20 / 59
シナリオには逆らえない-2
しおりを挟むいくらエミリアが小柄で華奢だといえど、流石にわたしの身体だけでは彼女を支えきることはできなかった。
ゴンッという鈍い音があたりに響いて、わたしはそのまま地面に倒れた。背中に走る痛みと衝撃で声も出ない。
「アナスタシア様!」
レインの叫ぶ声が聞こえる。こちらに駆け寄ってくる彼の足音を聞きながら、わたしはそっと目を瞑った。
結局、シナリオ通りにエミリアとレインは出会ってしまうわけで。わたしがどれだけ頑張っても、運命は変えられないのかもしれない。
もういっそ、このままここで全てを諦めてしまおうか。半ばヤケになって、そんな事を考えながら意識を手放そうとした瞬間。
「──ま、アナスタシア様!」
大声で名前を呼ばれた。エミリアの必死なその声に重たい瞼をこじ開けると、こちらを覗き込む心配そうな顔がぼんやりと視界に入る。
「……え……かわいい…天使? ここは天国なの?」
「何を寝ぼけてるのですか」
やけに冷静な声が聞こえたかと思えば、次の瞬間、全身がまばゆい光に包まれる。どうやらレインが回復魔法をかけてくれたようだ。
痛みが消えると、身体を支えられながらなんとか身体を起こすことができた。しかし、痛いぐらいに肩を抱かれ、思わず顔を顰める。
「あ、ありがとう……でも、そろそろ離し」
「アナスタシア様は本当に俺を心配させるのがお好きですね」
棘のあるレインの言葉に思わず、ぐっと言葉を詰まらせる。
まずい、これは確実に怒っている。ここからどう言い訳をしようか。頭の中で様々な謝罪方法を考えていれば、目の前のエミリアがポロポロと涙を流した。
「ごめんなさい…私のせいで…」
泣きながらそう謝るエミリア。耳元で「泣けば済むと思ってんじゃねぇよ」とドスのきいた低い声がしたが、気のせいだと無視しよう。
「気にしないで。エミリアに怪我がなくてよかったわ」
「アナスタシア様……!」
エミリアがわたしの手をぎゅっと握れば、私の肩を抱いているレインの手にも、何故か力が入った。
「………レイン? 離して?」
小声でそう伝えるが、全く聞いちゃいない。
なので、半ば強引に肩を抱いているレインの手を剥がそうとするが、全く動かない。ちょっと待って、力強いな。もげるかってぐらい痛いのだけど。
肩の痛みがじわじわと広がって、もう麻痺までしてきたかもしれない。だが、それ以上に気になるのは、この場の空気だった。
レインがエミリアを見る目。エミリアがレインに返す表情。そのどちらにも、好意的なものは一切感じられなかった。
イレギュラーが起きたが、本来であれば、この瞬間が二人の出会いイベントのはず。この一件以来、エミリアはレインの不器用な優しさに惹かれ、レインは彼女の純粋さに心を開く。
やがてエミリアと心を通わせたレインは、アナスタシアを悪女と見なして裏切り、彼女のラスボス化が始まるはずだった。
けれど今、目の前のエミリアはただ心配そうにわたしを見つめているだけで、レインに見とれる気配は全くない。
レインもまた同様に、エミリアに対して表向きはにこやかではあるが、どこか冷めていて、興味がないといった様子だ。怪我の原因となった彼女に少しだけ怒ってはいそうだけど。
「すぐに屋敷へ戻りましょう。治癒魔法を使ったとはいえ、安静にしないと」
レインのその言葉に立ちあがろうとすれば、次の瞬間、彼の腕が腰に周り、げ、と思った時には、わたしの視界がふわりと浮かんだ。
「ちょ、ちょっと! 降ろして!」
「暴れないでください」
わたしの腰と膝の裏をしっかりとレインの腕が支える。これは俗にいう「お姫様抱っこ」というやつだ。
突然のことに周りの注目も集めることとなり、わたしの顔はゆでだこのように真っ赤に染まる。
「みんな見てるから、恥ずかしいのだけど…!」
「俺を無駄に心配させた罰です。絶対に降ろさないので、抵抗するだけ無駄ですよ」
「………嘘でしょ」
そう言われてしまえば、もう諦めるしかない。わたしはなるべく大人しくして、その場をやり過ごすことにした。
明日から変な噂が流れたどうしよう。もう学園には通えないかもしれない。
気まずさから、ふと視線を逸らせば、エミリアの袖口が震えているのに気がついた。彼女もまたどこか怪我をしているのかもしれない。それか突然のことで戸惑っているのかも。
彼女のフォローをしなくては。そう思い、レインに歩みを止めるよう声をかけようしたが。
「ねえ、レイ──」
エミリアが今まで見たこともないぐらい冷たい表情を浮かべていたので、思わず口を噤んだ。
「アナスタシア様?」
「……何でもない、帰ろう」
あれは怯えや恐怖で震えていたのではない。きっと怒りで震えていたのだ。確証はないが、そう思った。
「やっぱり、レインに助けてほしかったのかな」
「は?」
「気にしないで、ほら、早く帰ろうってば!」
「………振り落としますよ」
さっきは絶対に降ろさないとか言ったくせに。まあ、降ろすと落とすだから意味は違うか。
「ねえ、レイン」
「なに」
「明日からは送り迎え、よろしくね」
「は? 散々、嫌って言っておいて、何で突然」
「もういいの」
意味がわからないと言った表情を浮かべるレインに、けらけらと笑いながら、わたしはとある誓いを立てた。
結局、シナリオに逆らえないのだったら、生存率を上げるために、この世界のヒロインを怒らせるのは、なるべく控えたい。だから、これからはなるべく邪魔をしないでおこうと。
わたしのモヤモヤするこの気持ちには蓋をして。
「………やっぱり違う、あんなの私の好きな……じゃない」
誰にも聞こえない声で、エミリアは呟いた。皺になるぐらいに、スカートを握る力強い手が、彼女の怒りを確かにあらわしていた。
35
あなたにおすすめの小説
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。
風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。
※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
わがままな婚約者はお嫌いらしいので婚約解消を提案してあげたのに、反応が思っていたのと違うんですが
水谷繭
恋愛
公爵令嬢のリリアーヌは、婚約者のジェラール王子を追いかけてはいつも冷たくあしらわれていた。
王子の態度に落ち込んだリリアーヌが公園を散策していると、転んで頭を打ってしまう。
数日間寝込むはめになったリリアーヌ。眠っている間に前世の記憶が流れ込み、リリアーヌは今自分がいるのは前世で読んでいたWeb漫画の世界だったことに気づく。
記憶を思い出してみると冷静になり、あれだけ執着していた王子をどうしてそこまで好きだったのかわからなくなる。
リリアーヌは王子と婚約解消して、新しい人生を歩むことを決意するが……
◆表紙はGirly Drop様からお借りしました
◇小説家になろうにも掲載しています
森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。
玖保ひかる
恋愛
[完結]
北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。
ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。
アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。
森に捨てられてしまったのだ。
南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。
苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。
※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。
※完結しました。
女騎士と文官男子は婚約して10年の月日が流れた
宮野 楓
恋愛
幼馴染のエリック・リウェンとの婚約が家同士に整えられて早10年。 リサは25の誕生日である日に誕生日プレゼントも届かず、婚約に終わりを告げる事決める。 だがエリックはリサの事を……
悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。
倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。
でも、ヒロイン(転生者)がひどい!
彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉
シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり!
私は私の望むままに生きます!!
本編+番外編3作で、40000文字くらいです。
⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。
転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした
ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!?
容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。
「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」
ところが。
ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。
無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!?
でも、よく考えたら――
私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに)
お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。
これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。
じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――!
本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。
アイデア提供者:ゆう(YuFidi)
URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる