥がし、再び細い腰を掴み律動を始めた。
「あ、や、首。絞めてぇ。」
まだ言ってる。
美玲が気持ちいいかどうかは無視して無心で快感を貪る。
「お願い。首ぃ。」
「うるせぇな。」
これ以上美玲の声が聞きたくない。
縋り付く腕を押さえ付け、もう片手で口を塞ぐと、小さな身体がくの字に折れる程に上から突き下ろした。
「む、ふんん。」
大きな目を見開いて美玲がくぐもった悲鳴を上げる。
気持ち悪い女だな。
海の話でしか知らないけど、海の言うめちゃくちゃにしたいって言うのは、こういうことじゃないだろう。
片方の気持ちを無視して押さえ付けるとかじゃなくて、お互いが想い合っていて、可愛すぎて虐めちゃうみたいな感じだろ。
俺も一花を虐めたい。
叶わないことはわかっているけど。
だからせめて妄想だけでも。
「ふ、ん、んん。」
美玲の声、現実の情報は全てシャットアウトし、目を閉じる。
聞いたことの無い一花の嬌声を想像する。
泣き顔を思い出す。
本当に嫌なことはしたくないけど、快感に抗った様に「いや。」って言う一花を無視して、虐め続ける。
俺の手で泣いて悶える一花。
あ、イきそう。
腰を速める。
一花。
一花。
一花。

「高橋さん、最低ですね。」

射精の瞬間、どこからか汐ちゃんの声がした。
俺はぐったりと美玲の上に倒れ込んで死にたい気持ちになった。
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