白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

文字の大きさ
146 / 265

17-1 熱をだした夏樹

しおりを挟む
 5月2日、木曜日。午前5時半。

 黒崎家の畑にて、九条ねぎを収穫しているところだ。気候がいいから育つのが早い。ネギは身体を温めるし、喉にもいいと言われている。我が家の門番として、大魔王の健康を気遣っている。風邪を引くと咳が重くなるからだ。去年から引いていない。俺も熱を出していない。

「ふう……。これぐらいいいか。いっぱいあるな。遠藤さんへおすそ分けしようか」

 根から5センチ上の部分で切り取った。また生えてくるから収穫し放題だ。プチトマトも育っている。太陽の光を浴びて、オレンジ色から赤く変わりつつある。

「明後日ぐらいが収穫に良いかな?ああ、実が割れてる。こっちもか。プチっと……」

 2個のトマトを取ってカゴへ入れた。よいしょっと立ち上がり、背筋を伸ばして空を見上げた。この朝の時間が落ち着く。

 視線の向こうには、ノスタルジックな洋風の家が見えている。すると、リビングの窓が開いていた。黒崎がこっちを向いて手招きをしている。

「おーい、どうしたのー?」
「そろそろ入って来い。まだ寒いだろう」
「平気だよ。もう5月だよ?」
「手が冷えているぞ」

 リビングのテラスへ行くと、カゴを取り上げられた。そして、そのまま腕を引かれて、家の中へ引っ張りこまれた。

 たしかに肌寒かった。しかし、大事にし過ぎると身体が弱くなる。すでに過保護状態だ。コンサートが控えているからと、さらに気を遣われている。しかし、料理を手伝う気配はない。トーストにバターを塗ったり、運んだりするだけだ。成長したとは思う。物を落とさなくなったからだ。

「何か羽織って外に出ろ。せっかく体調がいい」
「分かっているよ~。朝ごはんにしようか。このトマト、酸っぱいかもしれないけど。食べてくれるだろ?ウンウン……。よしよし……」

 黒崎の返事をきかずに決めた。朝ごはんは、温め直したポトフと、ロールパン、サラダだ。厚焼き玉子のストックもある。

 ダイニングに料理を並べ終えた後、くしゃみが出そうになった。すぐに後ろを向いて、くしゃみを出した。

「くしゅんっ。ああー……」
「大丈夫か?」
「ポトフのコショウだと思う。さっき仕上げに掛けたから……」
「顔が赤いぞ?手は冷たかったが」

 黒崎がそばへ来て、額に手を当ててきた。頬や首筋へも当てて眉を寄せた。熱が出ているはずだと言っている。ソファーへ促されて、体温計を渡された。自分としては、出ている感じはしない。

 アラームが鳴って引き抜くと、意外な数字が出てきた。38.0度だ。平熱の低い俺には高熱だ。すぐにベッドへ連れて行かれた。

「寝ておけ」
「うん……」

 すぐに着替えてベッドに寝転がった。連休に入るから病院が休みになる。午前中に行ってくると話すと、黒崎が山崎さんへ電話をかけ始めた。御園クリニックへ付き添ってくれという。

「黒崎さん。一人で行くよ。21歳の男が付き添われたくないよ」
「言うことをきけ。親父は夕方には帰ってくる。向こうで寝ておけ」
「りょーかい。うっうっ。クリニックでも有名なんだよ?あんたが付いてくるから」
「とにかく一人に出来ない。4日間はオフだったな。ちょうどいい。長谷部さんへ連絡しておこう」
「俺がするから……」

 長谷部さんへラインを送った。本当にやりかねない。今度は朝ごはんを運んで来ると言い出した。嫌な予感しかしない。自分で取りに行きたい。

「あ……、くらっときた……」

 起き上がりかけて、眩暈が起きた。そういえば昨夜も同じだった。肩が凝っているからだと思っていたが、熱が出る前だったのか。

「毛布を着ておけ」
「うん……」

 そっと寝かされて、上から毛布を掛けられた。暑いよと口にする前に、ウトウトと眠気が起きた。すると、ドアの閉まる音が聞こえてきた。ここは任せておこう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

病弱の花

雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

発情期のタイムリミット

なの
BL
期末試験を目前に控えた高校2年のΩ・陸。 抑制剤の効きが弱い体質のせいで、発情期が試験と重なりそうになり大パニック! 「絶対に赤点は取れない!」 「発情期なんて気合で乗り越える!」 そう強がる陸を、幼なじみでクラスメイトのα・大輝が心配する。 だが、勉強に必死な陸の周りには、ほんのり漂う甘いフェロモン……。 「俺に頼れって言ってんのに」 「頼ったら……勉強どころじゃなくなるから!」 試験か、発情期か。 ギリギリのタイムリミットの中で、二人の関係は一気に動き出していく――! ドタバタと胸きゅんが交錯する、青春オメガバース・ラブコメディ。 *一般的なオメガバースは、発情期中はアルファとオメガを隔離したり、抑制剤や隔離部屋が管理されていたりしていますが、この物語は、日常ラブコメにオメガバース要素を混ぜた世界観になってます。

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

処理中です...