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第Ⅱ章 暗黒に生まれし者達 ~Out of Heaven~
#27 夜に輝く闇の力
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「そんなことが……」
修練場にやって来たエレノアに、私とダスク、ジェフは街で起きたことを説明した。
エレノアの傍らで、サリーも黙して話を聞いている。
「しかし、あまりに軽率な行動と言わざるを得ません。ジェフ、二人を止めるのがあなたの役割だったはずですよ。これで聖騎士団は地下水路を徹底的に探り回るでしょう。隠し通路やフェンデリン家の関与までは知られずとも、しばらくは水路を通れなくなります」
「ごめんよ、お婆ちゃん。でも収穫はあった。そうだよね、ダスク?」
「ああ」
私の魔力の解放条件が判明したと、ダスクは言った。
「鑑定水晶は持って来たか?」
「ええ。サリー」
「どうぞ」
エレノアに促され、進み出たサリーが鑑定水晶を差し出す。
「触れてみてくれ」
「はい……」
ダスクに言われるがまま、サリーが持つ水晶へ手を伸ばす。
最初は大聖堂、次は昼間、これで三度目の魔力鑑定だ。
前二度の鑑定では水晶は全く反応しなかったが、魔力解放条件が満たされている今なら、私の魔力に見合った反応を示すはず、とダスクは考えている。
彼の考えを信じ、恐る恐る触れた瞬間、
「…………何も起きないけど?」
これまでと何ら変わらず、鑑定水晶は沈黙したままだった。
「はて、おかしいな。俺の考え通りなら、水晶が反応するはずだったんだが、条件が違うのか……? ──いや、ひょっとしたら……」
予想に反した無反応に少し戸惑った様子のダスクだったが、すぐに何か閃いたようだった。
「エレノア、照明を落としてくれ。この修練場を暗くするんだ」
「……? 分かりました」
ダスクの意図を測りかねるエレノアだったが、言われた通りに照明を落として修練場を暗くした途端、
「きゃあ……ッ!?」
触れていた水晶が突如、反応を見せた。
昼間の鑑定で、ダスクが水晶に触れた時にも見せた、闇属性魔力を示す紫色の光。
それが再び迸り、修練場を妖しく照らし出した。
「な、何だこれ……! 凄い、凄過ぎる……!」
「まさか、これほどとは……ッ」
闇属性という点ではダスクと同じだが、しかし今放たれている光はあの時の比ではなかった。
眩しいどころか眼を開けてはいられないほどの光の暴力の中で、ジェフとエレノアが驚き興奮する声だけが耳に入る。
「カグヤ、一旦水晶から手を離せ……!」
「は、はい……!」
ダスクの指示に従って、速やかに水晶から手を離したが、
「ど、どうして? もう触れていないのに、光が収まりません……!」
「有り得ません。まさか、水晶の暴走……!?」
この中で最も魔法に精通しているエレノアでさえ、何が起きているのか理解できていないようだ。
全く収まる気配が無い光の中で、ピシッ、と小さな異音が聞こえた。
聞き違いかと思ったが、しかし音はピシピシと少しずつ大きくなっていく。
まるで大地震で地面に亀裂が入り、それが広がっていくような──
「まさか……全員気を付けろ……!」
何が起きるか直感的に察したダスクが呼び掛ける。
直後、パァーン、と甲高い音がして、力一杯地面に叩き付けたかのように、鑑定水晶が砕け散った。
「きゃっ……!」
咄嗟に顔を覆った腕に、飛び散った水晶の破片が当たる。
エレノアが元通り照明を点けると、後には原形を完全に失った水晶の残骸と、呆然とした五つの顔が浮かび上がった。
「…………ど、どうなってるんだ? 水晶が爆発したぞ……!? お婆ちゃん、これは一体……?」
「わ、分かりません……。ダスク、これもあなたの予想通りなのですか?」
「そんな訳が無いだろう。それなりの魔力反応が表れるとは思っていたが、まさかこんなことが起こるとは……」
提案したダスクでさえ、この結果に唖然としていた。
「サリーさん、大丈夫ですか……? 血が出ています。じっとして下さい」
「は、はい、大丈夫です。ありがとうございます……」
弾け飛んで来た破片で切ってしまったらしく、彼女の顔に巻かれた包帯が血で滲んでいたので、持っていたハンカチで傷口を拭ってあげた。
「しかし今の魔力、ひょっとするとテルサ以上かもね。彼女の鑑定では水晶にはヒビ一つ入らなかったのに……」
感じた光の凄まじさでも、ジェフの言う通りテルサを上回っていたように思う。
「単に水晶の質が違うだけじゃないのか?」
「確かに栄耀教会が所有する物には劣りますが、この水晶とて充分な高級品、大きな性能差はありません。それがまさか粉々になるなど、私も聞いたことがありません……」
どうやらエレノアの知識にある限り、鑑定によって水晶を破壊したのは私だけらしい。
「ダスク、カグヤの魔力の解放条件とは何なのですか?」
その場の全員が彼の答を待つ。
「『暗闇』だな。カグヤの魔力は暗い場所でのみ解放されるものだ。最初の解放も今回の解放も夜だったから、最初は『夜』という時間帯が解放条件なのかと思ったが、修練場を暗くした途端に水晶が反応し出した。前二度の魔力鑑定で無反応だったのは、どちらも明るい場所で行われたためだ」
暗所でのみ解放される闇属性の極大魔力。
それが私の秘めたる力。
「暗闇で解放される魔力、か……。そんなケース聞いたこと無いけど、確かに辻褄は合っているね。夜や暗所で効果が増す魔法もある訳だし」
「しかし、暗闇と一口に言っても、どの程度の闇ならば解放されるのでしょうか? それ次第では、夜ではなく夕暮れ時でも可能かも知れません。暗闇以外にも解放条件が無いとも限りませんし……」
魔術師二人が考え込むが、今後はそうした部分も検証していくのだろう。
「私の魔力量は、皆さんと比べてどのくらい上なのでしょうか?」
「そうだね……。僕の魔力量を仮に『百』とするならば、宮廷魔術師の平均魔力は『百五十』くらいかな。で、お婆ちゃんの魔力は『五百』で、お爺ちゃんは『千』って所だろうね」
オズガルドとエレノアの魔力は、この国の人間の中では最上位に分類されるようだ。
「その基準であれば、昼間の鑑定から推測するに、ダスクの魔力は『五千』と言った所でしょう」
「オズガルドさんの五倍、ですか……」
人間をやめたダスクは、やはり魔力も人間離れしている。
「だが、あくまでそれは魔力の量や規模に過ぎない。例え『五千』の力を持とうとも、それを引き出し、扱うための技術や経験が足りなければ『百』や『二百』にも劣る」
世界最高性能のレーシングカーでも、肝心のドライバーが素人では、F1レースで優勝するどころかマシンの性能に振り回されて事故を引き起こす。
「テルサの魔力は……観察していた僕の見立てでは、多分『十万』は超えてるんじゃないかと思う」
「十万、だと……!?」
それが本当ならばダスクの二十倍、驚くのも無理は無い。
「有り得ない、って思うだろう? 僕もそう思う。そんな異常な魔力を持っているのは、ドラゴンのような生態系最上位の魔物の中でも、特に強力な種くらいだろうからね。単体の生物が持てる魔力の限界を超えているよ」
しかし、大陸級の大災害である『邪神の息吹』を鎮められる人物として召喚されたのだから、そのくらいの力があっても不思議ではないのかも知れない。
「では、私の魔力はどのくらいなのでしょうか……?」
「水晶が壊れちゃったから、確かなことは言えないけど……う~ん、信じられないけど……ひょっとしたら『百万』以上はあるんじゃないかな」
「百万、ですか……!?」
テルサの桁外れの魔力の、更にその十倍などインフレーションも甚だしい。
「いや、こればかりは僕も本当に分からない。ほとんど当てずっぽうさ。お婆ちゃんはどう思う?」
「私にも確かなことは言えませんが、ジェフの言う通り、テルサをも凌駕しているのは間違い無いでしょう。何せ水晶が鑑定し切れず自壊してしまうほどなのですから……」
最大測定値どころか計器の耐久限界を遥かに超えた怪力で、握力計を握り砕いてしまったようなものなのだろう。
「もっと性能の良い水晶は無いのでしょうか?」
「そりゃ探せばあるだろうけど、多分結果は同じだと思うよ? 今壊した鑑定水晶でも百万マドルはする貴重品なんだから、また壊されたらたまらない。自腹で弁償できるって言うのなら調達するけど?」
「……遠慮させて頂きます」
私が破壊してしまった鑑定水晶の残骸は、サリーが箒と塵取りでせっせと掃除している最中だ。
オキガエルの串焼き五千本分もする貴重な魔導具も、粉々になってしまえば燃えないゴミでしかない。
「まあとにかく、これでカグヤの魔力の解放条件と属性が判明した訳ですから、今後はその魔力でどこまでのことができるか検証していきましょう」
力を活かすも殺すも使い手次第。
制御できない強大な力は、自分も他人も傷付ける諸刃の剣でしかない。
修練場にやって来たエレノアに、私とダスク、ジェフは街で起きたことを説明した。
エレノアの傍らで、サリーも黙して話を聞いている。
「しかし、あまりに軽率な行動と言わざるを得ません。ジェフ、二人を止めるのがあなたの役割だったはずですよ。これで聖騎士団は地下水路を徹底的に探り回るでしょう。隠し通路やフェンデリン家の関与までは知られずとも、しばらくは水路を通れなくなります」
「ごめんよ、お婆ちゃん。でも収穫はあった。そうだよね、ダスク?」
「ああ」
私の魔力の解放条件が判明したと、ダスクは言った。
「鑑定水晶は持って来たか?」
「ええ。サリー」
「どうぞ」
エレノアに促され、進み出たサリーが鑑定水晶を差し出す。
「触れてみてくれ」
「はい……」
ダスクに言われるがまま、サリーが持つ水晶へ手を伸ばす。
最初は大聖堂、次は昼間、これで三度目の魔力鑑定だ。
前二度の鑑定では水晶は全く反応しなかったが、魔力解放条件が満たされている今なら、私の魔力に見合った反応を示すはず、とダスクは考えている。
彼の考えを信じ、恐る恐る触れた瞬間、
「…………何も起きないけど?」
これまでと何ら変わらず、鑑定水晶は沈黙したままだった。
「はて、おかしいな。俺の考え通りなら、水晶が反応するはずだったんだが、条件が違うのか……? ──いや、ひょっとしたら……」
予想に反した無反応に少し戸惑った様子のダスクだったが、すぐに何か閃いたようだった。
「エレノア、照明を落としてくれ。この修練場を暗くするんだ」
「……? 分かりました」
ダスクの意図を測りかねるエレノアだったが、言われた通りに照明を落として修練場を暗くした途端、
「きゃあ……ッ!?」
触れていた水晶が突如、反応を見せた。
昼間の鑑定で、ダスクが水晶に触れた時にも見せた、闇属性魔力を示す紫色の光。
それが再び迸り、修練場を妖しく照らし出した。
「な、何だこれ……! 凄い、凄過ぎる……!」
「まさか、これほどとは……ッ」
闇属性という点ではダスクと同じだが、しかし今放たれている光はあの時の比ではなかった。
眩しいどころか眼を開けてはいられないほどの光の暴力の中で、ジェフとエレノアが驚き興奮する声だけが耳に入る。
「カグヤ、一旦水晶から手を離せ……!」
「は、はい……!」
ダスクの指示に従って、速やかに水晶から手を離したが、
「ど、どうして? もう触れていないのに、光が収まりません……!」
「有り得ません。まさか、水晶の暴走……!?」
この中で最も魔法に精通しているエレノアでさえ、何が起きているのか理解できていないようだ。
全く収まる気配が無い光の中で、ピシッ、と小さな異音が聞こえた。
聞き違いかと思ったが、しかし音はピシピシと少しずつ大きくなっていく。
まるで大地震で地面に亀裂が入り、それが広がっていくような──
「まさか……全員気を付けろ……!」
何が起きるか直感的に察したダスクが呼び掛ける。
直後、パァーン、と甲高い音がして、力一杯地面に叩き付けたかのように、鑑定水晶が砕け散った。
「きゃっ……!」
咄嗟に顔を覆った腕に、飛び散った水晶の破片が当たる。
エレノアが元通り照明を点けると、後には原形を完全に失った水晶の残骸と、呆然とした五つの顔が浮かび上がった。
「…………ど、どうなってるんだ? 水晶が爆発したぞ……!? お婆ちゃん、これは一体……?」
「わ、分かりません……。ダスク、これもあなたの予想通りなのですか?」
「そんな訳が無いだろう。それなりの魔力反応が表れるとは思っていたが、まさかこんなことが起こるとは……」
提案したダスクでさえ、この結果に唖然としていた。
「サリーさん、大丈夫ですか……? 血が出ています。じっとして下さい」
「は、はい、大丈夫です。ありがとうございます……」
弾け飛んで来た破片で切ってしまったらしく、彼女の顔に巻かれた包帯が血で滲んでいたので、持っていたハンカチで傷口を拭ってあげた。
「しかし今の魔力、ひょっとするとテルサ以上かもね。彼女の鑑定では水晶にはヒビ一つ入らなかったのに……」
感じた光の凄まじさでも、ジェフの言う通りテルサを上回っていたように思う。
「単に水晶の質が違うだけじゃないのか?」
「確かに栄耀教会が所有する物には劣りますが、この水晶とて充分な高級品、大きな性能差はありません。それがまさか粉々になるなど、私も聞いたことがありません……」
どうやらエレノアの知識にある限り、鑑定によって水晶を破壊したのは私だけらしい。
「ダスク、カグヤの魔力の解放条件とは何なのですか?」
その場の全員が彼の答を待つ。
「『暗闇』だな。カグヤの魔力は暗い場所でのみ解放されるものだ。最初の解放も今回の解放も夜だったから、最初は『夜』という時間帯が解放条件なのかと思ったが、修練場を暗くした途端に水晶が反応し出した。前二度の魔力鑑定で無反応だったのは、どちらも明るい場所で行われたためだ」
暗所でのみ解放される闇属性の極大魔力。
それが私の秘めたる力。
「暗闇で解放される魔力、か……。そんなケース聞いたこと無いけど、確かに辻褄は合っているね。夜や暗所で効果が増す魔法もある訳だし」
「しかし、暗闇と一口に言っても、どの程度の闇ならば解放されるのでしょうか? それ次第では、夜ではなく夕暮れ時でも可能かも知れません。暗闇以外にも解放条件が無いとも限りませんし……」
魔術師二人が考え込むが、今後はそうした部分も検証していくのだろう。
「私の魔力量は、皆さんと比べてどのくらい上なのでしょうか?」
「そうだね……。僕の魔力量を仮に『百』とするならば、宮廷魔術師の平均魔力は『百五十』くらいかな。で、お婆ちゃんの魔力は『五百』で、お爺ちゃんは『千』って所だろうね」
オズガルドとエレノアの魔力は、この国の人間の中では最上位に分類されるようだ。
「その基準であれば、昼間の鑑定から推測するに、ダスクの魔力は『五千』と言った所でしょう」
「オズガルドさんの五倍、ですか……」
人間をやめたダスクは、やはり魔力も人間離れしている。
「だが、あくまでそれは魔力の量や規模に過ぎない。例え『五千』の力を持とうとも、それを引き出し、扱うための技術や経験が足りなければ『百』や『二百』にも劣る」
世界最高性能のレーシングカーでも、肝心のドライバーが素人では、F1レースで優勝するどころかマシンの性能に振り回されて事故を引き起こす。
「テルサの魔力は……観察していた僕の見立てでは、多分『十万』は超えてるんじゃないかと思う」
「十万、だと……!?」
それが本当ならばダスクの二十倍、驚くのも無理は無い。
「有り得ない、って思うだろう? 僕もそう思う。そんな異常な魔力を持っているのは、ドラゴンのような生態系最上位の魔物の中でも、特に強力な種くらいだろうからね。単体の生物が持てる魔力の限界を超えているよ」
しかし、大陸級の大災害である『邪神の息吹』を鎮められる人物として召喚されたのだから、そのくらいの力があっても不思議ではないのかも知れない。
「では、私の魔力はどのくらいなのでしょうか……?」
「水晶が壊れちゃったから、確かなことは言えないけど……う~ん、信じられないけど……ひょっとしたら『百万』以上はあるんじゃないかな」
「百万、ですか……!?」
テルサの桁外れの魔力の、更にその十倍などインフレーションも甚だしい。
「いや、こればかりは僕も本当に分からない。ほとんど当てずっぽうさ。お婆ちゃんはどう思う?」
「私にも確かなことは言えませんが、ジェフの言う通り、テルサをも凌駕しているのは間違い無いでしょう。何せ水晶が鑑定し切れず自壊してしまうほどなのですから……」
最大測定値どころか計器の耐久限界を遥かに超えた怪力で、握力計を握り砕いてしまったようなものなのだろう。
「もっと性能の良い水晶は無いのでしょうか?」
「そりゃ探せばあるだろうけど、多分結果は同じだと思うよ? 今壊した鑑定水晶でも百万マドルはする貴重品なんだから、また壊されたらたまらない。自腹で弁償できるって言うのなら調達するけど?」
「……遠慮させて頂きます」
私が破壊してしまった鑑定水晶の残骸は、サリーが箒と塵取りでせっせと掃除している最中だ。
オキガエルの串焼き五千本分もする貴重な魔導具も、粉々になってしまえば燃えないゴミでしかない。
「まあとにかく、これでカグヤの魔力の解放条件と属性が判明した訳ですから、今後はその魔力でどこまでのことができるか検証していきましょう」
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制御できない強大な力は、自分も他人も傷付ける諸刃の剣でしかない。
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