18 / 54
入学式
しおりを挟む「ねえ、どうかな?」
真新しい制服に身を包み、わたしはその場でくるくると回ってみせる。ゲームの中で何度も見ていたとはいえ、こうしていざ自分が着るとなると何だか変な感じだ。
「とってもお似合いです、お嬢様!」
その姿にメアリーがこれでもかと褒めちぎるので、ついついだらしない笑みを浮かべてしまう。
「それにしても……お嬢様がクロイツ学園にご入学されるとは、月日が経つのはあっという間ですね」
そう、今日はわたしがクロイツ学園に入学する日である。
「たしかに……あっという間だったなぁ」
この三年間、わたしは本当によく頑張った。レインのスパルタ魔法特訓はもちろん、礼儀作法や学術などの貴族令嬢としての勉強もぬかりなくやった。
それだけでなく、お母様やレインとの良好な関係も維持しつつ、ラスボス化に繋がりそうな禁術や物騒な魔法は徹底的に避けてきた。
なので、現在のわたしはどこからどう見てもラスボスとは無縁なただのアナスタシア・リヴィエールである。
そのおかげでソウル魔法はいまだに使えないままなのだけど……まあ、それはいいか。
「……お嬢様? そろそろお時間が」
ついつい思い出に浸ってしまったが、メアリーの言う通り、もう出なければ間に合わない。
慌てて屋敷を出れば、馬車の前にはレインが立っていた。出会った頃はそこまで変わらなかった目線も、今ではすっかり見上げるようになってしまった。
レインにも制服の感想を求めると彼は呆れながらも、しっかりと褒めてくれた。「えへへ」とだらしない笑みを浮かべていれば、彼は「さあ、行きますよ」と手を差し伸べてくれた。
「あ、レインはお留守番だから」
「は?」
途端にレインの声が低くなる。しかし、わたしもここは引けない。何故ならこの入学式でエミリアとレインが出会うイベントが発生するからである。
この三年間、共に彼と過ごしてきて今さら簡単に裏切られるとは思っていない。だけど、二人が出会うことにより、レインルートに突入してしまうかもしれないと思うと、よく分からないがモヤモヤする。
なので、今回はレインを連れて行かないと決めたのだ。まあ、それを事前に伝えるのをすっかり忘れていたので、いまレインの機嫌はすごい悪くなってしまっているのだけど…。
「俺を連れて行かないとか正気ですか。道中で何かあった時、誰がアナスタシア様を守るんです?」
「ここから学園までそう遠くもないし大丈夫だよ。それにメアリーがいるもの」
攻防が続き、どちらも折れずにいれば「あの……このままでは遅刻してしまいますぅ…」というメアリーの泣きそうな声が聞こえた。
「じゃあ、そういうことで!」
「ちょっと! まだ話は……」
「もう! とにかくレインはお留守番してて! 着いてきたら絶交だからね!」
強引に馬車に乗り込み、出してもらうように伝える。外からレインが何か文句を言っているのが聞こえたが、何も聞こえてないことにしよう。
ああ、これは後が怖いかも…。少しだけ憂鬱な気分のまま、わたしは学園へと向かったのだった。
学園の近くで馬車を降り歩いていれば、門の前でテオドールの姿を見つけた。
「お兄様!」
流石にもう以前のように抱きつくような真似はしないが、小走りで近くまで駆け寄る。その様子に、テオドールが軽く手を挙げた。
十六歳になったテオドールは三年前と比べて、背が伸びて、身体つきも少しがっしりとした。
ハズレ特性だと嘆いていたソウル魔法も、特訓を重ねて、ある程度の傷や病なら治すことができるハイスペックなものになった。
「入学おめでとう、アナスタシア」
「ありがとう! えっと、そちらの方は…?」
お礼を言いつつ、わたしはテオドールの隣に立っている男子生徒に視線を向ける。テオドールよりもやや高い身長、無造作なヘアスタイルに分厚い眼鏡をかけており、どこか暗いオーラを纏っている。
だが、そのスタイルの良さと整った顔立ちは隠しきれていない。
「ああ、こいつはユーリ。俺の友達なんだ」
「は、初めまして……ユーリ・シュローダーです…」
そう言って、テオドールは隣にいる男をわたしに紹介した。緊張しているのか、少しだけおどおどとした様子で挨拶をしてくれた。
まさかもう会えるとは思わなかった。驚きながらも、わたしは彼をじっと見つめる。
ユーリ・シュローダー。
一見、冴えないモブキャラのような格好をしているが、その正体は、攻略対象キャラクターの一人であるユリウス王太子殿下だ。
身分を隠すためという理由で、ユリウスは仮の姿であるユーリとして学園生活を過ごしている。そのため、テオドールを含む学園の生徒たちは、彼の正体を知らない。
ちなみに、ユリウスルートに入らない限り、エミリアも彼の正体を知ることはない。なので、他のキャラクターのルートでは、彼はただのモブとして登場し、ただのモブとして退場する。
「初めまして、妹のアナスタシアです」
にこりと微笑んでユーリもといユリウスへの挨拶を済ませる。控えめに差し出された手を握り、握手を交わしていれば、周辺からぞくりと嫌な視線を感じた。
(なに……今の嫌な感じは…)
辺りを見渡すが、これといって怪しい人物はいない。ユリウスの護衛かと思ったが、事前に「在学中に限り王族に関する対応は不敬罪には問われない」と生徒に知らされているため、いまの対応は問題ないはずだ。
そもそも、いまは握手しただけだし……まあそれも本来であればダメなのかもしれないが。
不審に思っていれば、テオドールが門の中を指差した。
「あっちにクラス分けが掲示されてるから、見に行くぞ」
近くまで行けば、試験結果によるクラスの振り分け表が貼られてあった。
クロイツ学園の入学試験は、筆記と実技の総合結果を元に合否が決まる。もともと勉強があまり得意ではないわたしが、異世界の知識を詰め込むだけでも大変だったのに、さらに実技の対策もだなんて。正直、死ぬかと思った。
アナスタシアの元々のスペックが優れていたため、なんとかなったようなものだ。
(本当によく頑張ったなぁ……わたし)
しみじみとしながら、張り出された紙を見ていれば、自分の名前と同じ列にエミリアの名前を見つけた。つまり、わたしとエミリアは同じクラスというわけだ。
試しにキョロキョロと辺りを見渡してみるが、エミリアの姿は見えない。もう講堂に向かったのだろうか。
できれば早めに仲良くなっておきたかったのだけど。少し残念に思っていれば、テオドールが声をかける。
「アナスタシア? 中に入らないのか?」
「……いま行くわ!」
まあ、この後でいつでも会えるかと思い、わたしはそのまま講堂へと向かった。
「………ああ、アナスタシア様……見つけた…」
そんな様子を恍惚とした表情で見つめる存在には気づかずに。
21
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日7時•19時に更新予定です。
目覚めたら大好きなアニメの悪役令嬢でしたが、嫌われないようにしただけなのに全員から溺愛されています
月影みるく
恋愛
目を覚ましたら、大好きだったアニメの世界。
しかも私は、未来で断罪される運命の悪役令嬢になっていた。
破滅を回避するために決めたことはただ一つ――
嫌われないように生きること。
原作知識を頼りに穏やかに過ごしていたはずなのに、
なぜか王族や騎士、同年代の男女から次々と好意を向けられ、
気づけば全員から溺愛される状況に……?
世界に一人しかいない光属性を持つ悪役令嬢が、
無自覚のまま運命と恋を変えていく、
溺愛必至の異世界転生ラブファンタジー。
気配消し令嬢の失敗
かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。
15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。
※王子は曾祖母コンです。
※ユリアは悪役令嬢ではありません。
※タグを少し修正しました。
初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン
ヒロインだと言われましたが、人違いです!
みおな
恋愛
目が覚めたら、そこは乙女ゲームの世界でした。
って、ベタすぎなので勘弁してください。
しかも悪役令嬢にざまあされる運命のヒロインとかって、冗談じゃありません。
私はヒロインでも悪役令嬢でもありません。ですから、関わらないで下さい。
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?
水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。
私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
婚約者を奪い返そうとしたらいきなり溺愛されました
宵闇 月
恋愛
異世界に転生したらスマホゲームの悪役令嬢でした。
しかも前世の推し且つ今世の婚約者は既にヒロインに攻略された後でした。
断罪まであと一年と少し。
だったら断罪回避より今から全力で奪い返してみせますわ。
と意気込んだはいいけど
あれ?
婚約者様の様子がおかしいのだけど…
※ 4/26
内容とタイトルが合ってないない気がするのでタイトル変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる