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第Ⅰ章 明暗分かれる姉妹 ~The Doppelgangers~
#18 闇の逃避行 その5
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高い壁の頂上に到達して、私たちは景色を一望する。
初めて目の当たりにする、異世界の広大な景色。
「王都エルザンパール、か……。随分と街並みが立派になったな」
夜色に染まった海に隔てられた対岸、本土に広がっていたのは、光り輝く大きな街並み。
銀河のように灯る光は電気ではなく、キャンドルの火か、でなければ魔法によるものだろう。
「綺麗……」
絵ハガキのように幻想的で美しい、煌めき広がる大都市の夜景に、こんな状況だというのに眼を奪われ、溜め息が出てしまった。
「あの大きな建物は、もしかして……」
先程の大聖堂以上に巨大な建造物が山の如く聳えていた。
「王宮だ。あそこにこのウルヴァルゼ王国を統治する国王が居る」
指を差して私に説明するダスクの横顔は、睨み付けるように険しいものだった。
国家反逆罪で処刑されたという彼だから、皇族に対して良い感情を抱いてはいないことは想像が付くが──気になるのは「王都」「王宮」「王国」「国王」という言葉。
このウルヴァルゼ帝国は、かつては王国を称していたとラモン教皇たちが言っていたため、ダスクはその時代の生まれと見て間違い無さそうだ。
「俺たちが今居るサウレス=サンジョーレ曙光島は、島全体が栄耀教会の直轄領となっていて、王都がある本土とは、あのサンジョーレ渡島橋か船舶で行き来している」
その通り、数百メートルはある長大な橋が帝都エルザンパールまで真っ直ぐ続いていた。
「次はあの橋を渡って本土へ行く。モタモタしていると橋を封鎖されかねない。しっかり掴まってろよ」
「は、はい……」
再びダスクが私をヒョイと抱き上げたかと思うと、次の瞬間には壁を蹴って飛び降りていた。
否、飛び降りると言うよりも、数十メートルの距離をムササビの如く滑空したのだから、ほとんど飛んでいたと言ってもいいかも知れない。
当然ながら恐怖を感じたが、迂闊な悲鳴を上げてこちらの存在を気取られないよう、私は歯を必死で食い縛っていた。
「ん? 何──ぐぎゃ……ッ!?」
橋の警備に当たっていた聖騎士をクッション代わりに踏み付け、私たちは着地する。
そこからのダスクの動きは迅速だった。
抱えていた私を素早く放り捨て、周りに居た聖騎士に先制攻撃、あっと言う間にその命を奪い去って周囲の安全を確保した。
「ダスクさん、そちらに馬が居ます!」
「よし。使わせて貰おう」
流石のダスクでも、聖騎士に追撃される中、私を抱えながらこの長い橋を渡り切るのは至難の業だ。
「居たぞ! 逃がすな!」
私たちを捕捉した聖騎士団が向かって来るが、もう相手をする必要は無い。
「一気に駆け抜けるぞ」
「はい……!」
聖騎士団が追撃の態勢を整える前に馬に乗り、全速力でサンジョーレ渡島橋を駆け抜ける。
生まれて初めての乗馬は、ダスクの腰にしがみ付くのに精一杯で、気分を味わったり、背後の追手や周りの景色を確認する余裕も無かった。
尚、他の馬は聖騎士団の追走を封じるためにダスクが全て処分──しようとしたのだが、可哀想だからと私が頼み込んだ所、騎乗に欠かせない馬具の破壊に留めてくれた。
「何とか橋を渡り切れましたね」
追撃を受けることも無く、光り輝く街が目前に迫る。
「無事に逃げ切るまで安心するな。ここからは徒歩だ」
馬を乗り捨て、私とダスクは街中へ逃げ込んだ。
大国の首都だからなのか、街は夜でも明るかった。
だが、明るい大通りは私たちが進むべき道ではない。
家屋と家屋の間から時折大通りの様子を確かめると、聖騎士たちが厳しい顔で酒場の店主や露店の商人たちに問い詰めているのが見えた。
声など聞こえずとも、質問の内容を私たちは知っている。
そうやって観察を絶やさず、拾ったフード付きマントを寝間着の上に羽織り、私たちは闇の裏通りを密かに進む。
「後ろはどうだ?」
「大丈夫です。尾行はありません」
聖騎士団の動きが予想以上に速く、いずれこの裏通りにもやって来るだろう。
「あの、どこへ向かっているのですか?」
ダスクの走り方から、当ても無く逃げ回っている訳ではないことだけは分かる。
「運河だ。ここエルザンパールは水運で栄えた水の都。複雑に絡み合った運河を、常に輸送船が往来している。陸路を進むよりも目立たない」
私の頭に浮かんだのは、死ぬ前に一度行ってみたいと写真や映像で羨むしか無かった、イタリアのヴェネツィアの景観だ。
「運河を下り、まずは王都外縁部にある下町を目指す。都市というのは中心部から離れるほど税率が下がり、市民の生活や治安のレベルも下がるからな。聖騎士団は貴族出身者のみで構成されるため、主に貴族街で活動していて下町には不慣れのはず。追跡を振り切るならそこだ」
下町に逃げ込んで日中を過ごし、夜になったら再び運河を通って帝都を脱出するというのがダスクの計画だ。
その為にはまず舟を手に入れる必要があり、だからこそダスクは舟着き場を目指していた。
酒場の隣に置かれた酒樽の陰から、目当ての舟着き場の様子を窺う。
「見て下さい、舟着き場に聖騎士が居ます」
「……読まれていたか。だが三人程度なら問題無い」
時間を掛けると警戒が厳しくなる。
初めて目の当たりにする、異世界の広大な景色。
「王都エルザンパール、か……。随分と街並みが立派になったな」
夜色に染まった海に隔てられた対岸、本土に広がっていたのは、光り輝く大きな街並み。
銀河のように灯る光は電気ではなく、キャンドルの火か、でなければ魔法によるものだろう。
「綺麗……」
絵ハガキのように幻想的で美しい、煌めき広がる大都市の夜景に、こんな状況だというのに眼を奪われ、溜め息が出てしまった。
「あの大きな建物は、もしかして……」
先程の大聖堂以上に巨大な建造物が山の如く聳えていた。
「王宮だ。あそこにこのウルヴァルゼ王国を統治する国王が居る」
指を差して私に説明するダスクの横顔は、睨み付けるように険しいものだった。
国家反逆罪で処刑されたという彼だから、皇族に対して良い感情を抱いてはいないことは想像が付くが──気になるのは「王都」「王宮」「王国」「国王」という言葉。
このウルヴァルゼ帝国は、かつては王国を称していたとラモン教皇たちが言っていたため、ダスクはその時代の生まれと見て間違い無さそうだ。
「俺たちが今居るサウレス=サンジョーレ曙光島は、島全体が栄耀教会の直轄領となっていて、王都がある本土とは、あのサンジョーレ渡島橋か船舶で行き来している」
その通り、数百メートルはある長大な橋が帝都エルザンパールまで真っ直ぐ続いていた。
「次はあの橋を渡って本土へ行く。モタモタしていると橋を封鎖されかねない。しっかり掴まってろよ」
「は、はい……」
再びダスクが私をヒョイと抱き上げたかと思うと、次の瞬間には壁を蹴って飛び降りていた。
否、飛び降りると言うよりも、数十メートルの距離をムササビの如く滑空したのだから、ほとんど飛んでいたと言ってもいいかも知れない。
当然ながら恐怖を感じたが、迂闊な悲鳴を上げてこちらの存在を気取られないよう、私は歯を必死で食い縛っていた。
「ん? 何──ぐぎゃ……ッ!?」
橋の警備に当たっていた聖騎士をクッション代わりに踏み付け、私たちは着地する。
そこからのダスクの動きは迅速だった。
抱えていた私を素早く放り捨て、周りに居た聖騎士に先制攻撃、あっと言う間にその命を奪い去って周囲の安全を確保した。
「ダスクさん、そちらに馬が居ます!」
「よし。使わせて貰おう」
流石のダスクでも、聖騎士に追撃される中、私を抱えながらこの長い橋を渡り切るのは至難の業だ。
「居たぞ! 逃がすな!」
私たちを捕捉した聖騎士団が向かって来るが、もう相手をする必要は無い。
「一気に駆け抜けるぞ」
「はい……!」
聖騎士団が追撃の態勢を整える前に馬に乗り、全速力でサンジョーレ渡島橋を駆け抜ける。
生まれて初めての乗馬は、ダスクの腰にしがみ付くのに精一杯で、気分を味わったり、背後の追手や周りの景色を確認する余裕も無かった。
尚、他の馬は聖騎士団の追走を封じるためにダスクが全て処分──しようとしたのだが、可哀想だからと私が頼み込んだ所、騎乗に欠かせない馬具の破壊に留めてくれた。
「何とか橋を渡り切れましたね」
追撃を受けることも無く、光り輝く街が目前に迫る。
「無事に逃げ切るまで安心するな。ここからは徒歩だ」
馬を乗り捨て、私とダスクは街中へ逃げ込んだ。
大国の首都だからなのか、街は夜でも明るかった。
だが、明るい大通りは私たちが進むべき道ではない。
家屋と家屋の間から時折大通りの様子を確かめると、聖騎士たちが厳しい顔で酒場の店主や露店の商人たちに問い詰めているのが見えた。
声など聞こえずとも、質問の内容を私たちは知っている。
そうやって観察を絶やさず、拾ったフード付きマントを寝間着の上に羽織り、私たちは闇の裏通りを密かに進む。
「後ろはどうだ?」
「大丈夫です。尾行はありません」
聖騎士団の動きが予想以上に速く、いずれこの裏通りにもやって来るだろう。
「あの、どこへ向かっているのですか?」
ダスクの走り方から、当ても無く逃げ回っている訳ではないことだけは分かる。
「運河だ。ここエルザンパールは水運で栄えた水の都。複雑に絡み合った運河を、常に輸送船が往来している。陸路を進むよりも目立たない」
私の頭に浮かんだのは、死ぬ前に一度行ってみたいと写真や映像で羨むしか無かった、イタリアのヴェネツィアの景観だ。
「運河を下り、まずは王都外縁部にある下町を目指す。都市というのは中心部から離れるほど税率が下がり、市民の生活や治安のレベルも下がるからな。聖騎士団は貴族出身者のみで構成されるため、主に貴族街で活動していて下町には不慣れのはず。追跡を振り切るならそこだ」
下町に逃げ込んで日中を過ごし、夜になったら再び運河を通って帝都を脱出するというのがダスクの計画だ。
その為にはまず舟を手に入れる必要があり、だからこそダスクは舟着き場を目指していた。
酒場の隣に置かれた酒樽の陰から、目当ての舟着き場の様子を窺う。
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