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第Ⅱ章 暗黒に生まれし者達 ~Out of Heaven~
#46 旭日
魔物の掃滅が一段落した所で、ようやく主役の登場だ。
設営された壇上に登って、一同の前に現れたのは──
「あれが『聖女』テルサ……カグヤの妹か」
向日葵の装飾を用いた、神聖かつ威厳ある雰囲気を漂わせる白い衣装を纏い、髪も綺麗に整えて化粧も見事。
瘴気を浄化する聖なる乙女というイメージに相応しい、完璧な姿に仕上がっている。
「双子だけあって、確かに容貌はカグヤと同じですね」
ダスク、エレノア、サリーの三人は、テルサの顔を拝むのはこれが初めてだ。
「ですが、こんなにも神々しく着飾っていても、この方は嘘を並べてカグヤ様の暗殺を依頼されたのですよね……」
「……確かにそうですが、だからと言って私にはテルサを責めることはできません。彼女の怨恨は正当なものです」
サリーはテルサを否定的に見ているが、姉であろうと、両親を殺した者にはどんな手を使ってでも死の罰を与える、という復讐心は間違ったものではない。
「おお、あの方が噂の……」
「何と神々しく美しいのでしょう……」
この世の地獄に現出した、尊い光明そのものとも言うべき彼女の姿に、場の者たちが眼を奪われ、感嘆の息を漏らしていた。
「壇の下に居る護衛の聖騎士は、ゼルレーク聖騎士団長と、あのザッキスと、もう一人は確か団長の……」
「ゼルレーク団長の子息、ラウル氏だよ」
「大聖堂で一度見たが、こいつだけは他の聖騎士と比べて人間的にまともに思えたな」
ダスクもラウルのことは憶えていたようだ。
〈御一同、ご覧あれ。こちらに御座す御方こそ、我ら栄耀教会が異世界の『日出づる国』よりお招きした、テルサ・アケチ様。我らが崇め奉る光の主サウルより、光の極大魔力『旭日』を賜りし、救国の『聖女』様にございます〉
ラモン教皇の尊大な声が魔法で響き渡る。
〈皆様、お初にお目に掛かります。ご紹介に与りました、テルサでございます〉
栄耀教会の指導を受けて、『聖女』の名に恥じぬようにと練習を重ねてきたのだろう。
堂々とした挨拶を述べ、胸に手を当てて丁寧な一礼と、テルサの立ち居振る舞いも優雅で品が良い。
〈ご紹介に与りました、テルサでございます。本来であれば、この場にいらしてくれたことへの感謝、及び私の自己紹介や今後の抱負などを述べるべきなのかも知れませんが、こうしている間にも忌まわしき『邪神の息吹』は人々を苦しめ、多くの命が失われています。切迫した現況を鑑みて、速やかに『聖女』としての役割を全うし、皆様のご期待にお応えしたいと思うのですが、宜しいでしょうか?〉
居並んだ人々を見回して、テルサがそう尋ねると、
〈ええ。是非お願い致しますわ。『聖女』様の御力、是非とも我々にお見せ下さいませ〉
答えたのは、テルサからかなり近い距離に居た老貴婦人。
外套の留め金にウルヴァルゼ皇族の紋章が用いられているということは──
「エレノア様、もしかしてあの方が……」
「ええ。皇后レヴィア様です」
皇后の承諾を得たことで、ラモン教皇もテルサへ無言で頷く。
いよいよ、瘴気浄化の実演だ。
テルサが両手を伸ばし、瘴気で禍々しい色に染まった天へと向ける。
次の瞬間、彼女の全身からカメラのフラッシュを何百、或いは何千倍にしたかのような閃光が放たれる。
突然の光に凝視していた者たちが怯んだが、テルサは構わず魔力の解放を続行。
今度はカメラのフラッシュではなく、電球のような継続的な光が彼女から放たれる。
瘴気によって暗くなった場では、それは眺める人々の眼には一層神々しく映ったことだろう。
〈──日神サウルより賜りし、我が身に宿る『旭日』よ。忌まわしき瘴気を祓い、天地に救済の光を〉
胸の前で手を組み、テルサが祈りを捧げると、彼女が帯びていた光が波紋のように広域に拡散。
その光の波に触れた途端、立ち込めていたどす黒い瘴気がパッと散るように分解されたのが見えた。
全てが終わるまでに掛かった時間は、ほんの十数秒。
もう景色のどこにも暗黒は無く、本来の蒼さと清らかさを取り戻した空には、燦々と大地を照らす太陽。
「あれがテルサの力……光の極大魔力『旭日』……」
「まさかこれほどとはな……想像以上だ」
現場で直接眺めていた者たちも、目の前で起きた出来事に理解が追い付かず、開いた口が塞がらない様子だった。
「カグヤの闇の極大魔力が、周囲が暗く、かつ月が出ている時でなければ解放されないということは、テルサの光の極大魔力はその逆──明るく、かつ太陽が出ている時にしか使えないのかな?」
「どうでしょうか。充満した瘴気であの辺りは暗くなっていました。にも拘わらずあれほどの力を発揮できたということは、彼女の『旭日』にはそうした条件が無いのかも知れませんね」
魔力量に関しては、鑑定水晶を破壊した私の方が勝っているのかも知れないが、煩わしい解放条件が無いのであれば、使い勝手は『旭日』の方が上だろう。
いずれにせよ、この国と栄耀教会が求めたのは「瘴気を浄化する力」であり、テルサがそれを有していることはこれで明確になった。
〈──瘴気の浄化、完了致しました〉
向き直り、テルサが優雅に一礼する。
呆然としていた者たちが我に返り──そして、割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。
彼らの眼に宿るのは、希望、興奮、熱狂、感謝といった感情。
何せ五十年の間、ただただ耐えるしか無かった忌まわしい厄災を打ち破る、その眩い希望の光を目撃したのだから。
〈皆様、只今ご覧になられたように、これが『聖女』テルサ様の御力です。テルサ様の『旭日』こそ『邪神の息吹』に打ち克ち、五十年の長きに亘る暗黒の時代に終止符を打つ、唯一の光明。まさに今日この時から、ウルヴァルゼ帝国は克服の道を歩み始めたのです。皆様はその歴史的瞬間の目撃者。今一度、テルサ様に盛大な拍手を!〉
ラモン教皇に応じ、拍手が一段と大きくなる。
まるで代表曲を歌い終えた歌手のように、壇上のテルサがにこやかに手を振って、賛美のシャワーを存分に浴びていた。
〈如何でしたかな、フェンデリン総帥閣下。テルサ様の御力は?〉
拍手するオズガルドの元へ、鼻歌でも歌っているような様子のラモン教皇がやって来た。
〈……いやはや、全く驚きました。光の極大魔力『旭日』ですか……。私の魔力など足元にも及ばぬでしょう〉
ジェフは以前、オズガルドの魔力を仮に「千」と表すならば、テルサの『旭日』は「十万」以上だと分析していた。
〈今後テルサ様は『邪神の息吹』に見舞われた土地へ順次赴かれ、瘴気の源泉を浄化していくことになります。この国は長き闇から解放され、太陽の沈まぬ栄光の時代が戻る。総帥閣下もそう思いませぬか?〉
〈……然様ですな〉
第三皇子ミルファスに丁重にエスコートされ、テルサは来賓の貴族たち──恐らくはミルファス派の者たちと言葉を交わしている。
ミルファス皇子と仲の良い様子を見せ付けることで、栄耀教会と『聖女』テルサは彼の皇位継承を支持している、と周囲に印象付けようとしているのだ。
「栄耀教会と宮廷魔術団、ラモン教皇とオズガルド様はそれぞれ対立する間柄、ということでしたね。だとすると、テルサがフェンデリン領の瘴気を浄化するのは……」
「まず有り得ないだろうね。あったとしても後回しにされるか、相当に高い対価を要求されるのは間違い無い」
勿論これはフェンデリン家に限った話ではなく、栄耀教会に不都合な者全てが同じ選択を迫られることになる。
止む無く恭順して『邪神の息吹』を鎮めて貰うか。
頑なに恭順を拒んで『邪神の息吹』に苦しみ続けるか。
しかし、多くの者の命が懸かっているとなれば、最終的には前者を選ばざるを得ないだろう。
ウルヴァルゼ帝国に生きる者たちの命運は、『聖女』テルサを擁する栄耀教会の手に委ねられてしまっている。
設営された壇上に登って、一同の前に現れたのは──
「あれが『聖女』テルサ……カグヤの妹か」
向日葵の装飾を用いた、神聖かつ威厳ある雰囲気を漂わせる白い衣装を纏い、髪も綺麗に整えて化粧も見事。
瘴気を浄化する聖なる乙女というイメージに相応しい、完璧な姿に仕上がっている。
「双子だけあって、確かに容貌はカグヤと同じですね」
ダスク、エレノア、サリーの三人は、テルサの顔を拝むのはこれが初めてだ。
「ですが、こんなにも神々しく着飾っていても、この方は嘘を並べてカグヤ様の暗殺を依頼されたのですよね……」
「……確かにそうですが、だからと言って私にはテルサを責めることはできません。彼女の怨恨は正当なものです」
サリーはテルサを否定的に見ているが、姉であろうと、両親を殺した者にはどんな手を使ってでも死の罰を与える、という復讐心は間違ったものではない。
「おお、あの方が噂の……」
「何と神々しく美しいのでしょう……」
この世の地獄に現出した、尊い光明そのものとも言うべき彼女の姿に、場の者たちが眼を奪われ、感嘆の息を漏らしていた。
「壇の下に居る護衛の聖騎士は、ゼルレーク聖騎士団長と、あのザッキスと、もう一人は確か団長の……」
「ゼルレーク団長の子息、ラウル氏だよ」
「大聖堂で一度見たが、こいつだけは他の聖騎士と比べて人間的にまともに思えたな」
ダスクもラウルのことは憶えていたようだ。
〈御一同、ご覧あれ。こちらに御座す御方こそ、我ら栄耀教会が異世界の『日出づる国』よりお招きした、テルサ・アケチ様。我らが崇め奉る光の主サウルより、光の極大魔力『旭日』を賜りし、救国の『聖女』様にございます〉
ラモン教皇の尊大な声が魔法で響き渡る。
〈皆様、お初にお目に掛かります。ご紹介に与りました、テルサでございます〉
栄耀教会の指導を受けて、『聖女』の名に恥じぬようにと練習を重ねてきたのだろう。
堂々とした挨拶を述べ、胸に手を当てて丁寧な一礼と、テルサの立ち居振る舞いも優雅で品が良い。
〈ご紹介に与りました、テルサでございます。本来であれば、この場にいらしてくれたことへの感謝、及び私の自己紹介や今後の抱負などを述べるべきなのかも知れませんが、こうしている間にも忌まわしき『邪神の息吹』は人々を苦しめ、多くの命が失われています。切迫した現況を鑑みて、速やかに『聖女』としての役割を全うし、皆様のご期待にお応えしたいと思うのですが、宜しいでしょうか?〉
居並んだ人々を見回して、テルサがそう尋ねると、
〈ええ。是非お願い致しますわ。『聖女』様の御力、是非とも我々にお見せ下さいませ〉
答えたのは、テルサからかなり近い距離に居た老貴婦人。
外套の留め金にウルヴァルゼ皇族の紋章が用いられているということは──
「エレノア様、もしかしてあの方が……」
「ええ。皇后レヴィア様です」
皇后の承諾を得たことで、ラモン教皇もテルサへ無言で頷く。
いよいよ、瘴気浄化の実演だ。
テルサが両手を伸ばし、瘴気で禍々しい色に染まった天へと向ける。
次の瞬間、彼女の全身からカメラのフラッシュを何百、或いは何千倍にしたかのような閃光が放たれる。
突然の光に凝視していた者たちが怯んだが、テルサは構わず魔力の解放を続行。
今度はカメラのフラッシュではなく、電球のような継続的な光が彼女から放たれる。
瘴気によって暗くなった場では、それは眺める人々の眼には一層神々しく映ったことだろう。
〈──日神サウルより賜りし、我が身に宿る『旭日』よ。忌まわしき瘴気を祓い、天地に救済の光を〉
胸の前で手を組み、テルサが祈りを捧げると、彼女が帯びていた光が波紋のように広域に拡散。
その光の波に触れた途端、立ち込めていたどす黒い瘴気がパッと散るように分解されたのが見えた。
全てが終わるまでに掛かった時間は、ほんの十数秒。
もう景色のどこにも暗黒は無く、本来の蒼さと清らかさを取り戻した空には、燦々と大地を照らす太陽。
「あれがテルサの力……光の極大魔力『旭日』……」
「まさかこれほどとはな……想像以上だ」
現場で直接眺めていた者たちも、目の前で起きた出来事に理解が追い付かず、開いた口が塞がらない様子だった。
「カグヤの闇の極大魔力が、周囲が暗く、かつ月が出ている時でなければ解放されないということは、テルサの光の極大魔力はその逆──明るく、かつ太陽が出ている時にしか使えないのかな?」
「どうでしょうか。充満した瘴気であの辺りは暗くなっていました。にも拘わらずあれほどの力を発揮できたということは、彼女の『旭日』にはそうした条件が無いのかも知れませんね」
魔力量に関しては、鑑定水晶を破壊した私の方が勝っているのかも知れないが、煩わしい解放条件が無いのであれば、使い勝手は『旭日』の方が上だろう。
いずれにせよ、この国と栄耀教会が求めたのは「瘴気を浄化する力」であり、テルサがそれを有していることはこれで明確になった。
〈──瘴気の浄化、完了致しました〉
向き直り、テルサが優雅に一礼する。
呆然としていた者たちが我に返り──そして、割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。
彼らの眼に宿るのは、希望、興奮、熱狂、感謝といった感情。
何せ五十年の間、ただただ耐えるしか無かった忌まわしい厄災を打ち破る、その眩い希望の光を目撃したのだから。
〈皆様、只今ご覧になられたように、これが『聖女』テルサ様の御力です。テルサ様の『旭日』こそ『邪神の息吹』に打ち克ち、五十年の長きに亘る暗黒の時代に終止符を打つ、唯一の光明。まさに今日この時から、ウルヴァルゼ帝国は克服の道を歩み始めたのです。皆様はその歴史的瞬間の目撃者。今一度、テルサ様に盛大な拍手を!〉
ラモン教皇に応じ、拍手が一段と大きくなる。
まるで代表曲を歌い終えた歌手のように、壇上のテルサがにこやかに手を振って、賛美のシャワーを存分に浴びていた。
〈如何でしたかな、フェンデリン総帥閣下。テルサ様の御力は?〉
拍手するオズガルドの元へ、鼻歌でも歌っているような様子のラモン教皇がやって来た。
〈……いやはや、全く驚きました。光の極大魔力『旭日』ですか……。私の魔力など足元にも及ばぬでしょう〉
ジェフは以前、オズガルドの魔力を仮に「千」と表すならば、テルサの『旭日』は「十万」以上だと分析していた。
〈今後テルサ様は『邪神の息吹』に見舞われた土地へ順次赴かれ、瘴気の源泉を浄化していくことになります。この国は長き闇から解放され、太陽の沈まぬ栄光の時代が戻る。総帥閣下もそう思いませぬか?〉
〈……然様ですな〉
第三皇子ミルファスに丁重にエスコートされ、テルサは来賓の貴族たち──恐らくはミルファス派の者たちと言葉を交わしている。
ミルファス皇子と仲の良い様子を見せ付けることで、栄耀教会と『聖女』テルサは彼の皇位継承を支持している、と周囲に印象付けようとしているのだ。
「栄耀教会と宮廷魔術団、ラモン教皇とオズガルド様はそれぞれ対立する間柄、ということでしたね。だとすると、テルサがフェンデリン領の瘴気を浄化するのは……」
「まず有り得ないだろうね。あったとしても後回しにされるか、相当に高い対価を要求されるのは間違い無い」
勿論これはフェンデリン家に限った話ではなく、栄耀教会に不都合な者全てが同じ選択を迫られることになる。
止む無く恭順して『邪神の息吹』を鎮めて貰うか。
頑なに恭順を拒んで『邪神の息吹』に苦しみ続けるか。
しかし、多くの者の命が懸かっているとなれば、最終的には前者を選ばざるを得ないだろう。
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