白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

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15-13(夏樹視点)

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 午前0時。

 お義父さんの家へ向かっている。ナツツバキが客間の灯りに反射して輝いていた。その大きな窓にはカーテンが引かれていた。普段は一貴さんはカーテンを使わないのに。今の心の状態が表われているのだろうか。

 今日は夜間のお手伝いさんが不在だ。余計に寂しくなったのだろうか。人の気配のない家の中で、ひたすら仕事をしている姿を思い浮かべた。

「黒崎さんも、こういう感じだったもんね」
「これを見ると思い出す。誰かがそばに居れば、一人に決められる気がする。いや、無理か」
「それを本人に言うなよ。モヤモヤしているかも知れないよ。どうしよう?って。誰か相手が居たらいいけどさ。悠人はダメだけど……」
「俺も同じ思いだった。懐かしいぐらいだ」
「へえ。どうしようって、思っていたのかよ?」
「それは忘れた」
「なんだよ~。どっちだよ?」

 黒崎の肩を叩いてやると、手首を握られて止められた。客間の窓が開き、一貴さんが姿を見せたからだ。こっちから大きく手を振ると、笑顔を返された。いつもと変わらない。そこで思い浮かんだことがある。疲れすぎていて、頭が回らない状態だったのでは?ということだ。

 誰でもそういう時はある。人によって差があるだろうが、根っこは同じだと思う。誰かにそばに居てほしくて、すがりついた。どうしよう?誰も居ないよ。そう思って不安になったのだろう。だからこそ、わざと大きな声で呼びかけた。

「一貴さーん、おまたせ。早瀬さんから怒られたんだって?」
「ああ。情けない……」
「ちゃんと謝ろうね。本人不在で勝手なことを言うけど、一生懸命に話せば分かってもらえるよ。俺が一緒にいてもいいし。ね?」
「悠人君には会って謝る……」
「一貴。座っておけ」

 黒崎が玄関へ向かった。すぐに追いかけて行くと、ドアが閉まる前に抱き寄せられた。無理をしてないか?と聞かれた。どうしたのだろう?

「怖いだろう。気味が悪くないのか?」
「あんたはどうなんだよ?そんなことはないだろ?」
「ああ。純粋に好きになって、遠くから見ているだけだ」
「俺もだよ。一貴さんは、悠人が自分に似ているから、好きになったって言っていたね?」
「似ているとは思う。子供時代が」
「あんたも同じだよ?早瀬さんもだよ。期待に応えるために頑張ってきたんだ。ネガティブなところが似ていてもさ。可愛いな。懐かしいな。そのレベルだと思う。弟みたいな感じ。そういう感じで、好きになったのかな?」
「いや……」
「違うのか……」
「10年ぐらい前に好きになった相手が、悠人君に似ていた。思い出したのかもしれない」
「今度はいい人に会えるといいね。モヤモヤを取っ払えるぐらいに好きになる相手が」
「悠人君のことが心配だ。心理面で引っ張られていないかと……。押しまくられた内容が笑えるものかどうかだ。それなら後に引かないが」
「その心配はないよ」

 その手前で俺に相談してくれた。黙っている子ではない。仕事上で混乱することが分かっているからだ。周りを巻き込む前に相談してきた。責任を持ってのことだ。そう思う。

「悠人は無責任なことをしない。話し合って謝ること。それで気持ちが収まるレベルだよ。断言できるよ。仕事で混乱するのが、分かっているからだよ。自分だけのことじゃないからって。周りを巻き込む前に、打ち明けたんだ。俺に相談するのが、ベストだって。その結果、いい流れになりそうだもん。困り果てていたけど、冷静だよね。さすがだよ。……早瀬さんは、乗り込んで来ないんだよね?」
「それはない。叱られたとだけ聞いた」
「それで収めてくれたのか。悠人に謝って、これから先をどうするのかを話す。友達として付き合いたいなら、そう言わないと。仕事のことも。……悠人の方も、仕事を受けたくないなら、はっきり言わないといけない」
「夏樹。お前はどうなんだ?親友であり、バンドメンバーでもある。悠人君とのコンビで起用される予定だったら、どう答える?」
「自分の希望を伝えるだけだよ。プラセルの仕事を受けたいって。その上で、一貴さんが判断するんだ。というより、会社の判断だよね?一貴さんが社長でも、自分のものじゃないし」
「そうか。穏便に済ます発想ができるようになったのか」
「うーん。穏便ねえ……。もっとひどいことなら済まさないよ。仕事も受けないし。大きな企業に嫌われて、仕事が出来なくなるケースがあるんだよね?そうなったら仕方ないよ。それを考えながら歌えないもん。黒崎家の後ろ楯があるから、言えることだけど……」
「そう言うな。褒めている。えらいぞ」
「大人扱いしろよ~」

 せっかく話しているのに、頬を引っ張られた。仕返しに耳たぶを引っ張っていると、物音が聞こえてきた。一貴さんが恥ずかしそうにして佇んでいた。見られてしまったのか。俺の方も照れ笑いをしたのに、黒崎は無言のままでリビングへ向かった。
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