闇の聖女は夜輝く(魔力皆無で『聖女』認定されず命を狙われた彼女は、真の力で厄災と教団に立ち向かう)

尾久沖ちひろ

文字の大きさ
46 / 86
第Ⅱ章 暗黒に生まれし者達 ~Out of Heaven~

#45 瘴気満ちる暗黒の地

しおりを挟む
「お待たせしました」


 メイド服から着替え、サリーと共に地下の客室に戻ると、既に皆が集まっていた。
 ダスク、ジェフ、エレノア──この場に居ないのはオズガルドだけだが、それにも理由がある。


「丁度今、お爺ちゃんと通じている。全員、僕に触れて」


 言われ、皆でジェフに触れる。


 調教術師テイマーであるジェフは、使役する生物を通じて映像や音声を認識できる訳だが、そのジェフに触れていれば、彼の魔力を介して他人でも同じように視聴覚を共有し、会話も可能なのだ。


〈皆、聞こえるかな?〉


 眼を閉じると、そこに浮かび上がるのはオズガルドの顔。
 声もはっきりと鼓膜を震わせ、ガタガタという振動音や車輪の音が聞こえることから、今は馬車の中のようだ。


「大丈夫。ここに居る全員に聞こえてるよ、お爺ちゃん」
〈宜しい。あともう少し声を抑えてくれ。盗み見が発覚しては大問題だからな〉


 以前、オズガルドとジェフは一匹のトカゲを聖騎士に取り付けることで、『招聖の儀』とその後の魔力鑑定の様子を盗み見ていた訳だが、今やっているのはそれと同じだ。
 ジェフのトカゲをオズガルドが持ち歩き、その様子を遠く離れた私たちに見せている。


「あの……これから何か始まるのですか? 大旦那様は今どちらに……?」


 サリーだけは、今日のイベントについて聞かされていないようだった。


「オズは宮廷魔術団を率いて、栄耀教会の演習に同行しています」
「栄耀教会の演習に? 何故ですか?」


 オズガルド率いる宮廷魔術団は、かねてより栄耀教会とは仲が悪いはずなのに、何故行動を共にしているのか分からず、サリーの頭に疑問符が浮かぶ。


「この帝都から最も近い、地脈から大量の瘴気が滲出しんしゅつしている土地に赴き、私の妹──『聖女』テルサが実際に瘴気を浄化してみせるそうです」


 三百年前に召喚された初代『聖女』と同じく、『邪神の息吹』の発端となっている瘴気を浄化して貰う目的で、私とテルサはこの世界に召喚された。
 召喚が成功したあの日以来、テルサの身柄は栄耀教会によって、皇族ですら面会が叶わないほどに固くガードされ、その動向や暮らし振りは外部には一切伝わってはこなかったが、私のようにこの世界の知識や魔法の修得に励んでいたに違い無い。
 肝心の瘴気の浄化についても、こうして公開の機会を設けたということは、既に実証が済んでいると考えるべきだ。


「同行しているのは宮廷魔術団だけじゃないよ。皇族の方々や評議会議員、帝国騎士団の幹部、他にも大手の商人や有名な冒険者ギルドとかも同行してる。そうした有力者たちに彼女の力をお披露目するのが、今回の目的なんだ」
「要するに、栄耀教会の力が今後一層強大になることを強く印象付け、各方面に恭順を促すためのデモンストレーションという訳か」


 テルサの力が本物だと知れ渡れば、栄耀教会に正面から異を唱えられる者は居なくなる。


「だが『招聖の儀』の時は、オズガルドはラモン教皇によって追い返されたんだろう? よく同行が叶ったな」
「ええ。前回同様、宮廷魔術団を除け者にするつもりだったようですが、今回は私からレヴィア皇后様に働き掛けたお陰で、立ち会いを認めさせることができました」


 フフフ、とエレノアが勝利の笑みを浮かべる。
 そのような根回しを依頼でき、こうして引き受けて貰えたということは、エレノアとレヴィア皇后はかなり親密な間柄のようだ。


 やがてオズガルドを乗せた馬車が止まり、一行は目的地へと到着したようだ。


「何でしょうか、この景色は……」


 トカゲを通して見えてくる光景は、私の想像を超えていた。


 夕暮れ時とは全く異なる、まるで天が血に染まったかのような、禍々しく赤黒い風景。


 かつては緑生い茂る広大な森林であったと推測されるその場所は、葉が抜け落ちて枯れ果てた木々が、さながら墓標の如く立ち並ぶだけの土地だった。
 ひび割れた地面からは、どす黒い煙か蒸気、とでも言えばいいのか、得体の知れない物質が絶えず噴き出て辺りに拡散しており、その量があまりにも多いため、まだ昼間であるにも拘わらず、その一帯だけがまるで太陽を拒むかのような闇に呑まれてしまっていた。


 あれが『邪神の息吹』の原因となっている高濃度の闇属性魔素マナ──瘴気と考えて間違い無さそうだ。


「大量の瘴気が作り出す景色だ。大気も水も土も汚染された現世の地獄、あらゆる生命が朽ち果てた暗黒の領域。動いているのは変異魔物とアンデッドだけだ」


 三百年前の『邪神の息吹』も同様だったのだろう、重い口調でダスクが語る。


 遠く離れた私たちが接しているのは視覚と聴覚のみだが、どうやら相当に死臭が酷いらしく、人々は一様に吸気浄化マスクを着用しており、ここからでも白骨や腐敗した死骸らしきものが地表にいくつも窺えた。
 それも、動物や魔物のものではなく、明らかに人間と分かるものも多数。


「まあ、帝都に近いということは、ここはまだマシな地域なんだろう。三百年前はこれよりもっと深刻な所もあった」
「あまり想像したくないけど、眼を背けてもいられないんだよね。残念ながら」


 これ以上に酷い光景が他にも多く存在しているということに、私は改めて『邪神の息吹』というものの恐ろしさを思い知った。


 しかも、一行が到着して早速、変異魔物とアンデッドがどっと押し寄せて来た。
 オズガルドが居る場所の遥か手前で、聖騎士団や冒険者によって押さえ込まれたため、何が起きているのかは分からないが、相当な数と勢いということだけは伝わって来る。


〈聖騎士団の力を見せてやれ!〉
〈一歩も通すな! そして一匹たりとも逃がすな!〉


『邪神の息吹』が引き起こす中で、特に甚大な被害をもたらしているのが変異魔物とアンデッドの大量発生で、以前戦ったレンポッサ卿もそれで命を落としたと語っていた。


〈おい、突破されたぞ!〉
〈早く倒せ!〉
〈ミルファス殿下をお護りしろ! 絶対に近付けるな!〉


 しかし、如何に精鋭を揃えていても、数が多いため、それを越えてしまう魔物も中には居る。


「ミルファス殿下、とは?」


 ダスクがエレノアに問う。


「第三皇子殿下です。次期皇帝の位に最も近いと言われる御方です」
「第三皇子? 皇太子や第二皇子は居ないのか?」
「マイアス皇太子殿下は、十年以上前に変異魔物に襲われて逝去せいきょされました。以来、次期皇帝の座を巡って、第二皇子派と第三皇子派の間で対立が起こり、それが『邪神の息吹』への対応でも足並みを乱してしまっているのです」


 どんなに強大な権力も、跡目争いを機に衰退や崩壊が始まるのが歴史のお約束だ。


「第二皇子グラン殿下はあの場には居ない。ミルファス殿下の母君は、ラモン教皇やザッキスと同じズンダルク家の出身だから、栄耀教会はミルファス派だ。だからお爺ちゃんにやったように、競争相手となるグラン皇子とその派閥は今回の演習から外されちゃったんだ」


 ラモン教皇の縁者である第三皇子が皇位を継承すれば、栄耀教会の天下は確固たるものになる。


「皇帝陛下は『邪神の息吹』や、栄耀教会やテルサのことをどうお考えなのですか?」
「……正直、陛下はあまり優れた御方ではありません。それらについてお悩みのようですが、宰相や評議会も栄耀教会に傾いてしまっている現状、解決策を見出せておられないようです」


 日本の政治もそうだったが、リーダーシップを欠いた者が権力の頂点に立っていると、民衆は不安に包まれ、政治も安定しなくなる。
 そうした暗い時代こそ悪徳教団にとっては稼ぎ時であり、弱者たちは不安や迷いに付け込まれて洗脳され、奴隷に堕ちてなけなしの財産を吸い取られてしまうのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

​『追放された底辺付与術師、実は【全自動化】のチートスキル持ちでした〜ブラックギルドを追い出されたので、辺境で商会を立ち上げたら勝手に世界規

NagiKurou
ファンタジー
​「お前のような、一日中デスクに座って何もしない無能はクビだ!」 国内最大のギルド『栄光の剣』で、底辺の付与術師として働いていたアルスは、ある日突然、強欲なギルドマスターから追放を言い渡される。 しかし、彼らは知らなかった。ギルドの武器の自動修復、物流の最適化、資金管理に至るまで、すべてアルスの固有スキル【全自動化(ワークフロー構築)】によって完璧にシステム化され、回っていたことを。 「俺がいなくなったら、あの自動化システム、全部止まるけど……まあいいか」 管理権限を解除し、辺境へと旅立ったアルス。彼は自身のスキルを使って、圧倒的な耐久力を誇る銀色の四輪型重装ゴーレムを作り出し、気ままな行商を始める。 一度構築すれば無限に富を生み出す「全自動」のチートスキルで、アルスの商会は瞬く間に世界規模へとスケールしていく! 一方、すべてを失ったギルドは、生産ラインが崩壊し、絶望のどん底へと突き落とされていくのだった……。

異世界では地味な俺が、なぜか神々に最愛されて無双してる件

fuwamofu
ファンタジー
平凡な高校生・桐生ユウは、女神の手違いで異世界に転生した。 チートもスキルも貰えず、冒険者登録すらままならない落ちこぼれ……のはずだった。 しかし周囲の異常な好感度、意味不明な強運、そして隠された神格スキルによって、ユウは「無自覚に全能」な存在へと覚醒していく。 気づけば女神も姫騎士も魔王娘も彼に夢中。誤解と崇拝が加速する中、ユウの“地味な日常”は世界を揺るがす伝説になっていく。 笑いあり、胸キュンあり、ざまぁありの最強(なのに本人だけ気づいてない)異世界ファンタジー開幕!

追放された村人、実は神の隠し子でした~無自覚に最強を振りかざすだけの簡単なお仕事です~

にゃ-さん
ファンタジー
神からの加護を受けながらも、ただの村人だと思い込んでいた青年レオン。 ある日、嫉妬した領主に濡れ衣を着せられ、村を追放される。だが、その瞬間に封印された力が目覚め始めた。 無自覚のまま最強となり、助けた少女たちに慕われ、次々と仲間が増えていく。 そんなレオンが巻き起こすのは、世界を救う壮大な物語か、それともただの日常の延長か――。 「ざまぁ」も「救世」も、全部ついで。これは、最強なのに腰の低い男の物語。

元勇者は魔力無限の闇属性使い ~世界の中心に理想郷を作り上げて無双します~

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
ファンタジー
  魔王を倒した(和解)した元勇者・ユメは、平和になった異世界を満喫していた。しかしある日、風の帝王に呼び出されるといきなり『追放』を言い渡された。絶望したユメは、魔法使い、聖女、超初心者の仲間と共に、理想郷を作ることを決意。  帝国に負けない【防衛値】を極めることにした。  信頼できる仲間と共に守備を固めていれば、どんなモンスターに襲われてもビクともしないほどに国は盤石となった。  そうしてある日、今度は魔神が復活。各地で暴れまわり、その魔の手は帝国にも襲い掛かった。すると、帝王から帝国防衛に戻れと言われた。だが、もう遅い。  すでに理想郷を築き上げたユメは、自分の国を守ることだけに全力を尽くしていく。

辺境の落ちこぼれと呼ばれた少年、実は王も龍も跪く最強でした

たまごころ
ファンタジー
村で「落ちこぼれ」と呼ばれた少年アレン。魔法も剣も使えず、追放される運命だった。 だが彼の力は、世界の理そのものに干渉する“神級スキル”だった。 自覚のないまま危機を救い、美女を助け、敵を粉砕し、気づけば各国の王も、竜すらも彼に頭を下げる。 勘違いと優しさと恐るべき力が織りなす、最強無自覚ハーレムファンタジー、ここに開幕!

最弱スキル《リサイクル》で世界を覆す ~クラス追放された俺は仲間と共に成り上がる~

KABU.
ファンタジー
平凡な高校生・篠原蓮は、クラスメイトと共に突如異世界へ召喚される。 女神から与えられた使命は「魔王討伐」。 しかし、蓮に与えられたスキルは――《リサイクル》。 戦闘にも回復にも使えない「ゴミスキル」と嘲笑され、勇者候補であるクラスメイトから追放されてしまう。 だが《リサイクル》には、誰も知らない世界の理を覆す秘密が隠されていた……。 獣人、エルフ、精霊など異種族の仲間を集め、蓮は虐げられた者たちと共に逆襲を開始する。

辺境で静かに暮らしていた俺、実は竜王の末裔だったらしく気づけば国ができていた

平木明日香
ファンタジー
はるか五億四千万年前、この星は六柱の竜王によって治められていた。火・水・風・土・闇・光――それぞれの力が均衡を保ち、世界は一つの大きな生命のように静かに巡っていた。だが星の異変をきっかけに竜の力は揺らぎ、その欠片は“魂”となって新たな生命に宿る。やがて誕生した人類は文明を築き、竜の力を利用し、ついには六大陸そのものを巨大な封印装置へと変えて竜王を眠りにつかせた。 それから幾千年。 現代では六つの大国がそれぞれ封印を管理し、かろうじて世界の均衡を保っている。しかし各地で異常な魔獣が出現し、封印の揺らぎが噂されはじめていた。 そんな世界を気ままに旅する青年がいる。名はブラック・ドラグニル。三年前からハンターとして魔獣を討伐し、その肉を味わいながら各地を渡り歩く放浪者だ。規格外の実力を持ちながら名誉や地位には興味がなく、ただ「世界のうまいものを食べ尽くす」ことを楽しみに生きている。 ある日、光の王国ルミナリア近郊で王女ユリアナが大型魔獣に襲われる事件が起きる。死を覚悟した騎士団の前に現れたブラックは、その怪物をわずか数十秒で討ち倒す。彼にとっては雑魚同然だったが、その圧倒的な強さは王国中に知れ渡る。王女は自由に生きる彼の姿に心を奪われるが、ブラックは次の目的地へ向かう計画を練るばかり。 だが彼自身はまだ知らない。 自らが竜族の末裔であり、世界を再び“統合”へ導く鍵となる存在であることを。 竜の封印が揺らぐとき、自由を愛する青年は世界の命運を左右する選択を迫られる。 これは、竜の記憶と人の魂が交錯する壮大なファンタジー叙事譚である。

最強すぎて無職になりましたが、隣国の姫が勝手に嫁入りしてきました

eringi
ファンタジー
平凡なサラリーマン・佐藤亮は、満員電車で謎の光に包まれ異世界へ転移する。神様から「世界最強の力」を授かったはずが、本人はただの無職ニートとしか思っていない。冒険者ギルドで雑用を請け負う日々。そんな亮の周囲に、冷徹な騎士姫、天才魔導士、元盗賊の少女、竜人族の戦士など個性豊かな美少女たちが自然と集まってくる。一方、彼を「ただの運のいい凡人」と侮る貴族や悪徳商人たちは次々と痛快なざまぁ展開に。亮は「俺なんて大したことないのに」と呟きながら、気づけば国を揺るがす陰謀を解決し、世界を救うことに――。無自覚最強主人公による、爽快ハーレムファンタジー開幕!

処理中です...