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玄関では、ユリウスが歩き回っている。シルバーグレーの毛並みが綺麗だ。探索しているのかな?いや、目的は黒崎だった。彼が抱き上げると肩へ上がった。一貴さんがやっているから、習慣になっている。
外出している間、うちで預かる約束をしていた。我が家のアンとは、種族を超えた仲間になったようだ。
ユリウスが家族になり、二週間が経った。一貴さんの雰囲気が柔らかくなった。小さい体をしているため、優しく抱き上げている。そのせいもあるのかもしれない。しかも、コレクターケースに保存する癖が無くなったとまで話している。
「フェレットは収集する習性があるもんね。タオルハンカチを棚の後ろに隠すし。お兄ちゃんの代わりにやってくれるから、気が済んだ?」
「ズケズケ言う子だな……。この家に来て苛められてばかりだ。楽しいけどな」
「一貴。ユリウスのおかげで助かっている」
「圭一まで……。実際にその通りだ。そうだ。2人に伝えたいことがある。藤沢君のことが好きになった。恋愛感情だ。あの子、一人でいい」
「ええ?マジだったの?」
一貴さんが力強く頷いた。迷いはないと断言した。藤沢の気持ちは?両想いならいいのに。しかし、一貴さんが首を振って笑った。
「告白をしていない。信頼関係を作った後で伝える。もし断られたら……、今は考えないでおく」
「お兄ちゃん……」
上手くいかなくても、前に進めたのは事実だ。心の底から楽しそうに笑っている。黒崎の方を向くと、笑っていた。警戒していたくせに好きなのか。そうでないと長く付き合っていないし、お義父さんの家で暮らせとも言わないはずだ。
あの日のことを思い出した。お義父さんが飛び込んで来て止めた後、一貴さんの心の内を聞かせてもらった。早瀬さんへの想いが強く、お母さん絡みの分は、憎しみとして保管されていた。
早瀬さんの競争意識を刺激し、自分の力で高みに上らせることで、想いから解放される。そう信じて進んできた。そして、大事にしている悠人を輝かせることで、さらに昇華されるのだと思っていたそうだ。
(……早瀬君を憎んでいた。だから手に入れたいと思っていた。初めて持った想いだ。お父さんが止めてくれた。たった今、解放された……。ありがとう……)
あの時、お義父さんが泣いていた。ひとりで抱えることが出来ない体験。ひとりで抱え込まざるをえない状況。子供の頃から身を置いた結果、一貴さんは、大人と子供の二つに解離した。安心していられる場所が無かった。いや、喪われたという表現が正しい。
大人になった一貴さんは、プラセルという相棒を見つけた。一緒に歩くうちに何倍も大きくなり、抱えきれないほどになった。そして、誰かと親しくなる術を忘れてしまい、本音を吐露できる相手がいなかった。その上で感情が暴走したのは、不思議ではないと思う。
天真爛漫な子供は、過去に置き去りにした分身だ。それを丸ごと全部、黒崎家が抱きかかえた。誰からも誇りが傷つけられないように、俺たちが頑張って守ると決めた。あの時の会話を思い出した。
(一貴さんのことを、丸ごと全部、俺たちにくれよ)
(夏樹君……)
(ここには家族がいるよ。悠人も“裕理君”もいるからね)
その時、ありがとうございますと言われた。その丁寧な返事をしたのは、本当の一貴さんだった。
藤沢は、一貴さんが解離していることを見抜いていた。コンサートを観に来てくれた時に、こう問いかけていた。”今はどっちですか?”と。ビックリしたのは、一貴さんだった。藤沢は飄々としていた。
本日のデート相手は、その藤沢なのかな?それを聞くと、怜さんだと答えた。友達としてだと断言していた。俺達は分かっているよとツッコミを入れた。そして、いってらっしゃいと、送り出した。
「お前はゆっくりしておけ」
「そうはいかないよ。あ……」
さっそく黒崎から連れられて、ソファーへ寝かされた。二匹の面倒を見るから寝ておけという。それは出来なかった。テンションが上がったアンたちが散らかしてしまい、後片付けをしたからだ。
ユリウスに絵本を齧られた。テーブルに置きっぱなしにした自分が悪い。お気に入りの一つだ。幸せを探して旅に出たら、振出しに戻った。そういう話だ。俺はそう解釈している。
「幸せは身近にあったんだよ」
「寝ておけ」
「あんたが片付けないからだろ……」
あの時、一貴さんが口にした。偽りの優しさと日常の中で、信じられるのは自分だけだと。俺もそう信じていた。過去に。
その思いは変わり、今は毎日を楽しめている。そう言って笑った時、俺の心のモヤモヤも解放された。もう大丈夫。黒崎たちを眺めて実感した。この絵本のように。
外出している間、うちで預かる約束をしていた。我が家のアンとは、種族を超えた仲間になったようだ。
ユリウスが家族になり、二週間が経った。一貴さんの雰囲気が柔らかくなった。小さい体をしているため、優しく抱き上げている。そのせいもあるのかもしれない。しかも、コレクターケースに保存する癖が無くなったとまで話している。
「フェレットは収集する習性があるもんね。タオルハンカチを棚の後ろに隠すし。お兄ちゃんの代わりにやってくれるから、気が済んだ?」
「ズケズケ言う子だな……。この家に来て苛められてばかりだ。楽しいけどな」
「一貴。ユリウスのおかげで助かっている」
「圭一まで……。実際にその通りだ。そうだ。2人に伝えたいことがある。藤沢君のことが好きになった。恋愛感情だ。あの子、一人でいい」
「ええ?マジだったの?」
一貴さんが力強く頷いた。迷いはないと断言した。藤沢の気持ちは?両想いならいいのに。しかし、一貴さんが首を振って笑った。
「告白をしていない。信頼関係を作った後で伝える。もし断られたら……、今は考えないでおく」
「お兄ちゃん……」
上手くいかなくても、前に進めたのは事実だ。心の底から楽しそうに笑っている。黒崎の方を向くと、笑っていた。警戒していたくせに好きなのか。そうでないと長く付き合っていないし、お義父さんの家で暮らせとも言わないはずだ。
あの日のことを思い出した。お義父さんが飛び込んで来て止めた後、一貴さんの心の内を聞かせてもらった。早瀬さんへの想いが強く、お母さん絡みの分は、憎しみとして保管されていた。
早瀬さんの競争意識を刺激し、自分の力で高みに上らせることで、想いから解放される。そう信じて進んできた。そして、大事にしている悠人を輝かせることで、さらに昇華されるのだと思っていたそうだ。
(……早瀬君を憎んでいた。だから手に入れたいと思っていた。初めて持った想いだ。お父さんが止めてくれた。たった今、解放された……。ありがとう……)
あの時、お義父さんが泣いていた。ひとりで抱えることが出来ない体験。ひとりで抱え込まざるをえない状況。子供の頃から身を置いた結果、一貴さんは、大人と子供の二つに解離した。安心していられる場所が無かった。いや、喪われたという表現が正しい。
大人になった一貴さんは、プラセルという相棒を見つけた。一緒に歩くうちに何倍も大きくなり、抱えきれないほどになった。そして、誰かと親しくなる術を忘れてしまい、本音を吐露できる相手がいなかった。その上で感情が暴走したのは、不思議ではないと思う。
天真爛漫な子供は、過去に置き去りにした分身だ。それを丸ごと全部、黒崎家が抱きかかえた。誰からも誇りが傷つけられないように、俺たちが頑張って守ると決めた。あの時の会話を思い出した。
(一貴さんのことを、丸ごと全部、俺たちにくれよ)
(夏樹君……)
(ここには家族がいるよ。悠人も“裕理君”もいるからね)
その時、ありがとうございますと言われた。その丁寧な返事をしたのは、本当の一貴さんだった。
藤沢は、一貴さんが解離していることを見抜いていた。コンサートを観に来てくれた時に、こう問いかけていた。”今はどっちですか?”と。ビックリしたのは、一貴さんだった。藤沢は飄々としていた。
本日のデート相手は、その藤沢なのかな?それを聞くと、怜さんだと答えた。友達としてだと断言していた。俺達は分かっているよとツッコミを入れた。そして、いってらっしゃいと、送り出した。
「お前はゆっくりしておけ」
「そうはいかないよ。あ……」
さっそく黒崎から連れられて、ソファーへ寝かされた。二匹の面倒を見るから寝ておけという。それは出来なかった。テンションが上がったアンたちが散らかしてしまい、後片付けをしたからだ。
ユリウスに絵本を齧られた。テーブルに置きっぱなしにした自分が悪い。お気に入りの一つだ。幸せを探して旅に出たら、振出しに戻った。そういう話だ。俺はそう解釈している。
「幸せは身近にあったんだよ」
「寝ておけ」
「あんたが片付けないからだろ……」
あの時、一貴さんが口にした。偽りの優しさと日常の中で、信じられるのは自分だけだと。俺もそう信じていた。過去に。
その思いは変わり、今は毎日を楽しめている。そう言って笑った時、俺の心のモヤモヤも解放された。もう大丈夫。黒崎たちを眺めて実感した。この絵本のように。
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