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第Ⅰ章 明暗分かれる姉妹 ~The Doppelgangers~
#14 闇の逃避行 その1
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「居たぞ、こっちだ!」
「急げ!」
薄闇に包まれた広い廊下に、殺気を伴った怒号が飛び交う。
進行方向の通路からも、駆け抜けてきた通路からも、武装した聖騎士が続々と出て来る。
冥獄墓所を脱出した私とダスクは、案の定、早々に聖騎士団に追われる羽目になった。
「大聖堂に土足で踏み入るとは、神をも恐れぬ奸賊共め!」
『儀式』で召喚された私も、墓所に葬られていたダスクも断じて「侵入者」ではないのだが、そんな弁解をしている余裕など無く、そもそも彼らは聞く耳など持たない。
「失せろ」
そんな彼らを、ダスクは圧倒的な強さで次々に蹴散らしていく。
戦いのことなど何一つ分からない私だが、ダスクのあの戦闘力が単にヴァンパイアとしての能力に依存したものではなく、人間時代から備えていた超人的な技量と掛け合わせた、正真正銘の「強さ」だということだけは理解できた。
だからこそ、同じく戦闘のプロである聖騎士が束になっても歯が立たないのだ。
「ぐああああ……ッ」
投げ付けられた仲間の死体が直撃、若い騎士が両脚を折られて転倒する。
見た所、ラウルやザッキスと同年代で、他の者に比べて緊張と恐怖の色が濃かったことから、聖騎士になってまだ日が浅い新米ではないかと推測する。
しかし、そんな彼にもダスクは容赦無く剣を振り下ろそうとする。
「あの、待って下さい……!」
考えるより先に、私は間に割って入っていた。
「どうした、カグヤ」
「せめて……命までは取らずに済ませては頂けませんか?」
両親と教主を手に掛けてしまった私が言えることではないかも知れないが──否、手に掛けてしまったからこそ、誰かが殺されるような事態は、それが例え敵であっても回避したい。
襲って来る者を自衛のために返り討ちにするのは、相手も覚悟の上で挑んで来ているのだから、ある程度は仕方無いと割り切っているが、それでも死者は少ないに越したことは無い。
そんな私の想いを聞いたダスクは、困惑と呆れが入り混じった様相を呈し、
「……無用の殺生を良しとしないのは俺も同じだ。しかしここは戦場、気遣うべきは自分や味方であって敵じゃない」
予想はしていたが、ダスクの態度は否定的だ。
戦場での経験豊富なダスクの言葉と、戦場を知らずに生きてきた私の言葉では、重みが全く違う。
歴戦の戦士からすれば、素人の言葉など只の甘い理想でしかないのだろう。
「……だが、まあいいだろう。こいつは貧血程度で済ませてやる」
そう言って若い聖騎士の首筋に指を突き刺し、死なない程度の量の血を吸い取り始めた。
「う、ぐぅ……こ、この、ヴァンパイア、めが……ッ」
血を吸い取られて意識を失う寸前、聖騎士が何かを取り出して投げ付けた。
ダスクの顔面を狙っていたが、反撃は想定していたらしく、ヒョイと首を動かしただけで簡単に避けてしまった。
目標を失った投擲物は、壁に当たってガシャンと砕け、中に入っていた液体を撒き散らす。
「何ですか……? 何か、薬品の入った小瓶でしょうか……?」
陶製の小瓶で、容量はせいぜいグラス一杯分と言った所か。
中身はぼんやりと発光する水だった。
「あれは『聖水』だ」
「聖水……?」
元の世界にもそう呼ばれるものはあったが、結局は単なる水でしかなかった。
しかしどうやら、この世界では何らかの魔法効果を持つものらしい。
「……知らないのか? 聖水は別名を『太陽水』と言い、アンデッドに対して特効を持つ。遺体に掛けて清めればアンデッド化を防ぎ、アンデッドに浴びせれば硫酸のようにその身を溶かし激痛を与える」
「す、すみません、私は、その……とても遠い所から連れて来られたもので、常識を全く知らないのです……」
異世界から召喚された、などと打ち明けても、混乱するばかりで信じては貰えないだろう。
「聖騎士の制式装備も聖水に浸して作られている。ヴァンパイアは脳さえ無事なら、例え心臓を貫かれようと短時間で修復する不死身だが、聖水による傷はその限りではない」
不死身のヴァンパイアの息の根を完全に止める方法は、脳髄の破壊、太陽光の照射、聖水による融解──この三通りらしい。
日の出までは充分な時間があるので、頭部への攻撃と聖水にさえ警戒していれば、ダスクの戦闘力であれば簡単に倒される心配は無いと思われる。
「……しかし、やはり妙だ」
「何がでしょう?」
「最初に墓所で始末した聖騎士、俺は奴らの聖甲冑にダメージ覚悟で触れた。アンデッドが聖水やそれを染み込ませた武具に直に触れれば、たちまち皮膚が焼け爛れるはずだが、実際は大したダメージは無く、その傷もあっと言う間に癒えた」
「そう言えば、冥獄墓所に葬られていたあなたの遺体は、アンデッド化しないよう聖水で清められていたはず、とも仰っていましたが……だとすると、あなたは聖水に対して多少なりとも耐性を持っている、ということになるのでしょうか?」
「恐らくな。これが単なる個人差なのか、それとも何か別の力が働いたためなのかは分からないが……」
そこで言葉を区切り、ダスクがこちらに視線を向ける。
「もう一度訊くが……君が何かしたのか?」
「い、いえ……」
「では何故あの墓所に居た? 扉も閉まっていたのにどうやって入った? 墓所に進入したのも、俺をヴァンパイアにしたのも、君が何らかの魔法を使ったからとしか思えないんだが……」
私の周りで不思議な現象が立て続けに起こっているのは確かだが、それは私の力と意志によるものではないはずだ。
「急げ!」
薄闇に包まれた広い廊下に、殺気を伴った怒号が飛び交う。
進行方向の通路からも、駆け抜けてきた通路からも、武装した聖騎士が続々と出て来る。
冥獄墓所を脱出した私とダスクは、案の定、早々に聖騎士団に追われる羽目になった。
「大聖堂に土足で踏み入るとは、神をも恐れぬ奸賊共め!」
『儀式』で召喚された私も、墓所に葬られていたダスクも断じて「侵入者」ではないのだが、そんな弁解をしている余裕など無く、そもそも彼らは聞く耳など持たない。
「失せろ」
そんな彼らを、ダスクは圧倒的な強さで次々に蹴散らしていく。
戦いのことなど何一つ分からない私だが、ダスクのあの戦闘力が単にヴァンパイアとしての能力に依存したものではなく、人間時代から備えていた超人的な技量と掛け合わせた、正真正銘の「強さ」だということだけは理解できた。
だからこそ、同じく戦闘のプロである聖騎士が束になっても歯が立たないのだ。
「ぐああああ……ッ」
投げ付けられた仲間の死体が直撃、若い騎士が両脚を折られて転倒する。
見た所、ラウルやザッキスと同年代で、他の者に比べて緊張と恐怖の色が濃かったことから、聖騎士になってまだ日が浅い新米ではないかと推測する。
しかし、そんな彼にもダスクは容赦無く剣を振り下ろそうとする。
「あの、待って下さい……!」
考えるより先に、私は間に割って入っていた。
「どうした、カグヤ」
「せめて……命までは取らずに済ませては頂けませんか?」
両親と教主を手に掛けてしまった私が言えることではないかも知れないが──否、手に掛けてしまったからこそ、誰かが殺されるような事態は、それが例え敵であっても回避したい。
襲って来る者を自衛のために返り討ちにするのは、相手も覚悟の上で挑んで来ているのだから、ある程度は仕方無いと割り切っているが、それでも死者は少ないに越したことは無い。
そんな私の想いを聞いたダスクは、困惑と呆れが入り混じった様相を呈し、
「……無用の殺生を良しとしないのは俺も同じだ。しかしここは戦場、気遣うべきは自分や味方であって敵じゃない」
予想はしていたが、ダスクの態度は否定的だ。
戦場での経験豊富なダスクの言葉と、戦場を知らずに生きてきた私の言葉では、重みが全く違う。
歴戦の戦士からすれば、素人の言葉など只の甘い理想でしかないのだろう。
「……だが、まあいいだろう。こいつは貧血程度で済ませてやる」
そう言って若い聖騎士の首筋に指を突き刺し、死なない程度の量の血を吸い取り始めた。
「う、ぐぅ……こ、この、ヴァンパイア、めが……ッ」
血を吸い取られて意識を失う寸前、聖騎士が何かを取り出して投げ付けた。
ダスクの顔面を狙っていたが、反撃は想定していたらしく、ヒョイと首を動かしただけで簡単に避けてしまった。
目標を失った投擲物は、壁に当たってガシャンと砕け、中に入っていた液体を撒き散らす。
「何ですか……? 何か、薬品の入った小瓶でしょうか……?」
陶製の小瓶で、容量はせいぜいグラス一杯分と言った所か。
中身はぼんやりと発光する水だった。
「あれは『聖水』だ」
「聖水……?」
元の世界にもそう呼ばれるものはあったが、結局は単なる水でしかなかった。
しかしどうやら、この世界では何らかの魔法効果を持つものらしい。
「……知らないのか? 聖水は別名を『太陽水』と言い、アンデッドに対して特効を持つ。遺体に掛けて清めればアンデッド化を防ぎ、アンデッドに浴びせれば硫酸のようにその身を溶かし激痛を与える」
「す、すみません、私は、その……とても遠い所から連れて来られたもので、常識を全く知らないのです……」
異世界から召喚された、などと打ち明けても、混乱するばかりで信じては貰えないだろう。
「聖騎士の制式装備も聖水に浸して作られている。ヴァンパイアは脳さえ無事なら、例え心臓を貫かれようと短時間で修復する不死身だが、聖水による傷はその限りではない」
不死身のヴァンパイアの息の根を完全に止める方法は、脳髄の破壊、太陽光の照射、聖水による融解──この三通りらしい。
日の出までは充分な時間があるので、頭部への攻撃と聖水にさえ警戒していれば、ダスクの戦闘力であれば簡単に倒される心配は無いと思われる。
「……しかし、やはり妙だ」
「何がでしょう?」
「最初に墓所で始末した聖騎士、俺は奴らの聖甲冑にダメージ覚悟で触れた。アンデッドが聖水やそれを染み込ませた武具に直に触れれば、たちまち皮膚が焼け爛れるはずだが、実際は大したダメージは無く、その傷もあっと言う間に癒えた」
「そう言えば、冥獄墓所に葬られていたあなたの遺体は、アンデッド化しないよう聖水で清められていたはず、とも仰っていましたが……だとすると、あなたは聖水に対して多少なりとも耐性を持っている、ということになるのでしょうか?」
「恐らくな。これが単なる個人差なのか、それとも何か別の力が働いたためなのかは分からないが……」
そこで言葉を区切り、ダスクがこちらに視線を向ける。
「もう一度訊くが……君が何かしたのか?」
「い、いえ……」
「では何故あの墓所に居た? 扉も閉まっていたのにどうやって入った? 墓所に進入したのも、俺をヴァンパイアにしたのも、君が何らかの魔法を使ったからとしか思えないんだが……」
私の周りで不思議な現象が立て続けに起こっているのは確かだが、それは私の力と意志によるものではないはずだ。
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