ラスボス悪女に転生した私が自分を裏切る予定の従者を幸せにするまで

菱田もな

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入学式

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「ねえ、どうかな?」

 真新しい制服に身を包み、わたしはその場でくるくると回ってみせる。ゲームの中で何度も見ていたとはいえ、こうしていざ自分が着るとなると何だか変な感じだ。

「とってもお似合いです、お嬢様!」

 その姿にメアリーがこれでもかと褒めちぎるので、ついついだらしない笑みを浮かべてしまう。

「それにしても……お嬢様がクロイツ学園にご入学されるとは、月日が経つのはあっという間ですね」

 そう、今日はわたしがクロイツ学園に入学する日である。

「たしかに……あっという間だったなぁ」

 この三年間、わたしは本当によく頑張った。レインのスパルタ魔法特訓はもちろん、礼儀作法や学術などの貴族令嬢としての勉強もぬかりなくやった。

 それだけでなく、お母様やレインとの良好な関係も維持しつつ、ラスボス化に繋がりそうな禁術や物騒な魔法は徹底的に避けてきた。

 なので、現在のわたしはどこからどう見てもラスボスとは無縁なただのアナスタシア・リヴィエールである。

 そのおかげでソウル魔法はいまだに使えないままなのだけど……まあ、それはいいか。

「……お嬢様? そろそろお時間が」

 ついつい思い出に浸ってしまったが、メアリーの言う通り、もう出なければ間に合わない。

 慌てて屋敷を出れば、馬車の前にはレインが立っていた。出会った頃はそこまで変わらなかった目線も、今ではすっかり見上げるようになってしまった。

 レインにも制服の感想を求めると彼は呆れながらも、しっかりと褒めてくれた。「えへへ」とだらしない笑みを浮かべていれば、彼は「さあ、行きますよ」と手を差し伸べてくれた。

「あ、レインはお留守番だから」
「は?」

 途端にレインの声が低くなる。しかし、わたしもここは引けない。何故ならこの入学式でエミリアとレインが出会うイベントが発生するからである。

 この三年間、共に彼と過ごしてきて今さら簡単に裏切られるとは思っていない。だけど、二人が出会うことにより、レインルートに突入してしまうかもしれないと思うと、よく分からないがモヤモヤする。

 なので、今回はレインを連れて行かないと決めたのだ。まあ、それを事前に伝えるのをすっかり忘れていたので、いまレインの機嫌はすごい悪くなってしまっているのだけど…。

「俺を連れて行かないとか正気ですか。道中で何かあった時、誰がアナスタシア様を守るんです?」
「ここから学園までそう遠くもないし大丈夫だよ。それにメアリーがいるもの」

 攻防が続き、どちらも折れずにいれば「あの……このままでは遅刻してしまいますぅ…」というメアリーの泣きそうな声が聞こえた。

「じゃあ、そういうことで!」
「ちょっと! まだ話は……」
「もう! とにかくレインはお留守番してて! 着いてきたら絶交だからね!」

 強引に馬車に乗り込み、出してもらうように伝える。外からレインが何か文句を言っているのが聞こえたが、何も聞こえてないことにしよう。

 ああ、これは後が怖いかも…。少しだけ憂鬱な気分のまま、わたしは学園へと向かったのだった。




 学園の近くで馬車を降り歩いていれば、門の前でテオドールの姿を見つけた。

「お兄様!」

 流石にもう以前のように抱きつくような真似はしないが、小走りで近くまで駆け寄る。その様子に、テオドールが軽く手を挙げた。

 十六歳になったテオドールは三年前と比べて、背が伸びて、身体つきも少しがっしりとした。

 ハズレ特性だと嘆いていたソウル魔法も、特訓を重ねて、ある程度の傷や病なら治すことができるハイスペックなものになった。

「入学おめでとう、アナスタシア」
「ありがとう! えっと、そちらの方は…?」

 お礼を言いつつ、わたしはテオドールの隣に立っている男子生徒に視線を向ける。テオドールよりもやや高い身長、無造作なヘアスタイルに分厚い眼鏡をかけており、どこか暗いオーラを纏っている。

 だが、そのスタイルの良さと整った顔立ちは隠しきれていない。

「ああ、こいつはユーリ。俺の友達なんだ」
「は、初めまして……ユーリ・シュローダーです…」

 そう言って、テオドールは隣にいる男をわたしに紹介した。緊張しているのか、少しだけおどおどとした様子で挨拶をしてくれた。

 まさかもう会えるとは思わなかった。驚きながらも、わたしは彼をじっと見つめる。

 ユーリ・シュローダー。
 一見、冴えないモブキャラのような格好をしているが、その正体は、攻略対象キャラクターの一人であるユリウス王太子殿下だ。

 身分を隠すためという理由で、ユリウスは仮の姿であるユーリとして学園生活を過ごしている。そのため、テオドールを含む学園の生徒たちは、彼の正体を知らない。

 ちなみに、ユリウスルートに入らない限り、エミリアも彼の正体を知ることはない。なので、他のキャラクターのルートでは、彼はただのモブとして登場し、ただのモブとして退場する。

「初めまして、妹のアナスタシアです」

 にこりと微笑んでユーリもといユリウスへの挨拶を済ませる。控えめに差し出された手を握り、握手を交わしていれば、周辺からぞくりと嫌な視線を感じた。

(なに……今の嫌な感じは…)

 辺りを見渡すが、これといって怪しい人物はいない。ユリウスの護衛かと思ったが、事前に「在学中に限り王族に関する対応は不敬罪には問われない」と生徒に知らされているため、いまの対応は問題ないはずだ。

 そもそも、いまは握手しただけだし……まあそれも本来であればダメなのかもしれないが。

 不審に思っていれば、テオドールが門の中を指差した。

「あっちにクラス分けが掲示されてるから、見に行くぞ」

 近くまで行けば、試験結果によるクラスの振り分け表が貼られてあった。

 クロイツ学園の入学試験は、筆記と実技の総合結果を元に合否が決まる。もともと勉強があまり得意ではないわたしが、異世界の知識を詰め込むだけでも大変だったのに、さらに実技の対策もだなんて。正直、死ぬかと思った。

 アナスタシアの元々のスペックが優れていたため、なんとかなったようなものだ。

(本当によく頑張ったなぁ……わたし)

 しみじみとしながら、張り出された紙を見ていれば、自分の名前と同じ列にエミリアの名前を見つけた。つまり、わたしとエミリアは同じクラスというわけだ。

 試しにキョロキョロと辺りを見渡してみるが、エミリアの姿は見えない。もう講堂に向かったのだろうか。

 できれば早めに仲良くなっておきたかったのだけど。少し残念に思っていれば、テオドールが声をかける。

「アナスタシア? 中に入らないのか?」
「……いま行くわ!」

 まあ、この後でいつでも会えるかと思い、わたしはそのまま講堂へと向かった。



「………ああ、アナスタシア様……見つけた…」

 そんな様子を恍惚とした表情で見つめる存在には気づかずに。

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