ラスボス悪女に転生した私が自分を裏切る予定の従者を幸せにするまで

菱田もな

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王子のお茶会-4

 
 そうして、ユリウスの弱みもにぎったところで、お茶会は終了となった。

 屋敷まで送るという彼の申し出を丁重にお断りして、わたしは静かに一礼した。

「では、失礼いたします」

 顔を上げると、ユリウスはこちらを見つめていた。

 しかし、いつもの彼が見せるものとは違っていた。
 どこかぎこちなく、何かを言いかけて、飲み込んだような、そんな表情。

「……どうかしましたか?」
「あー………いや、何でもない」

 それ以上、彼は何も言わなかった。ただじっとこちらを見つめている。

 いま、彼が何を考えているのかわからない。

 気まずさから、わたしは俯いたままその場を後にしようとした。そのとき──ふと、あることを思い出す。

 立ち止まり、そっと振り返る。

「……あの、シュローダー先輩」

 声をかけると、ユリウスはわずかに目を細めた。驚いたようでもあり、どこか面白がっているような気配もする。

「なんだ?」
「ここって、お化けとか出るのでしょうか……?」

 しばしの沈黙の後、ユリウスは目を瞬いた。

「は?」

 その反応に、わたしは「余計なことをいったかも」とひどく後悔をした。

「い、いえ、あの、変なこと言ってすみません。さっき見知らぬ女性とすれ違ったから……」

 思い返すと、やはり変だったのだ。

 あんなにぴったりと案内役の後ろをついていたのに、はぐれるなんて。しかも、彼女は足音もなく現れて、突然消えてしまった。

 わたしが口ごもっていると、ユリウスは眉を顰めた。

「……どんな女だった?」
「真っ赤な長い髪の……背が高くて、とても綺麗な方でした。あと、花の匂いがして……」
「花の匂い?」

 わたしはおずおずと頷いた。

 てっきり馬鹿にされるかと思っていたのだが、彼は真剣に話を聞いてくれている。

 そんなユリウスの様子に感心していれば、彼はゆっくりと口を開いた。

「なるほど……お前も見たのか」
「え」
「気にするな。たまにいる。そういう人間が」

「つ、つ、つまり……」
「よかったな、王城に取り憑く彼女の姿が見えて。俺には見えないから羨ましいよ」

 さらりと言われて背筋が凍る。

 ………本物だったってこと?!

「どうしましょう……わたし、呪われちゃうかもしれない……!」
「大丈夫だ、害はない……はず」
「はず、ってなんですか! 全く安心できないです!」

 その場で青ざめる私に、ユリウスはふっと息をついた。笑いをこらえているような、そんな表情を浮かべて。

「怖いのか?」
「怖いに決まってるじゃないですか! 幽霊ですよ?! 物理攻撃効かないんですよ?! 勝ち目ないじゃないじゃないですかぁ!」

 半泣きでそう訴えかけていれば、次の瞬間──その場に、ユリウスの笑い声が響いた。

「な、何をそんなに笑って……」
「いやいや悪かったな。冗談だ。この城に幽霊など取り憑いていない」
「はぁっ?!」

 けらけらと楽しそうに笑うユリウス。真剣に聞いてくれているなんて、感心したのが間違いだった。

 やはり彼はわたしをどこまでも小馬鹿にするのが好きなようだ。

「あまりにもお前が真剣に話すからつい」
「………せ、性格悪い!」

 きっ、とユリウスを睨むがまるで意味はない。じわじわといつまでも笑いが込み上げるのだろう。にやけた顔で、こちらを見ている。

 そうして、ひとしきり笑って満足したユリウスは、気を取り直すかのように咳払いをした。

「赤髪の女だとすれば、宮廷魔術師のマルガレーテのことだろう」
「宮廷魔術師……」

 思ったよりもすごい人だった。幽霊なんて言ってごめんなさい。

「用があるなら呼び出すが?」
「い、いえ……ちょっと気になっただけなので……」

 本音を言えば、彼女に言われたことが気になっていたが、わざわざ呼んでもらうのは申し訳ない。そう思って、首を横に振った瞬間。

 どこからか花の匂いがした。

「私を呼んだかい?」
「あ、あ、あなたは……!」

 目の前に突然現れたのは、先ほどの女性──マルガレーテさんだった。

「別に呼んでない。勝手に来るな」
「おや。私の話をしていたと思ったのだが……気のせいだったかな?」

 綺麗な笑みを浮かべながらそう尋ねられてしまえば、「気のせいじゃないです!」と答えるしかなかった。

「また会えてうれしいよ。アナスタシアちゃん」
「アナスタシアちゃん……?!」

 こんな美人にちゃん付けで呼ばれる日が来るとは。あまりのことに顔を真っ赤にしながら見惚れていれば、ユリウスの顔が分かりやすく歪んだ。

「おい。何をデレデレしているんだ。気持ち悪い」
「し、仕方ないじゃないですか! とってもお綺麗なんですもん……」

 心臓がうるさいぐらいに高鳴っている。彼女はとても容姿が整っているが、それだけじゃない、何かとてつもなく惹かれるオーラがあるのだ。

 そもそもこんな美人な女性、ゲームの中に居ただろうか。登場していたら確実に覚えているはずなのに、全く記憶にない。

 わたしがプレイしていないシリーズから登場したのかな……? それか隠しキャラとか?

「それで? 私に一体何の用かな」
「えっ? ああ……ええっと……」

 突然話を振られてしまい、思わず声が裏返った。

「ん? 何か用があったわけではないのかい?」

 そう言って、首を傾げるマルガレーテさん。彼女に聞きたいことは色々ある。色々あるのだが……できれば、先ほどの話はユリウスのいないところでしたい。

 そう思い、ちらりとユリウスの方を見る。

「何だ」
「いや、あの、その……」

 流石に「どっか行け」って言うのは、不敬罪に問われそうだ。何かいい伝え方はないかと考えていれば、マルガレーテさんが「ああ、」と声を漏らした。

「殿下が邪魔なようだ。悪いが、席を外してくれるかい?」
「なっ」

 そんな直球ストレートを投げないでぇ!

 ひやひやする私をよそに、マルガレーテさんはまるで気にしていない様子で言葉を続ける。

「レディ同士でしか話せないこともあるんだよ。まあ、女性に嫌われている殿下には分からない話だろうけど」
「お前なあ!」
「ほらほら、とっとと出ていった」

 そう言って、強引にユリウスは扉の方へと押されて行った。扉が閉まる前、彼はわたしを睨んでいたが、「あはは」とぎこちない笑みを浮かべるしかできなかった。

 それにしても、覚えていろよ、と言わんばかりの睨みだったな。

「よし。邪魔者もいなくなったことだ、ゆっくり話そうじゃないか」
「……はは、ありがとうございます……」

 先ほどまでユリウスを向かい合って座っていた場所に、今度はマルガレーテさんと向かい合う。

 マルガレーテさんはいいとしても、わたしはユリウスに対してこんなことをして、無事で済むのだろうか。

 少しの不安と焦りを感じながらも、わたしはせっかくの貴重な機会を大事にしよう思ったのだった。

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