白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

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 13時。

 久しぶりに賑やかな街を歩いている。雑貨店が多い通りだから、通る人は女の人が多い。さっきまで近くのイタリアンレストランでランチを食べていた。3カ月ぶりに行ったお店で、内装が変わっていた。

「3か月も行ってなかったんだね」
「それだけ濃厚な時間だったということだ。デビューまであっという間だったろう?」
「うん。それまでが大変だったよ。やり切ってよかった」
「5月にライブがあるだろう。そろそろ準備に入る頃か」
「12月に入ったらすぐに打ち合わせだよ。すでに動いているけど。大勢で作るから、すごいなあって思ったんだ」

 ステージに上がる自分たちは作品の発表係だ。大勢の人が関わってステージを作り上げていく。観客も仲間入りして、同じ時間を共有する。集団行動も人付き合いも苦手だったのに、まさかバンドに加入するとは想像もしていなかった。人前で歌うのは高校時代の礼拝だけだった。歌うことが好きだと、黒崎が気づかせてくれた。

「あんたがキッカケだったよね。歌うことが好きだってこと」
「そうだったか。たしかに鼻歌の音程も合っていた」

 当てもなくブラブラ歩くことが珍しい。スーパーか書店、洋服のショップしか行かないからだ。今月は黒崎の方が忙しいから、こうして歩けないだろう。

 黒崎製菓に限らず、年末にかけて飲み会が増える。黒崎が忙しくなる時期だ。去年は週に2回は遅く帰ってきた。早瀬さんと分担をしても。今年も同じだろうか?

「忘年会のシーズンになるね。早瀬さんと分担して出るんだよね?」
「ああ変わりない。来年から忙しくなる。人事の準備をするからだ。親父を会長職へ追いやろうか」
「追いやるって……」
「そういう年だ。親父も分かっている。業績は安定しているが、伸びてもいない」
「決算資料もそうなっていたね。ずっと安定すること自体が凄いだろ?食品メーカーはいっぱいあるのに」
「そう捉えている上層部が多すぎる。社員の遣り甲斐が失われる。無駄な派閥争いもある。悪い兆候だ。千尋製菓の流れに近い」
「このままだと潰れるの?あんたが言うなら本当になるよ」
「はっきり言う子だ」
「それが俺だから。さっきからオブラートに包んだ言い方をしてるよ?黒崎さんらしくないよ」
「言い当てられたか。深川さんを引きずり降ろそうとしている連中がいる」
「深川さんは引っ張って来た人なんだよね?」

 深川さんは部下に任せる機会が多い分だけ、周りから信頼されている。強引なことをしないし、部下の意見を聞くということだ。そういうわけで、黒崎は深川さんに社長になってもらいたいそうだ。

「俺が引きずり降ろさせない。船が沈む」
「さすがだね。黒崎さんのカッコよさが際立つよ。本当に出来るもんね~」
「ああ……」
「なんで照れてるんだよ?ホントのことだよ?嫌味じゃないよ?」

 黒崎がそっぽを向いた。ここ最近の変化のひとつだ。喜怒哀楽が分かりやすくなってきた。オフィスの姿での姿は分からないが、プライベートでは丸わかり状態だ。やっと心のドアが開いたと思ったら、即座に閉じていた。今では全開の状態だ。いつから変化したのだろう。
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