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悪女の告白-3
しおりを挟むレインのその質問に私は分かりやすいぐらいに動揺した。
「な、なんのこと?」
「あの日、追手から逃げるときに名前を呼ぶましたよね」
「それは……」
「さっき自己紹介もまだだったって、アナスタシア様が言ったじゃないですか。なのに、どうして知っていたのですか」
疑うようなレインの表情と言葉につい黙ってしまった。
身元不明の奴隷であったレインの名前をあの場で知っている人間など、あのおっかない男たちの仲間ぐらいだろう。そんな中で、私が平然と名前を呼ぶのだから、彼が不審に思うのも無理はない。
「答えたくなければ、答えなくていいですよ。俺の立場では無理に聞くことはできませんし」
「……でも、」
「俺のことが聞きたいのでしたらどうぞお好きに命令してください。そうすれば、俺は貴方に従うしかありませんから」
試すようなレインの言葉。
(これはこの質問に答えないのであれば自分のことも話さないということ。それでも聞きたいのであれば、隷属の誓約を使って、答えさせろってことよね……)
そんなことを言われれば何も言えない。隷属の誓約を使って無理やりレインを従わせるだなんて、絶対に嫌だ。
だけど、レインの質問に答えることもできない。何を言っても彼を納得させることのできる答えを考えられないからだ。
身元不明の奴隷であるレインの名前をあの場で知っている理由なんて、あの追手たちの仲間であるぐらいしかない。しかし、それはあり得ない話だし、何よりそんな嘘をいえば家に迷惑がかかる。
実は前世でプレイしてたゲームのキャラクターだから知っていた、なんてことは言えない。いっそ、そう正直に話して頭のおかしい女だと思われ、この場を切り抜けるのもひとつの手かもしれない。
(いやいや駄目よ、レインとは良好な関係を保っておかないと……このまま不信感を抱かれてしまったままでは確実に未来で裏切られちゃう!)
ここは何か適当にそれっぽい理由を言って、誤魔化すしかない。そう思って口を開いた瞬間。
「わたしが、何でレインの名前を知っていたかというと……」
ふと、あることが気になった。さっきレインは私が嘘をついていないかを確かめていた。もしかしたら彼には何か嘘を判断する方法があるのでは……?
もしそうだとすれば、ここで下手な嘘をつくのはよくない。
頭の中で必死に考える。ゲームのことは伝えずに、彼を納得させることのできる理由。しかも嘘はつけないときた。
「それはわたしがあの日、下見をしてたから」
勢いのまま話し始めたせいで、とんでもない言い訳がでてしまった。しかし、もう後には引けない。このまま続けるしかない。
「下見?」
「そう。みんなには内緒にしているけど、実はわたしは元々奴隷を買うつもりであの場所にいたのよ。だけど、あの男たちがあまりにも酷い扱いをしてるからつい連れ出してしまって……」
実際、本当のアナスタシアとレインの出会いは、アナスタシアが奴隷を買おうと訪れた奴隷市場で出会っている。市場で商人に折檻されていたレインを無理やり連れ出したのだった。
なので、アナスタシアの話としてはこれは嘘ではない。まあ、わたしにはそんな気は全くなくて、まぐれでレインと出会ってしまったけど。
「ふぅん…?」
「下見をしていたときにあの男たちが名前を言っていたの聞いたの。ひとりだけ魔力がずば抜けて高いのがいるってね、一目見て貴方のことだと分かったから名前を呼んだのよ」
わたしには分からなかったけれど、アナスタシアはレインの魔力の高さを見抜いていた。なのでこれも嘘ではない。
どうかこれで納得してくれ!
心の中でそう祈っていれば、レインは少し考えたあと、「なるほど」と呟いた。どうやら何とか納得してくれたようだ。
その様子にほっと胸を撫で下ろす。しかし、彼の中ではまだまだ疑問に思うことがあるようだ。
質問を次から次へと投げかけられる。
「どうしてアナスタシア様は奴隷をかおうと? しかも周りには内緒で」
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