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第Ⅳ章 光の聖女は朝照らす ~The Saint Over The RISING SUN~
#74 天国を目指す者 その4
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誰もが子供の頃は、親や学校の教師など、大人たちの言うことこそが正しいこと、世の中の常識なのだと信じる。
しかし、サンタクロースなど実在しないといつか気付くように、成長の過程で子供はやがて真実を知る。
私も小学生の頃までは、両親と教団の言うことが正しいと、この世の真理なのだと信じて疑わなかった。
きっかけは、双子の姉が家にあった壺を誤って割ってしまったことだった。
その壺は両親が教団から三百万円で購入した物で、神聖な力が宿っているため、置いておくだけでその家には幸福が訪れるのだと両親は自慢していた。
「何てことをしてくれたんだ! 神様からの授かり物を壊すなんて、恐ろしい『天罰』が下るぞ!」
と、怒鳴りながら姉の尻を真っ赤になるまで叩いた。
だが、そのことで姉は両親の言う『天罰』に疑問を抱いたらしく、同じく教団から購入した小皿をこっそり持ち出し、今度は故意に割ることで、本当に『天罰』が下るのか確かめたのだった。
当然ながら、彼女が割った壺も皿も神秘の力など欠片も無い安物でしかなく、粉々にした所で『天罰』など下るはずも無かった。
その様子を隠れて見ていた私は、この時気付いた。
神様なんて本当は居ないのだ、と。
小学校のクラスメイトたちがサンタクロースを大真面目に信じているように、家族も他の信者たちも、居もしない神を信じているのだと。
雨が止み、雲が晴れて青空と虹が同時に見えた時のような、素晴らしく晴れ晴れとした気分だった。
同じくその真実に気付いた姉は、両親に打ち明けた。
「あのね、神さまなんていないんだよ。お皿をわってもぜんぜん何もおきなかったもの。みんなだまされてるんだよ」
両親の目を醒まさせようとする、彼女なりの善意だったのだろう。
しかし──
「お前は……お前は神を侮辱するのかッ! そんな事をしたら『天国』に行けなくなってしまうじゃないか、この大馬鹿者がッ!」
「何て愚かなことを……輝夜、あなた自分が何をしたか分かっているの? 神を冒涜するなんて、そんな子に育てた覚えは無いわ!」
小皿を勝手に持ち出して割ったことよりも、彼女が神を否定したことをこそ、両親は問題視していた。
壺を割った時とは比べ物にならない剣幕で怒られ、年端も行かない小さな体を、大人の本気の拳が何度も打ちのめした。
母は暴力こそ振るわなかったが、それから三日間、姉は家での食事を抜かれ、学校の給食だけで飢えを凌ぐ羽目となった。
その成り行きを黙って観察していた私は、こう思った。
どいつもこいつも馬鹿ばかり、と。
居もしない神を信じ切って、財も誇りも擲つ両親は言うに及ばず。
骨の髄まで信仰に染まり切った両親を真っ向から否定すれば、体罰を課せられることは既に体験したはずなのに、そんなことさえ理解できていなかった姉も、等しく愚か者だと心の中で嘲笑った。
そんな姉への仕打ちから学んだ私は、何も気付いていない風を装い、両親が望む娘を演じ続けた。
親や教主の言い付けを従順に守り、信仰に熱心で、決して逆らわない。
太陽の如く、常に笑顔を絶やさない、素直で明るい子。
そんな私を周囲の誰もが信じ、模範的な「神の子」と可愛がった。
「輝夜と来たら、いつまで経っても聞き分けが無くて困るわ」
「まったく、とんだ出来損ないだな。どうしてあんな風に育ってしまったのか……」
姉はと言うと、成長しても相変わらず両親に逆らい続けた。
そんな信仰は間違っている、目を醒まして、と、逆らうことで懸命に訴え掛けていたが、魂を完全に売り渡していた両親に対してそんな説得は、馬の耳に念仏どころか火に油を注ぐに等しい。
同じ遺伝子を持つ双子とは思えないくらい、彼女は愚かだった。
しかし、その愚かさが私には好都合だった。
夜が暗ければ暗いほど朝が明るく感じられるように、姉が問題児であればあるほど、相対的に私の振る舞いが良く見えるからだ。
姉という反面教師、悪い見本が隣に居たからこそ、私は耐えることができた。
私も「良い子」として、両親と一緒になって、感謝と蔑みを密かに込めて、姉へ折檻を加えた。
「それに比べて、照朝は本当に良い子だ」
「あなたなら絶対に『天国』へ行けるわ」
私に向けられる両親の顔と声は、常に喜びと愛情に満ちていた。
「うん。お父さん、お母さん。皆で『天国』に行けるよう頑張るね」
──ふざけるな。
何度心の中でそう吐き捨て、繕った笑顔の裏で歯を軋らせ、悔し涙を流したことか。
私という存在は、この世に生まれ落ちる以前から教団のものだった。
奪われることだけが、私に課せられた宿命。
宿命とは「過去」であり、親ガチャで一度確定してしまったそれは時間を巻き戻せないのと同じく、努力や才能でも決して改変できない。
しかし、運命は──「未来」は、行動次第でいくらでも変えられる。
このまま親や教団の言い成りになって、自分を押し殺して良い子の振りを続けた挙句、全てを奪われて一生を終えるなど、そんな吐き気のする未来は絶対に御免だった。
私は、そう──『天国』に行くのだ。
教団が金儲けのために吹聴し、両親が信じ切っているまやかしなどではない。
富、権力、地位、名誉、美──私が奪われたもの、本当に求めたもの、真の幸福だけが満ちる究極の領域へ。
生き地獄を味わったからこそ、私は行かなければならない。
暗闇の底から這い上がって、運命を変え、栄光の未来を掴み取ってみせると誓った。
例えこの手がどんなに汚れようとも。
「テルサ様、ラウル様とザッキス様がお越しです」
リナリィが来客の名を告げる。
「通して」
扉が開けられ、若き聖騎士二人が入室してくる。
「「失礼します」」
ラウル・ブリル・エーゲリッヒ、そしてザッキス・エルハ・ズンダルク。
同年代の方が気兼ねせずに済むだろうと、ラモン教皇とゼルレーク聖騎士団長によって『聖女』の護衛役に任ぜられた二人。
若く優秀で顔立ちも整っている騎士こそ、『聖女』を傍近くで護る役に相応しい。
ラウルは入団間も無い新米聖騎士ではあるが、『聖なる一族』エーゲリッヒ家に生を受け、しかも父親が現職の聖騎士団長ゼルレークということで、幼い頃から英才教育を施されてきた正真正銘のエリートであり、おまけにケルド帝とレヴィア皇后を祖父母に持つサラブレッドでもあるという、まさしく神の寵愛を受けて生まれてきたような男だ。
一方のザッキスも『聖なる一族』の筆頭とも名高いズンダルク家に生まれ、ケルド帝とラモン教皇を祖父に持つエリート兼サラブレッドだが、高潔な精神を持つラウルとは決定的に異なり、無断外出の際に目にしたように、その血統や能力を鼻に掛けて、自分より劣る者を虐げることに快楽を覚えるような人物だ。
対極の人間性を持つが故に、従兄弟であるにも関わらず二人の仲は険悪そのもの、私の前でも軽い口論をする場面が何度かあった。
もっとも、仕事さえきっちりしてくれれば、私としては些細な問題なのだが。
「別に外出する訳でもないのに護衛だなんて、随分と過保護な話ね」
「申し訳ございません。しかし、これも御身を案ずればこその処置。それに……」
「ええ、分かってるわ。元はと言えば無断で外出してしまった私が悪いのよ。お目付けは仕方の無いことと受け止めているわ」
知りたいことは確認できたため、当面は外出の予定は無い。
「それよりもどう? 似合うかしら」
片脚を軸に、クルルン、と華麗に一回転。
ドレスの裾がブワッと、さながら満開を迎えた薔薇の花弁のように舞い上がる。
成功と繁栄が約束された私の未来、光ある人生を象徴するが如く。
「華やかな真紅がテルサ様の美しさを一層引き立てており、思わず目を奪われてしまいました」
お世辞か本音かは分からないが、私が求めていた感想をザッキスがサラリと口にした。
「お褒めに与り光栄ね」
女の価値は「美貌」と「若さ」が九割を占めている。
客観的に見て、私の容姿は元の世界でもかなり恵まれていた方で、それを受け継がせてくれた点に関しては、あの母親にも雀の涙程度の感謝は捧げるべきなのだろう。
あんな宿命さえ背負わなければ、美貌や演技力を活かして芸能界にでも入り、経済力のある男と結ばれて『天国』を満喫できたかも知れないと、苦しい日々の中で何度も想像し、まだ間に合うと自分に言い聞かせてきた。
「ラウルは? 何か感想は無いの?」
「……は、はい、大変良くお似合いでございます……」
感想を求められたのはザッキスだけだと思っていたのか、慌てて答えた彼の視線は、しかしドレスではなく私の首元へチラリと移った。
「ああ、この首飾りが気になるのかしら?」
「……はい。そちらは?」
私の首には、ピカピカに磨き上げられた純金製の宝飾品が着けられている。
一流の職人によって仕上げられたのだろう、精緻な細工が施され、更に色取り取りの宝石が嵌め込まれた、見るからにゴージャスな代物だ。
「凄いでしょう? 名前は忘れたけど、どこかの貴族から贈られてきたのよ。これ一つで五百万マドルは下らないと言っていたわ」
「ご、五百万……」
マドルというのが日本円に換算していくらに相当するのかは分からないが、名門出身のラウルが呆気に取られてしまう辺り、やはり相当な高額のようだ。
「テルサ様のように神聖かつ高貴な方の身を飾れて、その首飾りも喜んでいることでしょう。素晴らしき品には、素晴らしき主こそ相応しい」
「ありがとう、ザッキス」
ラモン教皇以外の者は知らないが、私はここに居る者たちのような高貴な家の出ではなく、むしろ卑賤の出だ。
しかし、こうして一流の品々を日常的に身に纏い続けることでパワーを貰い、一流の品々に相応しい一流の人物へと自分をバージョンアップしていくのだ。
もう二度と二流以下には近付かず、そして近付かせない。
これからの私の人生に存在していいのは、一流のものだけだ。
しかし、サンタクロースなど実在しないといつか気付くように、成長の過程で子供はやがて真実を知る。
私も小学生の頃までは、両親と教団の言うことが正しいと、この世の真理なのだと信じて疑わなかった。
きっかけは、双子の姉が家にあった壺を誤って割ってしまったことだった。
その壺は両親が教団から三百万円で購入した物で、神聖な力が宿っているため、置いておくだけでその家には幸福が訪れるのだと両親は自慢していた。
「何てことをしてくれたんだ! 神様からの授かり物を壊すなんて、恐ろしい『天罰』が下るぞ!」
と、怒鳴りながら姉の尻を真っ赤になるまで叩いた。
だが、そのことで姉は両親の言う『天罰』に疑問を抱いたらしく、同じく教団から購入した小皿をこっそり持ち出し、今度は故意に割ることで、本当に『天罰』が下るのか確かめたのだった。
当然ながら、彼女が割った壺も皿も神秘の力など欠片も無い安物でしかなく、粉々にした所で『天罰』など下るはずも無かった。
その様子を隠れて見ていた私は、この時気付いた。
神様なんて本当は居ないのだ、と。
小学校のクラスメイトたちがサンタクロースを大真面目に信じているように、家族も他の信者たちも、居もしない神を信じているのだと。
雨が止み、雲が晴れて青空と虹が同時に見えた時のような、素晴らしく晴れ晴れとした気分だった。
同じくその真実に気付いた姉は、両親に打ち明けた。
「あのね、神さまなんていないんだよ。お皿をわってもぜんぜん何もおきなかったもの。みんなだまされてるんだよ」
両親の目を醒まさせようとする、彼女なりの善意だったのだろう。
しかし──
「お前は……お前は神を侮辱するのかッ! そんな事をしたら『天国』に行けなくなってしまうじゃないか、この大馬鹿者がッ!」
「何て愚かなことを……輝夜、あなた自分が何をしたか分かっているの? 神を冒涜するなんて、そんな子に育てた覚えは無いわ!」
小皿を勝手に持ち出して割ったことよりも、彼女が神を否定したことをこそ、両親は問題視していた。
壺を割った時とは比べ物にならない剣幕で怒られ、年端も行かない小さな体を、大人の本気の拳が何度も打ちのめした。
母は暴力こそ振るわなかったが、それから三日間、姉は家での食事を抜かれ、学校の給食だけで飢えを凌ぐ羽目となった。
その成り行きを黙って観察していた私は、こう思った。
どいつもこいつも馬鹿ばかり、と。
居もしない神を信じ切って、財も誇りも擲つ両親は言うに及ばず。
骨の髄まで信仰に染まり切った両親を真っ向から否定すれば、体罰を課せられることは既に体験したはずなのに、そんなことさえ理解できていなかった姉も、等しく愚か者だと心の中で嘲笑った。
そんな姉への仕打ちから学んだ私は、何も気付いていない風を装い、両親が望む娘を演じ続けた。
親や教主の言い付けを従順に守り、信仰に熱心で、決して逆らわない。
太陽の如く、常に笑顔を絶やさない、素直で明るい子。
そんな私を周囲の誰もが信じ、模範的な「神の子」と可愛がった。
「輝夜と来たら、いつまで経っても聞き分けが無くて困るわ」
「まったく、とんだ出来損ないだな。どうしてあんな風に育ってしまったのか……」
姉はと言うと、成長しても相変わらず両親に逆らい続けた。
そんな信仰は間違っている、目を醒まして、と、逆らうことで懸命に訴え掛けていたが、魂を完全に売り渡していた両親に対してそんな説得は、馬の耳に念仏どころか火に油を注ぐに等しい。
同じ遺伝子を持つ双子とは思えないくらい、彼女は愚かだった。
しかし、その愚かさが私には好都合だった。
夜が暗ければ暗いほど朝が明るく感じられるように、姉が問題児であればあるほど、相対的に私の振る舞いが良く見えるからだ。
姉という反面教師、悪い見本が隣に居たからこそ、私は耐えることができた。
私も「良い子」として、両親と一緒になって、感謝と蔑みを密かに込めて、姉へ折檻を加えた。
「それに比べて、照朝は本当に良い子だ」
「あなたなら絶対に『天国』へ行けるわ」
私に向けられる両親の顔と声は、常に喜びと愛情に満ちていた。
「うん。お父さん、お母さん。皆で『天国』に行けるよう頑張るね」
──ふざけるな。
何度心の中でそう吐き捨て、繕った笑顔の裏で歯を軋らせ、悔し涙を流したことか。
私という存在は、この世に生まれ落ちる以前から教団のものだった。
奪われることだけが、私に課せられた宿命。
宿命とは「過去」であり、親ガチャで一度確定してしまったそれは時間を巻き戻せないのと同じく、努力や才能でも決して改変できない。
しかし、運命は──「未来」は、行動次第でいくらでも変えられる。
このまま親や教団の言い成りになって、自分を押し殺して良い子の振りを続けた挙句、全てを奪われて一生を終えるなど、そんな吐き気のする未来は絶対に御免だった。
私は、そう──『天国』に行くのだ。
教団が金儲けのために吹聴し、両親が信じ切っているまやかしなどではない。
富、権力、地位、名誉、美──私が奪われたもの、本当に求めたもの、真の幸福だけが満ちる究極の領域へ。
生き地獄を味わったからこそ、私は行かなければならない。
暗闇の底から這い上がって、運命を変え、栄光の未来を掴み取ってみせると誓った。
例えこの手がどんなに汚れようとも。
「テルサ様、ラウル様とザッキス様がお越しです」
リナリィが来客の名を告げる。
「通して」
扉が開けられ、若き聖騎士二人が入室してくる。
「「失礼します」」
ラウル・ブリル・エーゲリッヒ、そしてザッキス・エルハ・ズンダルク。
同年代の方が気兼ねせずに済むだろうと、ラモン教皇とゼルレーク聖騎士団長によって『聖女』の護衛役に任ぜられた二人。
若く優秀で顔立ちも整っている騎士こそ、『聖女』を傍近くで護る役に相応しい。
ラウルは入団間も無い新米聖騎士ではあるが、『聖なる一族』エーゲリッヒ家に生を受け、しかも父親が現職の聖騎士団長ゼルレークということで、幼い頃から英才教育を施されてきた正真正銘のエリートであり、おまけにケルド帝とレヴィア皇后を祖父母に持つサラブレッドでもあるという、まさしく神の寵愛を受けて生まれてきたような男だ。
一方のザッキスも『聖なる一族』の筆頭とも名高いズンダルク家に生まれ、ケルド帝とラモン教皇を祖父に持つエリート兼サラブレッドだが、高潔な精神を持つラウルとは決定的に異なり、無断外出の際に目にしたように、その血統や能力を鼻に掛けて、自分より劣る者を虐げることに快楽を覚えるような人物だ。
対極の人間性を持つが故に、従兄弟であるにも関わらず二人の仲は険悪そのもの、私の前でも軽い口論をする場面が何度かあった。
もっとも、仕事さえきっちりしてくれれば、私としては些細な問題なのだが。
「別に外出する訳でもないのに護衛だなんて、随分と過保護な話ね」
「申し訳ございません。しかし、これも御身を案ずればこその処置。それに……」
「ええ、分かってるわ。元はと言えば無断で外出してしまった私が悪いのよ。お目付けは仕方の無いことと受け止めているわ」
知りたいことは確認できたため、当面は外出の予定は無い。
「それよりもどう? 似合うかしら」
片脚を軸に、クルルン、と華麗に一回転。
ドレスの裾がブワッと、さながら満開を迎えた薔薇の花弁のように舞い上がる。
成功と繁栄が約束された私の未来、光ある人生を象徴するが如く。
「華やかな真紅がテルサ様の美しさを一層引き立てており、思わず目を奪われてしまいました」
お世辞か本音かは分からないが、私が求めていた感想をザッキスがサラリと口にした。
「お褒めに与り光栄ね」
女の価値は「美貌」と「若さ」が九割を占めている。
客観的に見て、私の容姿は元の世界でもかなり恵まれていた方で、それを受け継がせてくれた点に関しては、あの母親にも雀の涙程度の感謝は捧げるべきなのだろう。
あんな宿命さえ背負わなければ、美貌や演技力を活かして芸能界にでも入り、経済力のある男と結ばれて『天国』を満喫できたかも知れないと、苦しい日々の中で何度も想像し、まだ間に合うと自分に言い聞かせてきた。
「ラウルは? 何か感想は無いの?」
「……は、はい、大変良くお似合いでございます……」
感想を求められたのはザッキスだけだと思っていたのか、慌てて答えた彼の視線は、しかしドレスではなく私の首元へチラリと移った。
「ああ、この首飾りが気になるのかしら?」
「……はい。そちらは?」
私の首には、ピカピカに磨き上げられた純金製の宝飾品が着けられている。
一流の職人によって仕上げられたのだろう、精緻な細工が施され、更に色取り取りの宝石が嵌め込まれた、見るからにゴージャスな代物だ。
「凄いでしょう? 名前は忘れたけど、どこかの貴族から贈られてきたのよ。これ一つで五百万マドルは下らないと言っていたわ」
「ご、五百万……」
マドルというのが日本円に換算していくらに相当するのかは分からないが、名門出身のラウルが呆気に取られてしまう辺り、やはり相当な高額のようだ。
「テルサ様のように神聖かつ高貴な方の身を飾れて、その首飾りも喜んでいることでしょう。素晴らしき品には、素晴らしき主こそ相応しい」
「ありがとう、ザッキス」
ラモン教皇以外の者は知らないが、私はここに居る者たちのような高貴な家の出ではなく、むしろ卑賤の出だ。
しかし、こうして一流の品々を日常的に身に纏い続けることでパワーを貰い、一流の品々に相応しい一流の人物へと自分をバージョンアップしていくのだ。
もう二度と二流以下には近付かず、そして近付かせない。
これからの私の人生に存在していいのは、一流のものだけだ。
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