白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

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 コト……。

 ごくわずかな音を立てて、グラスが置かれた。赤ワインが注がれた後、ドキドキしてきた。いかにも大人な空気感だ。黒崎には大人のムードが漂っている。この乾杯の後でデザートが運ばれる。本当にお祝いされている。やっと実感が沸いてきた。目線の高さにグラスを上げて、目を合わせた。そして、飲むふりだけにすると言うと、黒崎が微笑んだ。

「いい子にしたじゃないか」
「うん。分かっているよ。甘酒でも酔ったもんねえ」
「あれは加熱が弱かった。アルコールが飛んでいない。わずかでも反応するかもしれないが」
「理久の甘酒製造機のことだけど。改良を重ねているそうだよ」

 去年の夏のことを思い出して笑った。あの時はデビュー前で、プロモーションビデオ撮影のことで悩んでいた。そのハードルをクリアした。いい経験だったと思う。

「……電話だね?」

 デザートに移った頃、黒崎の方から着信音が鳴った。表示を確かめた後、黒崎が少し眉をひそめた。お義父さんからだそうだ。そのまま会話が始まり、遠慮なく聞き耳を立ていた。その端々で、森井物産のキーワードが出てきた。

(記事には出なかったのに?どうして?)

 はやる気持ちを抑えて、黒崎からの話を待った。その表情は落ち着いたものだ。眉も寄せなくなった。相づちと短いキーワードが、テーブル越しに聞こえている。けっしていい内容ではない。自分に出来るのは落ち着くことだ。

「分かった。孝則さんへの連絡は……。裕理に伝えておく。遠藤さんが……。これから帰る。カメラマンはいないだろう。……居るのか?」

 最後は苦笑していたからホッとした。通話を終えた後、俺の方を向いて笑った。心配するなという意味だ。

「帰ってから詳しいことを話す。デザートの後で帰るぞ。夜のデートは次の機会だ」
「ざっくりでも聞きたいよ。心の準備がしたいから」
「デザートの後で話す。好物のタルトだぞ」
「気になって美味しくないもん」
 
 ほんの数分の違いだ。こっちが落ち着いているからか?いつもよりあっさりと頷かれた。

「森井物産の件だ。今頃になって記者に興味を持たれたそうだ。圧力をかけたが、時間が経っている。不意をつかれたイメージだ」
「それでも記事には出来ないんだろ?期限切れ?」
「簡単にいうと、そういうことだ」
「番組が放送されたから?記事を見る人が増えるから?今が記事を出すチャンスって?」
「それはまだ分からない。……ここで情報が届いた分、ストップが掛かっている。IKUの方でも対応中のはずだ。食べておけ。……いい返事だ」

 それはそれ。これはこれだ。それを頭に置いて食べていても、気持ちがざわざわしている。マイナスなことでの報道だ。ヴィジブルレイには関係のないことだ。しかし、悠人にとってはお母さんの関連だ。俺がしっかりして支える。なるべく動揺を抑えこむように深呼吸した後、ブルーベリータルトを頬張った。
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