白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

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 いよいよ収録が始まった。スタッフの指示通りの位置に立った。グーンと音を立てて、数台のカメラが動いている。自分の鼓動も耳元まで響いてきた。

 今回出演する番組は、音楽専門のチャンネルの”ウエストイースト”だ。今話題のミュージシャンのステージとトークをやっている。10月から始まった新しい番組だ。ゲストはロックバンド、R&Bなどジャンルが固定されていないそうだ。

「ナツキさん。ユートさん。佐久弥さんと並んでくださーーい」

 出演者はヴィジブルレイだけではない。R&Bの歌手の羽音さんと、心のドアを歌った歌手の勅使河原さんがゲストだ。まさか共演できるなんてと、ここに到着した時から浮足立っている。羽音さんは真羽の従兄弟だ。バンドコンテストの時に会いに来てくれた。まさか共演が叶うなんて思っていなかった。

 羽音さんは勅使河原さんのようなハイトーンボイスの歌声をしているが、全く印象が違う。勅使河原さんが落ち着いたヴァイオリンの音色だとしたら、羽音さんはオーケストラの華やかな演奏だ。今回は二人のコラボをスタジオで聴かせてもらえる。

 スタジオ入りした時に勅使河原さんに挨拶に行くと、フレンドリーに接してもらえた。佐久弥とも交流があるという。年齢は49歳。歌手歴は30年の大先輩だ。羽音さんはまだ到着していない。コラボ前に挨拶しようと決めた。

 ガーーーー。

 カメラが回りだした時、悠人もブルブル震えだした。どうしたのだろう?もう収録が始まっているのに。トイレだろうか。

「ゆうとー、トイレに行きたいんだろ?声をかけてあげるよ」
「なつきー、違うよー」
「我慢は良くないよ。落ち着いていられないだろ?」
「怖いんだよー」
「ええええ?」

 さっきまで大人びた感じだったのに。見栄を張っていたのかな?なんせクールな男を目指しているのだから。せめて肩を寄せ合おう。並んで立っているから違和感はないはずだ。革のジャケット越しに、お互いの存在を感じた。

 だんだんと悠人の震えが小さくなり、自分の心も落ち着いた。佐久弥からは何も言われなかった。一つだけ分かったのは、仕事モードに切り替わっていることだ。

(仕事なんだ。プロなんだ。自分だって同じだ……)

「夏樹、悠人、こっちへ移動するぞー」
「はーーい」

 司会者が座っているコーナーに移動した。緊張しながらも歌うことが楽しいこと、楽曲で楽しんでもらいたい箇所を語った。伝わるといいなと思いながら。悠人は、さっそく笑いを取っていた。本人はそのつもりはないのに。ひいいいいっという、お馴染みのフレーズにより、大爆笑が起こった。

「ヴィジブルレイさん、ステージ収録に移りますーー!」
「はい、了解しましたーー」

 今度は、いよいよ、ステージをつとめる。観客はカメラとスタッフだ。ライブとは違う感じでやる必要がありそうだ。そのままでいいぞ、とは言われている。

 ポジショニングの確認、マイクやイヤモニを取り付ける音声スタッフ、もう一度、ヘアメイクを施された。バタバタしているのにスムーズな動きだ。このステージが終われば仕事も終わりだ。この後は、勅使河原さん達のコラボステージ収録だ。

「スターーート。いきまーーす!」

 なんと、植本さんと布川さんが見学している。佐久弥が文句を言っていた。プレッシャーでガチガチになるだろう?と。その発言に対して、スタジオ内に笑いが起こった。そのおかげで緊張感が和らいだ。そして、バンド演奏しか聴こえなくなり、普段通りに歌声を上げることができた。

 おーーーー!

「……you life will pass…… you life will pass……ray of light!……angel of ーー!」

 パチパチパチパチ!

 スタジオ内から拍手が起こった。植本さんと布川さんからガッツポーズを貰えて胸がいっぱいになった時、その後ろの方に勅使河原さんがいるのを見つけた。拍手をもらっている。

 信じられない心地のままで歌い終えた。高揚感と放心状態が同時に起こって、収録が終わったのに動けなくなった。悠人が俺の左側に立ち、ずるずると引きずられるようにしてサイドに戻った。
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