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第Ⅱ章 暗黒に生まれし者達 ~Out of Heaven~
#36 魔法訓練
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「準備はできているかね?」
オズガルドがやって来た。
「今夜の訓練は外で行う」
「外、ですか。修練場ではできないのですか?」
「できなくはないが……あまり派手なことをすると家の者に気付かれかねないのでね。君の能力なら地下水路を通らずに帝都の外へ気軽に行ける」
地下水路や市内は今も聖騎士団や帝国騎士団が目を光らせているため、通行は不可能だ。
「それに、ついでに帝都の外の魔物を練習相手にして、狩っておこうと思ってね」
「魔物……」
この世界に来てから人間からは何度か襲われて来たが、本当の意味での魔物と遭遇したことは無い。
ヴァンパイアであるダスクは不死魔物だが、私やオズガルドたちは「人間」として接している。
できることなら危険な怪物などとは関わらずに生きていきたい、というのが本音だが、魔物が外界を闊歩するこの世界で生きていく以上、避けては通れない。
今の内に対処法を身に付けておくついでに、討伐すれば周辺の安全の確保にも繋がって一石二鳥、というのがダスクとオズガルドの考えなのだろう。
「邪魔な奴らは俺が蹴散らす。心配しなくていい」
「ありがとうございます」
ダスクとオズガルドが居て、私の空間転移があれば、何者に襲われようと最悪の事態にはならないはず。
「では帝都の外、十キロほど離れた地点まで頼む」
行ったことのある場所であれば、その景色を思い浮かべるだけでピンポイントで転移可能だが、行ったことの無い場所であっても、現在位置からのおおよその距離と方角が分かっていれば、その辺りへの転移が可能だ。
フェンデリン邸の地下室から、草原へ一瞬で転移。
遠くに帝都の光が見える。
「おやおや、早速お出迎えのようだ」
そう言ったオズガルドの視線の先には、いくつもの獰猛な眼差し。
唸り声と牙の数々。
「あれはヘルハウンドの群れだな。瘴気に当てられて狂暴化しているようだ」
『邪神の息吹』のせいで、あらゆる魔物が変異して狂暴化、または死体がアンデッド化することで、人々の営みや生態系に甚大な影響を及ぼしている。
聖騎士団や帝国騎士団、民間からは傭兵や冒険者がそれらの討伐に駆り出されるそうだが、大量発生することが多い上に発生地域も広く、財政も悪化しているせいで危険度に見合った報酬が払えないなどの理由で、思うように進んでいないのが現状だという。
「やれるかね?」
「一分あれば」
オズガルドの問いに、ダスクが平然と答える。
フェンデリン家所蔵の魔物大全の記述では、ヘルハウンドは野犬の魔物で、体長は一メートルと数十センチと、元の世界で見かけた大型犬と同じかそれを上回っている。
単体の危険度は他の魔物に比べて劣るヘルハウンドだが、集団による狩りを得意としているため、俊敏な動きと高度な連携の前に翻弄され、熟練の戦士でも命を落とすことが珍しくないという。
そんなヘルハウンドが、瘴気によって狂暴化、戦闘能力を増している。
本来であれば、即座に逃走を選択する場面なのだろうが、
「──まあ、こんなものか」
一分と経たない内に、獰猛なる魔獣の群れは草原の肥やしに成り果てた。
しかもアンデッド化しないよう、全ての首を切断するという徹底振りだ。
「相変わらずの強さですね……」
「太陽や聖水さえ絡まなければ、恐らくこの国で一対一で勝てる人間は居るまい」
邪魔な魔物が掃討された所で、オズガルドが収納魔法『亜空の秘蔵庫』から、一冊の本を取り出した。
「これが何か分かるかね?」
「それは……もしかして『魔導書』ですか? ジェフさんから聞きました。魔法情報の記録媒体で、魔力によってそれを読み取るのだとか……」
「正解だ」 ちなみに『魔導書』は何も書物だけとは限らず、巻物や石板、羊皮紙、水晶、時には紙切れ一枚だけということもあり、とにかく魔法情報が記録されていれば媒体を問わず『魔導書』と呼称するそうだ。
「これは我が家が所有する魔導書の一つで、主に闇属性の魔法が記録されている。君の魔力でこれらを『ダウンロード』して、それらを身に付けていこう」
「ダウンロード、ですか……」
ジェフやダスクから魔導書について初めて聞かされた時、その単語が出て来たことに驚いた。
魔導書に記録された魔法情報を読み取り、自らに導入するというその概念は、元の世界で行われていた、アプリケーションのダウンロードと全く同じだ。
加えて、ここへ来るに当たってオズガルドが「帝都から十キロほど離れた地点」と言ったことからも分かるように、このウルヴァルゼ帝国だけでなく、この異世界の全土では「メートル」や「グラム」といった、元の世界でも広く用いられていた単位が同様に浸透している。
気になってこれらについてエレノアに尋ねた所、彼女はこう答えた。
「正確な記録はありません。ですが、千年前の『古の大賢者』によって発明、考案されたと言われています」
その『古の大賢者』の正体は不明だが、私やテルサ、そして初代『聖女』と同じ世界の者である可能性が大きく、メートルなどの単位を始め、元の世界が由来と思われる技術や文化なども、その人物が発端ではないかと私は見ている。
「早速試してみよう。これを持って魔力を注げば、魔法情報が自然と流れ込んで来る」
「分かりました」
広辞苑のようにズシリと重い本を受け取り、指示通り魔力を注ぐと、反応した本が紫の光を放ち始めた。
「これは……ッ」
複数の映画のワンシーンだけを継ぎ接ぎにしたフィルムのような、見知らぬ人々が魔法を発動する様子が私の中に流れ込んで来る。
しかし、これは視覚で捉える「映像」ではない。
魔導書に記録された先人たちの「魔法体験」を、読み取って追体験しているのだ。
「はぁ……はぁ……」
追体験は終了、真っ暗な夜の光景が戻ってきた。
「大丈夫かね?」
「はい……」
言葉では言い表せない、何とも不思議な気分だった。
偉人の伝記を読破したからと言って、その人物と同じ能力が身に付いたりはしないが、魔導書はそれを可能とする。
「これでもう、この魔導書の魔法は全て使えるようになったのですか?」
「まだだよ。それらが使えるのは、それが記録された魔導書に触れている間だけだ。それを手にしたまま、繰り返し使い続けることでその魔法が少しずつ体に馴染んでいき、完了すれば魔導書無しでも使えるようになる」
これが魔導書による魔法習得の流れだ。
ただし個人の魔力や身体の適性によって、ダウンロードできても満足に発動できなかったり、ダウンロード自体が不完全なまま終わることもあるようだ。
「早速試してみよう。まずは『亜空の秘蔵庫』から」
「分かりました」
その魔法も今の魔導書の中に記録されていた。
「『亜空の秘蔵庫』」
名を唱えると、目の前の空間にぽっかりと黒い穴が空いたので、早速そこへ魔導書を放り込む。
「『亜空の秘蔵庫』」
もう一度発動すると、今入れた魔導書がポンと出て来た。
「うむ、魔導書無しでも使えるということは、ダウンロードが完了したということ。おめでとう、その魔法は完全に君のものとなった」
『亜空の秘蔵庫』は下級魔法故に、充分な魔力と適性さえあればダウンロード完了まで期間は掛からない。
他にもダウンロードが完了した魔法はあるが、級位の高い魔法のいくつかは未完了なので、魔導書を持ったまま繰り返し使っていく必要がある。
オズガルドがやって来た。
「今夜の訓練は外で行う」
「外、ですか。修練場ではできないのですか?」
「できなくはないが……あまり派手なことをすると家の者に気付かれかねないのでね。君の能力なら地下水路を通らずに帝都の外へ気軽に行ける」
地下水路や市内は今も聖騎士団や帝国騎士団が目を光らせているため、通行は不可能だ。
「それに、ついでに帝都の外の魔物を練習相手にして、狩っておこうと思ってね」
「魔物……」
この世界に来てから人間からは何度か襲われて来たが、本当の意味での魔物と遭遇したことは無い。
ヴァンパイアであるダスクは不死魔物だが、私やオズガルドたちは「人間」として接している。
できることなら危険な怪物などとは関わらずに生きていきたい、というのが本音だが、魔物が外界を闊歩するこの世界で生きていく以上、避けては通れない。
今の内に対処法を身に付けておくついでに、討伐すれば周辺の安全の確保にも繋がって一石二鳥、というのがダスクとオズガルドの考えなのだろう。
「邪魔な奴らは俺が蹴散らす。心配しなくていい」
「ありがとうございます」
ダスクとオズガルドが居て、私の空間転移があれば、何者に襲われようと最悪の事態にはならないはず。
「では帝都の外、十キロほど離れた地点まで頼む」
行ったことのある場所であれば、その景色を思い浮かべるだけでピンポイントで転移可能だが、行ったことの無い場所であっても、現在位置からのおおよその距離と方角が分かっていれば、その辺りへの転移が可能だ。
フェンデリン邸の地下室から、草原へ一瞬で転移。
遠くに帝都の光が見える。
「おやおや、早速お出迎えのようだ」
そう言ったオズガルドの視線の先には、いくつもの獰猛な眼差し。
唸り声と牙の数々。
「あれはヘルハウンドの群れだな。瘴気に当てられて狂暴化しているようだ」
『邪神の息吹』のせいで、あらゆる魔物が変異して狂暴化、または死体がアンデッド化することで、人々の営みや生態系に甚大な影響を及ぼしている。
聖騎士団や帝国騎士団、民間からは傭兵や冒険者がそれらの討伐に駆り出されるそうだが、大量発生することが多い上に発生地域も広く、財政も悪化しているせいで危険度に見合った報酬が払えないなどの理由で、思うように進んでいないのが現状だという。
「やれるかね?」
「一分あれば」
オズガルドの問いに、ダスクが平然と答える。
フェンデリン家所蔵の魔物大全の記述では、ヘルハウンドは野犬の魔物で、体長は一メートルと数十センチと、元の世界で見かけた大型犬と同じかそれを上回っている。
単体の危険度は他の魔物に比べて劣るヘルハウンドだが、集団による狩りを得意としているため、俊敏な動きと高度な連携の前に翻弄され、熟練の戦士でも命を落とすことが珍しくないという。
そんなヘルハウンドが、瘴気によって狂暴化、戦闘能力を増している。
本来であれば、即座に逃走を選択する場面なのだろうが、
「──まあ、こんなものか」
一分と経たない内に、獰猛なる魔獣の群れは草原の肥やしに成り果てた。
しかもアンデッド化しないよう、全ての首を切断するという徹底振りだ。
「相変わらずの強さですね……」
「太陽や聖水さえ絡まなければ、恐らくこの国で一対一で勝てる人間は居るまい」
邪魔な魔物が掃討された所で、オズガルドが収納魔法『亜空の秘蔵庫』から、一冊の本を取り出した。
「これが何か分かるかね?」
「それは……もしかして『魔導書』ですか? ジェフさんから聞きました。魔法情報の記録媒体で、魔力によってそれを読み取るのだとか……」
「正解だ」 ちなみに『魔導書』は何も書物だけとは限らず、巻物や石板、羊皮紙、水晶、時には紙切れ一枚だけということもあり、とにかく魔法情報が記録されていれば媒体を問わず『魔導書』と呼称するそうだ。
「これは我が家が所有する魔導書の一つで、主に闇属性の魔法が記録されている。君の魔力でこれらを『ダウンロード』して、それらを身に付けていこう」
「ダウンロード、ですか……」
ジェフやダスクから魔導書について初めて聞かされた時、その単語が出て来たことに驚いた。
魔導書に記録された魔法情報を読み取り、自らに導入するというその概念は、元の世界で行われていた、アプリケーションのダウンロードと全く同じだ。
加えて、ここへ来るに当たってオズガルドが「帝都から十キロほど離れた地点」と言ったことからも分かるように、このウルヴァルゼ帝国だけでなく、この異世界の全土では「メートル」や「グラム」といった、元の世界でも広く用いられていた単位が同様に浸透している。
気になってこれらについてエレノアに尋ねた所、彼女はこう答えた。
「正確な記録はありません。ですが、千年前の『古の大賢者』によって発明、考案されたと言われています」
その『古の大賢者』の正体は不明だが、私やテルサ、そして初代『聖女』と同じ世界の者である可能性が大きく、メートルなどの単位を始め、元の世界が由来と思われる技術や文化なども、その人物が発端ではないかと私は見ている。
「早速試してみよう。これを持って魔力を注げば、魔法情報が自然と流れ込んで来る」
「分かりました」
広辞苑のようにズシリと重い本を受け取り、指示通り魔力を注ぐと、反応した本が紫の光を放ち始めた。
「これは……ッ」
複数の映画のワンシーンだけを継ぎ接ぎにしたフィルムのような、見知らぬ人々が魔法を発動する様子が私の中に流れ込んで来る。
しかし、これは視覚で捉える「映像」ではない。
魔導書に記録された先人たちの「魔法体験」を、読み取って追体験しているのだ。
「はぁ……はぁ……」
追体験は終了、真っ暗な夜の光景が戻ってきた。
「大丈夫かね?」
「はい……」
言葉では言い表せない、何とも不思議な気分だった。
偉人の伝記を読破したからと言って、その人物と同じ能力が身に付いたりはしないが、魔導書はそれを可能とする。
「これでもう、この魔導書の魔法は全て使えるようになったのですか?」
「まだだよ。それらが使えるのは、それが記録された魔導書に触れている間だけだ。それを手にしたまま、繰り返し使い続けることでその魔法が少しずつ体に馴染んでいき、完了すれば魔導書無しでも使えるようになる」
これが魔導書による魔法習得の流れだ。
ただし個人の魔力や身体の適性によって、ダウンロードできても満足に発動できなかったり、ダウンロード自体が不完全なまま終わることもあるようだ。
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「分かりました」
その魔法も今の魔導書の中に記録されていた。
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名を唱えると、目の前の空間にぽっかりと黒い穴が空いたので、早速そこへ魔導書を放り込む。
「『亜空の秘蔵庫』」
もう一度発動すると、今入れた魔導書がポンと出て来た。
「うむ、魔導書無しでも使えるということは、ダウンロードが完了したということ。おめでとう、その魔法は完全に君のものとなった」
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