白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

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 枕へ頭を沈み込ませていると、何回も物音が聞こえてきた。ここまで響いてきたなら、物を落としたに違いない。黒崎は車の運転が上手だし、機械モノを扱うのも丁寧だ。しかし、家事には不器用だ。動体視力もいいくせに、お箸の置き場を見つけられない。探す気がないともいえる。

「黒崎さん……。こっちから行くよ……」
「用意してきた。起き上がれるか?」
「ありがとう……」

 ふっと目を開くと、黒崎から心配そうに見つめられていた。俺が弱っている時には、黒崎も弱体化する。ここは気を引き締めておこう。

 ベッドから起き上がると、美味しそうな匂いがしてきた。トレーには、想像よりも綺麗に盛りつけられたポトフが乗っていた。スプーンも添えられている。

「さすがだね。綺麗に注いでるね……」
「そうか?時間がかかった。冷めているか?」
「ちょうどいいぐらいだよ。小さなスプーンだね……」

 ティースプーンでは、食べづらいとは言えない。褒めて伸ばしたいから、何とか口実を考えよう。並んだお皿の上に、フォークを見つけた。厚焼き玉子に添えてある。大きなものだから、これを使おう。

 黒崎がファイルを開いて、俺のそばで書類を読み始めた。特に会話はない。たまに書類から顔をあげて、視線を向けてきた。本人は分かっていないだろう。普段より優しい眼差しをしていることを。

 このポトフが、いつもより美味しく感じた。薄めに仕上がったから、コショウで誤魔化したのに。黒崎が調味料に化けたようだ。

「黒崎さん……。朝ごはんを食べないの?後からにする?」
「出る前に済ませる。洗っておく。食洗機へ放り込むだけだろう?」
「お湯でサッと流してから、入れてもらえるかな?時間がないならシンクに置くだけでいいよ」
「やっておく。腹がいっぱいになったのか?」
「ううん。もう少し食べるよ」
「無理をするな。気持ちが悪くなるぞ」
「大丈夫だよ……」

 このスプーンでは飲みづらい。もう少し大きめのスプーンが食べやすいと口にすると、笑顔で取りに行ってくれた。

 戻ってきた時は上機嫌だった。最初からそうだが、さらにだ。もっと褒めておこう。後々のためになる。

「頼りになるね~。忙しいのにごめんね」
「気にするな。少しは温まったか?」
「うん……。歩くのがしんどかったから、助かったよ。早く帰ってきてね」
「もちろんだ。欲しいものがあれば買って帰るぞ。和菓子はどうだ?シャルロットキッチンで、あんみつを出している。冷やしぜんざいもあった。両方にするか?」
「両方、食べたい。あのさ、雑誌の発売日なんだ。花の種セット付き。マリールイーズの絵本も出ているよ。アイビー書店で出ているんだ。買いに行けなくて……」
「買って帰る。他にはないのか?」

 ここぞとばかりに、欲しいものをリクエストした。普段は遠慮がちにしているから効果的だ。図々しくなった自覚がある。上機嫌でリストを頭に入れている姿が、とにかく優しかった。
 
 黒崎が出勤した後は、急に寂しくなった。熱がある分、心細くなったのかなと思った。

 山崎さんが来てくれるまで、コンサートの構成を思い浮かべた。それでも黒崎のことが思い浮かぶ。スマホへ視線を向けて、ラインを送ろうかどうか迷った。すると、向こうから送ってきた。黒崎の方も心細くなったのだろう。相手をしてやるふりをして返事をした。
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