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第Ⅳ章 光の聖女は朝照らす ~The Saint Over The RISING SUN~
#85 魔の地の洗礼 その1
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いよいよ、瘴気浄化を行う日が来た。
我が父、聖騎士団ゼルレークを総大将に、『聖女』テルサを戴く軍勢がクルルザードの街を発った。
目指すは『邪神の息吹』の元凶、瘴気の源泉。
「ラウル、緊張してるのかしら?」
移動中、輿の窓が開いてテルサが話し掛けてきた。
「そう、ですね……。訓練は積んできましたが、経験の浅い新米ですから」
源泉を浄化して『邪神の息吹』を鎮めるためには、現地に棲息する変異魔物やアンデッドとの戦闘は最大の障害であり、避けては通れない。
クルルザードに来る道中でも度々襲撃に遭ったが、源泉に近い場所ほど現れる敵の数も強さも増す傾向にあるため、更に厳しい戦いになるのは間違い無い。
「不安なら、ラウル君はクルルザードでお留守番していてもいいんだよ? テルサ様のことは私がきちんとお護りしてみせようじゃないか。未熟な新米が犬死するのは勝手だが、周りの足手纏いになっては一大事だからね」
すぐ近くで会話を聞いていたザッキスが小馬鹿にしてきたが、しかしそのお陰で湧いた怒りと苛立ちが不安を和らげてくれた。
そんなザッキスの嫌味も長くは続かなかった。
何故なら──
「歩くほどに景色が暗く淀んでいくのが分かりますね……」
「そうだな」
グーネルの言う通り、まだ午前中にも拘らず、充満した瘴気が太陽光をほとんど遮ってしまって、辺りはまるで黄昏時のような薄闇に閉ざされて見通しが悪い。
視覚が利かないこの状況下で余計な会話や物音を立てようものなら、付近に居るであろう魔物に気取られ、襲われてしまうのは必至。
口を噤み、抜き足差し足で静かに進んで、可能な限り戦闘を回避していくことこそ肝要。
しかし、それでも敵はやって来る。
「うわああああああああああああああああ……ッ!!」
静寂を破ったのは、すぐ前方から上がった人と馬の悲鳴。
叫び声の主が跨った馬に、人型の怪物が大きな爪を突き立て、脚に喰らい付いている様子が辛うじて窺えた。
「あれは……『アースバウンド』か……!?」
人間の上半身だけが動く、ゾンビと同じ亡者型の中級アンデッドだ。
視覚が退化した代わりに聴覚が異常に発達しており、地面の振動を探知して獲物を捕捉、大爪を使ってモグラのように地中を高速で掘り進み、生物の死角となる真下から奇襲するのだ。
「この、くたばれ……!」
優れた聴覚と地中潜行能力を持つものの、単体の戦闘力はあまり高くなく、登場したアースバウンドは聖騎士の槍に頭部を貫かれてあっさりと討伐された。
不死身の怪物だろうと、脳や脊椎を破壊されれば流石に活動は止まる。
しかし、事態は何も改善していない。
「グーネル、武器を構えろ! 命に代えてもテルサ様をお護りするのだ……!」
「うわわ、近付いて来ます……!」
悲鳴と物音を聞き付けたのだろう、そこら中から不穏な気配が近付いて来るのがひしひしと感じ取れる。
「総員、戦闘態勢!」
ゼルレーク聖騎士団長の下知に従って、全聖騎士が武器を構える。
それを待っていたかのように、暗闇の中からおぞましきアンデッドの群れが押し寄せて来た。
まずやって来たのは、ゴーストとスペクター。
どちらも霊体故に目立った破壊力や殺傷力は持たないが、重力の理を無視して宙を舞う上に壁や盾、鎧なども擦り抜けてしまう。
ゴーストは姿がぼやけており性質も大人しい部類だが、スペクターは攻撃的な上に生前の姿をはっきりと取っているため、親しい人や子供の姿をした個体に油断して命を落とす者も少なくない。
霊体アンデッドは生物に取り憑いて魔力を吸い取り糧とするため、魔力を奪われて弱った者が、他のアンデッドに圧倒されて命を落とすケースが非常に多く、遭遇した際は早めに倒さなければ厄介なことになる。
「『紫陽の閃光花』!」
突き付けた掌から放たれた紫光を浴びて、宙を舞っていた死霊たちが雲散霧消する。
アンデッド全般に特効のあるこの魔法は、物理的な攻撃が通用しない霊体アンデッドに対しては殊更有効な攻撃手段となる。
「滅せよッ!」
殺到するゾンビの首を聖水剣で刎ね飛ばし、足元から湧いて出て来たアースバウンドの頭蓋骨を踏み潰す。
「決して隙間を作るな! 固まって迎撃せよ!」
「支援魔法を絶やすな。魔力が減った者は後ろと交代しろ!」
前衛を務める我々の後方から、聖魔術師たちが回復や治癒、強化といった支援魔法を掛けたり、敵に『紫陽の閃光花』を浴びせてサポートしてくれるお陰で、非常に戦い易い。
しかし、それでも敵の数は多く、楽観はできない。
「く、くそっ、こっちに来るな……ッ!」
「倒しても倒しても、ウジャウジャと新手が来る……!」
通常の生物であれば、四肢を斬り落とされたり胴体に風穴を空けられれば、苦痛や恐怖で戦意を失って逃げようとするだろうが、中級以下のアンデッドには知性が無いためにそうした行動を取らない。
深手を負おうが隣の者が砕け散ろうが、苦痛も恐怖も全く感じる事無く、ひたすら捕食衝動に従って眼前の獲物を襲うのみ。
とは言え、聖騎士団は対アンデッド戦に特化した軍隊であるため、相手がアンデッドだけであればそこまで苦戦せず勝利できる。
そう、アンデッドだけであれば。
「十一時の方に変異オーガが現れたぞ! 数は二!」
「三時方向には変異ゴブリンの群れ!」
太陽の光や聖水、治癒魔法や光属性魔法を駆使すれば優位に立てるアンデッドと違い、聖騎士団が得意とするそれらの戦法が変異魔物に対しては効果が薄く、必然的に苦戦を強いられる。
「次から次へと……邪魔だッ!」
変異魔物はアンデッドよりも身の危険に敏感で、身の危険を感じて逃げ出す個体も居ない訳ではないが、それでも重度の薬物中毒者のように正常な感覚を失って狂乱状態にあるため、そう簡単に退いてはくれない。
「きゃあッ、な、何なの……!?」
激戦の最中に聞こえたその悲鳴に我に返り、反射的に顔を向けると、
「な……ッ!? テルサ様の輿が……!」
変異ゴブリンが数体、テルサが乗る輿に群がり、球形の結界をガリガリと引っ搔いていた。
「おのれ……下賤な魔物如きが、『聖女』様に近付くんじゃない……!!」
様子を見たザッキスが蒼褪め、叫び、怒りの斬撃を叩き込む。
あの結界の防御力であれば変異ゴブリン程度に破られる心配など全く無いのだが、『聖女』が乗る輿に接近を許してしまったこと自体があるまじき失態なのだ。
我が父、聖騎士団ゼルレークを総大将に、『聖女』テルサを戴く軍勢がクルルザードの街を発った。
目指すは『邪神の息吹』の元凶、瘴気の源泉。
「ラウル、緊張してるのかしら?」
移動中、輿の窓が開いてテルサが話し掛けてきた。
「そう、ですね……。訓練は積んできましたが、経験の浅い新米ですから」
源泉を浄化して『邪神の息吹』を鎮めるためには、現地に棲息する変異魔物やアンデッドとの戦闘は最大の障害であり、避けては通れない。
クルルザードに来る道中でも度々襲撃に遭ったが、源泉に近い場所ほど現れる敵の数も強さも増す傾向にあるため、更に厳しい戦いになるのは間違い無い。
「不安なら、ラウル君はクルルザードでお留守番していてもいいんだよ? テルサ様のことは私がきちんとお護りしてみせようじゃないか。未熟な新米が犬死するのは勝手だが、周りの足手纏いになっては一大事だからね」
すぐ近くで会話を聞いていたザッキスが小馬鹿にしてきたが、しかしそのお陰で湧いた怒りと苛立ちが不安を和らげてくれた。
そんなザッキスの嫌味も長くは続かなかった。
何故なら──
「歩くほどに景色が暗く淀んでいくのが分かりますね……」
「そうだな」
グーネルの言う通り、まだ午前中にも拘らず、充満した瘴気が太陽光をほとんど遮ってしまって、辺りはまるで黄昏時のような薄闇に閉ざされて見通しが悪い。
視覚が利かないこの状況下で余計な会話や物音を立てようものなら、付近に居るであろう魔物に気取られ、襲われてしまうのは必至。
口を噤み、抜き足差し足で静かに進んで、可能な限り戦闘を回避していくことこそ肝要。
しかし、それでも敵はやって来る。
「うわああああああああああああああああ……ッ!!」
静寂を破ったのは、すぐ前方から上がった人と馬の悲鳴。
叫び声の主が跨った馬に、人型の怪物が大きな爪を突き立て、脚に喰らい付いている様子が辛うじて窺えた。
「あれは……『アースバウンド』か……!?」
人間の上半身だけが動く、ゾンビと同じ亡者型の中級アンデッドだ。
視覚が退化した代わりに聴覚が異常に発達しており、地面の振動を探知して獲物を捕捉、大爪を使ってモグラのように地中を高速で掘り進み、生物の死角となる真下から奇襲するのだ。
「この、くたばれ……!」
優れた聴覚と地中潜行能力を持つものの、単体の戦闘力はあまり高くなく、登場したアースバウンドは聖騎士の槍に頭部を貫かれてあっさりと討伐された。
不死身の怪物だろうと、脳や脊椎を破壊されれば流石に活動は止まる。
しかし、事態は何も改善していない。
「グーネル、武器を構えろ! 命に代えてもテルサ様をお護りするのだ……!」
「うわわ、近付いて来ます……!」
悲鳴と物音を聞き付けたのだろう、そこら中から不穏な気配が近付いて来るのがひしひしと感じ取れる。
「総員、戦闘態勢!」
ゼルレーク聖騎士団長の下知に従って、全聖騎士が武器を構える。
それを待っていたかのように、暗闇の中からおぞましきアンデッドの群れが押し寄せて来た。
まずやって来たのは、ゴーストとスペクター。
どちらも霊体故に目立った破壊力や殺傷力は持たないが、重力の理を無視して宙を舞う上に壁や盾、鎧なども擦り抜けてしまう。
ゴーストは姿がぼやけており性質も大人しい部類だが、スペクターは攻撃的な上に生前の姿をはっきりと取っているため、親しい人や子供の姿をした個体に油断して命を落とす者も少なくない。
霊体アンデッドは生物に取り憑いて魔力を吸い取り糧とするため、魔力を奪われて弱った者が、他のアンデッドに圧倒されて命を落とすケースが非常に多く、遭遇した際は早めに倒さなければ厄介なことになる。
「『紫陽の閃光花』!」
突き付けた掌から放たれた紫光を浴びて、宙を舞っていた死霊たちが雲散霧消する。
アンデッド全般に特効のあるこの魔法は、物理的な攻撃が通用しない霊体アンデッドに対しては殊更有効な攻撃手段となる。
「滅せよッ!」
殺到するゾンビの首を聖水剣で刎ね飛ばし、足元から湧いて出て来たアースバウンドの頭蓋骨を踏み潰す。
「決して隙間を作るな! 固まって迎撃せよ!」
「支援魔法を絶やすな。魔力が減った者は後ろと交代しろ!」
前衛を務める我々の後方から、聖魔術師たちが回復や治癒、強化といった支援魔法を掛けたり、敵に『紫陽の閃光花』を浴びせてサポートしてくれるお陰で、非常に戦い易い。
しかし、それでも敵の数は多く、楽観はできない。
「く、くそっ、こっちに来るな……ッ!」
「倒しても倒しても、ウジャウジャと新手が来る……!」
通常の生物であれば、四肢を斬り落とされたり胴体に風穴を空けられれば、苦痛や恐怖で戦意を失って逃げようとするだろうが、中級以下のアンデッドには知性が無いためにそうした行動を取らない。
深手を負おうが隣の者が砕け散ろうが、苦痛も恐怖も全く感じる事無く、ひたすら捕食衝動に従って眼前の獲物を襲うのみ。
とは言え、聖騎士団は対アンデッド戦に特化した軍隊であるため、相手がアンデッドだけであればそこまで苦戦せず勝利できる。
そう、アンデッドだけであれば。
「十一時の方に変異オーガが現れたぞ! 数は二!」
「三時方向には変異ゴブリンの群れ!」
太陽の光や聖水、治癒魔法や光属性魔法を駆使すれば優位に立てるアンデッドと違い、聖騎士団が得意とするそれらの戦法が変異魔物に対しては効果が薄く、必然的に苦戦を強いられる。
「次から次へと……邪魔だッ!」
変異魔物はアンデッドよりも身の危険に敏感で、身の危険を感じて逃げ出す個体も居ない訳ではないが、それでも重度の薬物中毒者のように正常な感覚を失って狂乱状態にあるため、そう簡単に退いてはくれない。
「きゃあッ、な、何なの……!?」
激戦の最中に聞こえたその悲鳴に我に返り、反射的に顔を向けると、
「な……ッ!? テルサ様の輿が……!」
変異ゴブリンが数体、テルサが乗る輿に群がり、球形の結界をガリガリと引っ搔いていた。
「おのれ……下賤な魔物如きが、『聖女』様に近付くんじゃない……!!」
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