白い雫の天使~親愛なる人への旋律

夏目奈緖

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22-1 夏樹への想い

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 6月22日、土曜日。午前10時。

 黒崎家のバスルームにて、浴槽を洗っている。後はシャワーで流すだけだ。広く作られている分、時間がかかる。この家に来て、何回洗っただろう。この家に住み始めて2年が経つ。あっという間だ。

「19歳で~、この家に来たんだー、石頭と暮らしてるの~、忍耐、忍耐、オーイエー!ふんふんふん……。義理のお父さんは優しくて~本当のお父さんになったんだ~るるる~」

 今日は喉の調子がいい。梅雨の時期に入ってからは、湿度が高いため、水分補給を忘れがちだ。結果として、のどの炎症を起こしやすい。ボーカルレッスンの先生から、そう教わった。

 のどが腫れて、5日経った。病院の薬を飲んで良くなった。まだ発声練習はしていない。ここで少しだけ歌ってみた。すると、背後から黒崎の声がした。

「夏樹。大人しく休んでいろ。ハウスクリーニングを依頼する。それなら気にならないだろう」
「年末の大掃除の時だけいいよ。それか夏場のあたり……。勿体ないもん」
「マメに利用することで、経済が回っている。これから手配する」
 
 それだけ言うと、黒崎がリビングへ戻って行った。こうなれば、テコでも動かない。泡を洗い流して、バスルームを出た。

リビングへ行くと、さっそくクリーニングサービスへ連絡をしていた。明日か、来週の土曜日でと言っている。いったん諦めると、助かるなと思えてきた。プロに頼んだ方が、その後の掃除が楽だ。去年の大掃除で、それを知った。

「来週の土曜日、10時に来てもらう。これで完了だ。寝ておけ」
「今晩、寝付けなくなるからさ……」
「眠れるはずだ。身体がダルいだろう」

 動かないと調子が悪いのに。そう言ってみたけれど、ソファーへ寝かされて、タオルケットを掛けられた。

 テレビを観ていろと黒崎が付けた番組が、宇宙系のチャンネルだった。まったりした語り口だから、眠くなるだろうと言われた。俺のことを、よく知っている。さすがは3年間、一緒に暮らしているだけある。

 黒崎のことを見た。紙の書類を読んでいるかと思えば、パソコンで打ち込みをしている。その速さが信じられない。おまけに、俺の話し相手をしている。一度に二つ以上のことが出来るから羨ましくなる。俺には出来ない技だ。

 クッションへ頭を沈めて、黒崎のことを眺めた。相づちを打ちながら、たまに視線を向けてくる。なんと優しい眼差しをしているのか。具合が悪い時だけのものだ。

「たまには体調を崩すといいね。優しいもん……」
「いつも優しくしているつもりだ。足りないのか?」
「十分だよ。もっと近くに来てよ」

 手の届く場所にいるが、妙に寂しくなった。黒崎がすぐに移動して、ソファーへ腰かけてくれた。そして、俺の額へ手を当てて、安心した顔をした。熱が出ていないと言いながら。触れたら分かるそうだ。

「来月までには治りそう。よかった~。今週は予定が入っていないから」
「レコーディングが3本か。10月末まで、あっという間だな。もうすぐで6月が終わる」

 来月からは、楽曲のレコーディングに入る。ヴィジブルレイのアルバムと、DDとしての新曲、2曲分だ。俺が作詞を担当することに決まった。作曲は佐久弥と悠人だ。

 コンサートを経験し、テレビ収録も少し慣れてきた。やり取りも戸惑わずに出来るし、長谷部さんのサポートや周りの協力が大きい。そこで気づいた事がある。俺はけっこう不器用だということだ。

「俺さーー。器用貧乏だって言われてたんだ。お父さんから。なんでも趣味に手を出して、出来るようになるからって。時間がかかっても……」
「歌うことを見つけてよかったな。いい表情をしている。……藤沢君も同じタイプなのか?一貴が話していたぞ」
「うん。そうだよ。モデルは仕事だから打ち込めるけど、これっていう趣味がないってさ。音楽は別だし。忙しいから時間がないと思うけど。妹さんがこっちの大学に入ったから、気が紛れるみたい。同じO大なんだ」

 藤沢はプラセルブランドのモデルをしている。一貴さんと交流もあるという。そして、藤沢は忙しい両親に代わり、2歳下の薫子の世話をしていた。高校生の時には、お弁当も作っていた。うるさがられても妹が可愛いと言っていた。O大に入学した後は、大学の寮には入れずに、藤沢のマンションで同居している。
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