白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

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 リビングに戻ると、佐久弥が悠人のことを苛めていた。まるで兄弟げんかのようで。それを見ているうちに、伊吹のことを思い出した。

「もうーーー」
「ぎゃははは。お堅い考え方だから、選んだポテトが固かったんだぞーー?」
「きいいいっ」
「黒崎さーん。お兄ちゃんに電話しようかな~」
「そうか。伊吹君の誕生日だったな」

 すると、周りからの反応が返って来た。クリスマスイヴ生まれだから伊吹なのか?と。きっと狙って付けられた名前だと答えると、一斉に笑いが起こった。伊吹は自分の名前を高校生までは嫌がっていた。今は取引先との会食のネタにしている。

「聡太郎君とゆっくりしてるよね~」
「まだいいだろう。かけてやれ」
「うんっ。あ、お兄ちゃんからだ」

 噂をすれば影だ。向こうから掛けてくる時は、99%ロクな話ではない。さっきと思っていることが逆だ。自分にツッコミを入れながら電話に出ると、爽やかな声が聞こえてきた。

「……夏樹。メリークリスマス・イブキ」
「元気そうだね~。ご飯を食べてるからさ。また明日ね!」
「……夏樹。テレビのチャンネルを変えろ。ヴィジブルレイのことが放送されているぞ!お母さんとの感動のシーンと、俺との兄弟愛がクローズアップされている。もちろん録画しているぞ。うひゃひゃひゃーー」

 スピーカーから聞こえたのだろう。黒崎がチャンネルを変更し、母に抱きついている俺の姿がアップで映し出された。みんなから笑いが起きている。

「チャンネルを変えてよーーっ」
「変えない」
「変えてってば」

 リモコンを奪い取ろうとしたが、反射神経では勝てるはずもない。諦めているうちに番組が進行していき、自分たちの楽曲プロモが流れはじめた。

 スマホのスピーカーからは、すすり泣きが聞こえてきた。小さかった子が、体の弱かった子がと言っている。お母さん達が喜んでいるぞ。そんなことを聞かされて、だんだんと視界がぼやけてきた。しかし、すぐに涙が止まった。伊吹の含み笑いが始まったことによって。

「……このおかげでな。株式会社ブロッコリーの業績が好調だ。俺がインタビューに出たことが話題になって、会食でも盛り上がっている。今度ライスシャワーmaxに出るんだろう?お兄ちゃんのことを話してくれ。ちょうど4月から新規事業が……」
「お兄ちゃん。それが言いたかったのかよ?」
「……80%がこの用件だ。コネがいけないのか?何を言っているんだ。物事を円滑に進めるための ”姑息な手段” だ。臆することはないぞ!」
「ご飯を食べているからさ。もう切るよ~」
「……残り20%の話題に移る。そろそろ風邪を引く頃だ。いい民間療法がある」
「ネギを首に巻く方法だよね?去年聞いたよ~。もういいからさ~~」
「……去年は試さなかっただろう?アリシンという成分がいい。疲労回復や殺菌効果、血行促進作用、免疫力を高める。九条ネギがあるだろう。それを使うといい」
「うんうん。九条ネギで試すよ」
「……結果を教えてくれ。お兄ちゃんは風邪を引かないから分からない」

 まさか本当に風邪を引いていないのかも知れない。そう心の中で呟いた後、通話を終えた。なんだか佐久弥の目が輝いている。伊吹と気が合いそうだと言うと、みんなが大きく頷いた。
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