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第一章 白華の氷雨
都の兄妹
しおりを挟むひたすら都へ向かって馬を走らせた。
柊彗はどうなっただろうかーーー。
先ほどの光景が脳裏から離れない。
ーーー柊彗は滄の兵士の前に飛び出した直後、1番近くにいた兵士の首に一撃を入れ、一瞬で気絶させた。周りにいた兵士たちが、声を荒げる。
「侵入者だーーー!!!」
柊彗は周りにいた兵士が自分に気づいたことを確認し、東へと向かった。
「追えーーーっ!!」
「東へ向かうぞ!!」
見えない位置にもいたのか、思っていたより多くの兵士たちが一斉に集まってきて、柊彗が向かった方角へと走って行った。
少なくとも10人以上ーー、そのうち半分は銃を持っているように見えた。
兵士が見えなくなったところで目の前の道がガラ空きになった。
行くしかないーーー。
周りを見渡し、兵がいないことを確認し馬を静かに引いて隠れていた林から出た。あまり音をたてないよう足早に国境をこえ、茂みに隠れる。
周りは静かで、風が吹いて葉っぱが揺られる音しかしない。
兵士はいないようだ。
皆柊彗を追って行ったのかーーー。
私は馬に飛び乗り、茂みから出て走り出した。
一刻も早く都へ行き、白華へ頼りを出さなければーーー!
ーーーどれくらい走っただろうか。
国境付近では明け方であったが、今は1番日が高いーーー。
滄国は水源豊かな国と聞いていたが、確かに川や沢の数が多い。昔見た地図通りの地形であれば、今見えている山の向こうに海が広がっているだろうーーー。
あれだけの数の兵士がいたのだ。
滄国の兵士を傷つけず、ふりきって逃げることは不可能ーーー。
柊彗は翠へ引き返すこともできず、滄へ入ることもできない。囮になったあとは抵抗せず捕まるつもりだったのだろうーーー。
「早く助けださないとーーー」
滄は細長い地形の国であるため、国境から都まではそう遠くないはずーー。きっともう少しだ。
昨夜の休憩から飲まず食わず、水分もとっていない。
そのせいか、頭がボーッとしてあまり働かない。
手綱を持つ手が緩むーーー。
その瞬間
ドスッ
ズザザザザアアァァッッッッッッ
私の身体は宙にとばされ、馬は地面に打ち付けられるように転倒した。
ザァァァアアアッッ
私は道下の斜面へと投げ飛ばされ、全身を強打した。
「ッーーーーー」
馬が何かにつまづいたかーーー。
ろくに休ませず無理をさせてしまったからだーーーと、朦朧とする意識のなかで申し訳なさが浮かんできてーーーそして何もわからなくなった。
ーーーーー目を開けて最初に目に入ったのは少し焦げ茶色の木目だった。
天井ーーーーー?
「ーーーっっ」
見知らぬ周囲に思わず飛び起きた。
私はここで何をーーーーー?
「目が覚めたか!!」
「うわぁっっ」
突然後ろから聞こえた大きな声に驚き声が出た。
振り返るとそこには、水色の小綺麗な着物を着た青年がいた。
顔には何故か満面を笑みを浮かべている。
敵…ではなさそうにみえるけど…
「どちら様でしょうか」
私はどこかの寝台に寝かされていたようで、足元には白地に小花の刺繍が施された綺麗な布団まで掛けられていた。
「あぁ、名は青陽と言う!通りすがりの者だ!
たまたま妹と都の外に出て狩りでもしようかと言っていたところ、馬から投げ飛ばされる姿を目撃してな。都へ戻りこちらの宿に運びこみ、医者に見させたというわけだ」
ここは宿だったのかーー。
通りで整頓された部屋だと思った。
都へ入るにも通行証がいる。行き交う商人に紛れるしかないと思っていたがーーー都に入れたなら好都合だ。
「医者にまで呼んでいただいたのですね。親切にしていただき感謝致しますーーーっ…」
立ち上がり一礼しようとすると、身体の全身に鈍い痛みを感じた。
「立ち上がるな!全身を打ったんだ、身体が痛むだろう…」
目の前の男は私の姿を見ておろおろし、そう言った。
通りすがりの者がこんな親切をーー?
見たところ良家の者のようだが、施しのつもりだろうかーーー…
「ーー大丈夫です。急ぎますので私は失礼させていただきますね。このご恩はいつかまたーー」
そう言って足早に去ろうとした時、部屋の入り口の戸がバンっと開いた。
「目が覚めたのね!!」
またも大きな声…
青陽という青年によく似た美しい青みがかった髪、はつらつとしたその表情は瓜二つーー、
きっと狩りに一緒にでていたという妹だろう。
「私は青依って言うの!…わぁあ本当に美しいわ!真っ白な肌に絹のような髪!長いまつ毛にスッとした鼻、形のいいくちびる!お人形さんみたい!」
妹は寄ってくるや否や私の手を握り、傷だらけなのがかわいそう、と続けた。
ーーー私は全身から冷や汗がどっと出るのを感じた。
“絹のような髪ーーー“
私、今頭巾をかぶっていないーーー
この銀髪が目立たぬよう翠国からは髪を束ね頭巾を深く被っていたーーー。馬から落ちても脱げるような物ではない…医者に見せられた時脱がされたかーーー。
どうか、どうかこの兄妹が世間知らずの若者であってーーーーー心からそう願った。
「本当に助けて頂いて感謝いたします。この宿の者にも挨拶をして参りますね」
そう言って妹君の手を握り返し笑顔を作り、今開けられた戸の方へ向かおうとした。
「そのまま帰ってこない気では?」
先程までの様子とは違う、真剣で僅かに殺気のある男の声とともに、背中に何か突きつけられているのを感じた。
この男は相当強いーーー。
「親切心で都へ運び込んだが、とんだ拾い物だったな。
高貴な身なりには到底見えない。ーーーしかしこの大陸でそんな銀髪を持つのは、白華の王族である証」
やはりバレていたーーー
どうする、入り口から逃げても外に仲間がいないとも限らない。
この者たちの目的はなんだーーーーー
平静を装い考えを巡らせる。
ーーー背中に当てられた剣先から全身に圧を感じながら、ゆっくりと男の方に振り返る。
男は不安気な妹君を庇うように立ち、まっすぐに私へ剣先を向けていた。
「白華の王族が、どうやって、何の目的で滄国へ侵入したのだ。答えによっては、その命を保証できないーーー」
王族とバレた以上その場しのぎの嘘は通用しないーーー。
だがこの者たちの正体と目的がわからなければ、全てを洗いざらい話すことも危険。
まだ白華にいた幼い頃、王族の庶子を高値で取引しようとする賊が流行っているという密かな噂があった。ーーー良家の身なりに見えていても、賊でないとは言い切れないーー。
どうするか決めあぐねていたーーーーーその時、男が向ける剣の鍔が目に入った。
これはーーーーーーー
天の助けだと、
そう思った。
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