ラスボス悪女に転生した私が自分を裏切る予定の従者を幸せにするまで

菱田もな

文字の大きさ
18 / 59

入学式

しおりを挟む
 

「ねえ、どうかな?」

 真新しい制服に身を包み、わたしはその場でくるくると回ってみせる。ゲームの中で何度も見ていたとはいえ、こうしていざ自分が着るとなると何だか変な感じだ。

「とってもお似合いです、お嬢様!」

 その姿にメアリーがこれでもかと褒めちぎるので、ついついだらしない笑みを浮かべてしまう。

「それにしても……お嬢様がクロイツ学園にご入学されるとは、月日が経つのはあっという間ですね」

 そう、今日はわたしがクロイツ学園に入学する日である。

「たしかに……あっという間だったなぁ」

 この三年間、わたしは本当によく頑張った。レインのスパルタ魔法特訓はもちろん、礼儀作法や学術などの貴族令嬢としての勉強もぬかりなくやった。

 それだけでなく、お母様やレインとの良好な関係も維持しつつ、ラスボス化に繋がりそうな禁術や物騒な魔法は徹底的に避けてきた。

 なので、現在のわたしはどこからどう見てもラスボスとは無縁なただのアナスタシア・リヴィエールである。

 そのおかげでソウル魔法はいまだに使えないままなのだけど……まあ、それはいいか。

「……お嬢様? そろそろお時間が」

 ついつい思い出に浸ってしまったが、メアリーの言う通り、もう出なければ間に合わない。

 慌てて屋敷を出れば、馬車の前にはレインが立っていた。出会った頃はそこまで変わらなかった目線も、今ではすっかり見上げるようになってしまった。

 レインにも制服の感想を求めると彼は呆れながらも、しっかりと褒めてくれた。「えへへ」とだらしない笑みを浮かべていれば、彼は「さあ、行きますよ」と手を差し伸べてくれた。

「あ、レインはお留守番だから」
「は?」

 途端にレインの声が低くなる。しかし、わたしもここは引けない。何故ならこの入学式でエミリアとレインが出会うイベントが発生するからである。

 この三年間、共に彼と過ごしてきて今さら簡単に裏切られるとは思っていない。だけど、二人が出会うことにより、レインルートに突入してしまうかもしれないと思うと、よく分からないがモヤモヤする。

 なので、今回はレインを連れて行かないと決めたのだ。まあ、それを事前に伝えるのをすっかり忘れていたので、いまレインの機嫌はすごい悪くなってしまっているのだけど…。

「俺を連れて行かないとか正気ですか。道中で何かあった時、誰がアナスタシア様を守るんです?」
「ここから学園までそう遠くもないし大丈夫だよ。それにメアリーがいるもの」

 攻防が続き、どちらも折れずにいれば「あの……このままでは遅刻してしまいますぅ…」というメアリーの泣きそうな声が聞こえた。

「じゃあ、そういうことで!」
「ちょっと! まだ話は……」
「もう! とにかくレインはお留守番してて! 着いてきたら絶交だからね!」

 強引に馬車に乗り込み、出してもらうように伝える。外からレインが何か文句を言っているのが聞こえたが、何も聞こえてないことにしよう。

 ああ、これは後が怖いかも…。少しだけ憂鬱な気分のまま、わたしは学園へと向かったのだった。




 学園の近くで馬車を降り歩いていれば、門の前でテオドールの姿を見つけた。

「お兄様!」

 流石にもう以前のように抱きつくような真似はしないが、小走りで近くまで駆け寄る。その様子に、テオドールが軽く手を挙げた。

 十六歳になったテオドールは三年前と比べて、背が伸びて、身体つきも少しがっしりとした。

 ハズレ特性だと嘆いていたソウル魔法も、特訓を重ねて、ある程度の傷や病なら治すことができるハイスペックなものになった。

「入学おめでとう、アナスタシア」
「ありがとう! えっと、そちらの方は…?」

 お礼を言いつつ、わたしはテオドールの隣に立っている男子生徒に視線を向ける。テオドールよりもやや高い身長、無造作なヘアスタイルに分厚い眼鏡をかけており、どこか暗いオーラを纏っている。

 だが、そのスタイルの良さと整った顔立ちは隠しきれていない。

「ああ、こいつはユーリ。俺の友達なんだ」
「は、初めまして……ユーリ・シュローダーです…」

 そう言って、テオドールは隣にいる男をわたしに紹介した。緊張しているのか、少しだけおどおどとした様子で挨拶をしてくれた。

 まさかもう会えるとは思わなかった。驚きながらも、わたしは彼をじっと見つめる。

 ユーリ・シュローダー。
 一見、冴えないモブキャラのような格好をしているが、その正体は、攻略対象キャラクターの一人であるユリウス王太子殿下だ。

 身分を隠すためという理由で、ユリウスは仮の姿であるユーリとして学園生活を過ごしている。そのため、テオドールを含む学園の生徒たちは、彼の正体を知らない。

 ちなみに、ユリウスルートに入らない限り、エミリアも彼の正体を知ることはない。なので、他のキャラクターのルートでは、彼はただのモブとして登場し、ただのモブとして退場する。

「初めまして、妹のアナスタシアです」

 にこりと微笑んでユーリもといユリウスへの挨拶を済ませる。控えめに差し出された手を握り、握手を交わしていれば、周辺からぞくりと嫌な視線を感じた。

(なに……今の嫌な感じは…)

 辺りを見渡すが、これといって怪しい人物はいない。ユリウスの護衛かと思ったが、事前に「在学中に限り王族に関する対応は不敬罪には問われない」と生徒に知らされているため、いまの対応は問題ないはずだ。

 そもそも、いまは握手しただけだし……まあそれも本来であればダメなのかもしれないが。

 不審に思っていれば、テオドールが門の中を指差した。

「あっちにクラス分けが掲示されてるから、見に行くぞ」

 近くまで行けば、試験結果によるクラスの振り分け表が貼られてあった。

 クロイツ学園の入学試験は、筆記と実技の総合結果を元に合否が決まる。もともと勉強があまり得意ではないわたしが、異世界の知識を詰め込むだけでも大変だったのに、さらに実技の対策もだなんて。正直、死ぬかと思った。

 アナスタシアの元々のスペックが優れていたため、なんとかなったようなものだ。

(本当によく頑張ったなぁ……わたし)

 しみじみとしながら、張り出された紙を見ていれば、自分の名前と同じ列にエミリアの名前を見つけた。つまり、わたしとエミリアは同じクラスというわけだ。

 試しにキョロキョロと辺りを見渡してみるが、エミリアの姿は見えない。もう講堂に向かったのだろうか。

 できれば早めに仲良くなっておきたかったのだけど。少し残念に思っていれば、テオドールが声をかける。

「アナスタシア? 中に入らないのか?」
「……いま行くわ!」

 まあ、この後でいつでも会えるかと思い、わたしはそのまま講堂へと向かった。



「………ああ、アナスタシア様……見つけた…」

 そんな様子を恍惚とした表情で見つめる存在には気づかずに。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

あなたの側にいられたら、それだけで

椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。 私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。 傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。 彼は一体誰? そして私は……? アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。 _____________________________ 私らしい作品になっているかと思います。 ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。 ※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります ※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。

倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。 でも、ヒロイン(転生者)がひどい!   彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉ シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり! 私は私の望むままに生きます!! 本編+番外編3作で、40000文字くらいです。 ⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。

「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ

猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。 当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。 それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。 そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。 美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。 「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」 『・・・・オメエの嫁だよ』 執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?

ご令嬢は一人だけ別ゲーだったようです

バイオベース
恋愛
魔法が有り、魔物がいる。 そんな世界で生きる公爵家のご令嬢エレノアには欠点が一つあった。 それは強さの証である『レベル』が上がらないという事。 そんなある日、エレノアは身に覚えの無い罪で王子との婚約を破棄される。 同じ学院に通う平民の娘が『聖女』であり、王子はそれと結ばれるというのだ。 エレノアは『聖女』を害した悪女として、貴族籍をはく奪されて開拓村へと追いやられたのだった。 しかし当の本人はどこ吹く風。 エレノアは前世の記憶を持つ転生者だった。 そして『ここがゲームの世界』だという記憶の他にも、特別な力を一つ持っている。 それは『こことは違うゲームの世界の力』。 前世で遊び倒した農業系シミュレーションゲームの不思議な力だった。

森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる
恋愛
[完結] 北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。 ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。 アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。 森に捨てられてしまったのだ。 南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。 苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。 ※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。 ※完結しました。

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...