【完結】婚約破棄を望んだ悪役令息ですが、破棄して貰えないので隣国に逃走します!

きたさわ暁

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逃走中の回想

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「僕は目一杯男爵令嬢に嫌味を言いましたし、空き教室に閉じ込めましたし、美肌効果はあるんですが、凄く苦い薬湯を飲ませたりしました」

 自分の成果を誇るように、僕は一つ一つ指折り数えて説明する。学園でのあの出来事は、僕にとって大冒険だった。男爵令嬢のあの驚いた顔、悔しそうな表情を思い出すと、今でも少し胸がすくような気分になる。
「に、苦い薬湯?」

 アスの声に、再び笑いの気配が混じる。僕は彼の反応に少しムッとして、話を続ける。
「学園の食堂でニキビが一つ出来たと騒いでいたので、食後の紅茶と僕が作った薬湯とすり替えたんです」

 あの時の男爵令嬢の顔を思い出す。彼女が紅茶だと思って口にした瞬間、顔をしかめて吹き出した姿は、今でも僕の小さな勝利の記憶だ。
「すり替えた……」

 アスは繰り返すように呟き、目を細めて僕を見つめる。その視線には、どこか感心したような、しかし同時に楽しそうな光があった。
「あまりの苦さに吹き出しましたけど、口をつけたものを残すなんて、マナーがなっていませんね、って言って全部飲ませました。次の日から肌の調子が良いと言ってましたよ」

 少し得意げに言うと、アスは小さく頷いた。その表情は、まるで僕の小さな悪戯を愛おしく思うような、柔らかなものだった。
「そうか」

 彼の声は静かで、どこか遠くを見るような響きがあった。焚き火の光が彼の顔に影を落とし、瞳が一瞬だけ深い思索に沈むように見えた。
「アスも飲みますか? その美貌を維持するには大変でしょう?」

 少しからかうような口調で言う。冒険者として外で過ごすことが多いアスは、陽に焼けた肌に無数の小さな傷跡がある。それでも、彼の顔はまるで彫刻のように整っていて、どんな過酷な環境でもその美貌を損なうことはなかった。僕の言葉に、アスはふっと笑う。
「俺の肌は金剛石みたいなものだから、必要ない」

 その自信たっぷりな答えに、僕は思わず笑いそうになる。彼のそんな態度が、どこか憎めない。
「美貌は否定しないんですね」

 つい、からかうように言ってしまう。アスの顔は、確かに美貌と呼ぶにふさわしい。金髪はまるで陽光を浴びた麦のようで、青い瞳は深く澄んだ湖のようだ。長身で鍛え上げられた体は、冒険者の誇りを物語っている。
「この顔は好きじゃないか?」

 その言葉に、僕は一瞬言葉を失う。アスの声は軽い調子だったが、その瞳には真剣な光が宿っていた。まるで、僕の答えを本気で待っているかのように。僕は慌てて目を逸らし、心臓が少し速く鼓動するのを感じた。
「僕が好きとか、嫌いとか、そんな事は関係ないと思います」

 声を少し震わせながら答える。自分の声が、いつもより高く聞こえた気がした。アスはそんな僕を見て、ふっと笑う。
「嫌いか?」



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