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第Ⅲ章 闇夜に輝く希望の月 ~Destiny Attracted by the Moon~
#48 禁断の領域
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テルサが光の極大魔力『旭日』を披露し、瘴気浄化の演習を見事にやり遂げてから、一週間が経過。
ジェフに聞いた話では、未だ帝都エルザンパールでは『聖女』の話題で持ち切りだそうだ。
今日もサウレス=サンジョーレ曙光島へは、救国の『聖女』の御姿を拝もうと貴人たちが面会を求め、他の都市でも聖職者たちによって噂が広まり、祝福と期待のムードに包まれていると聞く。
五十年も続いた『邪神の息吹』の終焉が近いとなれば、民衆が浮かれ、騒ぎ、盛り上がるのは当然。
しかしその一方で、栄耀教会の力が一層強まり、今まで以上に彼らの都合に沿って世の中が動かされることを懸念し、心の底から喜べない者も多い。
このフェンデリン邸にも、そうした者たちがオズガルドやエレノアの知恵を借りに訪れたが、テルサ以外に瘴気を浄化できる者が居ない以上、どんな賢人であろうと逆転の術を見出せない。
「ですが、オズも言っていた通り、まだ微かな希望があります。それがあなたの闇の極大魔力です。時を戻す力を使えば、変異魔物は変異する前の状態に、アンデッドであれば只の死体に戻して無害化できるのですから」
「確かにそうかも知れませんが、全ての原因となっている瘴気が浄化されない以上、所詮は時間稼ぎでしかないのでは?」
「現時点ではその通りです。ですがあなたの魔力は、例えるなら深海や宇宙のようなもので、その底や果ては未だ見通せません。闇に覆い隠された未知なる領域には、大いなる可能性が秘められている──私はそう考えています」
空間を超越し、生物を若返らせ、アンデッドすら支配してしまうことさえ非常識極まるものだったと言うのに、更にその先があるなどとは信じられない。
「これまで垣間見たのは、闇の極大魔力が持つ可能性の一端に過ぎず、限界を引き出すことができれば、テルサのように瘴気を浄化できるとお考えなのですか?」
私の問いに、エレノアは困ったように笑い、
「流石にそれは有り得ません。瘴気とは高濃度の闇属性魔素であり、それを浄化できるのは対となる光属性の魔力のみ。如何に極大魔力と言えども、同じ属性では打ち消すことなど不可能です。ですが変異魔物やアンデッドの状態を変化させられたように、『邪神の息吹』へ抗う術はあるはずです」
私が持つのは、ほんの微かな希望。
しかし、オズガルドもエレノアも太陽に頼れない以上、月を標に暗中で模索するしか手立てが無いのだ。
「分かりました。自信はありませんが、私も努力してみます」
オズガルド、エレノア、ジェフ、サリー─―彼らフェンデリン家の助けが無ければ、私もダスクも疾うの昔に聖騎士団に捕捉され、太陽がある内に襲撃されて殺されていたことだろう。
恩ある彼らが私の力に唯一の希望を見出しているというのなら、応えない訳にはいかない。
「ただ……具体的に何をすればいいのかが分かりません。これまで通りの魔法訓練を続けていても、エレノア様のご期待に応えられるほど潜在能力を引き出せるとは思えないのですが……」
これまでの訓練と学習で、様々な闇属性魔法とその応用法、知識と経験を身に付け、着実に成長している実感はあるものの、それでテルサのように『邪神の息吹』に対抗できるかと問われれば、残念ながら答は否だ。
「ですから、これを用意しました」
エレノアが『亜空の秘蔵庫』から取り出したのは、数十冊の魔導書。
それらがまるで蝶または蛾の如く羽ばたいて、私の周りをゆっくりと旋回し始めた。
既にフェンデリン家が所蔵していた魔導書は全て触れ、可能な限りダウンロードしてきたはず、と不思議に思っていたら、エレノアが驚くべきことを口にした。
「宮廷魔術団と皇室が管理する魔導書です。禁書庫にあった物も含め、全てを持って来ました」
「ええっ……!?」
宮廷魔術団や皇室が所有する特級の魔導書の中には、超越的な効果を持つ大魔法が載っている物もあるため、誰も持ち出せないよう厳重に管理されている、とエレノアとジェフが以前言っていた。
使い方次第では大勢の命を奪い、国さえ滅ぼしかねない可能性を秘めた品が私の目の前にある。
「どうやってこんな物を……!? 宮廷魔術団が管理している物なら、総帥であるオズガルド様であれば可能でしょうが、皇室の方は──ひょっとして……!」
そこまで言いかけて気付いた。
「ええ。お察しの通り、皇后様の御力をお借りしました。例によって詳しい事情は伏せましたが、しかし御覧の通り引き受けて下さいました」
禁断の大魔法が記された魔導書を外部へ持ち出すなど、本来であれば皇后という地位に就く者のすることではなく、発覚すれば彼女と言えど只では済まないだろう。
それでも、こうして現物がここにあるということは、レヴィア皇后も腹を括っているという何よりの証。
私に希望を見出しているオズガルドとエレノアに期待を懸けるという形で、レヴィア皇后も私を支援してくれている。
この世界に来てから、私を取り巻く社会状況には恵まれているとは言い難いが、それでも支えてくれる人々には間違い無く恵まれている。
「それにしても、特級の魔導書ですか……。前に聞いた話では相当に恐ろしい魔法が込められているそうですが、具体的にどんなものなのですか?」
「私とオズも試しにダウンロードを試みたのですが、どうやら資格を持たない者では、その内容の断片さえ窺い知ることが叶わないようなのです」
力ある者のみが踏み込むことを許された禁断の領域が、これらの本の中にある。
ここにある全ての魔導書の、込められた全ての魔法をダウンロードすることは不可能だろうが、ここまでお膳立てして貰ったからには、最低でも何か一つくらいはダウンロードしなくては顔向けできない。
「努力します」
「私も最大限手伝います。──とは言え、今はまだ昼。あなたの魔力を解き放つ条件が揃っていませんから、座学を進めましょう。お楽しみは、今宵の月が空に昇ってからですね」
技術や知識は、力を活かすための基礎。
基礎が疎かなまま禁断の大魔法を使うのは、普通自動車の仮免許試験にも合格できない者が、一般道路でレーシングカーを爆走させるに等しく、やがて取り返しの付かない事故を引き起こすのは必至。
ただ、今日までエレノア、ジェフ、サリーが教え込んでくれたお陰で、充分なレベルに達していると認められたからこそ、特級の魔導書を持って来てくれた訳で、魔法の学習に関しては心配せずとも良さそうだ。
今日の座学の内容は、ウルヴァルゼ帝国の歴史──それも前回の『邪神の息吹』が起こり、初代『聖女』が召喚された三百年前の出来事についてという、実にタイムリーなものだった。
ジェフに聞いた話では、未だ帝都エルザンパールでは『聖女』の話題で持ち切りだそうだ。
今日もサウレス=サンジョーレ曙光島へは、救国の『聖女』の御姿を拝もうと貴人たちが面会を求め、他の都市でも聖職者たちによって噂が広まり、祝福と期待のムードに包まれていると聞く。
五十年も続いた『邪神の息吹』の終焉が近いとなれば、民衆が浮かれ、騒ぎ、盛り上がるのは当然。
しかしその一方で、栄耀教会の力が一層強まり、今まで以上に彼らの都合に沿って世の中が動かされることを懸念し、心の底から喜べない者も多い。
このフェンデリン邸にも、そうした者たちがオズガルドやエレノアの知恵を借りに訪れたが、テルサ以外に瘴気を浄化できる者が居ない以上、どんな賢人であろうと逆転の術を見出せない。
「ですが、オズも言っていた通り、まだ微かな希望があります。それがあなたの闇の極大魔力です。時を戻す力を使えば、変異魔物は変異する前の状態に、アンデッドであれば只の死体に戻して無害化できるのですから」
「確かにそうかも知れませんが、全ての原因となっている瘴気が浄化されない以上、所詮は時間稼ぎでしかないのでは?」
「現時点ではその通りです。ですがあなたの魔力は、例えるなら深海や宇宙のようなもので、その底や果ては未だ見通せません。闇に覆い隠された未知なる領域には、大いなる可能性が秘められている──私はそう考えています」
空間を超越し、生物を若返らせ、アンデッドすら支配してしまうことさえ非常識極まるものだったと言うのに、更にその先があるなどとは信じられない。
「これまで垣間見たのは、闇の極大魔力が持つ可能性の一端に過ぎず、限界を引き出すことができれば、テルサのように瘴気を浄化できるとお考えなのですか?」
私の問いに、エレノアは困ったように笑い、
「流石にそれは有り得ません。瘴気とは高濃度の闇属性魔素であり、それを浄化できるのは対となる光属性の魔力のみ。如何に極大魔力と言えども、同じ属性では打ち消すことなど不可能です。ですが変異魔物やアンデッドの状態を変化させられたように、『邪神の息吹』へ抗う術はあるはずです」
私が持つのは、ほんの微かな希望。
しかし、オズガルドもエレノアも太陽に頼れない以上、月を標に暗中で模索するしか手立てが無いのだ。
「分かりました。自信はありませんが、私も努力してみます」
オズガルド、エレノア、ジェフ、サリー─―彼らフェンデリン家の助けが無ければ、私もダスクも疾うの昔に聖騎士団に捕捉され、太陽がある内に襲撃されて殺されていたことだろう。
恩ある彼らが私の力に唯一の希望を見出しているというのなら、応えない訳にはいかない。
「ただ……具体的に何をすればいいのかが分かりません。これまで通りの魔法訓練を続けていても、エレノア様のご期待に応えられるほど潜在能力を引き出せるとは思えないのですが……」
これまでの訓練と学習で、様々な闇属性魔法とその応用法、知識と経験を身に付け、着実に成長している実感はあるものの、それでテルサのように『邪神の息吹』に対抗できるかと問われれば、残念ながら答は否だ。
「ですから、これを用意しました」
エレノアが『亜空の秘蔵庫』から取り出したのは、数十冊の魔導書。
それらがまるで蝶または蛾の如く羽ばたいて、私の周りをゆっくりと旋回し始めた。
既にフェンデリン家が所蔵していた魔導書は全て触れ、可能な限りダウンロードしてきたはず、と不思議に思っていたら、エレノアが驚くべきことを口にした。
「宮廷魔術団と皇室が管理する魔導書です。禁書庫にあった物も含め、全てを持って来ました」
「ええっ……!?」
宮廷魔術団や皇室が所有する特級の魔導書の中には、超越的な効果を持つ大魔法が載っている物もあるため、誰も持ち出せないよう厳重に管理されている、とエレノアとジェフが以前言っていた。
使い方次第では大勢の命を奪い、国さえ滅ぼしかねない可能性を秘めた品が私の目の前にある。
「どうやってこんな物を……!? 宮廷魔術団が管理している物なら、総帥であるオズガルド様であれば可能でしょうが、皇室の方は──ひょっとして……!」
そこまで言いかけて気付いた。
「ええ。お察しの通り、皇后様の御力をお借りしました。例によって詳しい事情は伏せましたが、しかし御覧の通り引き受けて下さいました」
禁断の大魔法が記された魔導書を外部へ持ち出すなど、本来であれば皇后という地位に就く者のすることではなく、発覚すれば彼女と言えど只では済まないだろう。
それでも、こうして現物がここにあるということは、レヴィア皇后も腹を括っているという何よりの証。
私に希望を見出しているオズガルドとエレノアに期待を懸けるという形で、レヴィア皇后も私を支援してくれている。
この世界に来てから、私を取り巻く社会状況には恵まれているとは言い難いが、それでも支えてくれる人々には間違い無く恵まれている。
「それにしても、特級の魔導書ですか……。前に聞いた話では相当に恐ろしい魔法が込められているそうですが、具体的にどんなものなのですか?」
「私とオズも試しにダウンロードを試みたのですが、どうやら資格を持たない者では、その内容の断片さえ窺い知ることが叶わないようなのです」
力ある者のみが踏み込むことを許された禁断の領域が、これらの本の中にある。
ここにある全ての魔導書の、込められた全ての魔法をダウンロードすることは不可能だろうが、ここまでお膳立てして貰ったからには、最低でも何か一つくらいはダウンロードしなくては顔向けできない。
「努力します」
「私も最大限手伝います。──とは言え、今はまだ昼。あなたの魔力を解き放つ条件が揃っていませんから、座学を進めましょう。お楽しみは、今宵の月が空に昇ってからですね」
技術や知識は、力を活かすための基礎。
基礎が疎かなまま禁断の大魔法を使うのは、普通自動車の仮免許試験にも合格できない者が、一般道路でレーシングカーを爆走させるに等しく、やがて取り返しの付かない事故を引き起こすのは必至。
ただ、今日までエレノア、ジェフ、サリーが教え込んでくれたお陰で、充分なレベルに達していると認められたからこそ、特級の魔導書を持って来てくれた訳で、魔法の学習に関しては心配せずとも良さそうだ。
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